ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
次のジムと試練が待つエンジュシティへ向かう道中。スミレ達は一夜を明かすべく小さな町に立ち寄っていた。
「しかし幸運だったな。道路の半ばにあるからとはいえ、ホテルがあって助かった」
「ポケモンセンターがないのはちょっとあれだけどね」
「まぁ、ええじゃないですか。キズだけなら持ち物で直せますし」
日もすっかり暮れ、3人は夜の町中を歩く。部屋を取ったホテルが安い代わりに食事が付かない仕様だったので、3人は近くのファミリーレストランで食事をしていたのだ。小さな町にもこういったチェーン店はあるのが有難い。自炊はしなくて済むならそれが一番良いのである。
「……で、2人はどうする?私は暫く外を散歩してから部屋に戻ってシャワー浴びるけど。あれだったら近くに銭湯あるらしいし行って来な」
そう言ってスミレが2人に視線を向ける。スミレ自身は体の傷のことがあるため行くつもりはない。しかしスミレとしては、2人に自分を理由に遠慮して貰いたくなかったのだ。
「ほう?では私は行こう。ミコトはどうする?」
その気遣いを察したショウガは、すぐにそれに乗る。ミコトは最も新参、最も気を遣いやすい立場なのでそこはリラックスできるよう2人が誘導してやる必要があった。案の定、ミコトはチラリとスミレに視線を送る。
「良いよ、行って来な。……なんなら幾らか小遣い渡そうか?」
大会やバトルの賞金、オーキド博士へ研究成果を提出した見返りやリーグに協力した礼の金など、ポケモンの育成につぎ込んでいるため掃いて捨てるほどはないが金ならそれなりにある。
「いえ、うちも父の小遣いがあるんで……。でも、銭湯は行かして貰います」
「了解。ショウガ、頼んだよ」
「応。取り敢えずホテルに戻ろうか。話はそれからだ」
スミレがそう言うと、ショウガは笑って頷いた。
◾️◾️◾️◾️
3人で一度ホテルに戻りショウガがミコトを伴って銭湯に向かった頃。スミレは1人で町を歩いていた。シャワーも浴び、もうやることがなかったのである。時間も時間なため、店に寄ろうにも開いているところも閉店間際なことが多い。丁度目の前で寄ろうかと思った雑貨屋がシャッターを下ろした。スミレは小さく落胆した。
そんな訳で手持ち無沙汰なままブラブラと歩いていると、小さな公園に出た。遊具らしいものもブランコと滑り台くらいで、あとは砂場やベンチがあるシンプルな公園だ。夜の暗がりを照らす街灯の周囲には、光に釣られたモルフォンが飛び回っている。
「ん?」
スミレがぼうっと辺りを見渡すと、小さなポケモンの影があった。
エイパムだ。妙に気落ちした様子で歩いているその姿に、スミレは違和感を覚える。確かにエイパムというポケモンは町中で見かける事はあるだろう。しかしそれは山や森から出て来た場合のみ、普段から町に生息するポケモンとは訳が違う。おまけにエイパムはヤンチャな性質があるため人の食べ物を奪ったり人を攻撃したりなどトラブルメイカーとしての側面を持っている。
だからこそスミレは、一瞬の判断でモンスターボールを投擲した。正直ノーマルタイプは捕獲の優先度がかなり低く必要ないまであるが、しかし放っておいて人に被害を出したり車にでも轢かれて死なれたらと考えると気持ちよく眠れない。だからこそ投げたボールだったが、伸びた光はエイパムの体を包み込もうとして弾かれた。
(……捕獲済み?)
モンスターボールを使い、1度別のモンスターボールに入れようとするなら登録を消してやる必要がある。しかしそれが為されていない、ということは何らかの理由でトレーナーと逸れたポケモンであるということだ。そう考えれば、妙に項垂れていた姿にも説明がつく。
「厄介な」
スミレは眉を顰めた。ロケット団が暴れ、ポケモンハンターが各地に出没するこのご時世に何をやっているというのか。エイパムはボールをぶつけられて流石にスミレを認識したか、その場で体を縮こまらせている。一瞬で逃げを選択しない辺り、恐らくはブリーダーの元で育てられた個体だろう。危険に対する対応力があまりに不足している。スミレが一歩踏み出せば、エイパムは体を震わせた。これなら、やりようはある。
「……これから貴方を警察に引き渡す。拒否すれば痛い目見るけど、どうする?」
選んだのはシンプルに脅迫。足元の影が揺らめき、影が裂けて目と口が見え、ゲンガーの笑い声が響く。それだけで圧倒的に弱者であるエイパムは腰を抜かすと涙目になりながら座り込んだ。
◾️◾️◾️◾️
銭湯を出て、町をぶらぶらと歩いていたショウガとミコトだったが、誰かが叫ぶ声がして立ち止まった。
「パンー!!!!どこに居るのー!?」
叫んでいるのは女性だ。隣には小さな娘らしき少女を連れている。どうやら迷子を探しているらしいが、周りを歩く人間達は足早だ。まるで立ち止まる気配も見せない。それを見兼ねたミコトが声を掛けた。
「あの……、どうなさったんですか?」
ミコトが尋ねると、母親は息を整えて頷いた。
「ええ。ウチで飼っているエイパムが逃げ出してしまいまして」
「戸締りを怠りでもしたのですか?エイパムは器用で身軽な上にヤンチャな個体も少なくない。家の鍵くらいなら開けて逃げ出す」
思わず呆れるショウガに、母親は黙って首を横に振る。
「ちがうの!わたし、パンとおもちゃ取り合いになってけんかしちゃったの!」
隣の娘が涙目で声を上げ、ミコトとショウガは目を見合わせた。
「そうなんです。ナツ……娘がエイパムと喧嘩して、わたしはその時のことを見てないから分からないのですがどうも『嫌い』や『出ていけ』みたいなことを娘は言ってしまったらしく」
「成程。喧嘩したら家出したと。しかし娘さんをこんな夜道に連れ出すのは危ないと言わざるを得ませんが」
「すみません……。どうしてもと聞かなくて。夫も仕事ですし……」
消沈した母親を責めるのも気が引けると、ショウガは大きくため息を吐いた。
「……まぁ起こってしまったことは仕方ない。しかし残念ながら我々は迷子らしきポケモンは見ていません」
「あの、うちで良ければ探すの手伝います!」
ミコトが手を挙げ、ショウガは困ったように頬を掻いた。
「すると思ったがな。しかし何処を探すのかね、この場合はスミレの力は借りられんぞ」
「へっ?」
「あの娘はミコトも知っている過去故に、身内以外の人を嫌っておる。自分の中で納得できる理屈がない限り動いてはくれない。ましてや、自分頼みで人助けを安請け合いする奴の言葉では決して動くまい」
ミコトは頷いた。過去は知っているが人助けしないことは知らなかった。とはいえ分かっている、ショウガが今したのは釘を刺したのだということを。ミコトとて、スミレに協力して貰えたらとは思っていたが自分で解決するつもりではある。己の言葉を曲げることを、記憶に残る父は許さなかったからだ。
「ちゃんと、うちが始末つけます」
「そうしろとは言えんな、小さいとはいえ町が舞台。治安も考えれば分けての捜索も難しい。乗り掛かった船だ、私も協力しよう」
「あ、ありがとうございます」
ショウガの言葉にミコトはホッと胸を撫で下ろす。
「そういうことになった。ご夫人、我らの微力で良ければ力を貸そう」
「ありがとうございます……!」
母親は、安堵の表情を浮かべて涙ぐんだ。
「しかし、ナツ……だったか?」
「…………うん」
ショウガは母親から目を逸らすと、膝をついてナツに目線を合わせた。ナツは目の前に強面の見知らぬ男の顔がぬっと出て来たことで怯えを浮かべる。
「もう、『嫌い』じゃないか?』
「…………うん」
ナツは、小さく頷いた。それを聞いたショウガはスクリと立ち上がると、それを見ていたミコトに視線を送った。
「ではミコト、自分で提案したのだ。お前が中心になって解決しろ」
「分かっとります」
「うむ。解決策はあるのだろうな?」
「はい……!ではまず、交番へ参りましょう。警察の方はいぬポケモンを持っとったりした筈です。嗅覚頼んのも悪うない筈やと思います」
ミコトが指示を出し、3人は交番に向かって歩き始めた。
◾️◾️◾️◾️
夜の町を、スミレは歩く。3歩後ろからエイパムが着いてくるのをチラチラと確認し、スミレはため息を吐く。
(大人しく着いては来るが……。しかし安心じゃないな)
見上げると、電柱の上からはヤミカラスが見下ろしている。そして、何処からかは怪しげな視線を。
(ヤミカラスは視認できるとして、他は何?)
ジョウトの町に住む夜行性ポケモンといえばヤミカラスの他にムウマやズバット系統であるが、出てくると面倒なのがズバットの最終進化であるクロバット。そして偶に迷い込む森や山のポケモンだ。
(運が良くてムウマやズバット、悪くてクロバット。……最悪なら、リングマかバンギラス、或いはトレーナー)
野生とはいえリングマやバンギラスに出てこられたら、それはもう迷子どころの騒ぎではない。フシギバナやゲンガーで対処しなければならない問題だ。
「ゲンガー」
仕方ない、とゲンガーの名前を呼ぶ。すると足元の影が不自然に伸び、その中から浮かび上がるようにゲンガーが現れた。エイパムはあからさまに怯え、ゲンガーは嬉しそうに笑った。しかしここでゲンガーを呼び出したのには理由がある。その視線がどのような存在であれ、ポケモンであれば好戦的な個体は誘き出せる上に、弱腰な個体は威圧することができる。そして人間の場合は牽制になるのだ。
(この町の警察がどれだけ使えるか……。せめてそれなりに使える奴持っててくれると良いんだけど)
現役の警察官には、犬型ポケモンや鳥型ポケモンは特に人気だ。犬型は鼻がとても効くため追跡が得意で、鳥型は飛行による空からの索敵を得意とする。それこそチャンピオンのワタルとてレギュラーに入れない程度の実力ではあるが犬型も鳥型も持っているらしい。とはいえ実力はピンキリで、低レベルなガーディしか持っていない警官もいればリーグ上位レベルのピジョットを連れてる警官もいる。この町はどちらか……とはいえ平和な田舎町に期待はできない。
(来ない……?)
視線は相変わらず纏わりついている。だが、一向に動く気配がない。それはつまり、様子見を決め込むだけの理性があるということだ。相応の理性をもったポケモンあるいは人間の影に、スミレの内心には焦りが湧いて出る。
(仕方ない……)
「出てこい、そこに居るのは分かってる」
スミレは視線に向かって声を掛けた。
◾️◾️◾️◾️
「エイパムゥ……?見てないねぇ」
向かった交番にいた警官は、欠伸をしながら呑気に言った。途端に不安げな表情をする母親はそれでも食い下がる。
「しかし、実際に行方不明となっておりまして。捜索をお願いしたいのですが」
「飼い慣らされたポケモンなら放っておいても帰ってくるんじゃないかねぇ。探しに行くにしたってポケモンも持ってないような子供連れて来られちゃ困るしアテもない」
「お願いします!大切な家族なんです!!」
「……こんなご時世に何やってんだよ全く。ああ分かった分かった、探しに行ってやるから君たちは大人しく待ってなさい」
呆れた様子ながらも立ち上がった警官に、ナツが叫んだ。
「やだ!わたしも探す!!」
「あの、お邪魔はしませんからどうか……」
続ける母親に、警官は頭を抱える。
「あのだねぇ、家族を想うのは立派だけどねぇ」
「…………いや、ついて行かせてやってくれ。責任は我々が持つ」
しかしショウガはそこに割って入った。ボールを腰から外して投げると、ヘラクロスが飛び出す。
「うおっ、こりゃ凄い……」
「この通り私もそれなりに戦えます。隣のミコトはバッジ1個程度だが居ないよりは役にたつ。2人で護衛するので、どうかご容赦頂きたい」
そう言われて警官は少し考え込むと、頷いた。
「分かりました。少なくともお坊さん、貴方は私の何倍も強い。貴方が居てくれるのであればそれはマイナスを補って余りある。失礼、お名前は?」
「私はショウガ。そこの少女はミコトという」
「ショウガ殿、そしてミコト殿……捜査協力を願います」
気合いを入れ直したのだろう警官の声に、ショウガとミコトは目を見合わせ頷き合った。
「了解した」
「よろしくお願いします……!」
町に出ると、町行く人々の姿が視界いっぱいに映った。この町は田舎町とはいえ、コガネシティとエンジュシティの狭間かつ地価も安いのでここに住んで働きに出る者も居る。なので昼間こそ田舎といった感じだが、夜になるとある程度は人が戻ってくるのだ。まぁ、田舎町というだけあって都会のような喧騒はないのであるが。
「……しかしこれで見つかるのかねぇ。夜とはいえ野生のエイパムが降りてくる可能性は無いわけじゃありませんよ」
「分かっております。だからこそ貴官のウリムーと私のオドシシ、そしてミコトのピジョンが居るのです」
作戦は人間たちは安全確保のため手分けせずに捜索、その際に警官のウリムーとショウガのオドシシにはエイパムの持ち物が持つ匂いを嗅がせてそれを探らせ、同時にピジョンが空を飛んでエイパムの姿を探す。
「夜目の利くポケモンが居れば話は別ですがね、それが居ないからこんなに大勢出して探してるんでしょう。うちのウリムーだって鼻は効きますが経験不足だ。物探しは得意ですが、動く目標は探したことがない」
ぼやきながら歩く警官に、ショウガは目を見開く。
「迷子はそうないのですか?」
「……この交番で働いてんのは俺だけじゃないですから」
「成程。しかし、この頃はどこも治安が悪いと聞きますがこの町はどうですか?」
「ここは比較的安全ですよ。なんせ奪うほどの何かがある訳でもない。警察から一般市民まで、碌な経済力も戦力もないのでね。お陰様で暇させてもらってます」
「そうですか、奴らの手は伸びておらなんだか」
ヘラヘラと笑う警官にショウガは胸を撫で下ろす。なんだかんだで町の平和は保たれていた。
「いいモンじゃないっすけどね。俺だって平和ボケしてる自覚はありますし、それは町の連中だって同じだ。まぁしてなくたってウリムー1匹でロケット団とやり合えば負けんのはこっちです」
「まぁ、奴らと戦った身としては否定できませんな」
警官の言葉にショウガは肩をすくめた。ロケット団といっても上から下までたくさん居るが、少なくとも彼のウリムーでは最下層の下っ端を相手するのが精々だろう。
「ピジョォォォォォ!!!!」
色々と話しながらエイパムを探していると、ピジョンが何やら焦った様子で戻って来た。
「どうしたんですの……!?」
「ピジョ、ピジョォォォ!!」
ミコトの腕に止まり何かを訴えるピジョン。ショウガがそれに警戒心を露わにする。
グラリ、と大地が揺れた。自然界の地震か、それとも【じしん】か。
「……いや、【じしん】だ!誰かが戦っている!!」
ショウガがそう叫んだと同時に、何処からか叫び声が届いた。
「大変だ!!リングマが降りて来た!!!!」
◾️◾️◾️◾️
「グゥゥゥゥ……!」
茶色の毛で覆われた巨大な体躯。口からは鋭いキバが覗き、目の前の餌を前に涎が滴っている。とうみんポケモン、リングマ。普段は警戒心や縄張り意識が強く山や森に引き篭もっているが、偶に棲家を追われた個体や人の食べ物の味を覚えてしまった個体などが山を降りてやってくる。スミレは血走った目でこちらを見るリングマの動きを観察する。筋肉量は多く、体には多くの古傷がついている。恐らく、相当経験を積んだ個体だ。
「エイパムは大丈夫?」
「…………パムゥ」
スミレとて足の竦む光景だが、弱いエイパムにはよりショックが強いようで、心配の声はかけたものの縮こまっている姿にスミレは腰のボールを迷わず掴んだ。
「ネイティ、来て」
「……ティ」
ネイティを呼び出すと、ネイティは相変わらずの真顔で立っている。
「ネイティはエイパムを守りつつ逃げ出さないように注意して。ゲンガーは私の体の保護を、フシギバナ・イワーク・ホーホー・ストライクであのリングマを迎撃するよ」
スミレの指示にネイティは黙って視線を送る。その視線からは、自分は戦えないのかという仄かな不満が見えた。スミレは読み辛い表情の奥に光る感情に頬を緩める。
「ごめんネイティ。エイパムに変な動きされたら困るからさ」
「…………ティ」
ネイティは目を輝かせてエイパムを捕らえると、そのまま後方へ飛んで距離を取った。それを見たスミレは、ボールを追加で投げる。
「イワーク、【がんせきふうじ】」
「イワァァァク!!!!」
飛び出したイワークは土煙を立てながら現れると【がんせきふうじ】を発動。生み出された岩石の砲弾がリングマ目掛けて殺到する。
「息もつかせるな、もう一発【がんせきふうじ】!」
そしてもう一発。再び放たれた岩石がリングマを叩いたが、レベル差があり過ぎた為か微量のダメージで済む。攻撃を受けたリングマは、しかし額に青筋を浮かべるだけであった。
「ガァァァァァァ!!!!」
「ゲンガー、【サイコキネシス】で防御。イワークは【あなをほる】」
大地を揺らしながら突進するリングマにゲンガーは【サイコキネシス】を発動、僅かに動きを止めたその隙にイワークは地中に潜って姿を消した。
(イワークの耐久力でも、多分リングマの攻撃は一撃も耐えられない……。ゲンガーの【サイコキネシス】食らって動きを止めるのがやっとなら、フシギバナで戦う以外の道はない!……?)
視界の端で、ピジョンが飛び立つのが見えた。暗くて個体までは把握出来なかったが、夜に態々飛んでるピジョンとなれば、トレーナーの可能性がある。しかしその思考を一瞬で切り捨て、目の前の敵に集中する。
「イワーク、突撃」
「イワァァァァァァァァァク!!!!」
イワークは地中、しかもリングマの足元から飛び出した。不意をつかれたリングマは顎を打ち上げられ、僅かにたたらを踏む。
「今……!イワークは【あなをほる】で離脱、ホーホー、フシギバナ、ストライクは行って!」
スミレはボールを投げながら叫んだ。ホーホーとフシギバナ、ストライクが飛び出し、イワークは地中を通ってスミレの眼前に戻る。
「イワークは【がんせきふうじ】でひたすら機動力を削って、ホーホーは【エコーボイス】を連打。限界まで威力を高めて体力を削って貰う。この2体に関してはこれ以上の指示は出来ないから、言われたことをひたすらやって。……そしてフシギバナとストライク。私が貴方達の指揮をとる。かなり厳しいかもしれないけど、あれを倒す可能性がカケラでもあるのは貴方だけ。やれるだけやろう」
「バナァ」
「ラァァイ!!」
スミレの消極的な言葉に、フシギバナは大らかに答えた。危機を目の前にしても穏やかで、しかしその内心には燃え滾る闘志が宿っている。対するストライクは頬を緩めて応えた。普段は研究所で鍛えてばかりだからこそ、偶に頼られる実戦の場面は嬉しいのである。
「グォォォォォォ!!!!」
「フシギバナ、【つるのムチ】!ゲンガーは【どくどく】」
「バナァァァ」
駆け出したリングマに、フシギバナは蔓を伸ばす。うち1本は爪によって引き裂かれ、しかしもう1本で右腕を捉えた。その隙に、背後からは【エコーボイス】と【がんせきふうじ】が殺到。煩わしいだけの攻撃に、リングマの注意が割かれた。
「グゥゥゥ……」
更に放たれたのはゲンガーの【どくどく】。猛毒の状態異常を与える攻撃に、リングマは苦痛の声を漏らした。
「今、【シザークロス】」
そこに突撃するのはストライク。両腕の鎌を閃かせての高速の2連撃がリングマを襲った。
「グゥゥゥゥ!」
しかしリングマは蔓を強引に引きちぎると、ストライクを腕のひと振りで吹き飛ばし、地面に拳を叩きつける。そして起こるのは激しい振動。【じしん】だ。広範囲への攻撃でイワークが倒れ、町の整備された地面が割れる。スミレも攻撃で狙われたのだが、こちらはゲンガーが抱えて飛んだ為に無効化されている。そしてそのまま突進すると、フシギバナの頭に拳を叩き込んだ。
「……ッ【ギガドレイン】!」
一瞬衝撃で白目を剥いたフシギバナだが、大地を踏み締めると【ギガドレイン】を発動。リングマから体力を奪い、己の傷を癒す。そこにストライクが斬りかかり【いあいぎり】を放つが、振り向きざまに振るわれた剛腕を躱して距離を取った。
「グゥマァ……!」
しかしリングマは未だに体力の殆どを残して健在、血走った目で眼前の獲物へ唸り声を上げた。そこへ【エコーボイス】が直撃、少し上がった威力にリングマの怒りは煽られる。
「イワークが倒れたのなら、遠慮する意味もない!【じしん】!!」
フシギバナが大地を踏み締め、周囲を激しい振動が襲った。リングマが踏ん張りが効かなかったか地面に倒れ、激しい土煙が巻き起こる。
「ストライク、【シザークロス】!フシギバナは【つるのムチ】で援護して」
「……!」
「グマァァァ!!」
突っ込んでくるストライクにリングマは右腕を振り上げる。だが、それをフシギバナの伸ばした蔓が絡めとると、ストライクはリングマの胸元をクロス状に切り裂いた。そして、追い討ちの【エコーボイス】。10度は放ったそれは技の効果により威力を増している。
「決まった、なら次は……」
「…………グゥゥゥゥ!」
「全力で回避!!」
次の指示を出そうと口を開いた、瞬間。リングマの唸り声にスミレは違う言葉を吐いていた。
「グマァァァァァァァ!!!!!!」
放たれたのは、【ストーンエッジ】。リングマの剛腕が大地を抉り、放たれた岩の礫がスミレ達に襲いかかった。
「ホー……」
「くっ、ホーホー!」
これによりホーホーが戦闘不能、スミレを庇ったゲンガーと大柄故に回避のできないフシギバナが少なくないダメージを負った。ストライクは多数を躱しきったが、あと数発が躱しきれずに攻撃を食らって吹き飛んでいる。
「グマァァァ!!!!」
それを見たリングマは指示役のスミレを脅威と認定し、襲いかかる。
「ティ……!」
しかし、その顔面を突如として爆発が襲った。やったのはネイティだ。主人の危機を察知したネイティはエイパムを町の明かりを目印に逃し、戦場への介入を決めたのだ。
「グマァ!!」
しかし、レベル差が大きすぎるが故にリングマへのダメージはカケラも同然。平然と立つリングマに、ネイティはその内心に恐れを浮かべる。
『ここで死ぬ』、そんな未来を見た。リングマの爪に引き裂かれて息絶える自分の姿。そして、その後を追うように死んだ主人の顔が脳裏に過ぎった。虚な目を見開き何処かを見つめ、全身を赤黒く染めた姿。そしてその体を貪り食うリングマの姿。そんな未来を見た。
だがしかし、それはとある可能性の話だ。
ネイティの全身を青白い輝きが覆いつくし、リングマは突然の光に目が眩んだのか目を抑えて後退する。
己が死ぬ、スミレが死ぬのは、ここで己が進化をしない未来の話。であれば、殻を破れば良いだけの話である。
ネイティは思った。己は人の心に疎い。感情を表に出すのが苦手であるし、主人のあれやこれやを知ってなおも顔色ひとつ変えられず、その苦しみに寄り添えぬ不孝者である、と。しかし同時に知っていた。このトレーナーを生かし、その道を支えることが良い未来を作るのだと。だからこそここで、殻を破った。進化できると、己を洗脳して迷いも懸念も打ち消した。己の進化ひとつでは、リングマに届かぬと知りながら。
「ティーオー」
ネイティオ。それがネイティの進化した姿であった。
「…………進化、したんだね」
顔も見えない主人の、驚きの声がじんわりとネイティオの心に沁みる。表情は変わらないけれど、何処かそれが誇らしかった。
「グマァァァァ!!!!」
目眩しから復活したリングマが駆ける。ネイティオの火力では、リングマを止めることは出来ない。進化したとて、圧倒的な差を僅かに埋めた程度だからだ。リングマにとっては誤差に過ぎない。だが、進化という過程が間を作った。
「バナァ……!!」
蔓がリングマの足を掴み、その巨体を引き倒した。そしてそのまま【ギガドレイン】を発動、リングマの体力を吸い上げる。倒れ、無防備となったリングマに駆け寄るのはストライク。ストライクは高く飛び上がると【れんぞくぎり】を放った。閃く両腕の鎌が複雑な軌道を描いてリングマの背中に殺到、リングマは痛みに表情を歪める。
「今ならやれる!フシギバナ、ストライク!継続して攻撃して!!」
スミレは2体に指示を出すと、バッグから回復の薬を取り出しゲンガーに吹きかけた。これは掛けたポケモンの体力を全て回復させる効果だ。これにより、スミレの体を守るゲンガーは元気を完全に取り戻した。
「グマァ!!」
「ネイティオ、【エアスラッシュ】!ゲンガー、【サイコキネシス】!ストライクは【シザークロス】!
ネイティオの放った空気の刃がリングマに殺到する。攻撃を食らったリングマの動きが、大した威力でもないにも関わらず停止した。技の副次効果にして状態異常、怯みだ。そしてゲンガーの【サイコキネシス】が反撃しようとしたリングマの動きを止め、その隙に突貫したストライクの【シザークロス】に切り裂かれた。
もし、ホーホーの連続攻撃を受けて僅かなダメージを蓄積していなければ。もし、イワークの【がんせきふうじ】を受けていなければ。自慢の肉体から放たれるスピードで、迎撃の準備をする事ができたのかもしれない。
「フシギバナ、【はなびらのまい】」
しかし、間に合わなかった。リングマの眼前に見えたのは、視界一面に広がった花弁の嵐だった。
◾️◾️◾️◾️
危険だ、ということでミコトを護衛に親子を交番に戻らせた。いくらなんでも、リングマ出現は異常事態が過ぎる。警官は、戦力にならない為町人の避難指示と応援要請のため町に残った。現場に駆けるのは、ショウガ1人だ。人並み外れた速度で駆けるショウガであったが、その道中でリングマ出没現場から走ってくる小さな影を視認する。
「……エイパム!いや、パン!!!!」
ショウガが名前を呼ぶと、その影……エイパムは硬直したように立ち止まった。どうやら、あだ名で呼んだことが効果を奏したらしい。
「パムゥ!!パムパムゥ!!」
何かを叫ぶエイパム、遠くから響く地鳴り。確信した。
「(この町に居る、リングマと戦えるだろう戦力……スミレか!!)案内しろ、ソイツの友達だ!!!!」
ショウガが走りながら伸ばした手に、エイパムは縋りついた。
リングマが、ようやく膝をつき沈黙した。スミレは滝のような汗を流しながらも倒れ込む。あまりにも過酷な戦いだった。何度も死を錯覚した。それでも、己のポケモン達は乗り越えた。1体でも少なければ、違う未来だったと思う。死に物狂いで戦ったポケモン達は、体力こそ残っていても限界に近い。これ以上の戦闘は無理も同然だ。
「……グゥ、マァ」
だが、その未来を見るには早かった。リングマが、焦点の合わない目でふらりふらりと立ち上がる。
「畜生……!」
スミレは毒づいた。なぜこんなに世の中は己に要らない試練を課すのかと己の人生を恨んだ。スミレを庇うように、フシギバナとストライク、ネイティオが立つ。ゲンガーはスミレの体に纏わりつき、戦闘態勢に入る。だが誰もが限界、一撃でも喰らえば体力関係なく昏倒してしまうだろう。
「グマァ……ガァァァ!!!!」
リングマは、全身を震わせて吠えた。焦点の合わない瞳、ふらつく足。一斉攻撃のダメージが効いてない筈がないのに、それでも立つ。絶えぬ戦意に、辺りを恐怖が包み込む。
「ヘラクロス、【インファイト】!!オドシシは【にどげり】だ!!」
だが、だからこそ。側面からの奇襲に気付けない。ノーマルタイプにかくとうタイプは効果抜群だ。ヘラクロスの【インファイト】とオドシシの【にどげり】による強襲を受けたリングマは、その巨体を大きく揺らした。そしてそこに、飛びかかる人間の影。ショウガだ。
「南無阿弥……陀仏!!」
「パムゥ!」
ショウガの拳が消耗しきったリングマの体を殴り飛ばした。エイパムがスミレに駆け寄る。
「……ショウガ。ごめん、助かった」
「体力的には誤差だろう。だが、間に合ったなら良かった」
ショウガに手を差し伸べられ、スミレは迷わずその手を掴む。
「ありがとう。でも、まだ終わってない」
スミレの言葉に応えるように、リングマはその巨体を再び起き上がらせた。
「なんだと!?」
「フシギバナ含めた手持ち全員で体力削って、ネイティは進化して、ゲンガーの【どくどく】まで食らわせて。更にショウガの奇襲食らって、それでこれだよ。……ほんと、嫌になる」
疲れが滲んだ声のスミレに、ショウガは考えを巡らせた。
「ならばスミレ。【はなびらのまい】は可能か?」
「……あと1発なら出来るけど」
それを聞いたショウガは、ニヤリと笑う。
「私とオドシシ、ヘラクロスで僅かに時間を稼ぐ。その隙にスミレは【はなびらのまい】を準備してくれ、それで勝てるだろう」
「正気?私のフシギバナが味方がいる状態で仕留められなかった相手だよ」
ショウガの案に、スミレは疑問符を浮かべる。タイプ相性は悪くないが、スミレに比べてもレベルが足りていなさ過ぎるのである。スミレ未満であれば、リングマには到底及ばない。
「背後には守るべき仲間と人々の暮らしがある。ならば私は命を賭して戦うまでだ。…………私を信じずとも良い。だが私は、お前を信じている。行くぞッッ!!!!」
そう言ってショウガは駆け出した。それに追随するようにオドシシは走り出し、ヘラクロスは翅を動かし飛びかかる。
「オドシシ、【バリアーラッシュ】、ヘラクロスは【メガホーン】!」
オドシシがオーラを纏って突っ込んだ。腹に減り込む程の勢いで突っ込んだオドシシに、リングマは顔を歪める。しかし反撃しようとすれば、そこには第2陣のヘラクロスがツノを輝かせて突撃、よろめいた所にショウガは飛びかかり、首筋に蹴りを叩き込む。
「グゥアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
リングマが絶叫して腕を振るう。ただの攻撃ではなく両腕による【アームハンマー】だ。するとオドシシは拳をまともに叩き込まれて木に突っ込み戦闘不能、ショウガを庇ったヘラクロスもまた攻撃を受け、ショウガ諸共近くの草むらまで吹き飛んだ。ヘラクロス、戦闘不能。
「ぐぅ……!だが!」
しかしその少しの間に、スミレは準備を終えていた。【はなびらのまい】の副作用である混乱をしていたフシギバナを回復させ、もう一度【はなびらのまい】を発動する。
「グゥマァァァァ!!!!」
リングマは涎を垂らしながら、白目を剥きながらも突進する。
「千刃花」
スミレの呟きが、ショウガの耳にも届いた。瞬間、リングマの額、後頭部、顎、首筋、脛、鳩尾、など様々な急所を的確に花弁が撃ち抜いた。連続攻撃を全身に食らったリングマは大きくのけ反ると、今度こそその体力を空にして地に伏せた。戦闘不能であった。
◾️◾️◾️◾️
「パン!!」
「パムゥゥゥ!!」
交番で再会し、抱き合うナツとエイパム。それを見て、スミレは小さく笑った。
「…………変な巡り合わせもあるものだね」
「そうだな。偶然というにはあまりにも出来すぎだ」
疲れ切ったスミレは、ショウガの背におぶわられていた。背中からひょっこりと顔を出すスミレに、ミコトは心配そうに顔を歪める。
「スミレはんは大丈夫なんですの?」
「まぁ死ぬかと思ったけど大丈夫。……ミコトは大丈夫?」
「いえ、まぁ。今回もうちはなんの役にも立たへんかったので……」
力無く笑うミコトに、スミレは瞬きをする。
「この事態がなければもっと役に立ってたでしょ。ショウガからそっちのことは聞いたけど、少なくとも迷子探しの方法は間違ってないし。自信を無くすには、あまりに状況が特殊過ぎる」
「その通りだ。ミコトは自分の役割をしっかりと全うした。その役割が目立たなかっただけでな。……そう己を恥じるな」
「はい……すみません」
ショウガは暖かく声をかけてミコトの頭を撫でる。スミレとしては、今回のミコトの動きはよくやった方だと本当に思っていた。警察を動かして鼻と空からの捜索を行い、リングマ出没が発覚してからは実力不足を自覚して、無謀な飛び出しをせずに親子の護衛として待機していた。それを評価しないほどスミレも捻くれてはいない。
町には、多くの警察やポケモンレンジャーが集まっていた。リングマを捕獲した上でその出現の原因を究明する為だ。
「すみません、少し宜しいですか?」
スミレの元に声を掛けてきたのは、若い警察官だった。
「……申し訳ないですが背中からで良いです?」
「無論です、功労者の方にあまり無茶はさせられません。しかし、少し込み入った話になりますので背負われている方とのお2人には少し来て頂きたいのです」
「分かりました。……ミコト、貴女は待機ね」
「…………はい」
スミレの指示にミコトは唇を噛んで頷く。スミレがショウガに目配せすると、ショウガはスミレを背負ったまま警官に従い交番の外へ出る。
「すみません、トウゴウ長官!スミレ様、ショウガ様をお連れしました!!」
「ご苦労」
警官が話しかけたのは、場にそぐわない軍服姿の厳つい顔立ちの男だ。
「あの人は……?」
「トウゴウ長官……。カントー地方の元四天王にして現PSAT長官だ」
PSAT……Pokemon Special Assault Team。警察に所属する対テロの特殊部隊だ。被疑者検挙のため体術は勿論、ポケモンバトルもまた最低でもリーグ出場レベルという高い戦闘力を有している警察が誇る精鋭部隊だ。ミュウツーの事件の際には、ロケット団の主力部隊と激戦を繰り広げ、多くのメンバーを逮捕している。その長官であるトウゴウは、かつては四天王の4番手を務めていた強者だ。警察と兼任だったこともあり直ぐに辞めてしまった為、スミレはよく知らなかったのである。
「如何にも、私がトウゴウである。スミレ殿、そしてショウガ殿。此度はリングマの早期鎮圧、誠に感謝致します」
深々と頭を下げるトウゴウに、スミレは困ったように笑う。
「……いえ、不測の事態ですので。被害が出なくて何よりです」
「そう言って頂けるとありがたい。しかし上からは表彰したい、という動きが御座いますが如何なさいますか?」
威厳たっぷりな姿に見合わず腰の低いトウゴウに、スミレとショウガは困惑しながらも視線を交わす。
「いえ、旅を続ける方が先決なので遠慮させて下さい。あまりグダグダとし過ぎてはリーグ参加に間に合わなくなりますので」
「私は最後の最後だけです、表彰されるならスミレだけであるべきだ」
そう応えたスミレに、トウゴウは困った様子で笑う。
「確かにその通りです。ショウガ殿の場合は辞退も受け入れられましょう。ですがスミレ殿は難しいと言わざるを得ない。警察にも立場があり、そしてスミレ殿がトレーナーの腕を使い就職するのであれば、この経歴は高くつく。リーグ終了後で良いので、表彰をさせて頂きたい」
「終了後……?かなり時が経っているのでは」
疑念を浮かべるスミレに、トウゴウは笑う。
「問題ありません、リーグを理由に辞退したという理由まで付けて報道させればどちらの顔も立ちましょう。それともうひとつ」
「「?」」
2人は揃ってハテナを浮かべた。
「ここに来る際、上から許可をもぎ取ってきた。……お2人には欲しいわざマシンや道具を違法でない限りはプレゼントしましょう。せめて今は、これで功績に報いさせて頂きたい」
その言葉に、スミレの目があからさまに変わった。一方のショウガは、迷いの表情を浮かべる。
「むむむ……。そう言われると難しい」
「はははは、連絡先は差し上げますからゆっくり考えて良いのですよ」
トウゴウの言葉に胸を撫で下ろしたショウガに対して、スミレは直ぐに答えを出す。
「……今回のバトルで思ったんです。カントーの頃のようにオールエースによる各個撃破が難しい場合の、ジョウトパーティーによる戦略を。エースに繋げ、それまでに可能ならば格上を倒す、あるいは消耗させる。今回のリングマ戦で大きく鍵を握ったのは、ダメージの蓄積でした」
「成程、ダメージの蓄積を利用して格上に勝つと。貴女のパーティーはどうですか?」
「大将のフシギバナは良いとして、あとはイワーク、ホーホー、ネイティオです。イワークはハガネールに、ホーホーはヨルノズクに進化させるつもりです」
瞬間、トウゴウの目つきが変わった。
「成程。スミレ殿は、ハガネールを先鋒にするおつもりかな?」
「その通りです」
「そうかそうか。ではハガネールによる耐久と範囲制圧能力で場を整え、その継続ダメージと後続の高機動ポケモンによる高速戦闘で相手を削ると」
「はい。……なので私が欲しいのは」
「「【ステルスロック】」」
スミレの声とトウゴウの声が一致した。トウゴウは嬉しそうに笑うと、頷いた。
「宜しい、準備させてエンジュシティのポケモンセンターで渡させるとしましょう。……それではお2人はお疲れのようなのでここらで最後の話をして別れると致しましょう。リングマについてです」
最後、という部分でトウゴウの雰囲気が一気に変わる。辺りに広がる緊張感に、2人は思わず息を呑んだ。
「……何かあったんですか?」
スミレが恐る恐る尋ねた。
「捕獲を行う際、モンスターボールが反応しませんでした。そして体を確認した所、注射痕が見つかっています。あれは確実に、誰かが薬物を用いて凶暴化させた上で解き放った個体です」
その事実に、2人の顔色が一気に悪くなる。それは、悪意が迫る合図のようであった。
めっちゃ長くなったんですけど、わざわざ分けるのも面倒に思ったので……。
高評価、お気に入り登録等よろしくお願いします