ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
「・・・・・・」
スミレは静かに、町の出入り口に向かって歩く。敵討ちも出来ず、幽霊も正体を見破って話しただけで何処に行ったか、分からないしあのザマでは成仏もさせてやれていないだろう。フジはジュンサーに保護されたので問題はなし。任された仕事も中途半端に終わった為、約束の報酬も出ないだろう。もうスミレに、この町には用など無かった。
(私は、所詮道化か・・・・・・)
内心スミレはそう思う。重い足取りで歩く道は、悠久まで続いているのかと錯覚するほどに遠く感じた。結局自分に与えられたのは、強力なゲンガーでもジムの挑戦権でも無く、怒りに任せた殺人未遂という呪いの十字架。相手がロケット団で、殺人などの前科がある凶悪犯であった事、フジの取りなし、ラプラスの境遇による情状酌量などがなければ、スミレはトレーナー資格の剥奪までされていた可能性も否定できない。結果で言えば正当防衛扱いとなり、軽い注意で済んだのでポケモンリーグへの挑戦には影響も無い。しかしそれでも、スミレには重い重圧がのしかかる。
「・・・・・・失敗したなぁ」
スミレは、若干の涙声で、そう呟く。スミレは元々、ロケット団をズタボロに叩きのめして心を折ってから捕縛する方向で考えていた。流石のスミレも、殺しまではしないつもりだった。だけどあの女の言葉を聞いた時、あの女が因縁のあるスピアーを出した時、スミレの怒りの炎が業火に変わり、よりにもよってガラガラを出した時、その炎は理性全てを焼き尽くした。スミレは、冷静そうに見えて意外と短気なのだ。おまけに感受性も強く周囲にある悪意を敏感に感知し、半ば反射的に反発してしまう。もっとも、10歳の子供に、大人の如き冷静さと対応力を求めても仕方がないのだが、その中途半端に成熟した子供の癇癪が、この結果を生み出した。
「スミレや、待ちなさい」
声が聞こえた。それは自分を手の上で操った張本人の声。
「・・・何の用です?」
スミレの声が冷気を帯びる。
「なに、お主に詫びねばならん事がある。それに、約束もまだ果たしておらん」
サダコは神妙な態度で告げる。
「約束?・・・貴方は初めから守る気は無かったのでは?あのゴーストも、都合よく現れたジュンサーも、全部貴方の差金でしょう?私を報酬で釣ってロケット団を排除させ、丁度いいタイミングで潜ませたゴーストを使って私の意識を逸らしてジュンサーにフジさんを保護させ、私に課せられたフジさんの救出の仕事を有耶無耶にして報酬をケチった。・・・それに、貴方は分かっていたんじゃないですか?私がここで犯罪に手を染める事を」
冷静さを欠いたスミレがそう尋問するが、サダコは頬を掻き、バツの悪そうな顔をする。
「ううむ、ジュンサーを呼んだのもワシだし、ゴーストを仕込んで最悪の事態になる前に出て行って意識を逸らすよう命じたのもワシだしなぁ・・・、否定はできんが悪意は本当に無いんじゃが・・・・・・。まぁ、信じてもらえんでも構わんさ、どの道自業自得じゃ。とりあえずお主の罪は完全に帳消しとなったぞ」
「・・・どういうことですか?」
「まぁ、お主の言った通り、ワシがお主を利用した形になるからの・・・。ジムリーダー資格は近いうちに返納する事になる。お主と勝負すればそれがジムリーダー、サダコの最期になるじゃろうな」
「・・・立場を失ってまで、何がしたかったんですか?」
「見たろう?あのカラカラの姿を。親を喪い、恐怖と悲しみに震える姿を。そしてポケモンタワーからフジが帰ってこないと聞いてカラカラの母親を殺した奴がそこにいると確信し、向かわせた町のトレーナーは皆、謎の幽霊に追い返された。・・・どうにかできないかと思った。しかしワシはフジよりもはるかに歳上の90歳。もう体の衰えでタワーなど登れたものじゃない。解決しなければシオンの町が危ない。占いに縋って人を探したら、才能あるトレーナーがこの町に近づいている事が分かった。・・・お主じゃ。ワシはお主に全てを託す事にした。ワシの占いに間違いはない。・・・交換条件があれば乗ってくれることも、爆発しかねない事も、分かった上でお主に頼んだ。責任はワシが取るよう裏から手を回し、最悪の事態を防げるようゴーストを派遣した上でな。そしてお主はワシに言われるがまま、仕事を成し遂げた」
「・・・要するに、事件の解決はしたかったけど、自分は動けなかった。そこに丁度来たから、私にやらせた、と?」
「そうじゃ。申し訳無いとは思っておる。今思えば、若者にあんな事はさせるべきじゃあ無かった。占いの力に頼り、常識も見失い、自分の計画に子供を巻き込んだ。責任は後でワシが取ると言えど、許されることでは無かった。ワシの計画が、未来ある子供の心に十字架を背負わせる事になってしまった・・・・・・」
そう言うサダコは、初対面の時の怪しげな老婆の面影も無い、折れそうな老木のようで、スミレはハッと息を呑む。そして1つの疑問を口にする。
「サヤは・・・、サヤはこの事を・・・・・・?」
「お主がガラガラの仇を半殺しにした事は知っておるが、ワシの計画には一切関与しておらんよ」
「・・・そうですか」
「あの子は、優しい子じゃ。純粋な善意で、カラカラを引き取った。ワシはあの子の善意も、お主を焚き付ける為に利用した。あの子の事は、嫌わんでやってくれ」
どうすれば良いのだろうか。スミレは思い悩む。悪党を叩き潰したのは、誘導があったとは言え自分の意思だ。サダコの年齢からしても、タワーに登れないのは恐らく嘘では無い。カラカラに哀れみを覚える気持ちだって分かるし、最終的にサダコは自分ので全責任を負おうとしているし、約束をまだ果たしていないと言っていたと言う事は、守ってくれるのかもしれない。スミレは何処となく、責めづらさを感じる。
「許すな、恨め。・・・そして、ワシのようになるな」
スミレの葛藤を察してか、サダコがバッサリと切った。
「ワシのように、自分の計画の為に人を利用し、犠牲にしようと思うな。特別な力を持っても、それに驕って縋るようにはなるな。ワシのように・・・、本当に動かねばならぬ時に動けぬ、役立たずにはなるな。ワシのこの無様で惨めな姿を、お主は反面教師として成長していくのじゃ」
そういうサダコに、スミレはタケシやマチス、カジキのようなジムリーダーとしての風格を見た。サダコは自身を、無様で惨めと表現した。しかし今のサダコの姿は、スミレが挑戦しようと思った、強者の姿だった。
「・・・・・・間違いは誰でもありますよ。大人でも、子供でも。貴方も、私も。私は私自身の犯した罪を悔やむ。貴方は貴方自身の行いを悔やむ。それ以上も以下もないし、その先は何もない。そう思います」
スミレの言葉に、サダコは無言で涙を流す。
「ああ・・・・・・すまぬ、すまぬ・・・・・・」
サダコの泣き声をBGMに、スミレは考える。結局、悪いのはロケット団なのだ。サダコはそれをどうにかしようとして、出来なかったが故の作戦だったのだ。やり方こそ間違えたが、最初から彼女は自分でケジメはつけようとしていた。乗せられたのは自分の責任、暴れたのも自分の責任、サダコを責めてもどうにもならない。
『間違いは誰でもありますよ』
というスミレ自身の発言が、刃となってスミレ自身の胸に突き刺さる。スミレには、自分の間違いを仕方がないと割り切り正当化しようとする、言い訳のように聞こえた。
⬛️⬛️⬛️⬛️
結局、スミレはシオンタウンのポケモンセンターで一夜を明かす事にした。警察から表彰したいという連絡は受けたが、過剰防衛で注意を受けた実質的な殺人未遂犯が表彰されるなどおかしい事だし、あまりそういう目立つのは得意ではないので丁寧にお断りさせて頂く。明日、サダコに挑む。マイナーで90歳とは言えジムリーダー。苦戦は覚悟している。スミレはあてがわれた部屋で、ボールから全員を出す。フシギソウ、バタフリー、ラプラス、ユンゲラー。自分1人じゃない、ポケモン達と共にタワーでの戦いを反省する。特にラプラスは酷く、自分のせいでスミレが犯罪者になりかけたと泣いて、宥めるのが大変だったしフシギソウもゴーストの存在を察しつつも黙っていたことやロケット団員の男を過剰な火力で叩きのめしたこと、スミレの暴走を止めなかった事で随分と落ち込み、そちらも宥めるには少しばかり骨が折れた。だが、そのままでも明日はやって来る。
「・・・明日のジム戦、サダコさん曰く2体ずつらしいから多分ユンゲラーとフシギソウにはなると思う。でも、他のメンバーもいつでも出れるよう、心の準備はお願い」
「フシャ・・・」
「フリィ!」
「・・・ラァ」
「ゲラッ!」
まだ若干テンションが低いフシギソウとラプラスを他所に、スミレは呟く。
「・・・・・・勝たなきゃ。せっかく、タワーで戦った意味がない。ここで勝てなきゃ、私は進めない。・・・・・・・・・もう、失敗しちゃ、ダメだ」
新たな歪みを抱え、スミレは翌日を迎える事になる。
ありがとうございました。
要するに、『相手がどんな屑だろうが、殺そうとするのはダメだよ』って事です。それをスミレはしようとし、サダコは誘導しました。なのでサダコもスミレも後悔し、サダコは前を向き、懺悔しながらも後輩に教訓を与えジムリーダーとして壁になることを選び、スミレは失敗することを恐れて後ろを向きました。失敗はダメ=成果こそ全て のテンプレな闇堕ちに足を踏み入れてますね。自分が言った『間違いは誰でもある』発言が、スミレにとっては逃げのように感じてしまいました。結局、スミレは大人にならなきゃいけないと無理して背伸びをしたら、戻ることが出来なくなった子供なんですよね、僕の中では。どれだけ捻くれていてもその正体は素直で心優しい子供。だからポケモンの為に本気で怒れるし、理性が働かなくなって後から後悔したりする訳です。ただこれは、作者の勝手な解釈なので、読者の皆様はそれぞれのスミレの解釈でお楽しみください。
感想、評価、お気に入り登録等よろしくお願いします。
4/8 22:36 加筆・修正しました