ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第52話 それぞれの修行

 フィールド上を、様々な技が飛び交う。スミレが目覚めぬ現状、回復したポケモン達にできるのは鍛錬のみだ。現在は、タマムシジムのジムトレーナー達が胸を貸し、全面協力の元で鍛錬に励んでいた。

「フリィィィ!! 」

バタフリーが高速で空を翔け、それを追うように放たれたエルフーンの【リーフストーム】を機敏に躱しつつも【サイケこうせん】で反撃する。回避能力と攻撃精度の訓練だ。

「ラァァァァ!! 」

ラプラスは、技を撃って撃たれてを繰り返し、耐久性と火力の向上。ラプラスの体格上、耐久戦で活躍する移動要塞となるのが最終目標である。相手はブリガロン、大柄な体型から放たれる【アームハンマー】の一撃に意識を飛ばし掛けよろめくも、すぐに気合を入れ直して【こごえるかぜ】を放った。

「ゲェン!! 」

「……! ディィィィン!! 」

ゲンガーは【シャドーパンチ】でユキノオーが放つ【ウッドハンマー】の側面を叩き逸らすと、傍から飛んできたダーテングの【リーフストーム】をフーディンが【サイコカッター】で切り裂き防ぐ。能力のバランスが良いゲンガーはより幅広く多様な敵に立ち向かえる戦術を、撃たれ弱くサイコパワーに頼りがちなフーディンには、名称こそ未決定とはいえエスパータイプを無効化する新タイプを持ったダーテングで、サイコパワーの通じない相手への対処法を鍛える訓練だ。

「バナァァァァァァ!!!! 」

そしてエリカの特訓を受けるフシギバナは、荒れ狂う花の嵐を制御するために、必死に力を込めていた。傍からアドバイスを送るエリカのフシギバナの言葉に頷きつつ、何度も失敗して暴発させながらも必死に喰らいつく。

 そんな中でミニリュウは、いじけていた。

「ええと、ミニリュウ? おーい 」

ジムトレーナーの1人が身を屈めて困ったような声を出すが、理由はあからさまな鍛錬の難易度の差である。フシギバナはジムリーダー直々に教わっているし、他のポケモン達はジムの高レベルなポケモン達と連戦している。そんな中、ミニリュウがやっていることといえば的当てだ。実戦もできるが、相手はパラスやマダツボミといった小さい奴。しかも、それにすら勝ったり負けたりという体たらく。ドラゴンポケモンとは誇り高い生き物であるため、プライドを著しく傷つけられて拗ねていたのだ。エリカはフシギバナを鍛えるついでに見てくれるらしく、ミニリュウにアドバイスを送る役目として同じドラゴンを持つアップリューを配置しているが、アップリューの指示やアドバイスにそっぽを向くばかり。このままでは、

「うう……どうしよう………… 」

ジムトレーナーは困っていた。エリカとて考えなしではなく、オーキドに見ておくよう頼んでいたが、オーキド博士なんてビッグネームに一般人が声を掛けられるわけもなく、しかもエリカからの増援として送られたポケモンの言葉も届きやしない。

「ほれ、ワシに任せなさい 」

悩みながら時折視線を向けてくるジムトレーナーの姿にほほえましさを感じつつも、オーキドは動いた。肩を軽く叩かれて青い顔で慌てるジムトレーナーに笑いかけると、腰のボールを手に取った。

 

「行け、リザードン 」

「グオォォォォォォォォォォ!!!! 」

そして降臨するのは、業火の竜だ。燃え盛る炎によって放たれる熱気とプレッシャーが、ミニリュウに直接叩きつけられる。

 

「ちょ、ちょっとオーキド博士!? ミニリュウには早いのでは!?!? 」

「ウム、そう思ったがの。中途半端なプライドをへし折り、己の無力を実感させるにはいっそのこと真っ向から叩き潰すのもひとつの手じゃと思ってな。このまま放っておけば、ミニリュウは確実に捨てられる。それはワシとしても本意ではないからの 」

 

「……リュ、リュウ 」

「それなりに向こうの奴らとやり合える選出じゃが、不満かの?見たところ、お主自身が望んでいたと思うのじゃが 」

ミニリュウには、目の前に立つリザードンが遥かに遠い存在だと理解した。どうあがいても勝てない敵の存在に、ミニリュウは後退る。こんなはずではなかった、もっと自分はできるはずだったと、ミニリュウは己の勘違いを悟る。ミニリュウとその他のスミレのポケモンの間には、それだけの差が存在していたのだと、ミニリュウは身をもって知った。

 

「……フム。悪いの、リザードン 」

その様子を見たオーキドは、リザードンをボールに戻す。

「あ、あの……! 」

それを見かねたジムトレーナーが声を掛けると、オーキドはにこやかに笑った。

「これで少しは懲りたでしょう。さ、貴女にお任せします 」

「は、はい! 」

ジムトレーナーは、佇むミニリュウに駆け寄ってゆく。

 

そして始まった訓練を、ミニリュウはサボらなかった。

 

 

◾️◾️◾️◾️

 

 『ねー、姉ーちゃん。アイツうざいんだけど。黙らしてくんない?』

『まぁまぁ、お話なら後で聞きましょ?私も一緒に頼んであげるから。博士なら、きっと答えてくれるはずだよ 』

『でもさぁ…… 』

『うーん……。私から言ってみるけど、期待はしないでね? 』

困ったように笑うスミレに、同い年の少年は目を輝かせた。

 オーキド主催のサマーキャンプ、そこでスミレは若くして胃の痛い状況に追い込まれていた。オーキドが所有する広い森で行われており、世界的な研究者であるオーキドから直接ポケモンについて学べるいい機会であるのだが、本来オーキドが話す所を、とある少年が横入りして得意げに喋ることでオーキドの話を聞きたがって参加した子供達を不機嫌にさせていた。

(空気読んでよ…………)

困ったような表情を崩さず、顰蹙を買っている少年に目を向ける。その少年は黒髪に褐色肌で、名前をゴウと言うのだが、どうも周りが見えていないらしく調子に乗りすぎている部分がある。

 

『ごめんね? ゴウくん、ちょっといいかな? 』

『なになに?オレの話、聞きたいっしょ!! 』

鼻高々な様子で鼻の下を摩るゴウに、スミレは敢えて申し訳なさそうな表情を作ると、懇願する。

『このキャンプには、オーキド博士に話を聞けるから参加したって子も多いんだよね。貴女の知識が凄いのは分かるんだけど、今回は博士に譲ってあげてくれないかな? 』

『なっ……! 』

ゴウは、怒りか羞恥かで顔を真っ赤にする。周囲を見渡せば、不機嫌さを隠さない子供達の姿が。

 

『まあまあ、落ち着きなさい。済まんなぁ、スミレくん 』

『いえ、大丈夫です。下手に叱ると責任問題とかありますから 』

スミレはコクコクと頷きながら言うと、オーキドは頭を掻いて苦笑いする。どうやら図星らしい。

 

『……なんだよ! 』

『ぅっ……! 』

 

ドン、とスミレの体を押し除けてゴウは荒っぽく子供達の集団の中へ戻ってゆく。それを呆然と見つめる子供達は自然と距離を取り、ゴウとその近くで戸惑っている少女ーーコハルのいる空間だけがポッカリと空いていた。

『スミレくん…… これg』

オーキドが心配そうな表情で体を支え、スミレを起き上がらせる。そしてゴウに注意しようと声を上げかけ

『大丈夫です 』

スミレの言葉に、遮られた。

『だがのう、流石に叱らねばならんのじゃ 』

『大丈夫……大丈夫ですから。続けてください 』

良い笑顔を浮かべたスミレは、そう言った。

『……分かった。ではみんな、説明の続きといこう! ゴウは全部終わったらワシのところに来るように 』

オーキドは、苦い顔をするもそれを一瞬で消すと、努めて明るく声を掛けた。きちんと、自身の本来やるべきことをするための言葉も忘れずに。

 

場面が、切り替わる

 

 『良かったぁ、心配したんだよ? 』

また違う年のキャンプでのことだった。サトシと、カロス地方から来たセレナという少女が違うタイミングで迷子になり、一緒に帰ってきた。

『悪かったよ……。でもさ、この子も連れて来れたのは良かったなぁ』

そう言って笑うサトシの頭を、軽く小突く。

『何が良かったよ。はぐれちゃ私が怒られちゃうんだからね! 』

『分かった分かった 』

『もう……! ねえ、ちょっと待っててね? 』

サトシに呆れた声を出しつつも、足を怪我したセレナに向き合う。マサラタウンの子供達の多くが、遊びの途中で怪我をした時に真っ先に頼るのはスミレだった。だから、応急処置の方法は知っている。

『んー……、さすがはトレーナー志望のサトシ。止血はできてるよ 』

『へへっ 』

そうやって褒めてやれば、サトシはニコニコと嬉しそうに笑った。

『じゃ、ここからは私がやっておくからサトシはみんなのところで待っててくれる? 』

『おう! その子、頼んだぜ。じゃあな!! 』

サトシは、元気よく手を振りながら去ってゆく。何かを言いたげに手を伸ばしたセレナの姿に気付かずに。

 

『博士はみんなをお願いします、彼女は私が 』

『子供に頼りっぱなしはよくないんじゃが…… 』

『大丈夫ですから 』

『またそれか……。まぁ、やってくれるならありがたい。宜しく頼んだぞ 』

オーキドは不満げな表情をするが、その方が効率がいいのもまた事実だった。

 

『大丈夫……大丈夫………… 』

『……ッッ!! 』

スミレは柔らかい笑顔、というものを作るとセレナの足にある傷の手当てにかかる。対するセレナは、消毒液による痛みを堪えて、涙目になりながらも歯を食いしばった。

 

 

場面が、切り替わる

 

 『のぉ、スミレくん 』

オーキド研究所で本を読んでいる時に、声をかけられた。スミレは、その時読んでいた『セレビィの伝承と実在性の検証 』に栞を挟んで閉じる。

『なんでしょうか……? 』

スミレがオーキドを見上げると、オーキドは神妙な顔で尋ねた。

『今更になるんじゃが、大丈夫かの? 周りの子供達のお世話をよくしておるようじゃが……。常人と超人じゃとどうしても身体能力に差が生じてしまう以上、あやつらが当たり前にやっておることがキミにとって 脅威になってしまうこともある。それに、町の大人もスミレくんの好意に甘えすぎている部分がある。じゃから、子供達とは無理のない範囲で接してほしいと思っておるんじゃが…… 』

 

『大丈夫ですよ、私は 』

『スミレくん……キミは………… 』

スミレは、いつものように笑う。

 

『みんなのために頑張る、それが私の仕事なので 』

 

その1週間後、スミレは運命の大きな分岐点となるポケモンスクールを紹介されることになる。

 

『環境を、変えてみないかの? 』

善意に溢れたその言葉が地獄へ向かう道になろうとは、まだ誰も予想することができなかった。




好きなキャラが優遇されるなら、あんまり好きじゃないキャラが不遇となることもあるのです。ゴウファンの皆様、大変申し訳ございません
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