ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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何度も書き直したのでめっちゃ時間かかりました


第211話 馬鹿野郎

 所変わってポケモンセンター。その一角にて、ショウガとミコトは気まずそうな表情でその行方を見守っていた。視線の先には、滝のような汗を流して正座するスミレと、ギャラドスを背中に宿したかといった空気で仁王立ちするエリカであった。

「……で?覚悟を示したと、旅仲間に加えようとしたと?」

「はい。ええと、メリットはあったし懸念もあったんですけど言い負かされて、でも不安があったので条件を出したんですけど、あの事件があってクリアで良いかなって……だから、はい。すみません」

「すみませんと言うなら、その浅慮は初めからすべきではありませんよね?」

「……はい、すみません」

額に青筋を浮かべるエリカに、スミレは顔を伏せる。説教が始まったのは大凡1時間前だ。ロケット団が襲撃したということで一時解散になり、眠らせる煙の副作用などがないと確認を終えてからずっとこれだった。説教は大会中の態度や試合内容に始まり、そしてつい1分程前に状況を尋ねられ話したら更なる延長を食らった。そして今に至るのだが、2人の様子をショウガとミコトは居た堪れない表情で見物していた。

「大会中だってメンタルコントロールも碌に出来なかった癖に、随分と上から人に指示を出来たものですね。そんな貴女は随分と、心に余裕があって冷静なんでしょうねぇ」

エリカの冷たい言葉が、スミレの胸に突き刺さる。

「……それは、そうです。すみません」

それもそうである。自分の感情をコントロール出来ない人間が、人の心をどう救おうと言うのだ。

「浅知恵に振り回される馬鹿者の為に、しっかりとミコトさんを連れるデメリットをお教え致しましょうか?」

「エリカ殿、あまり責めないでくれ」

「黙れ足手纏い!対抗できたレベルの癖に敵を倒せず味方も庇えず、戦闘に碌な介入もできず無意味に突っ立ってた阿呆めが!!」

見かねたショウガが仲裁に入るが、怒鳴られ思わず引き下がる。今日のエリカは、いつにも増して怒っていた。

「……すみません、お願いします」

それを聞いたスミレは思わず顔を見上げ、目尻に涙を浮かべた。エリカは怒っているが、それ以上に疲れた顔をしていたのである。

「まずひとつ。戦力不足。貴女はジョウト組を鍛えつつ旅しています。それはまぁ良いのですが、そこのショウガは半端者。その現状では護身が精一杯、護衛対象を無闇に増やして戦力を分散させるべきではありません。少なくとも、この逼迫した情勢でやるべきことじゃない。粉系の技なら役立てるなど寝言を申しておられるのでくさタイプの専門家として意見しますが、粉って確かに体内に入れば効きますけど、粉の生成速度や効果の強さ、放つ際の正確さなどは当然ポケモンの強さに依存します。例えばミコトさんのベイリーフが【しびれごな】を放ったとて、実際に麻痺になるのは精々ロケット団だと最下層か少し上。強者からすればクシャミひとつで飛ばしたりちょっと腹の調子を壊す程度でしかありません。上手く決まってちょっと動きにくいくらいなものです、麻痺になると行動不能にできる、というのがあらゆるポケモンが共通で出来るなんて画一的な性能だと思い込んでいるなら、それは生き物を生き物として認識できていません。ゲームのキャラクターや駒とは違いますのでそこはお忘れなく。そもそも放つ前に片付けられるので無価値ですね、肉壁の価値すらありません。人間に使えば効果的、とは言いますが人間への技の使用は非常に細かい能力調整が必要です。今日放たれた煙も、実は元のポケモンが強い上に高度な技術によって調整されたものなんですよ」

「成程。勉強不足でした」

「でしょうね。貴女は生物的にバタフリーの動きにはついていけてませんから。戦略を考えて後は任せた方が効率的なんて考えていたんでしょうが、バタフリーに委任し過ぎです。バタフリーの技術でしか成り立たない技術などただのカカシですね。粉技を扱うなら相応に知識をつけなさい」

「……はい」

「ふたつめ、社会的信用の喪失。ヤクザの娘、という立場を貴女は甘く見過ぎです。例えばエビル団が許されているのは犯罪者と不良集団のラインの上で戦っており、ギリギリはカタギの人間なんです。彼らもそれを理解して活動しています。そこまでは分かっていますよね?」

「はい」

「竜胆組は確かにヤクザ者としては義理を重んじカタギを襲わず、穏健派の集団ではあります。……ですが彼らの流儀を踏み躙るような真似があれば一転、殺人も辞さない過激な集団となります。実際、竜胆組の庇護下にいたカタギを殺した男を、救いようのないクズとはいえ組織ごと皆殺しにしたという経歴もありますので根本的に我々とは立場が異なります。そこが、カタギと反社の境界線。我々リーグの人間は、そんな反社と繋がりがあれば市民を守るという立場に対する一切の信用を失ってしまいます。……例えば貴女がヤクザと繋がりがあると世間に流された場合は貴女が持っている国際警察の協力者資格を取り消され、スポンサーは撤退。後は責任を取って私がジムリーダー解任、かつリーグを追放されるくらいですね。後は世間から貴女や貴女と交流のあった多くの人に対する好奇の視線と中傷の雨。まぁ私の立場に関しては良いんですよ。ただ、知らず知らずのうちに貴女から情報が漏れてしまった、即ち無意識に情報漏洩をやらかしてしまった場合は、対犯罪者の観点では明確な戦犯です。相応の落とし前を付ける必要があります。……貴女の身勝手で多くの人を不幸にするならば、私は師匠として止めねばなりませんよ。たとえミコトさんが、ヤクザの生まれを望んでいなくともね」

 

 

「いや、その心配はいらねぇよ」

しかし、背後から聞こえた声にエリカの睨みがスミレから逸れた。立っていたのはギバラ。何やら紙を持って立っている。

「…………どの面下げて来たんですか?」

「仲間にして貰うってミコトに聞いてな。だが当然、コイツの身分じゃあ恩人に迷惑かけちまう。勿論、世話になるだろうアンタにもな。それじゃあいけねぇ、恩に仇で返すような馬鹿者、たとえ実の娘だろうが許しちゃおけねぇんだよ。……丁度良かったぜ、ここはポケモンセンター。野次馬共もチラチラと見てやがる」

そう言って周囲を見渡すと、視線を向けていた野次馬達が目を逸らす。

「ああ、そうですね。それでどうするつもりですか?まさか絶縁、なんてことはないでしょうし」

「いいや、そのまさかだ」

 

「…………えっ」

ニヤリと笑ったギバラに、ミコトの時が止まった。スミレとショウガもまた、驚きを浮かべる。対するエリカは、眉をピクリと動かすだけだ。

「ほう、まさか娘と絶縁すると?」

「おう、その通りだヤクザの親に捨てられた小娘なら、旅に連れていっても問題にゃならねぇだろ。しかもここは野次馬共も居る、声高々に宣言してやろうって腹づもりさ。こんな馬鹿娘は要らねぇってよ」

「そんな……!」

スミレが悔しげに歯を食いしばり、震えるミコトの肩を抱く。

「同情するか?こんな粋がってるだけの弱えガキに。それでもいいぜ、テメェの勝手だ。……だが、そいつはテメェに、竜胆組に対する人質なんて抜かしやがった。実力もねぇ、組長の娘しか立場もねぇ癖に、調子に乗って竜胆組の名前を使いやがった。自分の言葉に責任ひとつ負えねぇ、筋ひとつ通せねぇ奴に竜胆組組長の娘っていう看板はちぃとばかり重すぎだ。その薄っぺらい看板、さっさと下ろすに限るぜ」

そう言って笑うギバラに、スミレは眉を顰める。

「…………確かに、一理ある。でも」

「でも?」

「親が子を捨てる、なんて容認できることじゃない……!」

スミレはそう言ってギバラを睨み、ギバラは大きなため息を吐いた。

「まぁ言わんとすることは分かるぜ?テメェがどういう立場で物を言ってるかは知ったことじゃねぇが、それもまたひとつの道理だ。……だがコイツは極道の道理、俺が敷いた俺の組の道理だ。少なくともテメェに介入する権利はねぇな」

「まぁ、極道の道理云々は兎も角。ここまで来てしまったらもうスミレさんは成り行きを見守るしか出来ませんね、大人しくしてなさい」

ギバラだけでなくエリカからも言われたスミレは、苦い表情で引き下がる。

「あのなぁ、俺としてはテメェらに与するメリットはあんだよ。ロケット団の台頭や黒髭をはじめとする有力なハンターの襲来。今のジョウトじゃ、カタギの連中は安心して暮らせねぇ。だから俺たちには、奴らを倒す義務があんだ。リーグと共闘すんのはごめんだが、奴らよりはまだ信用できるし少なくともスミレの実力は俺も直に見た。メンタル以外は別に問題もなさそうだからな、別に預けても構わんと思ってる」

「……成程。そちらが問題視しているのは立場、と」

「おう。だから俺は提案してるんだ、縁を切れと」

そう言って視線を交わすギバラとエリカ、そこにミコトの意思など当然介在していない。

「師匠の私としては、スミレさんの実力不足もそうですがいざという時の足手纏いになるかと懸念しておりますが」

「いざという時は見捨てていいぜ。心が弱え、バトルも弱え、その癖欲をかくなら碌な死に方はしない。そうなっても俺は誰も責めはしねぇよ」

「…………」

ギバラの答えに、エリカは黙って眉を顰める。

「あの、お母様は……?お母様ならきっと……!」

そこにミコトが涙を流しながら尋ねると、ギバラは鼻を鳴らした。

「このことは前から話してたしな。言ったら2つ返事だよ。極道の妻になり、俺と地獄まで一緒に行くと言った女だ。アイツの覚悟を舐めるなよ」

「…………そ、そんな」

ミコトがぱくぱくと口を開く。スミレはそれを見かねて口を出そうとするが、ショウガに抑えられて介入できない。

「……それで、手続きはどうします?」

「やるのは今すぐだ、手続きは俺がやってやるから、ミコトはサインするだけで構わねぇよ」

 

「待ってください、でも!」

そこまで言ったミコトの額に、冷たい塊が押し当てられる。それを認識した瞬間、ミコトは膝から崩れ落ち、周囲に緊張が走った。拳銃だ。

「テメェの意見は聞いてねぇよ。テメェもウチの血が流れてんなら、常々言ってることを覚えてる筈だぜ?……自分の言葉と行いにゃ責任を持て、何かやるならスジは通せってな。テメェはそこの2人についていくと言った、ならテメェは2人に迷惑が掛からねぇように相応のモンを捨てるのがスジってモンだろ。それが出来ねぇクズは、ここでブチ殺してやった方が組の為だ」

「それは違法ですよ」

「そうだな。だからこその極道だ。……で、どうする」

エリカに睨まれるがそれをギバラは笑って躱し、ミコトに尋ねる。

「ほんとに、うちは捨てられるんですか?」

「ああ。……消えろ、でなければ死ね」

その言葉に、ミコトは絶望の表情で絶縁状を手に取った。震える手で自身の名前を書くと、ギバラはそれをひったくるように取った。

「後は任せて下さい」

「…………ああ、頼む」

ギバラに向けるにはあまりに優しい声音のエリカの言葉に、ギバラは絞り出すように返した。ギバラは空を見上げ、その表情を窺うことは出来ない。

 

それを見たスミレの頭が、急速に冷えた。大きく目を見開いて、ショウガを振り返る。

「俺も愚かなものだ。……とっくの昔に、こうなることは分かっていたのにな。腑抜けたか、この俺も」

ギバラはミコトに背中を向けて自嘲する。

「それを腑抜けとは呼びませんよ、私は」

それをショウガは震える声で返すが、ギバラはそれには何も返さず自分の頬を叩く。そして大きく息を吸うと、叫んだ。

 

「このポケモンセンターにいる者皆が証人だ!!この俺、竜胆組組長のギバラは、娘たるミコトと縁を切った!!!!これよりミコトは、我ら極道との関わりを一切持たず、全ての繋がりを断ち切ることをここに宣言する!!!!」

 

ギバラの宣言に、ミコトは泣き崩れた。スミレは呆然とそれを見つめ、ショウガは真剣な表情で見届けている。そしてエリカは、小さくため息を吐いた。

 

◾️◾️◾️◾️

 町の一角、そこでギバラは煙を吹かせて空を見上げる。これからミコトは、どんな旅をするのだろうか。どんな人やポケモンと出会うのだろうか。どんな景色を見るのだろうか。きっともう知ることはないだろう。この先ミコトが結婚して、家庭を持つことがあっても、それを見届けることはないだろう。極道という道を進んだことも、子供を作ったことも、こうして娘と縁を切ったことも後悔はしていない。全て、残酷な世界で生きてゆくために必死に選んだ道だから。それでも、ギバラは空を見上げた。

「…………ミコトさんのジム巡りは1個目で終わりです。ここから追いつかせて並走させても、余計な負担になりますからね」

そこに聞こえたエリカの声に、ギバラは視線を送る。

「何のつもりだ」

「最低限の報告ですよ、一応ね」

そう言ったエリカに、ギバラは不機嫌そうに鼻を鳴らす。

「フンッ、頼んだ覚えはねぇがな。有り難く受け取っておくさ」

そう応えたギバラに、エリカは眉を顰める。

「…………もしも、あの子が旅をしない決断をしていたらどうなってたんですか?」

「流石に縁は切らねぇよ。あの場で撤回しても良かった。……だがアイツは、怯えるばかりでそれすら選べなかった。だから俺は、完全にアイツを切り捨てた。それよりテメェらは大丈夫か?あのガキは随分と情緒不安定じゃねぇかよ」

ギバラの質問に、エリカはため息を吐く。

「……ええ、まぁ。あんまりあのまま行ってしまうと実力主義に染まりすぎてしまうので、ああいう弱者を連れ歩かせるって考えも一応無いことも無かったですから。結局、貴方の計らいで身分も問題ないですし、後はそれとなく話を広めれば世間体も大丈夫です」

「テメェ、よく今日は世間体に拘るな。さてはあれか?あの娘、探られてんのか」

「業腹ですがね」

ギバラの推測に、エリカは嫌そうに頷いた。

「あのガキもリーグ上位に立った娘だ、マスゴミも野次馬も躍起になって奴の過去を探ろうとすんのは想像に容易い。……それに対してリーグと共同で圧力を加えさせるため、お前はスズキと交渉し大企業の力を借りたんだ。大会での解説をやることと引き換えでな。違うか?」

「チッ……、察しのいい奴は面倒ですね」

「俺を舐めるな、そのくらいは俺だって分かる。……察するにテメェがここに来たってことは、ミコトを守る代わりに何かを要求しようとしているってことだ。だがソイツばっかりは俺達が出ればややこしくなっちまう。…………だから内容は、そうだな。いざという時にリーグ側へ味方しろって話か?」

「概ねそうです。……が、スミレさんとショウガ、ミコトさんの3名以外とは別に敵対しようが構いません」

「つっても、優先順位はテメェらが一番低い。要は形だけ譲歩してやるって話か。……ムカつくが、だからといって矛先をブラす程俺らもカスじゃねぇからな。良いだろう、この話乗ってやるよ」

そう言ったギバラは何かを堪えるように表情を歪めると、エリカに背を向け空を見上げた。

「………?何か」

「もう行け、俺はもう、お前にもミコトにも用はねぇんだ。さっさと行っちまえ。俺はもう、奴とは他人なんだからな。……………………」

絞り出した声と、その後に続いた声なき口の動きに、エリカは笑って頷いた。

「ええ、そうしますよ。……言わなくても分かってるようですが、貴方はそれを言うべきではありませんね、立場的に。ですが、ちゃんと伝わっていますよ」

そう言ってエリカは歩き出す。その表情は、少し泣きそうだった。

 

(難儀な人ですね……。立場がある、背負ってる部下がいるからこそ、敵に頭は下げれない。娘を思えば、あの行動は間違ってない。でも、ちゃんと気持ちは伝わってますよ)

チラリと背後を見れば、ギバラは空を見上げていた。零れ落ちそうな雨を、落としてしまわないように。

 

( 縁を切っておいて" 娘を頼む " なんて、馬鹿野郎ですよ本当に)

 

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