ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
ミコトは、2人と別れリツキと共にウバメの森へと来ていた。現在の手持ちは相棒のベイリーフにポッポ、そして事件の直前にゲットしたヤドンの3体。ジムバッジを1つしか持っていないこともあり、ベイリーフ以外はレベル不足であった。
「と、いう訳でレベル上げの必要があるんだけど。……じゃあ、3体とも出して?」
にこやかに言ったリツキに、ミコトは首を傾げた。
「同時に、どすか?……うちは下手やさかい、3体同時には無理やと」
「大丈夫だよ。トレーナーとして操ってもらうポケモンは1体。他の2体は私のポケモンがサポートして戦いレベルを上げて、私の指示でミコトちゃんが使うポケモンと交代してもらう。そうやって3体を順番に使ってポケモンとトレーナーのレベル上げをしようって感じだね」
「えっ、それは……リツキはんは大丈夫なんどすか?」
「大丈夫!私、これでもちょっと強いんだから。まぁスミレちゃんには全然負け越してるんだけどね」
「あ、あはは……」
たはは、と笑うリツキにミコトは曖昧に笑う。
「とまぁ、そういう話はさておき。……はじめよっか」
しかしリツキはすぐに表情を引き締めると、3つのモンスターボールを出した。出てきた3体は、どれもジョウトに生息しないポケモンだ。
「なんや……このポケモンはん達」
見たことのないポケモン達に、ミコトは思わず目を奪われる。
「そっかそっか。どの子もジョウトに居ないしね。……このポケモンはそれぞれラランテス、メブキジカ、ジャローダだよ。さ、ミコトちゃんも出して」
「はい……!お願いします、ベイリーフはん、ポッポはん、ヤドンはん!!」
ミコトが意を決してボールを投げると、3体が飛び出した。ベイリーフ以外は井戸での事件以降はバトルに出していないが、それもあってどのポケモンもやる気は十分だ。それは、怠けがデフォルトなヤドンですらも。ヤドンは、普段している眠気まなこをカッと見開き、鼻息を荒くしている。
(ヤドンがあんなにやる気見せてるなんて……。私は事件のことよく知らないけど、ちゃんとポケモンに愛されてるね)
「や、ヤドンはん……?」
(あっ、やっぱり想定外なんだ)
ミコトが驚いた様子でヤドンに視線を向けている姿に、リツキはクスリと笑みを溢した。
パーティーのうち、はじめにミコトが使うポケモンは妙にやる気のあるヤドン。ベイリーフには同じ初心者用ポケモンであるジャローダ、ポッポには地上の敵を抑えられるメブキジカが付き、それぞれベイリーフはゴルダック、ポッポはパラスと向かい合う。それに対するミコトは、ラランテスが誘き寄せたバタフリーと向かい合う。
(バタフリー……。レベルも相性も圧倒的に向こうが上、制空権も取られとる……)
「さっ、やろう。もしもの時はラランテスがカバーするから、戦闘不能には絶対にならせないよ。あのバタフリー、レベルはヤドンと比べて高いけどスミレちゃんのバタフリーみたいな理不尽じゃないしね」
バタフリーに緊張した面持ちを浮かべるミコトだが、リツキはそんなミコトの様子を見て明るく声を掛ける。
「はっはい……!」
「うん、良い返事!じゃあまず、攻撃してみようか」
リツキから促され、ミコトは指示を飛ばすべく頭を必死に回した。
「……ヤドンはん、【みずでっぽう】!」
大きく息を吸って飛ばした指示で、ヤドンは水鉄砲を放つ。
「ラランテス、加減して【シザークロス】。……ミコトちゃん、追撃用意!」
余裕を持って躱そうとするバタフリーだが、背後に一瞬で現れたラランテスが【シザークロス】を叩き込み飛んでくる【みずでっぽう】にぶつけて強制的に技を命中させる。
「は、はい……!【ねんりき】!!」
空中でふらつくバタフリーに【ねんりき】が当たり、バタフリーの体力が削れる。
「さ、もう一息!最後はミコトちゃんが決めて!!」
「はいっ!!【みずでっぽう】!」
弱って動けないバタフリーに【みずでっぽう】が命中し、バタフリーは戦闘不能となり墜落する。ミコトは勝ったことで安堵のため息を吐き、リツキは倒れたバタフリーを治療し逃す。視線を周囲に巡らせると、ベイリーフもポッポもリツキのポケモンの手厚いサポートを受けつつ格上の野生ポケモンを倒していた。
「さて、結構な格上倒したしヤドンのレベルはどんな感じ?私のポケモンが介入したからその分は下がるけど、でも結構上がったんじゃない?」
「は、はい……。多分?」
「うん、OK!元のレベルが低かったしそのくらいだね。じゃあもう1体倒したら次はポッポに変えよっか。ポッポはなるべくレベルを上げて、可能ならここで進化させちゃおう」
元気よく笑うリツキに、ミコトは疑問符を浮かべた。
「あ、あの……!」
「ん?どうしたの?」
「あの、レベルについてなんですが、よく分からなくて……」
ミコトの疑問に、リツキは忘れてたと言わんばかりの表情を浮かべる。
「あっ、ごめんごめん。ええと、レベルっていうのはまぁ最近ちゃんと数値化されつつあるけど、元々は極まったトレーナーの感覚任せに使われていた強さの基準みたいなものだよ。例えば今の君たちだと、スミレちゃんのジョウトで捕まえたポケモン達は大体20くらい。ショウガさんのオドシシとヘラクロスは40程度、ミコトちゃんだとまぁベイリーフが16で後は10くらいかな」
「へぇ……スミレさんと私ってあまり変わらないんですね」
「まぁね、戦い方が上手いから別次元に見えるだけで、実はベイリーフならバトルできないこともないよ。まぁレベル差って数字で見るよりもかなり大きいし、地力が違いすぎるからまともにやり合ったら一方的に叩きのめされるだけなんだけどね」
あははっ、と笑うリツキにミコトは曖昧に笑う。
「……因みに、私のポケモン達は一番強いレベルで52。スミレちゃんの使ってるサファリゾーン出身勢が45から50程度だからそれよりは強いね。まぁ、あの子もそうだけどリーグ上位勢やチャンピオンリーグ勢のメインパーティーはどんなに低くても55レベルはあるよ。スミレちゃん達は上位勢では最底値だからそのくらい。フシギバナでも精々58とかその辺りだけど、レベルが高くなればなるほど次のレベルまでが遠くなるからね。因みに90台に差し掛かると1上げるのに年単位必要になることだってあるらしいよ。まぁそのレベルは流石にチャンピオンや四天王くらいなものかな、ウチのエリカさんだって相棒のラフレシアで80だし」
「な、成程……」
レベル、という概念は少し聞き齧っただけだった。通っていたスクールでもそんなに重要な部分として聞かなかったのだが、ミコトが思っていたよりもずっと重要だったようだ。しかし理解が追いつかないのか、ミコトは目を白黒させた。
「あはは、難しいでしょ?そもそもレベルはスクールではあんまり教えないんだよね、その領域に辿り着く過程でレベル云々は身につくものだし、進化云々も育てて進化条件満たせば進化する程度のことだし。まぁその辺はあんまり覚えなくて良いんだよ。この場で使うレベルっていうのは上位に挑む資格とかじゃなくて、最低限の戦力になる程度。そして進化に必要な程度のレベルって話だから。ベイリーフが次に進化するのは32、ポッポは18、ヤドンは特殊進化なら今からでもやれるし、普通の進化なら37。ああ、そうだ。……ミコトちゃんは早めにヤドンをどっちに進化させるか決めておいてよ。ヤドランか、それともヤドキングか」
リツキの言葉に、ミコトは眉を顰めた。ヤドンが進化するというのは知っている、しかしヤドキングへの進化方法は今まで謎とされていたのである。
「ヤドキングの進化方法が見つかったと……?」
「うん。特定の道具を持たせて通信交換をするんだよ。そしたら交換時の特殊な電波と反応して、進化が始まる。そこにレベルは関係ない」
つまり、ヤドランに進化させるなら今この瞬間でも可能ということである。ミコトは、ヤドンに視線を送る。
「むむ……。ですが、ヤドンはんの意思を確認せんことにはどうにも……。うちもよう知らん訳ですし」
「そっかぁ、でもその辺を座学してるほど余裕はないしな。まぁ、その辺は後からスミレちゃんとショウガさんに相談しなよ。せっかくの旅仲間、頼れる時は頼って損はないと思う」
「はい、そうさせてもらいます」
頷いたミコトに、リツキは真剣な表情を浮かべた。
「ただひとつ言うなら、ちゃんと自分でも勉強したり周りから情報収集をすること。ヤドキングの進化方法とかもそうだけど、人生相談とかじゃ無くて軽く調べれば分かるようなことを聞かなくて良いように、ちゃんと知識をつけることと、苦手なことにも挑戦しようとする姿勢を見せること。じゃないと、どれだけポケモンのレベルが上がってもトレーナーの成長が追いつかずにそのうちポケモン達から舐められるようになるだけだし、速く強くならないといけないミコトちゃんは特に頑張ってる姿勢を見せないと周りのトレーナー達は『自分のペースで進んでるだろうし手出しは要らないな』って判断してあんまり手を貸してくれないよ」
「……はい」
ミコトもまた、真剣な表情で頷いた。勉強不足、と言われればそうとしか言いようがないからだ。しかしリツキは一瞬で笑顔に戻る。
「ま、でもこんなことになるなんて予想できないもんね!しょーがないしょーがない。まぁこういう話は重要だけど、一旦置いといて特訓だ!頑張ろー!!」
そう言って拳を突き上げるリツキに、ミコトはテンション落差に戸惑いながらも頷いた。
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スミレは、苦い顔をした。理論は出来ている、目指す先はハッキリしている。例の如く戦闘不能になったホーホーの側で勝ち誇るニューラに視線を向け、大きくため息を吐く。近接のひこう主体に切り替え、遠距離に頼らぬよう【ねんりき】を無効化できるニューラを相手にバトルしてみたはいいものの、結果は上手く動けず惨敗であった。
「うーん、ちょっといい?」
それを見かねたユキナが困った笑顔を浮かべ、スミレは首を傾げた。
「何?」
「ええとね、ちょっとハードル上げすぎかな」
ユキナの指摘にスミレは、眉を顰める。
「…………ハッキリ先は見えてる。そこに向かってるのに、変な所で躓いているだけの話だ」
「そうかも知れない。でもね、ポケモンは生き物なの。人間と同じで、能力には個体差があるんだよ。カントーの6体とニドキングは、ある意味特殊なんだと思う。だってスミレちゃんも言ってたでしょ? " オールエース " だって。普通、あのくらいのエースはパーティーに多くて2.3体なんだよね。でもスミレちゃんは、7体もそれが居た。だから、ちょっと求めるレベルが高すぎるし、出来ないことにイライラしすぎ。最初はそんなものだよ、普通の人がジム巡りすると速くて2年掛かるのはこういう部分があるからだし。……これからちょっとずつ強くなればいいんだよ。そんなのじゃ、ポケモン達もやる気無くしちゃうかも」
普段のオドオドした態度はどこに行ったとばかりに話すユキナに、スミレは黙って頷いた。
「そうだね、うん。確かに、サファリの個体はレベル上げて技を整えるばっかりだったし」
「ふぅ。ご、ごめんね……?偉そうなこと言って」
元の調子に戻ったユキナに、スミレは小さく笑う。
「いや、そこで何で戻るの……。でもそのくらい言って欲しい。私、多分結構感覚狂ってるかもしれない。バタフリーやゲンガーみたいな意味不明な挙動はしないし、フーディンやカイリューみたいな火力はないし、ニドキングやラプラスみたいに硬くないし、フシギバナみたいに万能じゃない。……そうだね、私が向き合ってるのはあの子達の代替品じゃない」
スミレはそう言ってポケモン達に視線を向ける。ホーホー、ネイティ、イワーク。かつての仲間達に比べれば才能で劣る部分はあるかもしれない。だがそれでも、自身と運命を共にするポケモンであることに違いはないのだから。
「ま、まぁリーグはカントーの子達を混ぜればエース枠は埋めれるし、あんまり焦らなくて良いんじゃない?別に旅が終わってからも育てられるし、そもそもヨルノズクに進化してからが本番みたいなものだし一旦はレベル上げて、後は戦いながらちょっとずつ調整するとか。ほら、ホーホーよりヨルノズクの方が近接向きの体型はしてるしね」
「確かに……それもそうか」
スミレは納得した様子で頷いた。確かにホーホーはヨルノズクと比較してずんぐりとした体型をしており、ヨルノズクに比べて高速飛行や近接戦闘に優れた体をしていない。
「じゃ、どうする?わたしで良ければ幾らでもバトルするし、野生ポケモンとバトルするなら一緒に行こうよ」
ユキナに尋ねられ、スミレは小さく笑う。
「……野生ポケモンで。今の私達じゃ、ユキナに勝てる気がしないし」
長引くなぁ……。でも次話で終わる筈です