ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
ぼくのおかあさんは、ぼくとちがつながってない。ぼくはぽけもんでおかあさんはにんげんで、まったくちがう。でも、ぼくをそだててくれたのはおかあさんだ。だから、ぼくはおかあさんがすきだ。
おかあさんは、ずっとかなしそうにしてる。ぼくがうまれたときは、うれしそうだったのに。ずっとくるしそうで、どんどんくるしさがふえてるようにみえる。おかあさんのごはんはおいしいけど、おかあさんがたべものをきるどうぐをじぶんのくびにむけてるのをよくみる。まいかい、くびをよこにふってやめるけど。やってあげればよろこぶかとおもったら、ふしぎばなにおこられた。それをしたら、おかあさんはしんでしまうらしい。
ねているとき、よくこわくなっておきる。でも、そんなときはいつもおかあさんがおきて、ぼくがねるまでいっしょにいてくれる。ばたふりーはよくないといっていたけど、おきちゃうのはしょうがない。さびしかったんだから、どうにもならない。みるくをいやがってみたり、だだをこねたけど、ぼくはわるくない。だって、きぶんじゃないのにむりやりやろうとする、おかあさんがわるいから。おこってたら、おかあさんは、もっとくるしそうになった。
ぽけもんせんたーっていうところにあずけられて、からだのいろんなところをみられたり、ちゅうしゃをさされたりした。だから、おわったらお母さんにおこってもらおうとおもってた。でも、おかあさんがたおれたってきいた。おかあさんがたおれたのをしったとき、ぼくをいじめていたおねえさんはとてもおこってた。ぽけもんりーぐっていうところにでんわをかけて、なにかおこってた。つぎにそだてやさんにでんわをかけた。そだてやさんがなにかはしらないけど、ぼくをおかあさんからはなそうとするらしい。おこってこうげきしようにも、おんなのひとのつよいぽけもんがいるからうごけなかった。そだてやさんにあずけるのを、おかあさんがことわってくれたのはうれしかった。とてもくるしそうだったけど。
ぼくは、つよくなろうとおもった。ぼくいがいは、みんなぼくよりつよい。そして、おかあさんもくるしそうなかおがほんのすこしだけやわらかくなる。だから、れんしゅうをがんばった。なのに、ほかのぽけもんたちは『あせらなくていい』っていう。ゆるせなかった。だからこうげきしたら、たくさんのぽけもんも、そしておかあさんもおこらせた。ぼくはわるくないのに。
いま、ぼくはおかあさんにおいていかれた。ぼくはもう、いらないこなんだとおもった。
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ニャースの翻訳の元で話を聞くと、大体そんな感じだった。スミレとミニリュウのすれ違いに、敵のことといえども頭が痛い。
「あのさぁ……アイツも悪いけど、アンタだって悪いんじゃないのよ」
「リュッ!? 」
ムサシは勢いよくミニリュウを指さすと、額に青筋を浮かべて言った。
「アンタ、自分ばっかり子供だなんて思って甘ったれるんじゃないわよ。確かにアンタにとってハナガールはお母さん、でもアイツは人間の中ではまだまだガキ。アンタと同じように、母親に甘えてていい歳のガキなのよ。しかも、アンタらポケモンと違って成長が遅い。だから、アンタが好き勝手するたびに他のポケモン達はアンタを叱ってたのよ。その癖なんにも聞かず、相手のことも考えずにワガママばっかり。くるしそうなんて、アンタが苦しめてるんじゃないの。さっきだって、アンタが癇癪起こして勝手に暴れて、しかも『自分は悪くない』なんて言ってるからたくさんのポケモンを怒らせた。ハナガールだって怒るわよそりゃあ。アタシなら2日で捨ててるわ 」
コジロウも、難しい顔で頷きつつ言った。
「お前が生まれたばかりなのは知ってる。でも、それはなんでもしていい訳じゃない。悪いことをすれば怒られる、それはヒトもポケモンも同じだろ。アイツも、悪いところはあったと思う。でもそれは、アイツが1人で抱え込むもんじゃないし、お前に責められるべきことじゃない。子供らしく " 大人 " にちゃんと話して、ちゃんと叱られなきゃいけないんだ。お前をハナガールが何度も叱ったように。そして、お前もまた叱られなきゃいけない。お前はワガママを一方的に言いすぎたんだ 」
2人の言葉に、ミニリュウはバツの悪そうな表情を浮かべる。そんなミニリュウに目を合わせて、ニャースは笑った。
「ミニリュウ、ニャーは思うのニャ。ポケモンとヒトは、助け合いだって。ニャーはこうやってお話ができるけど、それでもニャーはポケモンなのニャ。ニャーはニャースの群れにこそ居られなかったけど、人間の仲間達はこうして当たり前のように一緒に居てくれたのニャ。そして、居場所をくれた人が居たのニャ。だからニャーは仲間のため、ボスのために頑張るし、ムサシもコジロウも、ニャーを当たり前のように受け入れてくれるから、ニャーにできないことはやってくれるし、一緒に戦ってくれるのニャ。…………おミャーは、ハナガールの為に何ができるのニャ? 」
「リュ!!リュリュリュウリュ!? 」
ミニリュウが何事かを反論するが、ニャースは難しい表情で首を横に振った。
「『子供のままでいたらダメ』なんて一言も言ってないニャ。ニャーが言いたいのは、どっちも子供なんだから、仲良くしなさいってことなのニャ。ムサシもコジロウも、おミャーだけを責めてるわけじゃないのニャ 」
「むしろ、『子供のままでいたらダメ』なんて、ハナガール辺り言われてそうよねぇ 」
ムサシが、うへぇっと顔を盛大に顰めてぼやき、コジロウは冷や汗をかいて目を逸らす。
(本当にありそうなんだよなぁ…………)
コジロウは、内心そう思う。コジロウ的には、スミレの姿は定められたレールの上から逃れることを許されなかった、かつての自分と重なって大いに同情し、目を掛けているしなにかと心配している自覚はある。だからこそ、彼女の心に潜む影が、少しだけわかる気がするのだ。
「リュウ………… 」
「『どうすれば』なんて、やれることはひとつニャ。喧嘩したら仲直り、それから悪いところをがんばって直していくのニャ。でも、それはおミャー達だけじゃ無理なのニャ。おミャーもハナガールも、お互いの気持ちが分からないからニャ。仲直りは、話の分かる大人を間に入れてしっかり話すか、長い時間が掛かってでも自然と仲直りできるのを待つか。どちらにせよ、直接会わないことにはどうにもならないニャ 」
「俺は要らないぞー。こんなミニリュウ 」
「そーね、アタシらじゃこんな暴れん坊は手に負えないわ 」
「そーなのニャ。しょうがないから、ニャー達がハナガールの元へ帰してやるのニャ 」
やれやれ、といった風に3人は気球に乗り込む。目指すは、スミレが逃げ出した先だ。
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「やるじゃねぇか。残ったのは俺のギャロップにコイツのレアコイルだけ。トロいあの3人組は放っておいても良さそうだなぁ 」
ギャロップのトレーナーがそう言って笑った。周囲に下品な笑い声が響き、スミレは不快そうに眉を顰める。
「敵は排除……。それは僕らの仕事 」
ボソリ、と呟くのはレアコイルのトレーナーだ。ボサボサの髪の下から覗くその目は、静かにスミレを見つめている。
「私のフシギバナは負けない。私が負けちゃいけないこと、分かってるから 」
スミレは2人を睨みつけて言った。その言葉に、ギャロップのトレーナーは手を叩いて笑い、レアコイルのトレーナーは小さくため息をついた。既に負けた団員達も、大笑いしている。
「……何がおかしい!? 」
スミレは憤慨する。
「はっはっは…………。いやぁ、面白い。お前、まだ勝てると思ってんのな 」
ギャロップのトレーナーは小馬鹿にして言った。
「……ギャロップとフシギバナじゃ相性最悪、さらに僕のレアコイルもいるしフシギバナは既に消耗してる。手持ちも残りはフシギバナ1体のみ。客観的に見て無理だと思うけど 」
レアコイルのトレーナーは、静かにスミレを睨みつけた。2人の
「……まだ、負けて、ないもん。私は、勝たなきゃ、いけないもん 」
声を震わせて、スミレは言った。勝てなければ無事では済まない、というのは分かっている。しかしそれ以上に、スミレ自身の拘りを突き通したかった。負けとは即ち失敗。負け犬になった自身は、見捨てられるとスミレは思っていた。
「…………キミは、殺してやったほうが幸せかもね。【10まんボルト】 」
レアコイルは全身に電気をたぎらせると、それを一気に放出する。
「フシギバナッ……! 【タネばくだん】!! 」
種の爆弾が、電気によって誘爆され激しい爆発を起こす。
「ギャロップ、【とっしん】!! 」
ギャロップの突進が、フシギバナの体に突き刺さる。フシギバナの体は引き摺られて後退するが、自慢の巨体でなんとか踏み止まる。
「【どくのこな】!! 」
「バナァ!! 」
フシギバナの体から噴き出した毒の粉が、ただでさえバタフリーにより麻痺を付与されていたギャロップの体を蝕む。
「チィッ!! やりやがる!!!! 」
ギャロップのトレーナーが毒付く。
「レアコイル、【でんき】…… 」
「捕まえて! 」
レアコイルに出されかけた指示を掻き消すように、スミレの指示が響いた。蔓がレアコイルを捕まえ、そのまま地面に叩きつける。
「……レアコイル、そのまま【10まんボルト】 」
「バナァァァ……!? 」
叩きつけられながらも放たれた電撃は蔓を伝い、フシギバナを苦しめる。
「よくやったァ! ギャロップ、【かえんほうしゃ】!! 」
その指示でスミレは咄嗟に目を服の袖で隠す。その直後、放たれた炎がフシギバナの体を飲み込んだ。
「バナァァァァァァァ!? 」
フシギバナは全身に大きなダメージを受け、体のあちらこちらに焦げたような傷を付ける。
「フシギバナ………… 」
炎の燻る音が微かに聞こえる。スミレは、傷ついたフシギバナを呆然とした表情で見つめることしかできない。
「バァ…………ナァ………… 」
弱々しく微笑むフシギバナ。その表情でスミレは全てを悟り、フシギバナの額を優しく撫でる。
瞬間、フシギバナは見た。まるで散ってゆく花のような、儚げな美しさを持つその笑顔を。
「……お願い、【はなふぶき】」
「……! バナァァァァァ!!!! 」
フシギバナは、一瞬の躊躇いの後に花吹雪を解放した。本来のバトルとは違う、射程圏内に自身のトレーナーがいる状態での【はなふぶき】。いつものような、心因性の暴走。それが、命の危機という状況によって、また別の意味を持って発動されたのだろう。そうと分かっていながらもそれに従う自身を、フシギバナは最低だと思う。だが、それでも撃った。ヤケクソ混じりの叫びと共に。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 」
花吹雪に呑まれたスミレの絶叫が響き、フシギバナは苦しげな表情でせめてものと目を閉じる。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ!! 」
「…………イカれてる。ぐぅっ……! 」
スミレを吹き飛ばしながらも荒れ狂った花弁の嵐が、追撃をしようとして麻痺で痺れ動けないギャロップを、そして電撃で迎撃を試みるレアコイルを、あっという間に吹き飛ばす。そのトレーナー達も、遠距離で軽く攻撃を貰い、ダメージを負った。諸刃の剣ながらも、【はなふぶき】はここぞの場面で効果を発揮したのである。そして花の嵐は、全てを巻き込んで爆発した。
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「…………フシギ、バナ 」
ポツリと声が聞こえた。フシギバナは、すぐ隣に倒れるスミレに視線をやる。薄目を開けてフシギバナを見つめるスミレは、衣服もボロボロのズタズタで、全身土まみれの血まみれになっていた。見れば、貰ったはずの保護スーツも着ていない。どうやら、反抗心でしまったままにしていたらしい。普段のフシギバナなら怒るところだが、今回ばかりは勘弁してやることにする。
「バナァ…… 」
フシギバナは、気だるさに身を任せるように、その場に寝転んだ。背中から蔓を伸ばし、スミレの頬を撫でる。スミレの頬を伝う涙は、血と汗と土で汚れに汚れた顔でも、まるで宝石のような美しい光を保っている。スミレは、弱々しく呟いた。
「……ごめんね、フシギバナ。……わたし…………負けちゃった 」