ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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お久しぶりです。お待たせしました。前回から数日、時間を飛ばした後の話です


第43話 育児戦記

 ミニリュウ、ドラゴンポケモン。ドラゴンタイプにしてカントー・ジョウト最強のトレーナー、ワタルの相棒であるカイリューの進化前。飼育難度はドラゴン内では中の上くらい。比較的穏やかな性質で、ドラゴンの中ではまだマシな部類に入るが、そもそもの飼育例が他種と比べて少ないポケモン。そんなポケモンが、育児初心者のスミレの元で孵って数日、スミレは大きな壁にぶつかっていた。

 ドラゴンポケモンは、かなりの気分屋だ。下手な躾は反発を生み、甘やかされて育つと増長する。それによる死亡事故など相当な数起きている。

「ミニリュウ、起きないとご飯食べ損ねるよ 」

スミレが穏やかなトーンを維持して、声を掛ける。昨夜産まれたばかりのミニリュウには、数日はポケモン用のミルクを与える。およそ1週間くらいで離乳食に移行し、1ヶ月もすれば他のポケモン達と同じ食事が出来るようになる。わざ、という強力な力を持つポケモンは縄張り争いなどが過激な為、早く親離れできるよう進化したという説が有力だ。ポケモンの成長は人間よりも、はるかに早いのだが、その期間は随分と苦労することとなるので覚悟は必要だ。現に、スミレのミニリュウはボールから出しても寝転がって起きようとしない。因みに、生まれて以降毎日ミニリュウが度々ボールを飛び出しては夜泣きしたので、それをあやしていたスミレは完全に寝不足であった。

「リュウゥゥゥ 」

ミニリュウは、人間なら『あと5分……』とでも言っていそうな表情で微かな鳴き声をあげる。

「ダメ。起きなさい 」

「リュッ‼ 」

スミレは顔を引きつらせながら、努めて穏やかに声を掛けるも、ミニリュウは強情にも拒否の姿勢をとる。そして、同じやり取りがあと3回ほど続けられるのであった。

「リュウゥ〜 」

「ダメよ。ミルク、ぬるくなってもいいの? 」

スミレはミニリュウの眼前で軽くミルクを振ると、哺乳瓶の蓋を開けて匂いを漂わせる。

「リュ⁉ 」

強情なミニリュウとて、ミルクの香りと鳴る腹には逆らえない。鼻をひくつかせ、眠気で細めた瞳もろくに開けず、のそのそと起き上がる。

「フシギバナ……。他の子と連携して、ポケモン達の朝食の準備お願い ね 」

「バナァ 」

スミレがフシギバナに目線をやり、疲れたような声で指示を出すとフシギバナは素直に頷き、蔓を伸ばし朝食の用意を始める。脇からフーディンが顔を出し、その高い知能でもって記憶したそれぞれの過去の献立から、朝食の献立について指示を出す。バタフリーとゲンガーは周囲を探索して指定された木の実の採取、ラプラスは体の構造の関係で働けないので、見張りとして周辺の野性ポケモンに対して睨みをきかせている。育児に忙しく、ポケモン達の世話に手が回らない。それが、ここ数日の状況であった。

「……ほら、ミルク。行儀よく飲みなさい 」

スミレがそう呼びかけ、哺乳瓶の先を差し出す。寝不足と起こす際のやり取りで、スミレの声には既に色濃い疲れが見える。

「リュッ!!リュッ、リュッ、リュッ…… 」

ミニリュウは、凄まじい速さでスミレの膝上に乗ると、哺乳瓶に喰らい付いた。ゴクゴクと音を立て、慌てたようにミルクを飲み始める。

「ほら、慌てない……。起きたからちゃんとあるんだって…… 」

スミレが眉を顰めて言うも、ミニリュウはミルクに夢中で聞いていない。と、急ぎすぎたのかミニリュウが咽せた。吹き出したミルクが、スミレの服を汚す。

「…………ウン、ベツニイインダヨ、キニシテナイヨ。ツクリナオスカラ、マッテテネ 」

スミレは、引き攣った笑顔でそう言った。

(ああ、イラついてる……)

フシギバナは、額に浮かぶ青筋を見てスミレの本心を察し、内心頭を抱えた。これは想像以上にヤバイかもしれない、と。

 

 「はぁ…… 」

スミレは、大きなため息をついた。食事を終えた他のポケモンの食器は、蔓の扱いが得意なフシギバナと、腕が使えるフーディン、ゲンガーの3体が洗っている。皿洗いのできないバタフリーとラプラスは、既に少し離れた所で特訓を開始している。現在は、ラプラスの技をひたすらバタフリーが避けるという、ラプラスの技の命中精度向上と、バタフリーの回避能力向上を目的とした訓練だ。一方のスミレはというと、ミニリュウを膝に乗せて今度こそミルクを飲ませていた。先程の失敗で学んだか、流石に焦って飲み、噴出するような真似はしない。それでも、ため息を吐かざるを得なかった。幼いとはいえ、力自慢のドラゴンタイプで、しかもオス。食いつく力は凄まじく、哺乳瓶を持つスミレの腕から何度も取られそうになる。意地でも離さないのは、トレーナーが簡単に屈しては舐められるからである。

「お腹すいた…… 」

スミレは、朝から何も食べていなかった。理由は単純で、ストレスから食欲がなかなか湧かず、しかしミニリュウの世話を済ませようとすると、起きるにも駄々をこね、ミルクを飲めば焦って噴出した。しかも寝不足で判断力が低下したことで展開の先読みもままならない状況だった。そのせいで世話にさんざん手を焼いた挙句、朝食を食べ損ねる事態にまで発展したのである。ポケモン達は気遣ってくれたが、下手に口の中に突っ込ませて喉詰まりなど間抜けが過ぎる。その結果として、空腹に苦しみながらミニリュウの口に哺乳瓶を突っ込む10歳未婚女性の姿が誕生したのだ。

「リュッ、リュッ、リュッ! リュ〜♪ 」

ミルクを飲み干したミニリュウは、ご満悦な表情を浮かべる。

「ああ……うん、美味しい?そう………… 」

スミレは、疲れ切った表情でそう言った。ただでさえ、多大なストレスを溜め込んでいたのだ。憔悴するのも無理はなかったのである。

 

 

◾️◾️◾️◾️

 

 「はい! それでは検査させて頂きますね 」

「…………はい、お願いします 」

早朝の激闘を終えて、スミレはポケモンセンターにミニリュウを預けた。産まれてすぐのポケモンは、毎日の健康診断が必要とされる。その為ジョーイに一時的に預けなければならないのだが、離れるのを嫌がったミニリュウはセンター内で盛大に駄々を捏ねて泣き叫び、周囲に騒音を撒き散らすのはここ数日のお約束だ。その結果----

 

「……………… 」

死んだ目で待合室の椅子に座る、スミレの姿があった。その姿を表現するなら、真っ白な灰である。ミニリュウの騒音に文句をつけようとした者も、憔悴しきった10歳女児の惨状に言葉を失っていた。

「………… あぁ、なんであの子は 」

言いかけた言葉を、途中で飲み込む。それは決して、我が子同然のポケモンに対して言ってはいけない呪いの言葉。

「はぁ…… 」

「ねぇねぇ、お姉さん! 」

目の前に、無邪気そうな男の子が立っている。目をキラキラと輝かせて、スミレに話しかけてくる。

「何…… 」

ボソボソと返答する。無愛想になったが、疲れていてうまく猫も被れない。

「なんでそんなに嫌そうなの?かわいいじゃん 」

「は? 」

何を言ってるんだ、と思った。その少年も、その場で目撃していた筈なのだ。大騒ぎするミニリュウと、大人達に睨まれながら必死で頭を下げるスミレの姿を。こうして灰になって燃え尽きたスミレの姿を。思ったよりも低く、掠れた声が出た。

「もうユウタ! ごめんなさい、そんなに疲れてるのに……!」

母親が出てきて、ユウタと言うらしい少年を叱る。

「えぇ〜!でもでも、トレーナーは、ワガママなポケモンも大好きだってパパが言ってたよ!! だから、ポケモンがきらいなお姉さんはトレーナーじゃないね!きっとポケモンを悪いことに使う、悪い人だ! 」

「ユウタ!! 」

母親が怒鳴りつけるが、その時既に、スミレは腕を振りかぶっていた。フラフラの体で投げつけた育児本はユウタの顔を僅かに逸れて、壁に激突して落ちる。

「うわぁぁぁん!! 」

ユウタの目に涙が浮かび、すぐに泣き出す。周囲の目は、少年に危害を加えようとした、スミレを責める冷たい目をしていた。

「……これで、私は悪い人ってか 」

ポツリと呟いて、荷物を持つと未だに検査を続けるミニリュウなど気にも止めず、ふらふらとセンターの外へと歩き出す。

「あのっ!!うちのユウタが失礼を…… 」

母親が後を追おうとするが、スミレは何も言わない。自動ドアに近づくと、不意に立ち止まる。

「…………ぅあ 」

スミレの姿勢は次第に前のめりになって、スミレの視界は暗く閉じられる。そしてそのまま、スミレに反応して開いたドアの向こう、コンクリートで整備された硬い地面に倒れ込んだ。

 

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 」

誰かの叫びが、センターを揺るがした。

 

◾️◾️◾️◾️

 「はぁ…… 」

小太り体型な20代の男、カウンセラーのエトウは、眠るスミレを見て頭を抱えた。スミレの主治医であったエトウが呼ばれたのは、今回の一件が心労によるものだと判断されたためだ。

「すみません……ワシらの想定が甘すぎました 」

そう落ち込むのは、オーキド博士。スミレの両親は、エトウの判断で面会謝絶を言い渡されていたためここには居なかった。

「ホントですよ……。オーキド博士、アンタはポケモンにこそとんでもなく詳しいですが、ポケモン好きがすぎて人間が見えてない時があります。だからせめて、旅に出す前に僕に相談のひとつでも寄越してくださいよ。僕は彼女の主治医なんですから。まぁ、ユウタ少年を諭す姿は、流石だなぁと思いましたけど 」

エトウは呆れ顔でそう言い、博士は縮こまる。スミレにとんでもない発言をしたユウタは、親に散々怒られ、博士の話を聞いて反省した。とはいえ、エトウは患者への更なるストレスに繋がると、彼に謝罪の機会を設けない決断を下したのだが。

「……それで、あの子の状態は? 」

「寝不足と過労です。それがストレスで既に弱っていたスミレの体を蝕んでいます。あの子は責任感も強いし、完璧主義で自分を追い詰めがちですので、旅の過程で発生したトラブルにいちいちストレスを溜めたんじゃないですか?……女性看護師が確認して分かりましたが、保護スーツを着ていなかったと。身体保護のない状態で、身体保護ありの人間でも死ぬような環境を旅すれば、無意識にもストレスは溜まるでしょう し 」

「何!?着ておらんかったのか!?」

保護スーツ、それは常人がポケモントレーナーとなる上で重要な衣類である。むしポケモンの糸など、さまざまな繊維を使って作られた、見た目はただのインナーだ。しかし、そのショック吸収能力と耐久性は抜群で、ポケモンの攻撃から身体を保護してくれる、まさに防具であった。

「……そうみたいです。以前、スミレちゃんはポケモンバトルで負傷したと聞きました。その時に、ニビシティのタケシとその仲間の少女が医者にこっそり伝えていたようです。『スーツを着てないかもしれない』って。流石にタケシから本人に言うと昨今ではセクハラ扱いですし、医者から言われた方が相手も聞くと思ったんでしょうね。まぁ、結局このザマですが 」

「うぅむ……確かに、マサラタウンはその出自ゆえに超人ばかりの街じゃ。生身でポケモンの技を受け止められる者ばかりの町で、スーツについて触れる機会もそうあるまい。前のスクールではあのような事件もあった事だから、碌に教われんくても仕方がない 」

「はぁ……。ほんっと、面倒なことになるまでよくぞ放置してくれましたよ。彼女、多分ですがもはや簡単に手出しできない状況ですよ 」

スミレの寝顔を見ながら、エトウは苦々しい表情でそう言った。




常人がトレーナーとして生きていくで、必要な装備は既にありました。なんたって彼らは"常"人ですからね。彼らが基準値な訳ですから。マサラタウンは、その成り立ちから超人ばかりの町なのです。詳しくは、後に書きます。『ミュウツーの逆襲』編あたりで触れようかなぁと。超人とミュウツーって、割と存在が近いような気もしますしね

スミレに、育児ストレス追加です。

因みにアニメでのサトシのタマゴ育成がああやって上手くいったのは、タケシの存在が大きいと本作では設定してます。彼はブリーダーを目指していたため知識があり、しかも元ジムリーダーでトレーナーとしても経験豊富、さらには頼ろうと思えるママ力の持ち主です。更にサトシがタマゴを育てたのは、途中で持ち主が変更したトゲピーを除けばジョウトでのゴマゾウが初めてです。
カントー地方の冒険とオレンジ諸島の冒険を終えた状態だったため相応の経験値が積まれている状態で、しかも頼れる人が側にいたため、育成は上手くいったと本作では解釈させて頂きます。
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