ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
「……あのさぁ 」
スミレは、頭を抱えていた。この日、ミニリュウは石に向かって技を放ち、今後のバトルに向けた特訓をしていたのだが、スミレの周囲には目を回した沢山のラッタやコラッタ達が倒れている。ミニリュウがバトルに出られるように、スミレは技の的当てなどから特訓を始めようとしたのだ。他のポケモンにもミニリュウに気を配るよう指示を出して。しかし、スミレの指示や、先輩ポケモン達の指導がプライドを傷つけたらしく癇癪を起こし、周辺に【りゅうのいかり】を無差別に撒き散らした。その結果、森に住むラッタの群れが怒り、攻撃を仕掛けてきたのである。元凶たるミニリュウはスミレ達を置いて逃げ出し(すぐゲンガーに捕獲された)、スミレは荒れるポケモン達を宥め、謝罪するも群れのボスが流れ弾に被弾したらしく、怒りを鎮めることなく攻撃を仕掛けてきた。仕方なくスミレは武力による迎撃を指示し、その結果が、荒れ果てた森の一部と気絶したたくさんのポケモン達である。スミレのポケモン達は皆経験を積んで強くなったが、それなりに消耗してしまった。トレーナーとして、この結果を招いたミニリュウは怒らねばならない。
「……貴方、何のつもり? 」
スミレのトゲトゲしい言葉に、ミニリュウは涙目でフシギバナの体の影に隠れる。
「バァナ 」
フシギバナは宥めるように声を掛けるが、スミレには届かない。
「駄々こねて森のポケモンを怒らせて、そのくせに責任もって戦うこともせず逃げ出して。……周りを見なよ。フシギバナも、バタフリーも、ラプラスも、フーディンも、ゲンガーも。みんなあなたのせいで怪我したの。それに野生のポケモン達も。私たちの言葉も届かないくらい怒ってた。あのポケモン達は何を言ってるのか分からないけれど、バトルが始まる直前にあのポケモン達が見ていたのは、あなただった。元凶のあなたが反省しないから、こうなったのよ 」
「「そのとーり!! 」」
スミレの言葉に同意するように、聞き覚えのある男女の声が響いた。
「……なんで 」
「なんで、と聞かれたら 」
「答えてあげるが世の情け 」
「世界の破壊を防ぐため 」
「世界の平和を守るため 」
「愛と真実の悪を貫く 」
「ラブリーチャーミーな敵役 」
「ムサシ 」
「コジロウ 」
「銀河を駆ける、ロケット団の2人には 」
「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ! 」
「なーんてニャ!! 」
「なんで貴方達が…… 」
動揺するスミレに、ニャースは悪い笑顔を向ける。
「ピカチュウを追っかけてる最中に、おミャーを見たのニャ。ついでに探ればあら大変、ポケモンの世話に疲れているご様子なので、ニャー達が貰ってやろうと思うのニャ 」
「…………ふざけたことを 」
「おおっと!? 今間があったわね!? 」
顔を顰め吐き捨てるスミレに、ムサシは隙を見つけて噛み付く。
「悪いことは言わないから、さっさとポケモンを差し出すのが身のためだぞ 」
コジロウが幾分か優しめな言葉をかける。
「へぇ……。ポケモンを差し出すことが悪い話じゃないなら、悪い話の定義を教えてほしいものね 」
頭に血が昇った様子で吐き捨てるスミレに、ムサシは眉を一瞬顰めるもすぐに不敵な笑みを浮かべる。
「 あら、随分と余裕がないじゃない。そんなに怒ってちゃシワが増えるわよ 」
「俺たちは強いポケモンを手に入れられる、お前は厄介ごとから手を引ける。どっちにも得だと思うんだが? 」
ムサシの煽りとコジロウの説得を聞き、スミレは額に青筋を浮かべる。
「くだらない。私には義務と責任があるから。投げ出すわけにはいかない 」
「じゃ、交渉決裂ね。出てきなさい! 」
ムサシが手を打ち鳴らすと、何処からか複数のロケット団員が現れた。
「いつの間に…… 」
「ロケット団幹部、ランス様のお力添えだ。随分とお前のことが気に入らないらしい 」
コジロウの言葉に、スミレはかつて戦ったロケット団幹部の顔を思い出す。
「おミャーのミニリュウのおかげで助かったのニャ。ストレスで警戒心が薄れたから簡単に追跡できたし、ニャー達が誘導するはずだった群れを勝手に刺激してくれたお陰でこちらは万全で挑めるのニャ! 」
ニャースはそう言って得意げに笑う。
「……最悪 」
スミレは、そう呟いてミニリュウを睨む。殺意すらこもったその視線に、ミニリュウは顔を青ざめさせた。
「バタフリー、お願い! 」
瞬間、バタフリーの放った【サイケこうせん】が地面を穿ち、土煙を放つ。
「全員、脱出開始!! 」
それと同時に、ポケモン達が赤い光に包まれ腰のベルトに取り付けられたボールに戻り、スミレはそれを確認することなく走り出す。緊急脱出が必要な時のために教えておいた動きなのである。
(この場での戦闘は危険……!群れから離れて戦うしかない!)
行手を塞ぐ団員を押し除けて、スミレは走る。ハナから撒けるとは考えておらず、ただ傷ついたポケモン達から離れることが目的だ。
「何逃がしてんのよ! 追いなさい!! 」
ムサシの怒号を背に、スミレは一心不乱に逃げ出した。ただ1つの、忘れ物を残して。
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「おや? 」
コジロウは、それを見つけた。付近の岩に隠れようとして隠れられていない、青い影。ミニリュウだった。
「なるほど、ハナガールの奴、ミニリュウを置き去りか。いや、逃げる時の動きからして恐らくはあの動きは訓練していたものだろう。だがミニリュウは咄嗟に動かず、結果的に置き去りになってしまった、といったところか 」
コジロウはそう分析する。少なくともムサシとコジロウの2人は、ふざけたキャラクターの反面、教養人でもあった。意外にも働く頭脳をフル稼働すれば、状況判断など簡単にできるのである。
「全く、アイツは詰めが甘いのよ 」
ムサシはぶつくさと文句を垂れながら、怯えた目で自分達を見上げるミニリュウに向かって歩み寄る。
「おミャーはまた足を引っ張ったニャ。だから見捨てられたのニャ。だから、ニャー達と一緒に来てもらうのニャ 」
ニャースの呼びかけに、ミニリュウは暗い顔で少し考え込む素振りを見せた。
「リュウ…… 」
その一言と共に、ミニリュウは泣きそうな顔で頷く。
「「「え…… 」」」
求めていた、しかし予想外の答えに、2人と1匹は固まった。
◾️◾️◾️◾️
スミレは焦っていた。敵はムサシ、コジロウ、ニャースの3人組にプラスで8名、8名はそれぞれ1個ずつモンスターボールを腰に付けているため、ニャースを含めてポケモン11体のポケモンを相手にしなければならないということだ。その状況がスミレのただでさえ余裕のない精神に焦りを加え、結果としてスミレは未だミニリュウを置き去りにしてしまったことに気付いていない。実際のところ、スミレはミニリュウに対して避難の仕方は何度も何度も教え込んでいた。スミレは常人、超人のように強くはないため、普段から訓練していたのである。そのため緊急時の動揺の中で的確な指示が出来た訳だが、ミニリュウの状況を見逃す辺り未だスミレは未熟であった。
「へっ……。アイツらは甘いが、俺たちはそうはいかねぇぜ。ゴルダック!! 」
「馬鹿な自分を恨めよ、行け! ゴルバット!! 」
「私達大人を舐めると痛い目に遭うわよ! 行けぇ、モルフォン!! 」
「まだガキだが、売れば金になりそうだ……。行ってこい、マルマイン! 」
「行きなさい、ストライク 」
「……お前、殺す。…………レアコイル 」
「やれぇ、ゴーリキー!! 」
「暴れろ、ギャロップ!! 」
8人はそれぞれポケモンを出す。腰のボールから考えると1体ずつだが、どれもそれなりに育てられている。少なくとも人数差や消耗から考えると、圧倒的に不利な状況であった。
「……ラプラス、バタフリー 」
「ラァ!! 」
「フリィ! 」
ボールを投げると、ラプラスとバタフリーが飛び出した。
「バタフリー、周囲を飛び回りながら【しびれごな】。ラプラスは【みずでっぽう】で援護して 」
その合図と共に、バタフリーは傷ついているとは思えない俊敏さで敵の周囲を飛び回る。邪魔するポケモン達を、ラプラスの【みずでっぽう】が妨害し、バタフリーが動くだけの隙を作る。その間に行動したバタフリーが【かぜおこし】を起こし、それによって巻き上げられた【しびれごな】が、レアコイルを除く敵全体を【まひ】状態にした。
「……レアコイル、【10まんボルト】」
ロケット団員がレアコイルに指示を出し、レアコイルは全身に電気を纏わせ、放った。
「ラァ!! 」
それに合わせるように、ラプラスは【みずでっぽう】を撃つ。空中で2つの技がぶつかった。技のタイプ相性、そして威力では、【みずでっぽう】が劣る。そして、電気の性質上、電気は水を通しやすい。そのため、【みずでっぽう】を食い破るように【10まんボルト】は進んでゆく。
「……【みずでっぽう】を地面に落として 」
そこに、スミレの指示が通った。ラプラスは、迷いなく水流を地面に叩きつけた。すると電流は水流をすり抜けるように勢いよく駆け抜け、誘導されるがままに地面に叩きつけられると、小さな爆発と共に消滅する。
「ラプラス、【こごえるかぜ】。限界まで撃ち続けて 」
「ラァァァァ! 」
ラプラスの口から放たれた凍てつく風が肌を刺す。ポケモン達はただでさえ麻痺状態だというのに、更に素早さを削られた。
「バタフリー、【サイケこうせん】。狙撃して 」
「フリィィィ!! 」
こおりタイプの技は、ひこうタイプを持つバタフリーには効果抜群だ。しかし、この状況においてバタフリーはそれに拘ってはいなかった。バタフリーは迷いなく自身にも害を及ぼす氷の風に突っ込むと、虹色の光線を連続で発射しながら飛行する。真っ白い視界の中から的確に放たれる【サイケこうせん】は、敵に並々ならぬダメージを与える。
「クッ……!ゴーリキー、【かいりき】!! 」
「馬鹿野郎、暴れるな!! 」
効果抜群の技を受け、他よりも甚大な被害を被ったゴーリキーのトレーナーが、焦って技を指示する。他の団員が止めるのも聞かずに放たれた【かいりき】は、ギャロップとマルマインを巻き添えにしつつも、偶然にバタフリーを直撃する。
「……不味いっ。バタフリー! 」
「フリィ……! 」
バタフリーは、スミレの声に弱々しく答えながらもよろよろとスミレの元へ帰還する。
(ラッタ狩りの消耗が痛い……。経験値で強くなったとはいえ、これじゃあ不味い。それに、【こごえるかぜ】のダメージも酷い。あと一撃で瀕死ってところね。…………なら)
「バタフリー、その場で【サイケこうせん】を限界まで撃って。ラプラスもそのまま撃ち続けて。ダメージの蓄積でどうにか潰す 」
「フリィ……! 」
「ラァ!! 」
「悪いけど、瀕死になるまでお願いね 」
スミレの冷徹な言葉にも、ラプラスとバタフリーは笑って頷いた。ラプラスにとってスミレは孤独の傷を舐め合える人だから。バタフリーにとっては絶対の主君であるから。たとえ伝わっていなくても、たとえ一方通行だったとしても、彼らにとってスミレは大切なトレーナーであった。
「ストライク、【れんぞくぎり】!! 」
甚大なダメージを受けながらも高速で突進したストライクが、【サイケこうせん】を浴びて再び効果抜群の氷の風の中に消えてゆく。
「モルフォン、【ぎんいろのかぜ】 」
「ゴルバット、【かぜおこし】 」
モルフォンの放つ風が、僅かに氷の風を押し返した。
「…………ラァァァァァァァァ!!!! 」
ラプラスは、叫んだ。負けてなるものかと。モンスターボールの中から、ロケット団に負けたヒマワリの姿を見たことがある。スミレが直視できないほどの眩しさをもつ明るさが消えた表情を、ただでさえ絶望の崖っぷちで苦しむスミレに与えてなるものか、と。
健気な気合いによって、風は勢いを増した。火事場の馬鹿力というやつなのか、吹雪とも見間違えんばかりの火力で放たれた【こごえるかぜ】が、敵の足止めと攻撃を同時に成し遂げる。特に、むしタイプやひこうタイプ持ちは悲惨だ。ゴルバット、モルフォンは大ダメージを受け、ストライクは戦闘不能となり崩れ落ちる。
「ラプラス…… 」
スミレは、その勇姿を僅かに希望を抱きながら見つめーーーー風を突っ切ってラプラスを吹き飛ばしたギャロップの姿を、呆然と視界に収めた。
因みに、敵の中で最も強いのはギャロップです