ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
浮島に乗り、唸るフシギソウとそれを鋭い眼光で睨みつけるギャラドス。サイズはかなり違うが、それでもフシギソウは怯まない。彼の後ろに立つ相棒は、無表情ながらもその顔色は良くないし、手足も微かに震えている。特別、スミレがギャラドスに対して苦手意識やトラウマを持っている訳ではない。本や資料でしか見たことがなく、幼い頃から『危ないから無闇に近づくな』と聞かされ、脅された存在が目の前にいて、スミレを威嚇しているのが現状だ。スミレとてまだ10歳の女の子、普通に恐怖は感じるのだ。だから自分が守るのだと、自分がアレを倒すのだとフシギソウは胸に誓う。
「フシッ!」
フシギソウは一言『信じろ』とスミレに笑いかけて頷くと、それを見たスミレは頬を叩き気合いを入れ直す。
「いい関係だな。互いの信頼はかなりできてるらしい・・・。だが、だからと言って勝ちを譲るつもりはねぇぞ!ギャラドス、【かみくだく】!!!!」
「ギャラァァァァァァァァァ!!!!!!」
咆哮を轟かせ、ギャラドスはその大きな口と鋭い牙でフシギソウを噛み砕かんと迫る。
「フシギソウ、顔に【はっぱカッター】。プランBで。」
毒の粉を纏った【はっぱカッター】がギャラドスの顔面に激突し、ギャラドスはのけぞって悶絶する。
「追撃行くよ、【つるのムチ】。」
「フシャァァァ!!」
フシギソウが伸ばした蔓がギャラドスの胴体を打ち、ギャラドスは水面に叩きつけられるように倒れ込む。
「負けるなギャラドス、潜水しろ!」
カジキの指示で、ギャラドスはプールを縦横無尽に泳ぎ回る。
「ギャラドス、【たきのぼり】!!!!」
「ギャラァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
力強く水中を飛び出したギャラドスが、浮島ごとフシギソウを跳ね飛ばす。
「追撃だ、【たつまき】!!!!」
ギャラドスがより大きな咆哮を轟かせ、巨大な竜巻を起こしてフシギソウに向かわせる。
「遠くの浮島に巻きつけて、【つるのムチ】。」
フシギソウは空中で体勢を整えると、竜巻の進行上に重ならない位置の浮島に蔓を巻き付けると、一気に縮めて浮島に乗り、避難する。
「よぉし、よく避けた!だがッもう一丁、【たつまき】!!」
「ギャラァァァァァァ!!」
竜巻が再び起こされ、フシギソウに迫る。フシギソウは再び蔓を伸ばすと、別の浮島に移り難を逃れた。
「【つるのムチ】、ギャラドスに飛び乗って。」
フシギソウは素早く蔓をギャラドスの首に巻きつけると接近し、胴体に体当たりを決めると蔓を巻き直し、首筋に飛び乗る。
「連続で【はっぱカッター】。」
ギャラドスの首筋に、草の刃が連続で叩き込まれる。ギャラドスは唸り、暴れるが蔓で巻き付いているため中々離れない。
「潜れ、ギャラドス!」
「フシギソウ、離脱。」
ギャラドスは水中に離脱し、フシギソウは浮島に戻る。
「ほう・・・・。」
カジキはただ感嘆の声をあげる。その表情は先ほどまでとは打って変わり真剣で、まるで獲物を狙う狩人のようであった。
「・・・やはり、強い。」
一方のスミレは、カジキとギャラドスの強さに改めて感嘆し、畏れを抱いていた。竜巻を起こしたり、強靭な牙で噛みついてくる上に、そんな暴力性の塊が水のフィールドを利用して水中から奇襲をかけてくるのだ。そんなもの、スミレにとっては脅威としか言いようがない。そしてそれを完璧に制御し、操るカジキのトレーナーの腕もまた、凄まじいものがある。油断すれば負けるし、油断しなくても負けかねない。一瞬たりとも気の抜けない強敵だ。
「ギャラドス、【たきのぼり】。」
「避け・・・ッ!?」
スミレはギャラドスが真下から奇襲する事を予測し、回避を指示するがギャラドスは既に回避した先に移動していた。浮島の位置から回避地点を先読みし、先回りしたのだ。
「まずい・・・、フシギソウ、回避!」
スミレは焦りつつも回避を指示するが僅かに間に合わない。ギャラドスがフシギソウを空中に跳ね飛ばし、一度潜るとその尻尾でフシギソウを水面に叩きつけた。
「フシギソウッ・・・・!」
スミレが悲痛な声をあげる。フシギソウは蔓を伸ばし、浮島になんとかしがみつくがダメージは大きく、立ち上がれない。
「強かったぜ、だがここまでだ!【かみくだく】!!」
満身創痍のフシギソウに、ギャラドスの巨体が容赦なく襲いかかった。
⬛️⬛️⬛️⬛️
情けない。フシギソウの心中は、その思いでいっぱいだった。ヒマワリとの関係やユンゲラーとの向き合い方などの相談事を、スミレは自分にだけは話してくれた。一方的な愚痴のようではあったが、自分にだけは弱音を吐いてくれた。なのに、何も出来ずスミレは不満を爆発させ、結果としてスミレとヒマワリは激突、2人の別れへと繋がってしまった。ポケモンと人間の種族の壁と言葉の壁が大きいことは事実だ。しかし、言葉が通じないなりに意思を伝えようと必死に話しかけたにも拘わらず、彼女に意思を届けることができなかった。彼女を救うことが出来なかった。彼女の暴発を食い止めることが出来なかった。そして今、ジム戦の最後の詰めの役割を任されながらも無様に負けようとしている。進化するには経験値がまだまだ足りないし、新たな技を獲得する前兆もない。奇跡や偶然に縋ることはできないのだ。だが、それを言い訳になどできるものか。公式戦とは即ち負けられない戦いだ。唯一無二の相棒として信頼されながら、それに応えられない自分ではいたくない。後悔は何度したって足りないけれど、今は力を振り絞れ。愛すべき友に勝利を捧げる、それこそが彼女の相棒としてのせめてもの意地なのだ。
フシギソウは気力で立ち上がり、浮島に登って迫るギャラドスを睨みつける。視界は霞むがまだ見える。足は震えるがまだ立てる。力は振り絞ればまだ残っている。まだ、勝機はあった。間近に迫るギャラドスの牙、フシギソウは"その指示"が来る事を信じて準備する。
「顎を撃ち抜いて、【つるのムチ】。」
凛とした、いつもの凪いだ声音での指示がフシギソウの耳を打つ。信じた通りの指示だった。世界がスローモーションで流れ、全てが遅く感じられる。最後の力を振り絞って蔓を出し、編み込んで1本の太い蔓へと変貌させる。
「フシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
力強い咆哮と共に、ギャラドスの顎をカチ上げた。顎を撃たれた衝撃は脳を揺らし、ギャラドスは白目を剥く。
「追撃、【はっぱカッター】。」
気絶しかけたギャラドスに追い討ちが決まり、僅かに残った体力を削り切る。ギャラドスは仰向けに崩れ落ち、水面に死んだように浮かび上がる。
水面に浮かび気絶するギャラドスを見て、審判は判定を下す。
「ギャラドス、戦闘不能!!フシギソウの勝ち!!!!よって勝者、チャレンジャー、スミレ!!!!」
その声にカジキは天を仰ぎ、スミレは片膝をつく。
「負けちまったな・・・。だが、いいバトルだったぜ、ギャラドス。」
カジキは目を覚まして落ち込むギャラドスに優しく声を掛け、ボールに戻す。
「ありがとう・・・フシギソウ、さすがの仕事振りだった。」
スミレは、疲れきった、だが晴れやかさを隠した表情でフシギソウを労い、ボールに戻す。
「ふぅ・・・。いや、大したもんだ。あのマチスに勝つだけのことはある。正直決まったと思ったが、あんなに綺麗に逆転されるとは思わんかった。」
カジキは悔しさを滲ませながらも笑顔でそう言う。
「私も負けたと思いました。でも、フシギソウは最後の最後に立ってくれました。」
「ガッハッハ!!そりゃあいい相棒だ!バタフリーもラプラスも強かった!!文句なしの合格だ!!!!」
豪快に笑いながら、彼はバッジを取り出した。フィッシュバッジ、魚を模した形のバッジだ。
「それからこれだな。」
カジキが続いて取り出したのはわざマシン。中身は【みずのはどう】だ。
「お前さんのラプラスにでも、覚えさせるといい。きっと役に立つ筈だ。」
「ありがとうございます。」
スミレは礼を言って受け取る。正直、【みずのはどう】はそこそこ有難い。確率で相手を混乱させる事が出来る上に威力、連射性能共に【みずでっぽう】を上回る。攻撃手段の少ない現在、ラプラスに覚えさせられて良い効果を得られる攻撃技のわざマシンは欲しかったのである。
バッジとわざマシンを得て、スミレは港に戻る。疲労はかなり蓄積しており、ポケモンも傷ついている。直ぐに出発するのは無謀だ。ポケモンを休ませ、自分も休んだら町を出よう。そう決意してスミレは船上から空を見上げる。無愛想なスミレの内心は、空に広がる雲ひとつない青空のように、澄み切っていた。
フシギソウはフシギソウで、責任を感じてました。
フシギソウはもはや兄貴。
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