ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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大変長らくお待たせしました。最新話です。すみません、待たせた割に相変わらずのクオリティです。私は現在、大学の授業が始まった影響で大変忙しくしております。時間を見つけて執筆しますが、のんびりと進めさせて頂く事になります。ご理解のほど、よろしくお願いします。


第35話 すれ違い

 「フシギソウ、【はっぱカッター】!」

「ゲンガー、躱しな‼︎」

フシギソウの放つ攻撃をゲンガーに避けさせながら、サダコは思案する。厄介この上ない、と。本来なら勝利に妄執し、周りの見えなくなったトレーナーなど格好のカモだが、スミレに関しては違う。サダコの預かり知らぬ事ではあるが、スミレのバトルスタイルは事前に手札を仕込み、その中から戦況を見て使っていくというもの。手札の使い時を間違える事はあっても、その場で策を考えない為にポケモンとの連携に乱れが生じ辛いのだ。更に面倒なことに、失敗への恐れがスミレに勝ちたいという意思を持たせてしまった。本来あるべき姿ではない悍ましい形でも、その勝利への渇望は確かなもの。勝利への熱意は時にトレーナーとしての限界を突き破り、思いもよらない勝利を呼び寄せる。そして場に出ているのはフシギソウ、スミレが最も信頼する相棒だ。対するサダコのゲンガーはジム戦用の個体で、本来サダコが得意とする状態異常祭りという地獄の戦法ではないため、本領とは言い難い。ゴースト戦とフシギソウ対ゲンガーのこれまでの戦闘を見て、スミレはフシギソウなら勝てる相手だと認識した以上、スミレの歪な心は揺らがない。

「【つるのムチ】‼︎」

「フシャァ‼︎」

スミレの鋭い指示が飛び、フシギソウは蔓を空中で縦横無尽に振り回す。これはスミレ考案の戦術の1つで、鳥ポケモンなどの空中から複雑な軌道で攻撃してくる相手を想定したものだ。ゲンガーは空中を浮遊し、相手を翻弄しつつ攻撃を仕掛けるスタイルなので、この戦術がかなりの有効打となっていた。

「仕方ないねぇ・・・。イチかバチかだよ、ゲンガー!【シャドーパンチ】‼︎」

ゲンガーは影を拳に纏わせ、一気に急降下すると地面スレスレを飛びながらフシギソウに迫る。スミレの対空戦術の弱点、それは地上からの攻撃だ。蔓は空中で振り回されているので、その間地上のフシギソウ本体は無防備になるのだ。しかし、スミレが何の対策もしていない訳がない。

「今・・・!【はっぱカッター】」

緑の刃が連続で射出され、勢いよく突っ込んで来たゲンガーに着弾、大きな爆発を起こしゲンガーを吹き飛ばす。

「やっぱりかい・・・!」

サダコは苦々しい表情で呟く。サダコは高齢とはいえジムリーダー、バトルでの勘は人一倍優れている。だからこそ、スミレの戦術の弱点に直ぐに気づき、それと同時に一抹の不安を感じた。

『ひょっとしてこれは、誘われているのではないか?』

と。そしてその不安は的中した。上空からの攻撃が無茶だからとイチかバチかに賭けてみたら、案の定狙い撃ちにされたのだ。

「・・・乗ってくれて、助かりました」

スミレはそう言い、微笑う。

「乗るしかないさ・・・。どの道、空中は蔓が飛んできてまともに動けやしないからね」

サダコは苦笑いを浮かべる。

「・・・さっさと決めるよ、【はっぱカッター】Aタイプ!」

「場所の判断はアンタに任せるよゲンガー、避けな‼︎」

フシギソウの放つ、高速の【はっぱカッター】が初めて避けられた。【はっぱカッター】の全エネルギーを1枚の葉に込めた、強力かつ高速の一撃を、あろうことかゲンガーは当てずっぽうで上に飛び、これを避けたのだ。

「なっ・・・!」

「流石はワシのゲンガーじゃ!そしてフシギソウはいい攻撃だ、だが無意味じゃよ!ゲンガー、全力で【シャドーボール】‼︎」

「ゲェェェン、ガァァァ‼︎」

ゲンガーは気合いの声をあげ、通常よりも大きな影のエネルギー玉を生成すると、フシギソウに投げつける。スミレは咄嗟の判断が遅れて指示を飛ばせず、フシギソウは【シャドーボール】に呑まれ、大きな爆発が起こった。

 

 

「・・・凄い」

サヤは、夢心地にそう呟いた。今目の前で行われているのは、発展途上のトレーナーとジム戦用に手加減しているとはいえ、紛れもない強者と強者の対決。バトルなど碌に見たことのなかったサヤの目には、そのバトルが酷く輝いて見えた。実際には、勝利への執着という狂気に身を任せたスミレと、止めなければという使命感とその原因を作った罪悪感でがんじがらめになったサダコという、あまりにも苦しみに満ちた一戦だが、バトル初心者のサヤにその空気を察する力は無いし、スミレの様子の変化に気づける程、スミレと関わった訳ではない。だからこそ、サヤは純粋に憧れた。カラカラの母を殺した悪を討ち、強大なジムリーダーを相手に互角に渡り合うスミレという少女に。

 

「負けないで‼︎スミレさん!!!!」

サヤは純粋に声援を送る。憧れのヒーローに勝ってくれと願う。これに関しては、どうしようもない事だった。サヤはある程度大人びているがまだ9歳、スミレもまだ10歳。どちらも子供だ。だから、この瞬間に起きたすれ違いを、誰も責めることはできないだろう。サヤはただひたすらに勝利を願い、スミレはただひたすらに勝利に執着する。

 

「負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ負けちゃダメだ」

スミレはサヤの声援を聞き、最悪に近い解釈をした。そしてサヤには聞こえない小声で、ブツブツと呟く。そしてスミレは、暗く澱んだ瞳でフシギソウを見つめる。

「・・・・・・・・・力が、足りない。もっと、強くなければ・・・。フシギソウ、負けないで・・・・・・・・・私を、無価値にしないで・・・」

最後の方は、もう縋るような声だった。フシギソウはその痛ましい姿を見て、静かに微笑んだ。そして蔓を伸ばし、スミレの頭を軽く叩くと、フシギソウの全身を青白い光が包み込む。

 

 

「わぁ・・・!」

サヤが感嘆の声をあげ、カラカラも思わずその光景に見入ってしまう。

フシギソウの体が一気に大きくなり、背中の蕾が花を咲かせる。

 

「本で見た事ある・・・・・・ッ!あれが・・・・・・‼︎」

サヤが興奮気味に叫ぶ。

 

 

「バァァァァナァァァァ!!!!!!」

 

 フシギバナ。フシギダネの最終進化にして、種、蕾と変わった背中に遂に花が咲いた姿。フシギソウまでとは打って変わって重く、力強い体つきで、その体から放たれるプレッシャーはジムリーダーのポケモンであるゲンガーすらも怯ませ、その咆哮はジム全体を揺るがす衝撃を放った。

 進化するタイミングとしては、最悪だ。スミレが力を願った時の進化は、きっとスミレは力への執着を強めてしまう。フシギバナとてそれは分かっているが、それでも進化を選んだ。

『私を、無価値にしないで・・・』

スミレが放ったこの言葉は、フシギバナを進化させるには十分すぎた。決して無価値だとは言わせないという決意の形。相棒として過ごしてきたこれまでの生活は、フシギバナにとっては夢のようなものだった。スミレが笑えば嬉しかったし、スミレが悔しがれば悔しかったし、スミレが悲しんだら共に悲しんだ。その日々を、その日々をくれたスミレを、無価値とは言わせない、言わせてたまるものか。たとえそれを言ったのが、スミレ自身だとしても。スミレの今後の為には、フシギソウのままで勝つ事が最良だっただろう。だが、タイプA【はっぱカッター】を避けられ、対空戦術も使用済みなので次からは対応してくるだろう。相手はどくタイプ持ちなので【どくのこな】と組み合わせたタイプBは殆ど無意味。そう考えると、意地的な意味だけでなく戦略上でもこのタイミングで進化しないと苦しかった。ここで負ければ、スミレはきっと絶望の谷底へ突き落とされてしまう。心折れて、2度と再起出来なくなるかもしれない。自分達は、スミレと一緒に旅が出来なくなるかもしれない。フシギバナは、それが怖かった。放任主義のブリーダーの元に生まれ、周りの純真な子供ポケモン達に付いていけずに苦労を重ねた日々。妙に周りに懐かれてしまって、無駄にポケモンを世話する力が付いて、碌に面倒も見ないブリーダーに変わって子供達の世話をする日々。そんな折に新人トレーナーの相棒となる役目が舞い込み、今度は人間の子守かと諦めを感じながら向かった先で出会った、美しい氷のような少女。言ってしまえば一目惚れだった。旅をするにつれて、大人びていて面倒見が良くて、だけど脆く儚い姿を知って、どこかブリーダーの元にいた頃の自分と重ねてしまい、自分が側にいようと思った。初めて心の底から、守りたいと思った。仲間が増えて、色んなトラブルに巻き込まれて、一緒に悩んで一緒に強くなった。人に対しては氷のように冷たく、だが自身のポケモンには月の光のように優しいスミレも大好きで、共に強くなろうと誓い合った他のポケモン達も大好きで、失いたくない居場所になった。だから、ここでは負けられない。きっといつか、自分らの相棒が正気に戻ることを信じて、今は相棒を守るための力を得るのだ。

 

「ありがとう・・・・・・これで私は、負けない」

スミレの表情が、冷たさを帯びる。欲しかった力が、ひとまず手に入った。スミレの脳内に、フシギソウがフシギバナに進化した場合の戦術が浮かぶ。フシギバナは、体が大きく重いため、相手の技を利用した戦術が1部使えなくなる。しかし、それを補って余りあるほどの肉体スペックと技の制御能力の上昇があるし、サダコのゲンガーは攻撃重視型だ。

 

「まずいタイミングでの進化・・・じゃが、最後までワシらは全力を尽くすのみ!ゲンガー、【シャドーボール】‼︎」

サダコが冷や汗をかきつつも指示を飛ばし、影のエネルギー玉がフシギバナに迫る。

「迎え撃て、フシギバナ。【はなふぶき】」

フシギバナが放つのは新技、【はなふぶき】。大量の花弁が舞い、それらがゲンガーに一斉に襲いかかる。範囲の広いこの技は、【シャドーボール】を相殺しつつもゲンガーに殺到し、ゲンガーを吹き飛ばす。

「ゲンガー!無事かい⁉︎」

サダコがゲンガーに声を掛けると、ゲンガーは起き上がりながら弱々しく返答する。だが、復帰の前にフシギバナは仕掛けた。

「フシギバナ、【つるのムチ】」

フシギバナの火力が上がった蔓が唸り、ゲンガーに追撃の痛打を決めた。ゲンガーはジムの壁に激突すると、力無く倒れる。

 

 

「ゲンガー、戦闘不能!フシギバナの勝ち‼︎よって勝者、チャレンジャー スミレ‼︎」

 

審判の声が、響き渡った。

 

 




 遂に最終進化です。力欲しいって言ったら自分の唯一無二の相棒が強化されたという状況は沼にハマるパターンですね。

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