ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
「サントアンヌ号でのパーティー、ですか?」
スミレはクチバシティのポケモンセンターで再会したカジキからその話を聞いた。豪華客船、サントアンヌ号で行われるパーティーに、カジキがなんと招待されたらしいのだ。
「ああ・・・、だがオレの性に合わない上に予定も合わなくてな。どうせなら、誰かに押しつ・・・譲ろうと思ってセンターまで出張ってきたら、丁度お前さんを見つけてな。」
カジキは頬を掻きながら言う。要するに面倒ごとらしい。
「お断りします・・・私にも金持ちの道楽は性に合わないですし、面倒事の予感しかしません。」
スミレはスッパリと断るが、次に放たれた言葉に硬直する。
「パーティーではバトルし放題、しかもカントー各地だけじゃなく、他地方からも金持ちがやって来るぞ?中にはバトルで大金を稼いだ腕利きのトレーナーもいるかもな。」
正直、魅力的だ。他地方からのトレーナーなら、他地方のポケモンと戦えるに違いない。そしてその経験は、きっと手持ちポケモン達を成長させる糧となる。ユンゲラーの臆病を治す手立ても見つかるかもしれない。
「ふむ・・・。」
スミレとしては悩みどころだ。カジキ曰く、そこまで畏まった催しではないためドレスコードも必要なく、食事もあるため食費の節約にもなる。おまけに回復装置も完備してあるためバトルはし放題。金持ちの遊びなど全く惹かれないが、メリットは大きい。
「分かりました・・・行きます。」
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今日も今日とて向かった港では、サントアンヌ号の停泊に合わせて、多くの人々で賑わっていた。屋台が立ち並び、道具やら食事やらが売られている。スミレは周囲を見回すと、とある屋台に見覚えのある顔を見つけた。ロケット団のコジロウだ。見るからに怪しい屋台に引っかかっているようだ。屋台で売られているのは金色の卵を産むというコイキング。ぶっちゃけ有り得ない。コジロウには恩があるので、助け船を出してやろうと考えた。
「何してるんですか?」
屋台で口車に乗せられかけるコジロウに、声を掛ける。
「お?おお!見ろよこれ、金の卵を産むコイキングだってよ!!」
コジロウはスミレに気がつくと興奮気味にそう言う。
「・・・いや、明らかに詐欺ですよ。色違いの個体だって金の卵を産まないのに、なんで通常個体がそんな卵を産むんですか・・・?居たら研究所に直行です。」
「むむむ・・・」
屋台の親父が唸る。
「何が『むむむ・・・』だ!騙したな!!」
コジロウが激昂する。
「はぁ・・・、さっさと出ていって下さいよ。詐欺は犯罪ですから。」
スミレはため息を吐きつつ、そう言い残すと船に乗るために屋台に背を向ける。
「その・・・ありがとな。」
コジロウがボソボソと礼を言う。一応悪党であるはずの自分を助ける理由が分からない、と言った困惑を感じ取れる。
「いえ、あなた方には恩がありますので・・・。では、後ほど。」
スミレはそう返す。きっとサントアンヌ号で何かある。そしてサトシが恐らく巻き込まれる。サトシのピカチュウを狙うロケット団がこの場にいるとはそういう事だ。
「はぁ・・・面倒な・・・・。」
そう言いつつも、スミレはチケットを係員に見せ、サントアンヌ号に乗り込んだ。
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「オンバーン!【ばくおんぱ】!!」
「ラプラス、【うたう】をぶつけて音波を乱して。それから【こおりのつぶて】。」
「ラァァァァァァァ!!」
「グッ・・・、オンバーン!?」
「オンバーン、戦闘不能!ラプラスの勝ち!!よって勝者、マサラタウンのスミレ!!」
「・・・どうも。」
審判役のウエイターの宣告が下り、ギャラリーが湧く。スミレはギャラリーの歓声に礼で答えつつ、バトルを終えた相手と握手をした。
「強いトレーナーだ、楽しかったよ。」
「いい経験になりました、ありがとうございました。」
相手はカロス地方にある会社の跡継ぎ候補の青年で、バトルの腕はそれなりだったが、オンバーンというカロス地方のドラゴンポケモンを見れたのは大変良かった。
船に乗り、スミレは程よくご馳走にありつきつつも1対1のバトルに興じていた。1戦目はカントーの有名チェーン店の会長で出してきたのはピジョット。バタフリーは激しい空中戦の末、負けてしまったがレベル差のある相手をギリギリまで追い詰めた事で、賞賛を浴びた。2戦目はグレンタウンにある老舗旅館の女将で出して来たのがガルーラ。フシギソウが追い詰められる事態になったが、ギリギリで逆転勝利した。3戦目が先程のオンバーン使いのトレーナーで、ラプラスで勝利した。3戦共戦ったことのないポケモンで、誰も彼もが強敵揃いだった。指定の席に座り、ドリンクを飲んで一息つく。スミレは人混みが苦手なので、バトルをしていないとソワソワして仕方がない。
「・・・失礼、お嬢さん。バトルを1つ、お願いできますかな?」
老紳士に声を掛けられた。
「私ですか・・・?構いませんが、貴方程の方がどうして私なんかと?」
スミレは困惑しつつ了承する。この老紳士、カントーでも有名な商会の会長でありながらも、カントーリーグ上位常連で決勝も経験している猛者だ。そのような猛者が新米トレーナーになぜバトルを挑もうというのか。
「おお、私をご存知でしたか・・・。改めて自己紹介をさせていただきましょう。私の名はスズキ。称号はジェントルマンを頂いております。貴方のバトルに可能性を感じ、先達として壁になれれば、と思っております。差し支えなければ1戦、お願いしても宜しいでしょうか?」
「・・・分かりました、お願いします。」
多くのギャラリーが見守る中、2人が向かい合う。言わずと知れた強者と、才能のある新人。周囲では、賭け事のような事まで始まっていた。
「使用ポケモンは1体!それでは、はじめ!!」
「行くよ、フシギソウ。」
「頼みましたぞ、ニドリーノ。」
スミレは相棒を繰り出すが、スズキは力をセーブしニドリーノを出す。リーグ戦の手持ちではレベル差があり過ぎるため、育成中だったニドリーノを採用したのだ。油断ではない、これは純粋な実力差なのだ。それでも、負けるつもりは毛頭ない。
「フシギソウ、【はっぱカッター】。プランA。」
高速で射出された草の刃がニドリーノに着弾する。
「やりますな。ですが、負けません。ニドリーノ、【つつく】です。」
今度はニドリーノの攻撃がフシギソウを襲い、ダメージを与える。
「フシギソウ、【つるのムチ】で薙ぎ払って。」
「跳びなさい、ニドリーノ。」
ニドリーノはその場で跳躍し、縄跳びの要領で蔓による薙ぎ払いを回避する。
「・・・強い。」
スミレはただ一言呟く。目の前の紳士は、知ってはいたが凄まじい実力者だ。そしてニドリーノもよく育てられている。
「なるほど、拝見した通りの実力ですな、非常に惜しい。」
「惜しい?」
「ええ、貴方はまだ殻を破れていない様子。今のままでも経験を積めばいずれはリーグ優勝程度にはなるでしょうが、それ以上は難しい。チャンピオンに勝つ程度の力を得るにはまだ足りないものがあります。」
「・・・なんですか?」
「それは・・・いや、それはまだ先の事としましょう。まだまだ私も修行の身、偉そうに言える立場ではございません。ですので、今はニドリーノと共に勝利を掴みましょう。・・・Shall we dance?」
スズキは丁寧に、されど不敵な笑みを浮かべた。
「・・・行くよ、今はただ勝つ。」
「フシッ!」
「ニドリーノ!【つつく】!!」
「迎え撃って、【はっぱカッター】。」
フシギソウの放つ【はっぱカッター】を掻い潜りながら、ニドリーノは駆ける。スミレは、フシギソウの攻撃が上手く当たらない事に焦りを覚える。
「今です。【にどげり】!」
「ニドォォ!!」
「フシッ!?」
ニドリーノの【にどげり】が綺麗に決まり、フシギソウは転がされる。
「反撃、お願い。【つるのムチ】。」
フシギソウの蔓が唸る。ニドリーノは器用に避けるが、体を一撃が掠めた所を狙ってクリーンヒットを決め、弾き飛ばす。
「負けませんよ!【れいとうビーム】!!」
冷気を放つビームがフシギソウに直撃した。効果はバツグンだ。
「フシギソウッ・・・。」
やられた。相手がわざマシンで技を覚えさせている可能性が頭から抜けていた。
「フシギソウ、戦闘不能!ニドリーノの勝ち!!よって勝者、トキワシティのスズキ!!!!」
ウエイターの宣告が下り、スミレの敗北が決まる。
「ごめん、フシギソウ・・・。」
「いいバトルでしたぞ、ニドリーノ。」
2人はボールを戻すと、近寄って握手をする。バトルの後は勝ち負けに限らず相手を称えるのはトレーナーの礼儀だ。スミレは手に滲んだ汗をハンカチで拭き取り、スズキの手を握る。
「惜しい・・・などと申しましたが、貴方は既に強いトレーナーです。このままジム戦などを経験していけば、余程のことがない限りはカントーリーグに出場できるだけの実力にはなれるでしょう。ポケモンマスターを目指す、チャンピオンになる、などの夢がない限りは私の言うことを真に受けなくても特に問題はございません。ですが、今後バトルに生きてゆくならば、頭の片隅に入れておいて下さい。そしていつか自身に足りないものを見つけた時に、『ああ、あのジジイがあんな事を言ってたな』くらいに思い出してくだされば結構です。貴方の成長を、祈っておりますよ。」
「ありがとうございます。・・・私には、何が足りていないのかがまだ分かりません。欠陥だらけの人間なので、もしかしたら気づく事が出来ないまま折れてしまうのかも知れません。ですがただ1つ言えるのは、私の隣にはいつもポケモン達がいる、と言う事です。だから、焦らずに探してみます。自分の足りないものを。・・・いつか貴方の本気と戦えることを、楽しみにしています。」
「ええ、いい心掛けです。・・・大変良いバトルでした、ではまた。」
そう言って、ジェントルマンのスズキは人混みの中に姿を消した。彼の姿はまさしく、ジェントルマンの名に相応しいものであった。そしてこの戦いの為、スミレはある事が頭から抜けてしまっていた。
そう、ロケット団の存在についてであった。海の上、スミレや多くのトレーナー達。そしてスミレとは遭遇していないサトシ一行も巻き込んで、ロケット団の大きな悪意が動き出す。
ジェントルマンのスズキ。彼はまた出てきそうですねー(棒)。
まぁ彼がどういう役割か、察しのいい方なら分かると思います。
3泊4日で家族旅行に行くので、更新頻度が下がりますが、エタった訳ではありませんので気長にお待ちくださると嬉しいです。