ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
大量の誤字報告ありがとうございます……。誤字多過ぎて恥ずかしい
旅を続けるスミレ一行だが、とある事情で新たな町へと立ち寄っていた。というのもエンジュシティへ向かう道中で大雨に見舞われ、流石に野宿は難しいという判断になったのだ。
「……突然の雨。やだよ本当に」
トレーナー達の避難場所となったポケモンセンターで、支給されたバスタオルに包まりながらスミレがぼやいた。
「ここまで天気崩れるのも珍しいですなぁ……。雷もぎょうさん鳴っとりますし」
「これでは先に進むのも一苦労だ。今日はここで一泊することを提案するがどうだ?」
ミコトが大粒の雨が打ちつける外を眺めながらため息を吐き、ショウガは迸る雷光に頬を引き攣らせながら提案する。
「仕方ない。ショウガの提案に乗るよ私は」
「うちも賛成です。……このまま外出たら危ないですから」
ショウガの提案に対する2人の反応は賛成。今日はこのまま、ポケモンセンターに泊まることとなった。ショウガが一行を代表して部屋を取りに行っている間、スミレはセンターのパソコンに歩み寄った。
「どうかされたんですか?」
ミコトに尋ねられ、スミレは頷く。
「ああ。ちょっとストライクを預けて別のポケモンを連れてこようと思ってさ。まだシステムが不完全だからオーキド博士に色々やって貰わないといけないんだけど」
「へぇ、どんな子なんです?」
「ヤドランだよ。ミコトのヤドンの進化形。私も持っててね、良い機会だしミコトがヤドンをどう育てるかの参考に連れてこようかと」
「!良いんですか?」
「ま。強くなって貰わないと私も困るしね」
目を輝かせるミコトに、スミレは顔を逸らした。パソコンを起動し、ミコトに顔を逸らさせた上でパスワードを入力して自分のボックスに移動。オーキド研究所のアドレスを入力してメッセージを送信する。オーキド研究所は世界的な研究機関なので職員も多く、しかもこのメッセージは先方で通知を発するので流石に誰かが気付くだろう。
と、誰かが向こうから入力したのか画面が動いた。スミレはヤドランの入ったモンスターボールの登録コードを入力、専用の転送機にストライクが入ったモンスターボールを置くと、光と共にボールが何処かへと消え去った。
「消えた……!?」
どうやら、パソコンを使っている場面を見るのは初めてらしい。
「転送機を使ってカントーにあるオーキド研究所に送ったんだよ。ポケモンを6体以上ゲットするならいずれ使うから、やり方は覚えておいて」
「はいっ」
ミコトの視線を浴びながら操作をすると、転送機には1個のモンスターボールが置かれていた。間違いない、ヤドランのボールだ。
「よし、来た。……あとでセンターの屋内施設借りようか」
「お願いします」
そうやり取りをするスミレとミコトの元に、部屋の鍵を持ったショウガが戻ってきた。
「部屋は取れたぞ。2人部屋の鍵はスミレに預けておくが良いな?」
「了解。……それと、私とミコトは屋内施設借りてくるけどショウガは使う?」
「そうだな。……使わせて貰おう」
ショウガの返答を聞いたスミレはショウガから部屋の鍵を受け取るとジョーイの下へと向かう。
「いらっしゃいませ、何かご用でしょうか?」
「すみません。訓練場の使用をお願いしたいのですが」
「承知しました。お時間はどのくらいを予定されますか?」
「……2時間で」
「承知しました。ではこちらの書類に連絡先をご記入下さい」
トレーナーになれば書類の記入も慣れたもの。スミレはスムーズな手つきでペンを動かした。
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所変わって屋内訓練場の一角。今日は雨の影響で使用者が多いため、一面は使えず一部分のみの使用が許可された。貼られた防壁は外からの攻撃から守ってくれるがエスパーポケモンの技に依存しており視線は遮れない。なので少し離れた場所でオドシシ、ヘラクロスと三つ巴で戦うという人外じみたことをやっているショウガへの視線とスミレがリーグ経験者であるための注目の視線を浴びながら、スミレとミコトは向き合っていた。
「さて、まずヤドンの進化条件。言える?」
スミレが鋭い視線を向けて尋ねると、ミコトは肩を跳ねさせた。
「はい。ええとヤドンからヤドランへは通常のレベルアップによる進化、ヤドキングはおうじゃのしるしっていう道具を持たせて通信交換ですよね?」
ミコトの答えに、スミレは頷く。
「少し違うね。確かにおうじゃのしるしは必要だけど、最も重要なのはシェルダー。シェルダーが尻尾に噛み付くか、あるいは頭に噛み付くかで大きく違う。ヤドキングに進化させるならばおうじゃのしるしを頭に被せた状態でシェルダーに頭を噛ませ、更に通信交換による特殊な電波を照射することで進化を誘発する必要がある。中々に手間のかかる作業ではなくるかな。……そしてこれがヤドラン」
「ヤァン」
スミレはそう言ってボールを投げると、ヤドランが飛び出した。ヤドランはヤドンと比べてかなり大型だが、表情は相変わらずのほほんとしている。尻尾に顔と牙の付いた巻貝のようなものが噛み付いているのが大きな特徴である。
「……で、ヤドランとヤドキングの能力的に大きな違いは?」
スミレの更なる質問に、ミコトは緊張した様子で自分のポケモン図鑑を取り出した。ヤドランはやる気なさげに座り込むと、大きく欠伸をしている。
「メモ見てええですか?」
「うん、良いよ」
ミコトは図鑑に書かれたヤドランとヤドキングの能力を目を凝らして見る。
「ええと、種族としての総合的な能力値は同じです。しかしヤドランは物理防御に最も優れ、次いで強いのは特殊攻撃。一方のヤドキングは特殊防御に最も優れ、次いで強いのは同じく特殊攻撃です」
「そう。だから近接攻撃に強いのがヤドランで、遠距離攻撃に強いのがヤドキングって感じだね」
「へぇ、スミレはんはどういう基準で進化させたんですか?」
ミコトが首を傾げると、スミレは首を横に振った。
「そもそも私が進化させた時はヤドキングの進化方法分かってなかったし、なんなら図鑑に登録されてもなかったから決めてないよ」
「あー……そうでしたね」
「それに、私の場合は死に物狂いの特訓の時に進化したんだよね」
「えっ」
遠い目をしたスミレから放たれた物騒なワードに、ミコトはギョッとした。
「カントーリーグ直前にタマムシジムで泊まり込みの特訓をしてね。家に帰っても気まずいだけだからお願いしたしサファリゾーン組を戦えるようにしつつ主力を鍛えるって話だったんだけど、これがまぁ大変だったんだよ。……とまぁそんなことは良いとして。そうやって鍛えてる時にヤドンがムズムズしだして、エリカさんが進化を念頭に捕まえて置いてくれてたシェルダーと対面させたら尻尾に噛みついて進化して。それでヤドランになったの。それはそれとして、両者のステータスを見た上でどちらが良いとかある?」
「ありまへん」
「へぇ。それで?」
「ヤドンはん次第です。どっちに進化したいかはヤドンはんが決めることやとうちは思います」
「……進化したくない、と言ったら」
「進化せぇへん言うならそれでええです」
「甘いね」
「それがうちのやり方です。無理矢理進化させても、うちから心離れてもうたらバトルどころやあらへんので」
冷え切った表情で鋭い視線を向けるスミレに、ミコトは毅然として言い返す。すると、スミレは冷たかった表情を和らげた。
「……全く。進化するかは自分に決めさせるなんて、何処ぞの馬鹿を見てるようだよ」
「脅かさんで下さいよ。うち心臓止まるかと思いましたもん」
「ごめんごめん。……少し気に食わない答えではあったけど。まぁ貫き通せばミコトの勝ちだし、それで強くなったトレーナーを誰よりも知ってる立場だからね」
サトシでなくとも、カントーリーグでサトシに敗れたヒロシという少年だって未進化ポケモンを連れてリーグの決勝トーナメントまで進んでいた。ミコトにそんな知識はないが、未進化のまま強くなることが不可能でないとスミレは知っている。
「ヤドンはん」
ミコトはボールを投げた。光と共に現れたヤドンは、眠たげな瞼を重々しく持ち上げる。
「ヤァン?」
「ヤドンはん。進化するなら、このヤドキングとあちらのヤドランのどっちがええですか?勿論、進化したくないっちゅうのもありです」
ミコトがヤドンに目を合わせて話すと、ポケモン図鑑に映ったヤドキングの画像とスミレの側でだらけるヤドランに指を指す。するとヤドンは重々しく腕を持ち上げ、ヤドキングの画像を指差した。
「……決まりだね」
ヤドンの希望は、ヤドキング。図らずとも、スミレの個体とは別系統の進化を遂げることとなったのである。
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進化先が決まった。となれば必要なのは進化に使う道具であるおうじゃのしるし。とはいえ、今いる町のポケモンセンターではそれを取り扱っていなかった。田舎町は人が少なく売上が見込めないからである。
「……でもひとつ気になるんですけど」
「?」
ミコトがそういえば、と話を切り出した。
「ヤドランやヤドキングってなんであんな姿になるんですか?シェルダーがなんで噛み付くのかも分からへんし、噛みついたシェルダーはなんであんな姿になるんやろと思いません?」
「うーん……私にもはっきりとは答えられないかな」
スミレとて思わなかった訳ではない。オーキド研究所の資料で探してみたものの、明確な答えが出ている訳ではない。少なくとも、スミレが読み切れず理解できないほどに多言語の論文や調査資料が出てきて頭を抱えた記憶がある。サトシとヒマワリは数秒で眠り、シゲルは凄い形相で資料に齧り付いて読んでいた。
「誰か研究とかしとるんでしょうか?」
「まぁ一応やってる人は沢山いるよ……。謎すぎるからね、あとは遺伝子情報からシェルダーであると特定したオーキド博士による先行研究もあるから取っ掛かりもあるし。最近、ニシノモリ博士がシェルダーの形状変化はヤドンの進化と同時であることが偶然ではなく必然的なデータとして発表されてたし。どうしてそうなったかは色んな説が出てるみたいだけど」
「へぇ。どういうのあるんです?」
「まぁ有力なのはナナカマド博士が出した説だね。シェルダーの遺伝子が尻尾を通じて注入されるか頭から注入されるかで遺伝子が強く作用してヤドンの細胞が強く変化する部分が違う。一方のシェルダーも噛み付くことによってヤドンの遺伝子を取り込み、またヤドンの体を介して栄養を摂り生命を維持するようになるからエネルギーの消費効率を従来のものと変えなければならない。その結果、姿を変化させる特有の進化を身に付けたって説」
そう言ったところで、外に出ていたショウガが戻ってくる。
「成程。だがそうなると、おうじゃのしるしはどういう意味があるのだろうな?頭に噛み付くだけで進化はしないのか」
「分からない。ただ野生のヤドキングは群れのリーダーを担う特殊個体なんだよ。だからヤドランと比較して発見が遅れたんだけど、そもそも野生におうじゃのしるしやそれに対応するものがあるのかもしれない。例えばだけど、ヤドキングはあんな顔してもかなり知能は高いから生息地に暮らす人間と何らかの取引を行って、おうじゃのしるしの原型ともいえる進化用アイテムを製造させていたとか?」
「ヤドン、シェルダー、そして人間の共生か」
「うん。だからヤドンのヤドキングへの進化は、ポケモンだけを見ていては分からないんじゃないか……ってシゲルが言ってたな」
「となると民俗学的な要素が強いな」
「民俗学……というと?」
ミコトが首を傾げた。
「ざっくり言うと、人類の文化や生活について学ぶ学問だよ。生活の道具から地域の祭りや伝承まで色々と。つまり?」
「おうじゃのしるしに対応する道具を製作する文化が、ヤドキングが率いる群れの生息地周辺に根付いている可能性があるって理解でええですか?」
「そういうこと」
「学者達の反応はどうなのだろうか?」
「……うーん。その辺の議論はまだ学会に上がってない筈。進化を専門とするナナカマド博士は別件で忙しいから、その弟子達が意見を纏めているらしいけど。あとシゲルが言ってたのは、進化する個体に特徴はあるのかって。例えば群れのボスみたいな特殊な立ち位置のポケモンや何らかの特殊な餌を食べた個体が選ばれるみたいな?まぁ少なくとも、いろんな方向性で議論の余地があって面白いみたいだよ」
「成程……。そう考えるとポケモンの研究者達が研究に人生を懸けるのも分かりますね」
「ね。ヤドランはどう思う?ヤドキングへの進化」
スミレがボールの中に居るヤドランに語りかけると、ヤドランはボールから飛び出した。
「ヤァン」
ヤドランは相変わらず何も考えていなさそうな顔で、しかしスミレの顔をジッと見つめた。
「……違うよ。別にヤドランに進化したことをどうとかは思っちゃいないから」
「ふふふ。ヤドランはん、ヤドキングにヤキモチ妬いとるんちゃいます?」
ため息を吐いて弁解するスミレに、ミコトが笑う。それを見たショウガも嬉しそうに笑うと、意識を背中の荷物に入れたポケモンのタマゴに意識を移す。
ポケモンは進化する。しかしその条件が全て分かった訳ではなく、今も新たな進化形の存在が指摘されている。ポケモンはこの世界の人間にとって最も身近ではあり、最も謎に包まれた存在なのかもしれないとショウガは思った。