ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
日常回、兼ゲンガーの掘り下げ回になります。
ラッキー、たまごポケモン。ノーマルタイプで、卵を常に抱いていること、そしてそのタマゴの多くが無精卵で、食材として扱われることでも知られるポケモン。カントー地方等ではポケモンセンターに勤務しジョーイの助手として活動している為、ポケモントレーナーにとっては馴染み深いポケモンである。しかし一体、なぜここでその説明をしたのか?それは、スミレがシオンタウンからヤマブキシティに戻る道中で遭遇した、とある事件に由来する。
「ゲンガー・・・、フーディンをあんまり驚かせないで。この子はそういうの苦手だから」
スミレの呆れた声が草原に響く。時間はちょうど昼時、鍛錬をしていたスミレもポケモン達を出して昼食休憩中なのだが、のんびりとポケモンフーズを頬張っていたフーディンを急にゲンガーが驚かし、根が臆病なフーディンは驚いて皿ごとフーズをひっくり返し、ちょっとしたトラブルになったのだ。ゲンガーは悪戯好きの気分屋、スミレの言うこともその時の気分で無視することがある上に、度々他のポケモンに悪戯を仕掛けてはフシギバナかスミレに叱られていた。ゲンガー的には、年齢的にタマゴを除けば1番若いラプラスと、臆病なフーディンは良い反応をしてくれるため、ついやってしまうらしい。実際、スミレを含んでも最も標的になりやすいのはフーディンとラプラスだ。ちなみに、バタフリー相手にやろうとするとする前に察知されるし、フシギバナは基本無反応、スミレは少し肩が跳ねるがそれだけと、ゲンガーにとってお気に召す反応では無かったらしい。
「・・・全く、手のかかる子達だよ本当に」
スミレは面倒くさそうにため息をつき呟くと、フーディン用の昼食を作り直す為に腰掛けていた木の根から立ち上がると、リュックからフーズと木の実を取り出す。ポケモンフーズで栄養はある程度大丈夫だが、木の実がないと味にバリエーションが出ず、ポケモン達も飽きてしまう。人間の料理だと塩分過多などでポケモンの寿命を縮めてしまいかねないので、きちんと人間と分けて、尚且つ工夫をしなければならないのがトレーナーの大変な所だ。
「・・・さて、と。・・・・・・・・・ん?」
スミレが顔を上げると、つぶらな瞳と目が合った。自分の手持ちではないポケモン、ラッキーだ。珍しく腹のポケットにタマゴを入れておらず、手にはスミレがワタルから受け取ったタマゴが。
「なっ・・・⁉︎」
スミレは驚愕するが、それによって反応が遅れた。
「ラッキー‼︎」
探し物を見つけたと言わんばかりに、ラッキーは嬉しそうな声をあげると、タマゴをポケットに仕舞い込み、走り出した。
「チッ・・・!バタフリー、【しびれごな】」
スミレの指示でバタフリーは【しびれごな】を放つが、ラッキーはそれをものともせずに走り抜ける。
「フシギバナ!【はなふぶき】・・・フシギバナ?」
フシギバナに指示を飛ばすが、フシギバナは首を横に振って拒否する。
「バナァ・・・バナバナ、バナァ」
何を言っているかはスミレには分からないが、このまま攻撃すれば、孵化装置に入ったタマゴに被害が及ぶことに気がついた。
「・・・・・・ッ!」
失敗した、という思考が一瞬頭を過ぎり、スミレの表情が歪む。しかしその隙にラッキーは全速力で駆け抜け、スミレの視界から消えた。逃げ切られたのだ。
「・・・フーディン、お昼はとりあえず木の実で我慢して、終わってからいつもより豪華なの用意するから。後ゲンガーは減量」
少し前まで比較的薄れていた瞳の濁りが強まり、冷徹な雰囲気を醸し出す。
フーディンは投げ渡された木の実を急いで頬張り、自発的にボールに戻る。臆病なフーディンにとって、怒ったスミレはどうしても苦手なのだ。フーディンがボールに戻ったのを皮切りに、ポケモン達は一斉にボールに戻る・・・ゲンガーを除いて。
「戻ってゲンガー、それが嫌なら私の影に入ってて。どの道あの薄汚い盗人を潰す時、ゴースト技を無効化される貴方は使えない。少なくとも今、貴方の仕事はない」
余裕のないスミレはそう冷たく言い捨て、ゲンガーは不満げな表情を浮かべると、渋々と影に入る。スミレは苛立ちを感じながらも、直ぐにラッキーの逃げた方向に走り始めた。
【しびれごな】を放った効果があったのか、追うスミレでもギリギリ視界に映るくらいのスピードで、ラッキーは逃げていた。しかし方向は分かっても、追いつくなど夢のまた夢。スミレの身体能力は人並みだからだ。
(マサラ人なら、高速移動で追いつくことが出来たのに・・・・・・。こんな、出来損ないの体でなければ・・・!)
スミレの脳内を自己嫌悪が過ぎり、唇を強く噛み締めると、鉄臭い味が口に広がり不快感にさらに顔を歪める。
「・・・このまま追いつくのは、無理か」
スミレは悟る。ムキになって追いかけても、これ以上は無理だと。
「バタフリー。お願い」
「フリィ‼︎」
スミレはボールを放り、バタフリーを呼び出すと同時に指示を出す。バタフリーはそれに短く、そして力強く応えてラッキーが逃げ出した方向へ飛び去った。
◾️◾️◾️◾️
「ウチのラッキーが、本当にすみませんでした‼︎」
そう言って深々と頭を下げるのは、ラッキーを育てているブリーダーの男性。あのラッキーはつい先日、タマゴ(しかも子供が産まれる有精卵)を奪われていたらしくブリーダーが目を離した隙にタマゴを探しに抜け出してしまうのだそう。そして恐らく、スミレの元にあったタマゴを自分のものと勘違いして思わず持って行ってしまったのだろう。
「・・・別に」
スミレは冷たくそう言い、目を逸らす。現在、ラッキーはブリーダーの家で治療中。というのも、ブリーダーの家の近くで疲労と麻痺によって動きの鈍っていたラッキーに追いつき、フシギバナ、フーディン、バタフリーで取り囲んで拘束を試み、暴れたので鎮圧したのだ。なお、ゲンガーは参戦を拒否して影に立てこもっており、ラプラスは陸上なので出さなかった。スミレとしてはタマゴが戻って一安心、フーディンに軽食を作ってやらなくてはならないしその後は鍛錬とやる事は多い。なのでできるだけ早く離れてしまいたかった。
「ゲンゲロゲェン‼︎」
ブリーダーの元を去ろうと思ったその時、スミレの影からゲンガーが飛び出すと、笑いながらそのブリーダーに抱きついた。
「何やってるの・・・。すみません、ウチのゲンガーが」
スミレは呆れるが、そのブリーダーはハッと目を見開いて、確かめるように名を呼んだ。
「ゲンガー・・・。あの、ウチにいたゴースの⁉︎」
「ゲェェン!」
ブリーダーの言葉に、ゲンガーは何度も頷く。
「久しぶりだなぁ・・・!ゲンガーに進化したのか、元気だったか⁉︎」
「ゲェン、ゲェェン‼︎」
ゲンガーは喜びを全面に表現しながら、ブリーダーに頬を擦り付ける。
「はぁ・・・・・・・・・」
タイムロスの予感に、スミレは小さくため息をついた。
◾️◾️◾️◾️
ゲンガー・・・当時はゴース、は孤独であった。親に育児放棄を受け、愛情を求めて他のポケモンにちょっかいを掛けるようになり、いつしかそれが癖になって、更に孤独になった野生時代。そんな中で出会った、ある老婆に拾われ、そのポケモンとなった。その老婆は優しくて、悪戯にも笑ってくれて、美味しいご飯をたくさん食べさせてくれた。確かに、幸せだったのだ。でも、すぐにその老婆は亡くなった。突然の病気だった。老婆の家族はゴーストタイプなんて連れているからだと責めたて、彼を捨てた。ブリーダーは、そのゴースを老婆の遺族から引き取って、後にサダコに譲り渡した人物に当たる。そしてラッキーは、共に過ごした仲間だったのだ。
「・・・・・・なるほど、妙にしつこいのはそういうこと」
ブリーダーからゲンガーの事情を聞き、スミレは大きなため息をつくと言った。ゲンガーが悪戯を仕掛け続けた理由も分かり、そしてラッキーを追う時にボールに戻りたがらなかった理由も察することが出来た。きっと、気づいていたのだ。あのラッキーが向かう先に、自分の育ったブリーダーの家がある事に。そしてラッキー戦での戦闘拒否は、おそらくそのラッキーに見覚えがあったから。
「ラッキー・・・」
治療を終えたラッキーが、落ち込んだ表情でこちらに何かを話しかける。恐らく謝っているのだろうし、ゲンガーはそんなラッキーを勇気づけようと声を掛け続ける。
「ゲンガー、貴方が取る道は3つだ」
「ゲン?」
スミレは、面倒くささを感じつつもある提案をする。
「1つ目、貴方をここに置いていく」
ゲンガーは悩む表情を見せた。
「2つ目、ラッキーの事は気にせず先に進む」
今度は勢いよく首を横に振る。
「3つ目・・・、ラッキーのタマゴが取られた場所に行き、奪還を目指す」
ゲンガーは、驚いた表情でスミレを見つめ、頷く。
「ありがたいのですが、大丈夫なのですか?先を急ぐと聞いていますし、あそこはニドキングの群れが・・・」
ブリーダーの心配を他所に、スミレはラッキーを睨みつける。
「分かっていると思うけど、奪われたタマゴは基本食用だ。食われたらもう戻ってこない。行くだけ行っても良いけど、責任は取れない。そして取る義理もない。私が動くのは、あくまで私のポケモンであるゲンガーがそれを望んだからだ。それでいい?」
「ラッキー・・・」
ラッキーは、頷いた。
「なら、終わるまでコイツを預ける」
そう言ってスミレは、孵化装置からタマゴを取り出すとラッキーに渡す。ラッキーはそれを大事そうに、ポケットにしまった。
「・・・行ってくる」
スミレは、静かにタマゴを撫でて言う。撫でられたタマゴが少しだけ、揺れた。
「ゲェン?」
ゲンガーは訳が分からなかった。少なくとも自分は、スミレに嫌われていると思っていたしここで捨てられると思っていた。なのに蓋を開けてみれば、ラッキーのタマゴ探しに手を貸してくれるというのだ。
「・・・私は、貴方の性格が苦手。それは変わらないけれど、今の貴方は私のポケモン。ポケモンの為に動くのが、トレーナーの役目」
スミレは、すっぱりと言い切った。ゲンガーは、その姿から目が離せない。ゲンガーは、少しだけ分かった気がした。冷たく、捻くれた性格のこの少女が、サヤに慕われポケモン達に愛されている理由を。
「着いてこい、ゲンガー」
「ゲェェン‼︎」
小さく、脆く、それでも魅せられるその背中を追って、ゲンガーはブリーダーの家を飛び出した。ラッキーがタマゴを失った森を目指して。
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