ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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なんか、他の小説には高評価を多く入れてる人に低評価を入れさせてしまっている現状というのは、少しばかり悩ましいですね。読む人を選ぶタイプなのは自覚してますが……


第49話 後始末: 前編

 ポケモンとヒトの交わり。それはただ友として、隣人としてあり続けた訳ではなかった。その身ひとつで天変地異を起こせる、そんなポケモンの力を、人間達が兵器に利用しない訳がなかったのである。それが、小さな村の因習を元に改造され、人間兵器として量産。世界的に流行したその兵器は、戦乱を終えた世界に散らばり、様々な要因でその数を増やしていた。中には、スミレのようにポケモンの血を輸血することで超人化した例もある。スミレの場合は、医療用のため最低限ではあるのだが。それでも、オーキド個人の感性では手段を選んで居られないと分かっていても、あまりそれを好んでいなかった。

「あの子は……超人に対してコンプレックスを持っていました。だからきっと、受け入れてくれると思います 」

オーキドは、そう返すのがやっとだった。厳密に言えば、超人とは違う。ポケモンの血を少量輸血する程度なら、多少常人から外れた身体能力や耐久性、治癒力を得るがそれは超人に届かない程度に留まる。スミレのコンプレックスが解消されるほどの効果はない。

「そうですか……。では、後ほど保護者様も交えてご説明させて頂きます 」

医者は、そう言って頭を下げると先に進んでいるベッドを追いかけ、歩いて行った。

 

「「ふぅぅぅぅぅ…… 」」

オーキドもコジロウも、へたり込むように椅子に座り込んだ。何はともあれ、スミレは無事だ。それが分かって、少しばかり気が抜けたのだった。

 

◾️◾️◾️◾️

 ギャロップが、木に叩きつけられて力尽きる。ターゲットを取り逃した後、本部への通信機器を【はなふぶき】で破壊されたことで裏切り者の報告もできず、傷ついたポケモン達を回復させて居たのだが、ジムリーダー、エリカ率いる一隊の襲撃を受けた。モルフォン使いの女とゴーリキー使いの男を捕らえられながらも、移動に持ち込んだ自動車を使い、遠い森の中に逃げ込んだ。ーーそれが悲劇の始まりと知らずに。

「ゴルバット、【いやなおと】!! 」

「ストライク、【つばめがえし】!! 」

攻撃や妨害をものともせず、そのポケモンーーニドキングは突進する。目標とするのは、ゴルダックのトレーナー。ニドキングの鼻には、その男の手からする匂いを感知していたのだ。その匂いとは、血の匂いが混じった、覚えのありすぎる少女の香り。それを嗅ぎつけられた結果は、ニドキング率いる群れの一斉攻撃。車は壊され、仲間もポケモンもズタボロだ。さらに、エリカ率いるトレーナー部隊からの追跡から逃げ出した後だったので、消耗している。

「クソッタレ……! これじゃまるで、逆じゃねぇかよ!! 」

ポケモンの群れによって消耗し、その隙を突かれて敵に敗れたスミレ。そして、敵によって消耗し、その隙を突かれてポケモンの群れに敗れる自分達。敗北の結末は同じでも、その過程は全く反対であった。

「キィングゥゥゥ!!!! 」

ニドキングが吠え、地面を足で踏み鳴らす。放たれたのは、【だいちのちから】。地面から噴き上がるようなエネルギーが、ゴルダックを跳ね飛ばす。そして続いて跳躍し、【メガホーン】がゴルバットを捉える。

「……不利。退却するぞ、レアコイル 」

見切りを付けたレアコイルのトレーナーは撤退しようと振り返り、どこからともなく飛んできた蔓に絡め取られた。

 

「あらあら、どこにお逃げなさいますの? 」

穏やかに、しかしどこか圧迫感を感じる笑顔を浮かべた、ジムリーダーのエリカが歩み寄る。蔓を放ったのは、エリカのフシギバナ。スミレのフシギバナとは、威圧感が少しばかり違う。更に、傍に控えるウツボットとナッシーが、油断なくロケット団達を睨みつける。

「テメェ……! 」

ゴルバットのトレーナーが悔しげに呟く。前門のニドキング、後門のエリカ。そして周囲には、ニドキングの群れに属するポケモン達やジムトレーナー達が展開している。

 

そしてこちらには、救援が来ない。

「話によると、こちらのニドキングはスミレさんのポケモンでもあるのだとか。即ち、あなた方が散々いたぶった結果が、ニドキング王の怒りです。あなた方が大人しくなさるまで、王もわたくしも、周りの者達も、手を緩めるつもりはありませんが、どうなさいますか? 」

 

「……………畜生!!!! 」

要は、詰み。悔しげな叫びと共に、ロケット団は投降を選んだ。

 

 

 

「なるほど……ええ、ええ。分かりました。ありがとうございます 」

エリカは、どこからかの電話を取り、何かを話す。場所は、ブリーダーのアカマツが経営する店。ジュンサーを既に呼び付け、団員達は既に連行されている。

「……エリカ様! 」

ジムトレーナーの1人が、痺れを切らして催促をする。

「スミレさんは、一命を取り留めたとのことですわ。目覚めるにはまだ時間が掛かるようですが、ひとまずご無事です 」

その言葉に、店に集まっていたトレーナーやポケモン達がワッと一斉に沸く。ジムトレーナーとしても、未来ある少女の命が助かったことや、同僚の1人がA型のため輸血に行っていたためそちらにも何も無かったようで、安堵したのだ。

「ふぅー……全く、ドッと疲れが出たわね 」

「全くだニャ…… 」

一気に力の抜けたムサシとニャースは、正座で痺れる足から意識を逸らして言った。襲撃はこの2人とここには居ないコジロウに原因があるが、それでも後の対応で大手柄を立てたことで、ニドキングからの制裁が長時間正座(ニドラン、ニドリーノ、ニドリーナによる嫌がらせあり)だけで済んだのだ。

「さぁ、素早く撤収いたしますわよ。戻ってもやることがありますからね 」

両の手を打ち鳴らしたエリカに従い、ジムトレーナー達はタマムシシティに帰る準備を始める。

「ほら、行くわよ 」

「立ちなさい 」

ムサシとニャースも、そう声をかけてきたジムトレーナーに手を引っ張られるがままに立ち上がり、痺れる足を懸命に動かすと、移動に使った車へと戻って行った。ムサシとニャースは、チラリと目を見合わせて小さく笑った。

 

 

◾️◾️◾️◾️

 「頼みがあるんじゃが 」

『あのスミレとかいう小娘のことかい? 』

「なんじゃ、知っておったのか 」

オーキドは、電話を掛けていた。その相手は、オーキドにとっての因縁のライバルであり最も彼女を預けるに相応しい相手だ。

『ガラルチャンピオンがカントーに紛れ込んだ時に戦った話は、リーグにも上がってきてるのさ。それに、サダコのババアが迷惑を掛けたから知っていてもおかしくはないだろう? マチスやカジキ、それにワタルからも聞いているが、才能は間違いなく一級品さね。ただ、碌な目に遭ってないようだから、そのうち死にそうだね 』

「ウム、ワシらが不甲斐ないばかりにな 」

『馬鹿だね、アンタ。お偉い学者様ともあろう者が、人間の状態ひとつ観察もできないのかい 』

チクリと刺されるが、オーキドとしても返す言葉はない。

「お前に言われるのは癪に障るが、今回ばかりは言い返す言葉もないわい 」

『ふぅん……。で、あたしは何をすればいいんだい? ロケット団の馬鹿共の襲撃で死にかけたって連絡は来てたが、ワタルの小僧め、随分と焦っていたよ 』

「そりゃあ何とも…… 」

『ミニリュウの一件で悩んでいたところにコレだからね。ミニリュウに関しては擁護しないが、流石に同情するよ 』

「それで、お主に頼みたいんだが。もしあの子が望んだら、スミレを鍛えてやってくれんか?あの子はまだ起きておらんが、起きた後でなんらかの処分を受ける可能性は高いのじゃ。じゃから、強くなれる道筋は残してやりたい 」

『処分は確定だよ、そこまで重くはないがね 』

「……そうか 」

『危険行為は危険行為さ。どちらかといえば、フシギバナによる自身のトレーナーの殺害未遂の責任を取る形になるね。……例えアンタやワタルの小僧のお気に入りだって、お姫様扱いするわけがないのさ。それが、組織を組織として運営してゆくってことさね 』

「……分かっているわい。これはワシら大人の怠慢が招いたことじゃ」

『分かっているじゃないか。まぁ、今回アンタは無関係だからね。アタシとしては残念だが、お前はお咎め無しだよ 』

「一言多いのぉ…… 」

オーキドは、電話の相手からチクチクと刺される言葉に思わず笑みを浮かべた。

『まぁいいさ、アタシにも人でなしとはいえ師匠が迷惑かけたからね。アイツとアイツのポケモン、暇な時にでも鍛えてやるよ。アイツ自身の心次第ではあるがね。ま、四天王で真っ先にアタシに声を掛けたのは評価してやるよ 』

「カンナやシバだと根本から合わんし、ワタルはバトルになると加減を知らん。……認めるのは癪だが、お前に頼るしかないのじゃよ、キクコ」

電話の相手ーーカントー地方四天王が1人、ゴースト使いのキクコは珍しくしおらしい宿敵の姿にニヤニヤと笑いながら、その頼みを承諾する。その脳内では、限られた情報からスミレという少女の姿が構築される。

(カンナやシバとは合わない、か……。アイツらはなんだかんだで恵まれた人間、" 恵まれていない人間の価値観 " を理解できていない節があるからね。なるほど、余程コンプレックスの強い人間らしい。それに、ジム戦やダンデの小僧との一戦での繊細でトリッキーな戦術。常人の肉体でも一人旅を選択する豪胆さ。……なるほど、考察のしがいがあるね)

「……くくくっ、年甲斐もなく楽しみになってきたよ 」

そう1人笑うキクコの妙に長く延びた影から、多数の瞳が瞬いた。

 

◾️◾️◾️◾️

「ロケット団が逃げたぁ!? 」

ジュンサーの悲鳴にも似た声がポケモンセンターに響いた。スミレ襲撃の犯人のうち、逃げ出したのは一時的に手を組んでいたムサシ、コジロウ、ニャースの3人組。まずムサシとニャースが、密室内で煙玉を爆発させて視界を塞ぎ、視界確保のために窓を開けた隙に車外に逃げ出し、さらにそこでも煙玉を投げ、まんまと逃げおおせたのである。そしてその足で病院のコジロウの元へと向かい、スミレの眠る病室にいつの間にやら書いていた手紙を1通投げ込み、スタコラサッサと逃げ出したのである。彼らとしては、責任を感じてこそいるがそれはそれ、これはこれ。捕まってやる気は、さらさらなかったのである。

「……申し訳ございません。わたくしの失態です 」

苦虫を噛み潰したような表情で、エリカは呟く。罪悪感に駆られて自首してきた、比較的善良な人物という印象があったため、周囲のジムトレーナーも少しだけ油断してしまっていたのである。

「ああぁぁ……ホントに処分免れない奴ですよぉぉぉ。何やってるんですかぁ…… 」

ジュンサーが頭を抱えて蹲った。今回のロケット団襲撃は、ジムリーダーエリカが警備を統括する範囲内の出来事だ。それが、子供1人に重傷を負わせ、しかも手元にいた団員の一部をまんまと取り逃した。リーグ全体の信頼を損いかねない、とんでもない大失態だった。

「捜索隊は派遣しましたが、発見と逮捕は難しいでしょう……。彼らはカントーやジョウトの影に深く根付くほどの巨大組織。簡単に見つかるようなら、今現在の時点で組織が壊滅しているはずです。しかし、追わぬ訳にはいきません。……処分等は、わたくしが全責任を負えばよろしい話でしょう。今は、周辺の捜索をお願いします 」

「ハッ! 」

「ジムトレーナーの皆様、貴女方と共に戦えるのはこれが最後かもしれません。……しかし今は、前途ある子供の未来を奪わんとした卑劣の輩を殲滅することのみ考えなさい。わたくしもすぐに続きます故、先行をお願い致します! 」

『ハイッ!! 』

 

捜索は夜通し続けられた。しかし終ぞ、かの3人組を発見することは叶わなかった。

 

 

 

「あーあ、最悪よ最悪 」

「ポケモンもゲットできず、それどころかあんなことになって…… 」

「ボスに抗議するニャ! あれはニャー達の作戦だったのニャ!! 」

一方の3人組。堂々と気球でアジトへと帰っていた。その表情は、ゲンナリとしている。今回の作戦のような、幹部の息のかかった戦闘員を借りるのは金輪際辞めたいところだ。

 

 

「……全く、もう 」

「飛ばされてる訳じゃないのに 」

「なんだかとっても 」

 

『やなかんじー…… 』

登りゆく朝日をバックに、不機嫌そうな声が響く。勝負自体は勝った。しかし今回は大惨事を巻き起こした挙句、成果どころか団員8名の損失だ。3人は、アジトへ戻った後が心配で、仕方がなかった

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