ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第36話 必ず来る幸福

 「・・・参ったね、認めるよ。お主の勝ちじゃ」

サダコは苦笑しながら、ゲンガーをボールに戻す。

「お疲れ、フシギバナ。・・・・・・良かった、勝てた」

スミレは勝ったことに安堵しつつも、フシギバナを労い、ボールに戻す。

「お主は・・・、本当に戻るつもりはないのじゃな?」

「・・・何が、ですか?」

突然、サダコにそう問われて、スミレは疑問を覚える。

「その強さへの執着は探究者のそれではない、それは修羅のものじゃ。その道の先にあるのは、孤独と破滅のみ。そう言われても、戻ろうとは思わんか?」

そう言うサダコは、不安げで、心から心配する目をしている。

「だから何ですか?孤独なら大歓迎、破滅なんて力でねじ伏せてしまえばいい。・・・私の道を、塞がないでください」

それに対しスミレは、サダコを冷たい瞳で睨みつけてそう言った。

「・・・そう、か。ワシはまた、間違えたか」

サダコは、そう言い諦めにも似た笑みを浮かべる。そして気を取り直すと、言葉を続けた。

「さて、チャレンジャー スミレよ。お主はワシに勝利した。よってジムバッジ、そして技マシンをくれてやろう。まぁ今回のバトルでは使ってないがな・・・」

そう言い渡したのは、魔女の帽子のような形のジムバッジに、技マシンの【たたりめ】。状態異常の相手への火力が上がる技だ。

「・・・ありがとうございます」

スミレはそれを受け取り、それぞれバッジケースと技マシン入れに仕舞い込む。【たたりめ】はスミレの戦術上、今後必須になる技なのでここで手に入ったのはスミレにとってとてもありがたいことだった。

「さて、じゃあ次はポケモンセンターに行くぞ」

 

 

⬛️⬛️⬛️⬛️

 

「お待たせしました!お預かりしたポケモンは、みんな元気になりましたよ!」

ジョーイの声が響き、スミレとサダコはそれぞれが回復のために預けたポケモンを受け取る。

「お主、ユンゲラーは持っておるじゃろ?」

「はい・・・・・・・・・まさか」

スミレがサダコの言葉で何かを察する。

「ちと面倒じゃが、回りくどい方法で、お主に約束のゲンガーを渡そう。使うのはお主のユンゲラーとワシがジム戦で使ったゴーストじゃ」

 

「・・・つまり、ゴーストとユンゲラーを通信交換することで進化させて、その後で再交換。それから私にゲンガーを渡す、と?」

「察しが良くて何よりじゃ。・・・では、行くぞ」

スミレとサダコはボールを通信交換の機械に乗せる。機械が起動してボールが機械の中に吸い込まれ、そして2人の元にそれぞれ相手のボールが渡される。

「・・・ゴースト」

「出るのじゃ、ユンゲラー」

スミレとサダコはボールの開閉スイッチを押し、互いの元に送られたポケモンを出す。ユンゲラー、そしてゴーストは一瞬の間を置き青白い輝きに包まれた。ユンゲラーはよりスリムに、ゴーストは足が生えてずんぐりとした体型に、そしてどちらもより強くなる。

「ディィィィン!」

「ゲンゲロゲェェェン‼︎」

ユンゲラーはフーディンに、そしてゴーストはゲンガーに。それぞれが新たな体と力を手に入れた。

スミレとサダコはボールにフーディンとゲンガーを戻すと、再び交換の機械にかけてそれぞれの元に返す。

「さて、やってくるぞ」

サダコはそう言い、ジョーイに声をかける。交換は機械により記録され、リーグで情報は管理されるが譲渡の場合は手続きが必要だ。手続きがされなければ、ポケモンの窃盗になるのでトレーナーは注意が必要である。サダコはジムリーダーを長年務めているため、簡単に申請を通せるだけの信頼があった。だから短時間で手続きは終わりそうである。

 

「あの、スミレさん・・・」

手続きをサダコに任せ、センターのロビーで寛ぐスミレに、サヤは意を決したように声を掛けた。カラカラはビクビクして、少し遠い柱の影からそれを見守っている。

「・・・何?」

スミレは少しだけ視線の冷たさを緩めて聞く。

「あの、カラカラのお母さんの件。ありがとうございました」

サヤはそう言って頭を下げるが、スミレとしては失敗なので礼を言われても困るとしか言えない。

「礼を言われる筋合いはない。仇討ちに失敗した以上、私は貴方とカラカラに合わせる顔がない」

スミレはそう言い、サヤを直視できないと目を逸らす。

「そんなの、私は望んでません!おじいちゃんは帰ってきて、カラカラのお母さんの仇は捕まった。それ以上なんて求めてませんよ!・・・ましてや貴方に手を汚させるなんて、絶対にダメです‼︎」

サヤはスミレの手を取り、涙目でそう言う。そんなサヤに、スミレは罪悪感を覚えた。

「・・・私もカラカラも、感謝してるんです。貴方は紛れもなく、私達のヒーローなんです。だから、そんなに自分を卑下しないでください!」

"私達のヒーロー"、その単語にスミレは自戒を強めた。

『絶対に負けてはならない、失敗してはならない、無欠でなければならない』

と。これはスミレの思い込みに過ぎないが、それでもこの瞬間のスミレは、的外れな誓いを胸に抱いた。そして憧れという光に目を輝かせるサヤは、その輝き故にスミレの闇に気付かない。

 

「・・・分かった、なら私は貴方達のヒーローでなくちゃね」

 

その言葉の裏の意味を、サヤは知らない。絶望への道と希望への道は逆方向だからだ。

 

「あの、お願いがあるんです」

サヤはスミレに、考えていたことを話す。

「カラカラを、預かって欲しいんです」

「・・・何故?」

スミレは困惑する。カラカラは現状、サヤの親の手持ちで、後にサヤに与えられると聞いた。だがそのサヤは、スミレにカラカラを預かって欲しいと言ったのだ。

「バトルを見てるとき、カラカラは怯えることを少しだけ忘れていました。それを見て思ったんです。・・・この子は、バトルがしたいんじゃないかって」

「実際、嫌悪感はあるだろうね。母親を殺されても怯えるしか出来なかった自分に」

スミレはそう冷静に返す。

「でも、私ではあの子が満足するくらいのバトルはさせてあげられません。自分にバトルの才能が無いかもしれません。だから、貴方にあの子を託したい。見ず知らずのポケモンの為に本気で怒れる、そんな優しい貴方に。その方がきっと、カラカラは幸せになると思います」

その言葉に、スミレは驚愕する。わざわざ相棒を持つチャンスを棒に振ってまで、この少女はカラカラの幸せを考えているのだ。普通のトレーナーなら、カラカラを育てて旅立ちのタイミングで手持ちに加えていただろう。だが、この少女はカラカラの為にカラカラを手放そうとしていた。それに対する、スミレの答えは

「だが断る」

ノーだ。

「そこをなんとか‼︎」

サヤはそう言って頭を下げるが、スミレの答えは変わらない。

「無理なものは無理。・・・大体、カラカラの意思は確認した?」

スミレの言葉に、サヤはハッとした。

「ぁ・・・」

サヤの口から、小さくそんな声が漏れる。スミレはカラカラに視線を向けると、問いかけた。

「貴方が選べ、カラカラ。貴方にはその権利がある」

カラカラは迷う。スミレは自分の母を殺した人間を倒してくれた人。サヤは苦しむ自分に寄り添ってくれた人。少し悩んだカラカラは、その人物の足元に縋り付くように抱きついた。

 

「カラカラ・・・・・・」

 

カラカラが選んだのは、サヤだ。

「それで良い・・・」

スミレは、そう呟く。

「私で、良いの?」

「カラ」

涙声でそう聞くサヤに、カラカラは鳴き声で応える。

「フジさんの一族は、大体が蔓系植物から取った名前。そのうち貴方の名前の元になったのはサヤエンドウ・・・、正式にはエンドウだね。エンドウの花言葉には、『いつまでも続く楽しみ』とか『約束』とかがある。でも今の貴方達に贈るには、ベストなものがある。それが『必ず来る幸福』というもの。今は悲しみ、傷ついても貴方達にはいつかきっと幸福が訪れる。だから、貴方がカラカラを育てなよ」

そう言うスミレは相変わらず無愛想だが、何処か暖かさを感じた。

「じゃあ・・・『約束』してください。いつか私とカラカラで強くなるから・・・そうしたら、本気の貴方と戦わせてください・・・!」

感動の涙で顔をくしゃくしゃにしながら、サヤは憧れの人にそう願う。

スミレはそんな、物語の主人公の様なサヤの姿と今の自分を比べ、自己嫌悪に陥るがそれを隠して、こう返した。

 

「うん・・・分かった」

 

と。その時の表情は、微笑みだった。まるで触れるだけで溶けて消えてしまう雪の様な、儚さを持つ笑み。2人はもう、光と闇の道をそれぞれ走り出してしまった。サヤは希望へ、スミレは絶望へ。行く先が真逆だと、サヤは知らない。スミレはまだ、絶対的な力があれば希望に辿り着けると信じている。

 

 スミレは知らない。ただ強さを求めた先にあるのは、希望ではなく、変えることのできない絶望だと。

 

⬛️⬛️⬛️⬛️

 

 シオンタウンの外は、見事なまでの快晴だった。ボールは5個、新たにゲンガーを手持ちに加え、ユンゲラーはフーディンに、フシギソウはフシギバナに進化して一気に手持ちが強化された。ワタルに貰ったタマゴは、孵化にはまだ時間が掛かるが孵化すれば手持ちが6匹揃うことになる。ゲンガーは現在、スミレの影に入っているためボールは空だ。スミレはあくまでも常人、ポケモンの技を受ければひとたまりもない上にロケット団との戦いが続いた為護衛が必要と判断したのだ。とはいえゲンガーにもバトルではしっかり仕事をしてもらわねば困る。ジム戦ではそれなりに強敵だったものの、サダコ曰くお調子者らしいので少々不安ではあるが、そこはスミレ自身の腕次第。力を得る為に今後はより一層鍛錬を増やすと決めた以上、彼も立派な戦力になってくれるだろう。

「・・・・・・もっと、強く」

スミレは一歩、歩き出す。その瞳に、執念の暗闇を宿して。

 

 

 

 




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