ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
シルフカンパニー。ヤマブキシティの中心部に立つ、大企業だ。しかしそこは現在、ロケット団により占拠されていた。元々ロケット団は裏社会では有名なマフィアだが、表社会ではロケットコンツェルンという巨大グループとして認識されており、企業との繋がりは強い。その結果、コネを駆使して易々と忍び込んだ構成員達があっという間にシルフカンパニーを制圧、拠点にしてしまったのだ。現在のシルフカンパニーの指揮官はランス。ロケット団で最も冷酷と言われる幹部だ。ロケット団のボスであるサカキはここには居ない。ロケットコンツェルンの総帥としての仕事で既にここを発った後だ。
「ふむ…。これらはどうしましょうか…………。」
ランスは奪ったばかりのボールを見ながら、そう呟く。男のガキの連れていたキャタピーは下っ端にでもくれてやるべきだろう。使い物になりはしない。ガキの父親らしき男が連れていたウインディは、使えるには使えるが鍛え直す必要がある。悩みどころはわざわざ挑んできた女のガキだ。ポケモン自体のレベルはそこそこだが、そのそこそこ強い程度のポケモンに下っ端が4人もやられ、ランス自身も予想外に苦戦した。それを鑑みると、このポケモン達の才能自体はサカキに献上するに値するし、ランス自身で育ててもいいくらいある。しかしこれらは全く従う気配がない。それでランスは悩んでいたのである。
「使い物にはなりそうですがね…。あの小娘、随分と躾が上手いらしい。」
ランスはしみじみとそう呟く。
「申し上げます!!!!」
静かな空間を切り裂くように、下っ端の声が響いた。
「なんです?騒々しい…。」
少し不機嫌にそう言うと、下っ端は震えながら頭を下げる。
「も、申し訳ありません…!ですが、至急お耳に入れねばと思いまして…………。」
「勿体ぶらずに伝えなさい。」
「ハッ!……敵襲です。敵の数は2。菫色の髪の女のガキと、カントーチャンピオンです!!」
その言葉に、ランスは一瞬思考が止まる。女のガキは知らない。だが、カントーチャンピオンのワタルは不味い。シルフカンパニー中の戦力を集めても、あの男に勝てるかは怪しい。その上あの男は容赦がない。人に【はかいこうせん】を躊躇いなく撃つような野蛮人が仲間を伴って攻めてきたとなると、シルフカンパニーが丸ごと吹き飛ぶ可能性すら出てくる。
「クッ……!貴方達はここにいる全団員に出撃を命じ、それから人質を連れてきなさい。わたしはすぐに迎撃に向かいます。」
「ハッ!!」
ランスは自身の手持ちが入ったボールを手に取ると、早足で襲撃者が暴れる下の階層へと向かった。
⬛️⬛️⬛️⬛️
「カイリュー、【はかいこうせん】」
戦いの狼煙は、情け容赦無しの破壊光線によって上げられた。オレンジ色の光線がシルフカンパニー入り口のドアごと見張りの団員とそのポケモン達を吹き飛ばす。
「バウゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!!!」
設備がド派手に壊れる音と、カイリューの力強い咆哮に釣られて何事かと下っ端達が出てくる。
「仕事だ、ラプラス。」
「ラァァァ!」
団員が出てくるのを確認し、スミレはラプラスを出る。ワタル、スミレ、カイリュー、そしてカイリューの陰に立つ、ロケット団の変装をしたハンサムは耳を塞ぐ。
「ラプラス、【うたう】。」
ラプラスの美しい歌声が響く。まるで子守唄のように下っ端達を包み込み、彼らはウトウトとし出して次々に倒れ込み、眠り始める。
「ご苦労様、一旦休んでて。」
スミレはラプラスをボールに戻す。
「よし、では私はランスを呼びに行ってくる。」
そう言ってハンサムは、ランスを誘き寄せるため、慌てたフリをして走り始めた。
ワタルとスミレは眠った下っ端達を踏み越えて先に進む。
すると出てきたのは大量の下っ端達。既にポケモン達を出し、準備完了だ。
「フシギs…「いや、ここは俺がやる 」ですが…」
スミレはフシギソウとバタフリーでどうにか道を拓こうと考えるが、それを遮ってワタルは言う。
「俺がここで盛大に暴れながら、少しずつ先へ進む。派手にやれば、ランスもこちらに来るだろう。その間に、奪われたポケモン達を取り戻せ…できるな?」
ワタルの目は真剣だ。
「…分かりました、やります」
スミレに言えるのはそれだけ。
「いい返事だ…。カイリュー、【はかいこうせん】!!!!」
「バァァァウゥゥゥゥゥゥン!!!!」
カイリューの口から一条の閃光が解き放たれて下っ端を蹴散らし、奥へ続く一筋の道ができる。そしてその隙を逃さず、スミレは上階へと続く階段を駆け上り始める。
「不味い‼︎あの小娘を捕えろ!!!!」
下っ端の怒号が響くが、ワタルがこっそり出しておいたシンオウ地方のポケモン、ガブリアスが階段前に立ち、威嚇する。下っ端達は竜の威嚇に怯えたか、震えが隠せていない。
「まずは俺が相手になろう。覚悟はいいな?」
⬛️⬛️⬛️⬛️
「ニョロボン、【ばくれつパンチ】!!」
「ニョロォォォォォ‼︎」
ニョロボンのエネルギーを纏った拳がラプラスに突き刺さり、ラプラスは地面を転がり、戦闘不能になる。
「……ッ、ごめん、ラプラス」
スミレは長時間の集中による疲労感を全身に感じ、一瞬の眩暈を起こすも瀕死のラプラスをボールに戻す。ここまでに5人の下っ端を倒し、現在は6人目だ。
1人目はベトベターを使い、バタフリーで秒殺。2人目はケンタロス、フシギソウがやや苦戦しつつも勝利。3人目はストライク。強かったが、バタフリーが【しびれごな】戦法で機動力を封じて勝利。4人目はディグダ。【あなをほる】を多用した戦術に悩まされるも攻撃に耐えつつ近づいて来た所を狙い撃つ戦術でラプラスの勝利。5人目はマルマイン、バタフリーで勝利するもトドメの寸前で【だいばくはつ】を使われ、バタフリーも戦闘不能だ。そして6人目で、ニョロボンにラプラスが倒された。高火力のニョロボンに対し、耐えてから返しの一撃を当てる戦法で戦ったが削り切れず、逆に押し負けた形だ。ワタルの援軍は期待できない。今はスミレの居る場所の少し先で、10人ほどの団員と一度に戦っていた。
(次のポケモン…やはりここは、フシギソウで………)
そう思い、腰のホルダーに手を伸ばすと1つのボールがまるで『自分を出せ』とでも言うように揺れている。そのポケモンは、スミレの知る限りは戦いに自ら赴く奴ではないし、むしろ逃げ出す。しかしスミレは思い出す。つい先日の朝に見た光景を。ボロボロになって、傷だらけで倒れる彼女の姿を。きっとオーキド博士はこう言うだろう、『自分のポケモンを信じずして何がトレーナーか?』と。スミレは一瞬の思考の後に、そのボールを選び取る。
「貴方の覚悟、信じるよ……ユンゲラー」
「ゲラァァァァァァァァァァァァ!!!!」
まるで恐怖を振り払うように叫びながらボールを飛び出したユンゲラーは、微かに体を震わせながらも、しっかりと対戦相手を睨みつける。
「ふん!お前のユンゲラー、随分と弱そうじゃあねぇか!!まださっきのラプラスの方がマシだぜ!!」
下っ端が勝ち誇ったような表情で言う。
「私は弱い奴を手持ちに入れた記憶はない…随分と可哀想な目だ」
スミレは淡々と相手を煽ると、下っ端は顔を真っ赤にして怒る。
「テメェ!ぶっ殺す!!ニョロボン、【ばくれつパンチ】!」
「【テレポート】で背後に回って」
その指示と共にユンゲラーが一瞬にして消え、直ぐに技を放とうとしていたニョロボンの背後につける。
「やれ、【ねんりき】」
「ゲラァァァ!!」
ユンゲラーの目が怪しく輝き、ニョロボンを不思議なエネルギーが包み込み、浮かせる。ユンゲラーは空中でニョロボンを思い切り振り回すと、地面に叩きつけた。
「な、なんてパワーだ…。化け物かよ…………」
下っ端はそう呆然と呟くが、予想外なのはスミレも同じだ。スミレは、いくら才能あるユンゲラーでも、【ねんりき】では吹き飛ばすのが精々だろうと思って指示を出していた。しかし彼女がやった攻撃は期待以上、そしてレベル差を諸共せずに相手を持ち上げて振り回し、叩きつけるだけのそのサイコパワーに、スミレも驚いていた。
「なるほど……予想外に強い」
スミレはいつも通りの淡々とした態度で、そう述べるがユンゲラーは喜び勇んだ。ユンゲラーは理解したのだ、スミレの期待をいい意味で裏切ったことを。
「だが、レベル差で潰しちまえばッ!ニョロボン、【ハイドロポンプ】!」
「ニョォォォ、ロォォォォォ!!」
「ゲラッ⁉︎」
ニョロボンの放つ水流がユンゲラーにぶつかり、吹き飛ばす。不安を感じるスミレだが、ユンゲラーはこれまでとは一味違う。
「ゲラッ……!」
強力な攻撃に晒されて尚、立ち上がって戦う意思を示したのだ。
「よくやった………。なら勝つよ、私達でッ………!」
「ゲラァ!!」
「オレに勝てると思うなよ!【きあいだま】!!」
ニョロボンはエネルギーを溜め、玉の形に凝縮するとそれを放つ。当たればかくとう技が効果がいまひとつであるユンゲラーとて、無事では済まない。
「ユンゲラー、真上に【テレポート】、続けて【サイコカッター】」
スミレの選択は回避。テレポートして安全を確保すると、続いて放つのはエネルギーの刃。刃の形に凝縮された不思議なエネルギーがニョロボンの胴体に炸裂し、小規模な爆発を起こす。
「追い討ちかけるよ、ユンゲラー………。【サイコカッター】」
ダメ押しの【サイコカッター】が爆発の煙の中に飛び込み、さらなる爆発を起こす。
そして煙が晴れるとそこには、目を回して気絶するニョロボンが居た。
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