ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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30話に到達しました。
そして、評価バーに赤色がつきました。やったーーーー!!!!!!!
これからも頑張りますので、是非読んで頂き、スミレ達の旅路を見守ってくださると幸いです。よろしくお願いします!


第30話 ワタルからの贈り物

「遅いね・・・」

そう呟いたのは、ロケット団にキャタピーを奪われた少年。外はもう日が傾き、空がオレンジ色に染まっている。

「そうだなぁ・・・・・・流石にチャンピオンも居るから大丈夫だと思いたいが、万が一もあるしなぁ」

不安げに少年の言葉に同意するのはその父親。しかしヒマワリには妙な確信があった。スミレは必ず戻ってくる、と。

「大丈夫です!スミちゃんはヒマよりも強いですし、ワタルさん?と一緒なんでしょ?だったら、きっとヒマ達のポケモンを連れて帰ってきますよ!!」

ヒマワリは2人を元気付けるよう笑いながらそう言うが、不安が無い訳ではなかった。超人的な身体能力を誇る特殊な人種が殆どを占めるマサラタウンで、数少ない通常の身体能力だ。ポケモンの技を受ければヒマワリ達よりも大きな怪我を負うことになるので、もしもロケット団から直接攻撃されたらと考えると不安で仕方がなかった。

 

 

「お三方がご無事に戻られましたよ!!」

ジョーイが慌ただしくやってきて、ヒマワリ達に告げる。ポケモンセンターの待合室に向かい見たのは、擦り傷を幾つも負ったスミレがワタルの手で治療されている姿だ。ヒマワリの不安は、ギリギリなようだが杞憂に終わり、ヒマワリの目に涙が滲む。ヒマワリの姿を視認したスミレは、ハンサムから4つのモンスターボールを受け取り、立ち上がる。モンスターボールにポケモンを入れた場合、それぞれのモンスターボールに個別で書かれている識別番号と、そのボールの中のポケモンの遺伝子レベルの情報を協会に登録する義務がある。それを怠り所持するとポケモンの密猟扱いで犯罪に、登録はしたもののそのポケモンを逃して一定期間の間に手続きを行わなかった場合も犯罪として問われる。しかし、それにより犯罪組織にポケモンを奪われても後から正確に返還されるようになっているのである。だからスミレが受け取ったボールは、正真正銘ヒマワリの手持ちポケモン達。

「私の力じゃないけど…ハンサムさんが纏めて取り返してくれた。私はあんなに大口叩いておいて、結局は碌に貢献できなかった」

「そんなのいいんだよ!!ヒマは、こうしてスミちゃんもヒマのポケモン達も無事に帰ってきたのが嬉しいからッ…!ありがとう、スミちゃん………!!」

スミレを思い切り抱きしめて子供のように泣き喚くヒマワリに、スミレは顔を背ける。

「………別に」

 

「そんなこと言ってるけど、唯一の幹部だったランスを倒したのは俺じゃなくてスミレだからなぁ………。ハンサムも人質と奪われたポケモンをどさくさに紛れて全て奪還してるし、正直俺が1番仕事してないまであるぞ」

「いや、君は下っ端とはいえ団員を20人以上単独で蹴散らしておいて何を言ってるんだい????」

ワタルがその会話を聞きながらボヤき、ハンサムがそれにツッコむ。

 

「エッ…、スミちゃんあの人倒したの!?大丈夫だった⁉︎」

ヒマワリがただでさえ抱きついているのにグイグイとさらに近づこうとしてくるので、デコピンをする。

「落ち着きなさい、私はここにいるから……」

「あうっ……。ご、ごめん…………」

少し冷静になったか、ヒマワリはスミレから離れる。

「まぁ今回くらいは別にいいけど…。戦ったよ。まだ全力ではない可能性はあった。ユンゲラーでゴルバットと相打ち、フシギソウでマタドガス追い詰めたら【じばく】食らって吹き抜けの所から落ちかけた」

「ユンゲラー、戦えるようになったんだ…。どうやって助かったの?」

「自分も知らない間に一皮剥けたみたい…。瀕死になってた筈のバタフリー、ラプラス、ユンゲラーと瀕死ギリギリのフシギソウ、そしてハンサムさんがフシギソウの蔓で引っ張って、最後にはワタルさんがランスを【はかいこうせん】でぶっ飛ばしてから空中から回収してくれた。……死ぬ覚悟はしてたんだけど、結局はこの通り」

「よかったぁ………無事なら何よりだよぉ…………………!」

ヒマワリは泣き笑いを浮かべる。

「全く、この子ときたら途中で完全に死ぬ気満々で驚いたよ。何か事情持ちなのは察してたがな……」

ハンサムは頭を掻きながらそう呆れたような口調で言う。

「まぁ俺の場合はトウリさんから事情は聞いてたから、一応知ってはいたが……実際に会ってみたら想像以上の重症で、衝撃は大きかったな」

ワタルが聞き捨てならない事を言う。

「父さんと知り合いなんですか?」

スミレがそう聞く。トウリ、という人物こそスミレの父なのだ。

「ああ、トウリさんは駆け出しトレーナー時代からの知り合いでな。幼い頃のスミレとも会ってるし、なんなら俺がスミレの名付け親でもある」

「ええッ⁉︎」

ヒマワリが驚きの声を上げるが、スミレも思わず声に出そうになった。カントー最強のトレーナーが父の知り合いで、自身の名付け親であるという重要な情報が飛び出し、スミレは動揺で目眩すら覚えた。

 

「一応言っておくが、嘘ではないぞ。君に協力を頼んだのも、君の事を知っていたからだしな。…………君の名前を考えたときはまだ未成年だった。あの人は俺がいつかチャンピオンになる、だから未来のチャンピオンに名付け親になってほしい。そう言って、俺にスミレの名付けを託したんだ。そして俺は菫の花の名をつけた。髪が菫色だからだけではない。菫の花は、アスファルトの上でも力強く咲くことが出来る、強い生命力を持った美しい花で、俺はスミレという名前に、菫の花のように逆境に負けず、美しくて力強い女性になって欲しいと願いを込めたんだ」

ワタルはしみじみとそう言う。だが、スミレからすればその願いを完全に裏切っている事になる。逆境に負けて捻くれて、身体に醜い傷を抱えた貧弱な女。ワタルの願いとは逆とも言えるレベルなのだ。

「私は、弱いです。苦しみに簡単に負けて、醜くて貧弱な女です。……私にスミレの名前は、重すぎます」

「そうでもないさ」

スミレの否定に、ワタルはそう言って笑った。

「君はきっと今、必死に足掻いてる。何度も諦めそうになりながら、何度も絶望に打ちひしがれながらも必死に今を生きている。そんな君が負けたとも、醜いとも、弱いとも思わない。……カントーチャンピオンたるこの俺が認める。君はスミレの名前に相応しい、だからもう、『自分にスミレの名は相応しくない』なんて、言わないで欲しいんだ」

ワタルはスミレの肩に手を置き、真っ直ぐな瞳でそう言った。

「分かりました………」

スミレは渋々と返事をする。自分に自信は持てないけれど、こうも言われてしまってはそう返事するしか選択肢が無いのである。

「さっ、それはそれとしてスミレには宿題をあげよう」

ワタルはそう言った。宿題、それはスクール生にとっての永遠の天敵。スミレやシゲルは兎も角、サトシやヒマワリなら顔を青くしていたであろうワードだ。実際に宿題のワードに反応したヒマワリが石のように固まっている。

「ヒ、ヒマはない……んですよね???」

ヒマワリが恐る恐る聞くと、ワタルは彼女が宿題というワードがアレルギーなのを察して苦笑しつつも頷き、ヒマワリはホッと胸を撫で下ろした。ワタルは断りを入れてカウンター横のパソコンにアクセスすると、あるものを取り出す。

「…………これは」

「ポケモンの卵だ、コイツを君の手で育て上げなさい」

「なぜ、私に?」

スミレは困惑を隠せない。今回の一件で、自分が軽率に死を選ぶ人間だと分かった筈なのに。

「コイツは育てば強力だが、育てるのが大変なポケモンから生まれた卵。きっと君は苦労する事だろうな。しかし、だからこそ君は今まで以上に学べる筈だ。命の美しさ、そして命との向き合い方を。君は君自身を見つめる必要があるが、きっと君はタダでは自身の命を大事にしようとは一生思わないだろう。だからこそ、卵から生まれる小さな命と向き合い、他のポケモン達と並行して卵から生まれたポケモンを育て、ポケモンを通して君自身がどう生きるのかを見つめ直してほしい。そしていつか君が見つけた答えを、俺に教えて欲しいんだ」

ワタルはそう言うと、スミレに孵化装置から出したその卵を持たせた。その卵は固く、ひんやりとしていて、だが何処か神秘的な雰囲気を漂わせている。スミレの体が緊張で固まる。この小さく、脆そうな玉の中に、既に命は宿っているのだ。うっかりでも壊してしまえば、その命は零れ落ちてしまう。スミレは直ぐに、卵を孵化装置に戻した。

「…………分かりました。お預かりします」

「それで良い」

卵を預かる選択をしたスミレに、ワタルは満足げに笑う。ワタルとしては、いつかその卵から孵ったポケモンと共に、自分の玉座を奪いに来て欲しいと思っていたし、スミレならいつか出来るだろうとも思っていた。だからこそ、彼女の道を阻む闇を、自らの力で照らせるように、もう2度と闇に呑まれ迷う事がないように、殻を破ってもらう必要があった。スミレが粗末に扱っている『命』というものを育て、向き合う経験をして欲しかった。彼女に直接、『自分の命を大事にしろ』なんて言って聞くほど、彼女は幸せな人生を送っていない。だからこそ託すのだ。自身も信頼を置く、あのポケモンの卵を。

 

「さ、私たちは事後処理に向かう。スミレ君は事情聴取に関して免除でいいよ、旅の途中だろうしね。まぁ今日はもう遅いが。…ただ、偶にポケモンセンター経由で連絡はするかもしれないし、連絡を頼むこともあるかもしれないから、私たちの連絡先を渡しておこう。もしもの時は、使ってくれ」

ハンサムはそう言うと、自分とワタルの2人分の連絡先を書いたメモをスミレに渡す。スミレは礼を言ってそれを受け取ると、リュックの中に大事に仕舞う。有名人のコネクションというのは、もしもの時に強いので持っておくに越したことはない。

 スミレは翌日の朝早くにこの町を出ることにした。ヒマワリは療養のために少しこの町に滞在するつもりらしく、ワタルとハンサムはここからが本番のようだ。ランスは一部の部下に救われて姿を消したらしいが、団員を数十名確保している上に主にワタルがシルフカンパニーを盛大にぶち壊した為、膨大な事後処理が待っている。しばらく徹夜ルート確定だと2人は揃いも揃って頭を抱えて嘆いていたのが、悲哀に満ちながらもどこか喜劇的だった。

 

 特殊なリュックの中に卵を孵化装置ごと入れ、スミレは歩く。次の目的地はシオンタウン、そこに占い師兼ジムリーダーという特殊な経歴の老婆がいる。その老婆に挑戦しにいくのだ。シオンタウンを無視してタマムシシティに向かい、そこにいるくさタイプジムリーダーのエリカやタマムシシティ付近の森を根城にしているという、ジムを持たないジムリーダー、むしタイプ使いのサナダ辺りに挑もうかと思っていたが、ユンゲラーに経験を積ませる意味でも、公式戦を増やそうと考えたのだ。尤も、この町のジムリーダーのナツメはスルーの方向で行く。また、シオンタウンにはゲンガーも生息しているため捕まえに行く目的もある。

そろそろ6匹いないとフルバトルで困るし、控え枠も1匹2匹捕まえておいた方が良さそうだ。セキチクシティのサファリゾーンはまだ遠い、リーグまでの育成期間を考えると今の状態で手持ち4匹、卵一個は非常に宜しくない。

「はぁ…、トレーナーって大変」

スミレはそう実感する。お金は掛かるし節約しようとすればトレーナーとして後々詰みかねないなどなんというクソゲーか。それでもスミレは、トレーナーとして強くならなければいけない。その理由なんてもう忘れたけれど、それでもスミレはただひたすらに歩き続ける。

 

 その果てに待つのが希望か絶望か、それすらも分からぬままに。




ありがとうございました。卵の中のポケモン、多分察した方もいらっしゃるのではないでしょうか?まぁあのポケモンです。

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