ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
スミレとショウガは新たな仲間にミコトを加えることになったのだが、3人は揃いも揃って仁王立ちするエリカの目の前で正座していた。仲間に加わって翌日になるのだが、エリカの表情は相変わらず険しい。
「……さて、馬鹿3人組にはこれから1日だけここに留まり、我がジムトレーナーから再教育を受けて貰いますよ。異論は認めません」
エリカの言葉に、スミレは首を傾げる。
「エリカさんは見てくれないんですか?」
「キクコさんと話すことがあるので、無理です。……スミレさんには後から紹介状を渡さないといけないのでその内合流しますがね。で、まずスミレさんにはユキナを付けます、というかウチのジムトレーナーで今の貴女を叩きのめせるのはユキナだけなので。でも特訓内容としては、ジョウト組の戦術強化ですね。リングさんと戦った時のアドバイスを基に、しっかり戦術をポケモンの体に染みつけなさい」
「う、うん……。そういうことだから。よろしくね?」
「……お願い」
そう言ってユキナは横で鬼のようになっているエリカに怯えながらもぎこちなく笑う。対するスミレは、やはり首を傾げつつも受け入れた。
「……次、ショウガ。貴方にはツキミを付けます。彼女は近接戦闘の達人、物理型の貴方を鍛えるには丁度いい。貴方は兎に角バトルを繰り返して脆弱な立ち回りを改善なさい」
「よし、アタシがしごいてやるよ!徹底的にな」
「宜しくお願い致す」
ツキミと呼ばれた長身で活発な雰囲気の女性が胸を張り、ショウガは深々と礼をする。
「最後、ミコト。……貴女はトレーナーとしては最も経験で劣っていますのでね。リツキを付けます、ウバメの森で野生ポケモンとバトルしポケモン全体のレベル底上げをなさい」
「そういうことだから、よろしくね?」
「は、はい」
柔らかく笑う女性に、ミコトは緊張した様子で頷いた。
「3人共、気を抜かず鍛錬に励みなさい。……スミレさんに関しては甘くしていますが、それは後々別のことがあるからです」
「…………はい」
そう言ったエリカにスミレは頷いた。どうやら、甘くするレベルで厳しい何かが今後あるらしい。
「それでは私は仕事があるのでまた後ほど。分かっていると思いますが、今の貴女方には甘ったれてる暇などありませんからね。……では」
そう言ったエリカは1人で去ってゆく。それを見たユキナが、柔らかい笑みを浮かべた。
「……さ、エリカさんも行ったことだしやろっか」
その言葉にスミレは表情を引き締め、頷くのであった。
◾️◾️◾️◾️
コガネジムの一室でキクコと合流したエリカだったが、そこに突如としてひとつの影が現れた。音もなく現れた男に一瞬2人は警戒心を向けるが、その正体を確認すると瞬時に張り詰めた緊張を解いた。
「……御免」
「キョウさん、音もなく現れるのはやめて下さいよ……」
「ファッファッファッ!あい済まぬ、つい癖でな。……しかしエリカ、そしてキクコ。2人ともよく来てくれたな。他の者は来れなんだか」
そう言って視線を送るとエリカは疲れた様子で頷き、キクコは苦笑いを浮かべ視線を逸らす。
「アンタ、それで今日は何用だい?ババアをこんな時に呼び出して下らない理由だったら承知しないよ」
「……ウム。それが緊急事態でな」
「?」
そう言って真剣な表情を浮かべるキョウに、2人は怪訝な表情を浮かべた。
「スミレの実家が、サカキの襲撃を受けた」
「なっ!?」
エリカは思わず立ち上がった。キクコもまた、驚きに目を見開いている。
「幸いにもシバが間に合い怪我は無かったが、どうやらロケット団はスミレの両親を攫う腹づもりだったらしい」
「……攫う?あの2人に人質としての価値はそうありませんよ?確かにあの子なら必死に助けるでしょうが、むしろ他3人の身内、特にオーキド博士を攫った方がスミレさんは死に物狂いで助けに来ると思います。特に博士にはスミレさんも恩を感じていますし」
辛辣な評価を下すエリカに2人は顔を見合わせ苦笑いをするが、その意見に異を唱えられない。実際、カントーの旅を終えて実家に帰っていた時期はリーグの職員がこっそり監視していたのだが、その6割方をタマムシジムで過ごしていた。それ以外も研究所などに出かけていたりしていて、家にいる時間は極端に少なかったのである。エリカが直接尋ねたところ、割り切ってはいるし受け入れてもいるが思う所はあるとのことだった。互いに大きく歩み寄ってこそいる。だが初めから間違えた以上、互いに向けている感情が罪悪感とある種の悟りでなかったとしても、あるべき家族の姿はもう何処にもない。
「成程。だがサカキは奴の実家を襲った。……いや、奴のことだからある程度パフォーマンス的な意味合いはありそうだな」
「そうだね。だがサカキがオーキドを襲わなかったのも当然さ。アイツは最前線から離れちゃあいるが、元が強いトレーナーだ。しかも調査のためにポケモンをちゃんとまだ鍛えてる。それよりも、かつてリーグトレーナーだったとはいえ恋愛ボケして腑抜けた馬鹿を狙う方が効率が良い」
キョウの推測にキクコは同意しつつも意見を述べる。
「…………それで、ワタルさんは?」
「イッシュに行ってる。……あちらはあちらで、プラズマ団なる妙な連中が活動していて警戒はしているようだが。まぁ実害が確認できていない現状では警戒止まりだから、今のうちに援軍を引っ張ってこようとしているらしい」
イッシュはイッシュで面倒なものだ、とエリカは顔を顰める。カントーにロケット団があるように、他の地方でも妙な団体が暗躍していたりする。現在のジョウトは地獄ではあるが、他だとホウエン地方ではマグマ団とアクア団という2つもの団体が争っていたりするのでこの世界の治安は大概絶望的である。そもそも10歳児が巨大組織のボスと一騎打ちする世界がまず碌でもない。エリカは黙って、医者からグチグチ言われながら処方された胃薬を飲んだ。
「他の四天王はどうだい?」
「まずカントーだが、サナダはリーグ本部に詰めてる。カンナは相変わらずラプラスの生息地を中心にパトロールしており、動く予定はない」
「なんだい。カンナもそろそろこっちに呼びな。ジムトレーナー辺りに任せれば良いだろう。ほら、エリカの所に居ただろう?こおりタイプ使いで強いのが」
「ああ、ユキナさんですね。ですがあの子は気が弱いので……。引っ張ってくれる人がいれば良いのですが」
キクコの指摘にエリカは苦笑いを浮かべた。
「なんだい、勿体無いねぇ全く。……で、ジョウトのは?」
「拙者はこうして地方中を回って治安維持と情報共有に勤めておる。カリンは黒髭の傘下、イツキはロケット団の傘下を潰すべくそれぞれ動いておる」
キョウの説明にキクコは顔を顰める。
「どいつもこいつも出張ってるのかい。……というか、動かされてるね。良い感じに動かざるを得ない情報を流されているんじゃないのかい?足切りできる程度の連中を売って仕事を増やしてるんだ」
「分かっている。実際、これまでに潰した所は末端も末端。情報も財産も残っていなかった。だが傘下の情報には食いつかざるを得ない。我々は市民を安心させる義務があるのでな。傘下を潰したという実績を継続してアピールしなければならんのだ」
「態々説明しなくても分かってるよ……。で、エリカはどうだい?スミレの再教育は進んでるかい?あの大会はちらりと見たが、どうも駄目そうだがね」
キクコに尋ねられたエリカは、気まずそうな表情で視線を逸らした。
「…………それが、まぁ。ご覧の有り様で」
「で、どうするんだい?ジョウトで改善が見られないようなら、彼女には悪いが医療機関に押し込むことも考えるべきだと思うよ。ただでさえ不安定さが消えない奴を、危ない戦場に立たせるのは良くないだろう」
「おっしゃる通りですし私としても可能なら巻き込みたくは無いのですが、ロケット団に目を付けられるわ黒髭に自分から喧嘩を売るわどうにも逃れられない状況にありまして…………」
キクコの指摘に、エリカは胃を抑えながら話す。胃薬を飲んだ胃は、まだ効いていないのかキリキリと痛みを発している。
「あちゃあ。なんでひっくり返っても勝ち目がない相手に真っ向から喧嘩を売るかね……」
「まぁまぁ、キクコの心中も察するがまぁ過ぎたことは仕方があるまい。どの道彼女は力の差が分からん間抜けでもあるまいし、我らが味方として戦うことを前提に言ったのでござろう。それで、エリカ。何か対策は?」
キョウはキクコを宥めつつもエリカに尋ねる。するとエリカは悲しげに笑った。
「…………ありますよ、そして話は各所に通してあります。もしかしたらこれで私はあの子に嫌われてしまうかもしれませんがね」
その言葉に、キョウとキクコは怪訝な表情を浮かべる。
「アンタほど信頼されてる奴が、スミレに嫌われる?……一体何を?」
キクコに尋ねられ口を開いたエリカの言葉に、2人は顔色を一変させた。
◾️◾️◾️◾️
10戦1勝9敗。それがタマムシジムで戦った時を含めての、スミレとユキナの対戦記録だった。つまり、ジム戦以外全敗だ。スミレは目の前で目を回すイワークに視線を送り、大きくため息を吐く。
「11戦目も私の負け……。これで10敗か」
「ま、まぁまぁ。負けの内容考えよ?」
落ち込むスミレに、ユキナは慌てた様子で手を振った。スミレの視線の先ではユキカブリが満面の笑みで拳を突き上げ喜んでいる。スミレとしては本気のユキノオーに主力パーティーを半壊させられた時程ではないが中々のショックである。
「イワークは機動力と火力の問題、ネイティとホーホーはそもそもリングさんに教わったことを元に矯正中って感じだけど、ユキナ的にはどうしたら良いと思う?」
「う、うん。ええとまずイワークは、ハガネールに進化させた方がいいよ」
「それはそう」
それはそう、としか言いようがない。種族としても純粋に強くなる上にハガネールに進化させつつ【ずつき】を【アイアンヘッド】に変えるだけで、イワークの戦闘力は大幅に上昇する。
「ネイティとホーホーはそう。兎に角バトル慣れすればいいかな?ううん、元々野生でもレベルが低かったんだと思うんだけど、野生の戦い方を参考にしなきゃいけないのに野生としてバトルした経験があんまりないし」
「……だよね。分かってるんだけど、どうにも上手くいかない。でも、妙だよね。私への特訓、こんなに甘いなんて」
ユキナの指摘に、スミレは大きくため息を吐いた。
「だとは思うんだけど……。エリカさんは何をする気なんだろ?」
「ちゃんと話せってことかな」
スミレは、過去のことをまだ話していなかった。特訓が待っていることを分かっていたからこそ、2人の負担にしたくなかったのである。
「ううん、どうだろ。でもエリカさん側が何かすることじゃないし、別じゃない?」
そう言われて、スミレは首を傾げた。
「エースがいないって話はしてたからその関係かもしれない……。ただ、あの感じだとカイリューの時みたいな育成が厄介なタイプかも」
嫌そうな顔をしたスミレに、ユキナは困った笑みを浮かべた。
「弱い」
ツキミの鋭い言葉に、ショウガは悔しげな表情を浮かべる。ヘラクロスは既に戦闘不能、出しているオドシシも満身創痍。対するは余裕の表情を浮かべ堂々と立っているブリガロン。この1体相手に、ショウガのパーティーはほぼ壊滅と言っていい打撃を受けた。それも、ショウガ自身が攻撃に加わってこのザマだ。
「……これは、負けだな」
「その通り。諦めないことは立派だが、手立てもなく遅延するだけ遅延してようやく降参か。……情けない」
「申し訳ない」
嫌悪感を露わにするツキミに、ショウガは何も言い返せない。
「だけど、エリカ様がアタシに任せた意味は分かった。この無意味な根性しかない馬鹿に、馬鹿力を備えさせてやろうって腹づもりか。確かに光るものはなくもない」
「では、どうすれば良い?」
ショウガの質問に、ツキミは小さくため息を吐く。
「……まず2体に共通してるけどね。足が弱い。ヘラクロスは相手の攻撃を受けてから殴り返す喧嘩戦法だけど、足がまだまだ弱いから踏ん張りが効かずに吹っ飛ばされてる時がある。まぁそこらのヘラクロスよりは何倍も強いからそこは安心していいよ、理想が高いだけの話さ。そしてオドシシもそうだが、こっちはヘラクロスよりもっと弱い。【バリアーラッシュ】とかいうよく分からん技使ってるけど、突進は足腰が命!レベル上げはそれなりに出来てるけど、体作りがまだなってないね。こればっかりは継続が大事だから、ここで特訓したからといってどうにかなるもんじゃないが」
「一応、足腰についてはこういう特訓をしているのだが」
そう言ってショウガが懐から出した紙には、ヒマワリから旅をしながらやるようにと貰った特訓法が書かれている。それを見たツキミは、小さく頷いた。
「うん、特訓法はまだ粗があるけど悪くないね。これはちゃんと体作りが分かってる奴が作ったトレーニングだ、まぁプロじゃなくてそういうのに詳しいって程度だけど。でも始めてあんま期間経ってないね?」
「その通りだ」
ツキミの指摘にショウガは苦い顔をして頷いた。
「OK、OK。道理で仕上がってない訳だ。……じゃあアタシがこのメニュー改良してやるよ。ポケモンの肉体改造に関しちゃアタシはちゃんと資格持ちの専門家だし、こうして実務経験もあるからさ」
「有難い。ではそれに基づいた練習をするってことか」
「まぁそれもあるけど、別もある。……ま、取り敢えずポケモンを回復させよう。話はそれからさ」
そう言って歩き出すツキミの後を追って、ショウガは歩き出した。