ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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遂に50話目です


第50話 後始末: 後編

 事件発生から1日、ロケット団によるスミレの襲撃事件についてのマスメディアによる詳細な報道はなされず、団員捕獲の為に協力を要請した一般人には緘口令が敷かれることが決定した。被害者であり、未だ眠りから醒めないスミレのプライバシーを守るという建前で、リーグや警察の大きな失態を隠そうと言うのだ。不誠実だが、地方の行政による決定であるため、地方としての方針には従わざるを得ない状況だった。

 

 久しぶりに顔を合わせるけれど、誰もが暗い表情をしていた。タマムシの病院に集まったサトシ、シゲル、ヒマワリの3人は、未だ呼吸器に繋がれているスミレを静かに見つめている。タケシとカスミは、病室に一度に押しかけてもいけないと、今はヤマブキシティで待機している。相棒のピカチュウは、現在はオーキドの元に預けられている。本来の彼らなら、同じ空間にいるだけで軽い口喧嘩が発生しているものだが、流石のシゲルもこの空気でサトシを煽れるほど空気が読めない訳ではない。

「……ねぇ、サトシ。シゲル 」

ヒマワリが、ポツリと呟いた。

「……なんだよ 」

サトシが、ぶっきらぼうに返す。シゲルは、ヒマワリを無言で一瞥する。

「ヒマ達にできることって……ないのかな? ヒマ達は昔からずっと助けて貰ってた。なのに、スミちゃんの為になること、何にもできてないの 」

「それで、出来るのはキミの自己満足だろう? 」

シゲルの鋭い指摘に、ヒマワリはウッと言葉を詰まらせる。

「おいシゲル! なんでそんなこと……! 」

「事実だろう? ヒマワリ、キミが何で一緒に旅ができなくなったか、考えたまえよ。キミらの知っているスミレという女は初めから存在していなかったんだよ。昔のあの態度も、笑顔も。あれは大人達に求められた役目を果たしていただけのことさ。ま、あの演技に気付けたのはボクやお爺様くらいなものだけどね。……全く、キミたちのお花畑には困ったものだよ 」

声を荒げるサトシを遮り、シゲルはヒマワリを鼻で嘲笑う。

「そっか……。昔から、シゲルだけ妙にスミちゃんへの態度悪かったもんね。サトシに向けてるのとはちょっと違ってたから気になってたけど、そういうことだったんだ 」

ヒマワリは、得心したように言った。ヒマワリと同年代のマサラタウンの子供達にとって、スミレは小さな姉のような存在だった。困ったときは、自分の本来の家族よりも早く駆けつけて、助けてくれる。困った時は、なにかと相談に乗ってくれる。そんなスミレに、子供達はよく頼っていたものだが、シゲルだけは妙に懐かなかったし、その理由も話さなかった。

「ああ、気持ち悪くて仕方がなかったね。大人を演じる子供なんて、チグハグすぎて視界に入れるだけでも恐ろしかったさ。あの時ばかりは、自分の才能を恨んだよ。まだ何も知らない馬鹿の方が、何も気付かない分幸せだっただろうからね 」

シゲルはやれやれ、と呆れたようなポーズをするシゲル。その頭を、ヒマワリが叩いた。

「……! 」

「痛っ!? キミさぁ……偶に誰よりも物騒だよね 」

「五月蝿い。流石に言い過ぎだよ 」

ヒマワリがシゲルににじり寄り、シゲルはため息をついて片手をひらひらと振る。

「でもさぁ……オレ達ばっかりが悪いのか? 」

サトシが、悩ましげに言った。

「どういうこと? 」

ヒマワリが、サトシに訝しげな視線を向ける。

「オレのピジョン、一緒に戦った時に攻撃の巻き添えにされて、しかもアイツ謝らなかったんだぜ。昔だって、言ってくれなきゃオレ達も分かんないだろ? 勝手に抱え込んで、そのくせ突然悪者にされてもなぁ」

ヒマワリは、それに対して小さく頷いた。

「分かってる。ヒマ達がスミちゃんに迷惑をかけたしお世話になったのは事実でも、スミちゃんが何をしてもいいってことじゃないって。スミちゃんから何をされても怒っちゃダメとか、全肯定しろとか、そんなんじゃない。ヒマは、スミちゃんを対等に友達と呼ばせて欲しいの 」

ヒマワリが、決意を秘めた表情で言った。

「……キミは相変わらずだよ 」

シゲルは、呆れたような表情で笑った。

 

「さ、オレはそろそろ帰るぜ。タケシとカスミが待ってるんだ 」

サトシが、座っていた椅子から立ち上がる。

「じゃ、ボクもそろそろ旅に戻るよ。この状態だと、少しの間はタマムシジムは閉鎖だろうし、その間にポケモン達を育てないと。サァトシくんやスミレにまた差をつけるチャンスだよ 」

「なにぃ!? 」

続いて、シゲルもまた立ち上がる。ついでの煽りに、サトシが不機嫌になった。

「あはは……いつもの2人だ。そしてヒマは相変わらずライバル認定されてない…………。ま、4人じゃヒマが最弱なのは分かってるからね。ポケモン達も強くなったし、ここからがヒマのげこくじょーってところだよ! 」

ヒマワリも、そそくさと立ち上がる。

「下剋上って言葉知ってたんだね、キミ 」

「知ってるよー! 」

シゲルに笑われ、ヒマワリは口を尖らせる。

「なあなあ、3人でバトルしていこうぜ! 」

タケシとカスミが待っている、というのはどこへ行ったか、サトシはボールを手に取る。

「おや、いいのかい?サァトシ君。またボクに負けることになるよ?」

「やってみろよ! オレは負けないぞ!! 」

「ヒマも強くなったんだからね! そう簡単に勝てると思わないでよ!」

シゲルがサトシを煽り、サトシがそれに噛みつき、ヒマワリが横槍を入れる。

「コラッ!病院ではお静かに!! 」

「「「はぁい」」」

 

やんややんやと騒ぎながら、3人は病室を出ていく。振り向きざまに、未だ目を覚さないスミレを一瞥して。

 

◾️◾️◾️◾️

 

 「レンゲ、お加減はいかがですか? 」

エリカにそう声を掛けられたのは、病衣に身を包んだ20代前半ほどの女性。ジムトレーナーのレンゲ、彼女はタマムシシティで不定期のジムトレーナーを行いつつ、本業として保育士をしている女性だ。彼女がベッドに寝ている理由、それはスミレへの輸血だった。スミレの血液型はA型。エリカもまたA型であるが、ロケット団襲撃の仕事があったため、レンゲがその任を引き受けたのである。

「大丈夫です、エリカ様。それで、例の子は…… 」

「それが、手術は成功したのですが未だ意識が戻らず…… 」

「そうですか…… 」

レンゲは、悲しげに顔を俯かせる。

「大丈夫ですわ、きっと。命に別状はないというお話でしたし。貴女の献身は、きっと無駄にはなりません 」

そう言って笑うエリカの表情には、どこか陰りがある。

「エリカ様、大丈夫ですか? 」

「ああ、顔に出てしまっておりましたか。申し訳ございません。……実は、今回の一件による処分が下ります 」

「え……? 」

「いえ、あまりご心配なさらずに。わたくしのジムリーダー引退はありません。ほんの2週間ジムを閉めて、それから減給となるだけですよ。ただ、わたくしはジムリーダーとして大失態を犯しました。そしてこの処分は、犯したそのミスを隠蔽するための地方としての決定に他なりません。その贖いをせねば、わたくしの矜持に反しますわ 」

エリカの処分は、2週間のジムリーダー資格の停止と減給。ジムトレーナーは、警備の強化としてジム再開までの間、リーグにこき使われることになる。しかし、それでは足りないとエリカは思った。リーグから下された処分には、被害者であるスミレに対しての補填がない。むしろ彼女には、フシギバナによるトレーナー殺害未遂を口実に罰すら下される。スミレに関しては、シオンタウンでの前科があった。それも本来はジムリーダーと警察の怠慢にも責があったため、その時は厳重注意のみで開放された。しかし、その前科に今度は手持ちポケモンの暴走ときて、遂に処罰の口実が整った。そもそもリーグ上層部には、ロケット団の息がかかったものも多くいるため、建前とバランス次第ではひどい罰が下っていてもおかしくはなかったのである。

 「……エリカ様、貴女はこれから2週間、どうなさるおつもりですか? 」

レンゲは、躊躇いがちに尋ねた。ジムに関わる一切ができないとなると、はっきり言ってやることがない。エリカの気質上、自堕落な生活とは縁がないので、なんの予定もなく、理由が理由なので遊びに出る訳にもいかないという地獄を耐えられるとは、思えなかった。

「ふふっ……。心配ご無用です。わたくし、スミレさんのポケモン……特にフシギバナとミニリュウを鍛えようと思っております 」

「フシギバナは兎も角、ミニリュウですか?……というか、彼女ミニリュウ連れてるんですね 」

「ええ、ミニリュウは今回の一件では蚊帳の外だったようで。生まれてそこまで経っていないことですし、わたくしが面倒を見て躾をしつつある程度強くしようか、と 」

「エリカ様、ドラゴンの躾ってできたんですね 」

「ガラル地方には、くさ・ドラゴンのポケモンもいらっしゃいますからね。勉強致しました。…………そしてフシギバナには、【 千刃花(せんじんか)】をお教えしようか、と思います 」

その言葉に、レンゲは目を見開いた。

 

◾️◾️◾️◾️

 

 「…………ここは 」

スミレは、懐かしい場所に立っていた。そこは小さい頃の自宅だ。今の自宅と同じ家ではあるが、現在とは家具の一部が違うため、それは幼い頃の自宅と分かる。

『いいかい、スミレ。……お母さんに、迷惑をかけるんじゃないぞ。町1番のお利口さんでいるんだ、いいね? 』

『……わかった 』

玄関でそう話すのは、スミレとスミレの父、トウリだ。モモカもまた、そこにいる。トウリの言葉に、スミレは不満そうに口を尖らせるも、トウリはそれに気付かない。

『貴方、またいつでも帰ってきて頂戴 』

『ああ。離れていても、ずっと愛してるよ。モモカ 』

2人は抱きしめ合い、唇を重ねる。その光景を幼いスミレは、少し離れたところから見ていた。その腕に抱えたフシギダネのぬいぐるみが、ぎゅっと握りしめられる。

 

「ああ…………そうだ 」

忘れていた、遠い日の思い出。スミレという人間の歪みの始まり、それは父と母の夫婦仲にあった。仲が良い夫婦、それは大変結構だ。悪いよりは良いほうがいい。2人は、フィクションみたいな出会いから結婚した夫婦だ。身分差の恋、というやつで、名家の令嬢であったモモカとの真実の愛に目覚めたトウリが、駆け落ちをした後に結婚したのだ。それ故に2人の仲は決して裂けないほどに強く、そしてーーーー

 

(私はーーいつも蚊帳の外だった)

 

 

ここで場面が、切り替わる

 




待っていらっしゃった方もおられるかと思いますが、ようやく本格的に触れますよ。スミレの過去について
現在と並行して進めますので、端折りますがそこそこに続きます。
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