ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第51話 千刃花/ 造花

 ふわり、ふわりと花弁が舞う。季節外れのその花弁は、ひらひらと舞いながらも地に落ちる気配はなく、それは花吹雪となって舞い踊っていた。その光景に、スミレのフシギバナは驚愕を隠せない。

 

時間は、少し前に戻る

 

「ごめんください。……少し、スミレさんのフシギバナをお借りしたいのですが 」

タマムシシティのポケモンセンターで待機する、オーキドの元へエリカが尋ねたのはその日の昼のことだった。

「フム……。用を聞いていいかな? 」

「ええ、わたくしの切り札がひとつ、【千刃花】を彼女のフシギバナにお教えします 」

その言葉に、オーキドはエリカのフシギバナが放つ曲芸射撃を思い出した。

「なるほど、【千刃花】は【はなふぶき】の応用。フシギバナが最もやるべき鍛錬といえるな 」

そう返すと、オーキドはカウンターでフシギバナのボールを受け取り、エリカの元へと戻る。

「ありがとうございます 」

愛着を持って使われたのだろう。普通は使うたびにボロボロになるボールだが、彼女のものはよく綺麗にされている。

「随分ときちんと手入れされておるのぉ…… 」

「ええ……かなりマメにしていたようです。それだけ、ポケモンへの愛着はあったということでしょう 」

「さ、行こう。……ワシも見学させて貰っても良いかな? 」

「勿論です。……行きましょう 」

 

 

「フシギバナ、お願いします 」

ボールから突然出され、しかもボールの持ち主であるスミレがいない現状を見て、スミレのフシギバナは戸惑いの表情を浮かべる。

「フシギバナよ、彼女はこの町のジムリーダー、エリカじゃ。お主も持つくさタイプのエキスパート。スミレの体が治っておらんが、お主にはまだ出来ることがあるはずじゃからの、協力してくれるそうじゃ 」

「その通りです。……貴方には、まずおひとつ技を実際にご確認になって頂きましょうか。……お行きなさい、フシギバナ! 」

エリカは自身のフシギバナを呼び出す。

「【はなふぶき】!! 」

 

そして、冒頭へ戻る

 

 

 幾千もの花弁が、まるで一枚一枚に意思があるかのように、舞い踊る。隊列を組んで、形を作って、バラバラに全方位から。まるで生き物のように動き回るその花弁の雨は、スミレのフシギバナには出来ない芸当だった。ふわり、と舞った一枚の花弁を掌に乗せ、エリカは微笑んだ。

「これこそが、わたくしとわたくしのフシギバナが織りなす奥義、名付けて【千刃花】。幾千もの花を刃が如く操り、敵を粉砕する技です。花を全て操らなければならないという特性上、この技を習得するのは大変な困難になります。ですが、わたくしは貴方にこれを習得させようと思うのです。なぜなら、貴方は一度、自身のトレーナーをこの技で殺しかけたのだから。技の制御は急務です。【はなふぶき】で主人を傷つけたのなら、今度は【はなふぶき】で主人を守ってみなさいな 」

そう話すと、エリカは花が舞うフィールドに足を踏み入れる。

「バナァ!? 」

スミレのフシギバナは一瞬焦る。花の嵐の中に入った人間がどうなるかは、自分の主人で嫌というほどに見たからだ。しかし、その考えが杞憂だとすぐに悟った。まるで花弁がエリカを導くように、的確に道を開いたのだ。静かに、ゆっくりと歩いてくるエリカの体に、かすることすらない。むしろ、エリカの周囲を花で飾り立てているようにも見えた。そのままスミレのフシギバナの頭を軽く撫でる。

「実を言いますと、わたくしも常人なのです。幼い頃から何度も何度も怪我をして、その度に怒られて参りました。そんな時に、わたくしのフシギバナがこの技術を会得しました。……それはきっと、わたくしを思ってくださったが故のことなのでしょう。貴方もきっと、スミレさんへの想いがあるはずです。それを強く持ち続けながら鍛えれば、きっと貴方もこの【千刃花】を扱えるようになると、わたくしは信じておりますわ 」

優しく言い聞かせるような口調で、エリカは話した。エリカは淑やかさと優美さを重んじ、技を手足のように操るバトルは芸術的だ。しかしそれは、彼女が超人が有利なポケモンバトルで勝ち抜くために、必死で磨きあげたものだった。そして、それをエリカは惜しげもなく他人に渡す。だからこそ、多くの常人トレーナーが彼女を慕って集まってきて、多くのジムトレーナーを抱える大所帯のジムとなったのだ。

 

「さ、わたくしがお付き合い致しましょう。お覚悟は、よろしくて?」

 

フシギバナは、喉をゴクリと鳴らした。過去を悔やむ気持ちはあるけれど、2度と繰り返さないための力が目の前にある。

(ただ今は……進むしかない)

「バナァァァァ!!!! 」

難しいのは分かっている。出来ないかもしれない。けれど、やらないで終わるなんて出来ない。フシギバナは足に力を込めて、精一杯吠える。やってやる、と。

 

「よろしい……参りましょう 」

エリカは、満足そうに微笑んだ。

 

◼️◼️◼️◼️

 

 『スミレェ……。寂しいよぉ………… 』

ぐでん、とモモカがもたれ掛かるのは、幼いスミレ。

『お母さん、寂しいのは分かるけど…… 』

スミレは、そう言ってモモカの体を手で押し返す。愛する夫と離れ離れになったモモカには、スミレの顔が見えているようで見えていない。モモカにとってスミレとは、()()()()()()()()()()()

『うう……やる気でない…… 』

『もう……頑張ろ?私も頑張るから…… 』

『えぇ〜…… 』

『お父さんも頑張ってるんだから、ね? 』

『はいはい、分かったわよ…… 』

スミレの説得に、モモカはようやく立ち上がる。未だに深いダメージを負っているらしい母の背を見て、スミレはまたフシギダネのぬいぐるみを抱きしめる。

 

『寒いなぁ…… 』

 

ポツリ、と呟いた。暖かな春の日だった。

 

場面が、切り替わる

 

 『ねぇ、スミレ 』

『何?お母さん 』

モモカの少し怒った声に、スミレはビクビクとしながら尋ねる。

『あなたしっかりしてるんだから、ちゃんと他の子のこと見てやってよ。サトシくん、またケガしたそうじゃない 』

『私、遊びに混ざれないよ……。みんなより体弱いの、知ってるでしょ? 』

スミレの反論に、モモカは一理あると唸る。

『ううん……じゃあ本を読みながらでいいわ! スミレ、本を読むの好きでしょう? 混ざらなくても、少し離れたところから見ておくだけでいいから! お願い!! 』

そうじゃない、と思った。混ざることのできない遊びを見ていることがどれほど寂しいか、モモカは知らなかった。なぜなら、彼女は初めから望んだものの殆どを与えられてきたから。金も、友達も、経歴も。唯一貰えなかった恋人との結婚の許可は、駆け落ちで手に入れた。だから、モモカとスミレの認識には絶望的なズレがあったのだ。

 

『………………うん、いいよ 』

手を顔の前で合わせ懇願するモモカに、スミレは了承の意を示す。

 

「私、笑えてなかったんだ…… 」

それを見ていた10歳のスミレが、そう呟く。スミレの目線の先には、幼いスミレが精一杯口角を上げているのが見える。あまりに歪なその笑顔にも、モモカは気付かない。

 

場面が、切り替わる

 

 『スミレちゃぁぁん!! 』

勢いよく突っ込んできた幼いヒマワリに抱きつかれ、スミレはバランスを崩して倒れ込む。

『〜〜〜ッ! 』

『スミレちゃん、大丈夫!?』

背中を痛めて涙目になるスミレに、ヒマワリはおどおどとしながら声を掛ける。

『相変わらず弱っちいなぁ…… 』

虫取り網を片手に走ってきた少年少女達の中から、そんな声が聞こえた。声の主は、幼い頃のサトシだ。

 

『大丈夫……ちょっと、驚いただけだから 』

(笑わなきゃ。私は大丈夫って、笑わなきゃ。泣かない良い子でいないと……)

痛みを堪えて無理矢理に作った笑顔に

『なぁんだ』

と笑ったサトシが、手を差し伸べる。

『ほら、立てるか? 』

『うん……ありがとう』

 

『良かったぁ〜!ケガさせちゃったかと思ったぁ…… 』

『バッカお前きぃつけろよなぁ』

『うう……ごめん………… 』

周りから叱られ気落ちするヒマワリの頭を、スミレは撫でた。

『大丈夫大丈夫……。でも、あんまりしないでほしいな』

『うん!! 』

 

場面が、切り替わる

 

 『キミ、なんかヤダ 』

シゲルの言葉に、スミレは一瞬真顔になるとすぐに笑顔を貼り直す。

『……どうして、そう思うの? 』

『なんかずっと無理してる。それに、なに考えてるのかわからない 。辞めた方がいい 』

 

『何言ってるんだシゲル! スミレに謝れ!! 』

『ハン! おバカなサァトシくんには分からないだろうねぇ 』

『なんだとぉ!? 』

 

『あー、もうまたぁ!? 辞めて辞めて! 』

ヒマワリの仲裁も無視して始まる喧嘩に、スミレはため息を吐いた。

 

 

『サトシくんとシゲルくんの喧嘩、スミレが原因じゃないのよ。お姉ちゃんなんだから、ちゃんと止めて頂戴 』

『ま、まぁまぁ。これはシゲルが悪いですぞ…… 』

オーキドの仲裁も聞かず、モモカはスミレを叱る。

『私、同い年だよ……お母さん 』

『言い訳は無用、お母さんは小さい時にはたくさんの友達に慕われていたわ。何をやっても凄い凄いって言われてた。そんなお母さんと、海外で活躍してるお父さんの子供なんだから、周りの子供のお世話くらい出来る筈よね? 』

『……それは違うと』

『ごめんなさい……私が悪かったです 』

否定しかけたオーキドの言葉を遮って、スミレは頭を下げる。

『ほら、聞き分けのいい子。やっぱり流石は私の子供ね 』

『えへへっ……! そう? 』

『うんっ、いい子いい子!ほら、仲直りのハグよ〜! 』

『うんッ……! 』

モモカは、純粋に喜んだ。自分の悪いところを理解し、直すことのできるいい子だと。スミレは笑った。歪さも悲しさも隠しきって笑った。オーキドの視線も、サトシの母から向けられる心配そうな視線も全部無視して、『いい子』という言葉に喜ぶ娘に()()()

 

『……悪かった 』

ブスっとした表情で目を逸らしながら謝罪するシゲルに向けて、美しい笑顔で言った。

『気にしないで! 私も、変に見えてごめんね!! 』

『…………ダメだ、それ以上は 』

シゲルがその表情に顔を真っ青にし、手を伸ばす。

 

『不味い……! 』

オーキドもまた、その異様さに気付いた。

『大丈夫だよシゲル。それに博士も。私、気にしてませんから 』

 

その言葉にオーキドは

『気が向いたら、研究所にでも来なさい。……お茶も出せるし、本も沢山読める 』

 

そんな言葉しか、出せなかった。シゲルは、その時の表情を後にこう評した。

 

" 初恋の人が宗教に狂ったことを知った時の表情 " と。

 

彼の名誉のために補足すると、シゲルのその例えの引用元はテレビドラマである。決して、実体験ではない。

 

 

 




エリカさんに関してはオリジナル設定多めです。フシギバナの強化イベントのためとはいえ、エリカさん優遇です。個人的にも好きなので……因みに、アニメではこんな方に暴言吐いたやついるんですよ。サトシって言うんですけど。

念の為注意
スミレもそうですが、サトシ、ヒマワリ、シゲルに関しては10歳児、つまり小学生の年齢です。精神的に未発達なため、色々口に出てしまうこともあるしやらかす時はやらかします。しかしそれは4人ともこれからも続く長い旅路の中で学んでゆくことなので、サトシやシゲル本人のイメージを傷つけるような描写があるかもしれませんが大目に見て頂けると幸いです(他キャラに関してもそうではある)
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