ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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 さ、シリアスの時間ですよ。


第27話 ヤマブキシティの不穏な事件

 ヤマブキシティに入ってまずした事は、ポケモン達の回復だ。深夜に特訓でもしたのか、ボロボロになったポケモン達を預ける。朝早くに来た為か、スミレ以外の客はいない。フレンドリィショップも開店前だ。

「お預かりになったポケモンは、みんな元気になりましたよ。」

少し待っていると、ジョーイから呼び出されて預けたポケモン達を受け取る。

「ありがとうございました…。」

そう言ってポケモンセンターを出ようとすると、ジョーイから呼び止められる。

「ああ、言い忘れていたわ!あなた、胸にRの文字がプリントされた服の集団を見かけても近づいちゃダメよ。ここ暫く、かなり目撃情報はあるけど、ポケモンを奪われるって話も聞くわ。気をつけてね。」

そう言われて、1つ心当たりを思い浮かべる。ロケット団だ。しかし集団、となるとムサシとコジロウだとは考え辛い。喋るニャースなんてインパクトの塊が普通に同行しているので、彼らを目撃すればまず、喋るニャースというワードが出てくるはずであるからだ。

「分かりました、気をつけます。…情報、ありがとうございました。」

スミレは考察を止めると軽く頭を下げ、礼を言う。

「いいのよ…。よい旅を。」

そんなジョーイに見送られてポケモンセンターを出ようとした矢先、意外な人物がポケモンセンターに入ってきた。

 マントを翻して堂々と歩く赤髪の男。彼の名はワタル。カントー地方の四天王兼チャンピオン、そしてカントーの直ぐ隣に位置するジョウト地方のチャンピオンを兼任する男。また、ポケモン犯罪を取り締まるポケモンGメンの捜査官でもあるのだ。どれだけ働くのだろうかこの男は?

「失礼、少しいいかな?」

ワタルがあくまで穏やかに、しかし少しだけ緊張した様子でスミレに話しかける。

 

「…カントーチャンピオンのワタルさん、ですよね?ロケット団関係ですか?」

スミレの返答に目を丸くすると、真剣な目つきになった。

「まさかロケット団を知っているとは…。詳しく話を、聞かせてもらっても良いかい?」

「構いません。」

スミレは二つ返事で了承する。彼は人に向けて手加減しているとは言え【はかいこうせん】をぶっ放す事で有名な男で、カントー地方がバトルに積極的すぎて、他地方から『修羅が裸足で逃げ出す地獄』だとか『集まれ蛮族の森』などと評される原因の1つだと言われている。そんな男だが悪行に手を染めなければ頼もしいチャンピオン、ロケット団が多数潜んでいるなら、彼の力で殲滅も可能かもしれない。逆に彼程の男が出張るほどの事態である、とスミレの気を引き締めさせるには十分だった。

 

⬛️⬛️⬛️⬛️

 

「なるほど…、トキワシティポケモンセンター、サントアンヌ号。どちらの事件にも関わっていたとは。随分と災難だったな。」

ワタルが気の毒そうに言う。それもそのはず、ポケモンセンターは爆発オチで全壊、サントアンヌ号は沈没とどちらも死人こそ出なかったが、嫌に被害が大きい事件だった。スミレとしても笑い飛ばせるようなものではない。

「…そうですね。もう経験したくはないです。」

スミレとしてはそう返すのが精一杯である。

「ハハハッ!それはそうだ。……さて、君を信頼して事を話そうと思う、協力してくれるかい?」

ワタルは少し笑うと、真剣な顔に戻し、スミレを真っ直ぐ見つめる。

「…バッジはまだ4個ですが。」

「十分。それにもしもの時のために俺も本気のパーティーを連れてきているし、もう1人協力者かいる。」

返ってくるのは頼もしい言葉。戦力に困る事は無さそうである。

「可能な範囲なら。」

スミレは頷いた。

 ワタルの協力者だという、トレンチコートの男がやって来たのはその数分後だった。彼の名はハンサム、国際警察の刑事でバトルの腕も立つらしい。スミレとハンサムは互いに握手し、自己紹介をし合うと直ぐに本題に入る。

「実は最近、この辺りでポケモン強奪事件とそのトレーナーへの暴行事件が多発しているんだ。証言によると犯人は胸元にRの字が描かれた黒服の人物、どうやら集団でいるようだ。ポケモンを奪われたのは既に15人を超え、この町に住む80歳の女性が1人亡くなっている。」

ハンサムの言葉に、ヒュッと、変な声が出た。ロケット団の犯罪により人が亡くなった、という事実はスミレには重かった。

「し…死因は?」

「ポケモンを奪うために強く突き飛ばしたんだろうな。頭を強く打ったそうだ。他の被害者も、何度も殴られたりポケモンの技を受けて重傷を負ったりしている。…到底、許せる事ではない。」

ハンサムは怒りを滲ませた声で言い、スミレは視線を落とす。

「奴らは今どこに?」

「目撃情報では、シルフカンパニーという企業の近くが多い。また、奴らを見かけるようになってからシルフカンパニーは謎の立ち入り禁止となっている。俺の推測が正しければ、奴らの根城はシルフカンパニーそのもの、シルフカンパニーは奴らによって占拠されている。……だが、俺が行けば目立つ。だから君に偵察をお願いしたいんだ。もしそこが本拠地だと確認すれば俺に連絡してくれ。…………………俺が直ぐに行って、我が全力を持って叩き潰す。」

竜の如き覇気をたぎらせ、ワタルは宣言する。『奴らは1人たりとも、逃しはしない』と。

「私も当然参戦する、逮捕しなくてはならんしな。君にももしかしたら、下っ端と戦ってもらうかもしれない。準備を頼めるかい?」

 

「…分かりました。」

スミレはまたもやの面倒ごとに小さくため息をつくと、カタカタとやる気に満ち溢れたように動くボールを軽く撫でて立ち上がる。

 

 

 「ごめんください!!!!」

動き出そうとした矢先に響いた大声に、ポケモンセンターが震えた。

擦り傷を負い、泣きじゃくる子供とその父親らしき人物。そしてその父親が背負っていたのは

 

 

 

傷だらけ、アザまみれで気を失う、ヒマワリだった。

 

 

⬛️⬛️⬛️⬛️

 

 「まさかこのタイミングで被害者が出るとは……しかもスミレ君の知り合い、か。大丈夫かい?」

「………………………………………。」

ハンサムの問いに、スミレは何も言えない。少年からの証言で、ヒマワリは少年とその父親が奪われたポケモンを取り返そうと戦いを挑み、何人もの下っ端を倒した後に負けたらしい。リザードも、ピジョンも、ピッピも、そして『ハナ』と名付けたらしい新顔のナゾノクサも、皆ロケット団に奪われ、その上でヒマワリ自身も攻撃を受けた。父親が通報した為に、性的暴行を受けなかったのは不幸中の幸いであった。

 

 ベッドに眠るヒマワリを見るスミレの心中は、ぐちゃぐちゃだった。スミレ自身、ヒマワリの事は友人などと思ってないし、彼女には不満やコンプレックスからなる、憎しみすらも抱いていた。大切な存在ではない、スミレは少なくともそう思っているはずなのだ。それでも、あの無惨な姿を見てから、スミレの胸中をクチバシティでヒマワリに向けたような、ドス黒い感情が駆け巡って仕方がない。理性すらも焼き尽くすような激情が、正常な判断を鈍らせる。

 「抑えろ、スミレ。」

ワタルの冷えた声が、スミレの頭を急速に冷やす。

「………すみません。」

「いや、いい。だが、君の仕事がが増えるかもしれない。」

「何ですか?」

「本格的に、参戦するか?」

スミレの激情を読み取ったワタルの提案に、スミレは一瞬固まるが、直ぐに答える。

「望むところです…。」

頭は冷えた。ポケモン達の体調と体力は万全。回復道具も余裕はある。

突撃メンバーはワタル、ハンサム、スミレの3人。作戦はまずスミレが突撃し、ラプラスの【うたう】で敵に奇襲をかける。そしてその後はワタルの戦場だ。ロケット団の相手をワタルに任せ、ハンサムとスミレは奪われたポケモンを探しに向かう。

3人はベッド脇を立ち、病室を出ようとする。

 

 

「ぅあ……」

 

その時、僅かにヒマワリが声を発した。

 

「ヒマが…助けなきゃ………。ヒマの…ポケモン………、だいじな、とも……だち………。」

泣きじゃくりながらベッドから立とうともがくヒマワリ。その姿のあまりの痛々しさに、ワタルとハンサムは悲しげな顔をした。

 

「…ヒマワリ。」

 

「ぇ……?」

スミレに気がついたヒマワリが、驚きに目を丸くする。

 

「…人のポケモン守ろうとして自滅なんて、ざまぁないね。」

スミレはそう言う。

「ごめん………ごめん…………ヒマ、なにも、できなかった………。」

ヒマワリは懺悔しながら泣きじゃくる。

「泣いたって貴方のポケモン達は戻ってこない。怪我を治したって今の貴方じゃ勝てやしない。」

 

「それでも……ヒマの…だいじな、なかまだもん………、どれだけじかんがかかっても……かならず…………。」

 

「まぁ、そうなるよね。…でもま、心配しなくても貴方のポケモンは今日中には戻ってくるよ。」

 

「………へ?」

ヒマワリが弱々しい声で、しかしいつものような間抜けな声を出す。

「カントーチャンピオンのワタルさん、国際警察のハンサムさん、そして私の3人でこれから奴らが潜んでいると思われるシルフカンパニーへの討ち入りを決行する。奴らを叩き潰して、盗まれたポケモンを取り返す。」

「あぶないよ……スミちゃん。やめてよ………。」

 

「その姿で私を止められるとでも?…安心して、戦闘の大半はワタルさんに任せるから。」

「でも…………。」

 

 

「貴方はいつものように黙って呑気に寝ていなさい。………ああ、そうだ。貴方をそうした奴、なんて奴だった?」

 

「わかんない……でも、ヒマが負けた人は……ランス?って言ってた………。ヒマを殴ったの、その人の周りの女の人たち………。」

 

「そう。」

 

そう返すと、立ち上がりドアのそばに立つ2人にアイコンタクトをする。

 

「じゃあ、行ってくるから貴方は寝てなさい。ポケモン取り返しても、主人の貴方がそのザマじゃあ心配されるでしょ。」

「……………………………………うん。」

 

「行くぞ。」

「「応/はい。」」

ワタルの言葉にそう返し、3人は病室を出る。

 

「………………………ありがとう、スミちゃん………。」

その言葉を背に、向かうはシルフカンパニー。

 

 

戦争の時間だ。

 




 久し振りの登場なのに扱いの悪いヒマワリさん………。マジ不憫。ヒマワリの事は嫌いじゃないんですけどね。スミレからヒマワリへ向ける複雑な感情を表現したくて、こうなりました。



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