ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
場面が、切り替わる
『選抜の結果、第一陣としてスミレ、シゲル、サトシ、ヒマワリの4人を研究所所属トレーナーとしてスカウトする 』
オーキドの言葉に、歓声や落胆の声が響く。まずスミレは、学問や実力で見て学年トップ、懸念は体のことだが、スーツさえ着れば旅はできる。シゲルは、スミレに対して最も対抗できる才能の持ち主で、性格を除けば目立った欠点のないオールラウンダー。サトシは、バトルで多く発揮されるその意外性とポケモンとのコミュニケーション能力。ヒマワリは、協調性とポケモン育成への適性。誰も彼もか性格に割と難があるが、それは旅の中で成長していってくれればと期待する。4人の反応を伺えば、サトシは目を輝かせ、シゲルは得意げに胸を張り、ヒマワリは照れながらスミレにチラチラと視線をやり、スミレは無表情で軽く目を閉じている。その姿に、オーキドは彼ららしいと内心苦笑した。
『さ、4人は前に出てきて、意気込みをお願いね 』
どこかテンションの高い担任の指示で、4人はノロノロと教卓の前へ出る。
『オレは、ずーっと憧れてたものがあるんだ。それはポケモンマスターの称号。憧れのポケモンマスターになりたい……ならなくちゃって思う。いや、絶対になってやる! 』
サトシは生き生きと宣言する。
『まぁ、サァトシくんには無理だろうがね。ポケモンマスターにはボクがなる 』
シゲルは、サトシへの対抗心を隠さずに、挑戦的な笑みを浮かべた。
『えぇっと……。ヒマはヒマらしく頑張って、たくさんのポケモン達と出会いたいなーって、思います…… あはは………… 』
ヒマワリは、隣で既に一触即発な雰囲気に居心地の悪さを感じ、もじもじとしながらも顔を緩ませた。
『…………どこへ行くのか、とかは分からないですけど。私はとりあえず世界を見たいです 』
スミレは静かに、だが目の奥に確かな希望の灯をともして言った。スミレの心は、少しだけ明るかった。
場面が、切り替わる
「…………ここは 」
10歳のスミレは、呟いた。同時に悟る。ここが、記憶の終着駅だと。地面が存在しないかのように広がる水面には波紋以外を映さず、空は暗い闇に覆われている。そんな世界に、スミレは立っていた。
『………… 』
スミレの視界に、その少女の姿が映る。スミレより少しばかり幼い少女が居た。スミレと同じ髪色、目、火傷のない顔。幼い頃の自分自身だ。
「……あなたは。どうして? 」
『わかんない。でも、あなたはわたしでわたしはあなた。かみさまにしごとをたのまれた、あいかわらずのつかいっぱしり 』
神様、幼いスミレはそう言い、スミレは訝しげに目を細める。
『かみさまについては、まだこたえられないよ? わたしがきたのは、ただあなたをめざめさせるため。わたしでも、さみしさはまぎれるし』
幼いスミレは笑っていた。
「……私で、寂しさが紛れるの? 」
スミレは、絞り出すように疑問を呈した。
『あなたがわたしでも、いてくれるならさむくないもん。わたし、さみしくないよ? 』
「それは錯覚……。自分を慰めてどうするの? 」
『だって、だれもきてくれないじゃない。なら、わたしがわたしをすきでいなくちゃ 』
えへへっと笑った幼いスミレの放った言葉に、スミレは言葉を詰まらせる。
「……だったら、私はどうしろと? 私は貴女がいたって何も救われやしないのに。幻なんかで、私は騙されない 」
『じゃあ、起きればいいんだよ 』
「は? 」
『おきれば、きっとあなたはひとりじゃないよ 』
「嘘だ……!そんな筈は…………!! 」
『じゃあ、そのボールはかざりなの? 』
「…………ぁ 」
スミレの姿は、トレーナーとしての自分に変わっていた。足元には、7つのモンスターボール。そこから光が溢れた。
『嬢ちゃん、俺はアンタに惚れ込んで一緒に居るんだ。それはこれからも変わんねぇ。ま、ひとりだって思ったって別に構いはしないぜ? 俺はアンタに捨てられるか、アンタが笑ってその人生を終えるその時までアンタに忠誠を誓う。その言葉に二言はねぇからさ 』
バタフリーが、跪くように舞い降りた。
『おかあさん、ボクはおかあさんにめいわくかけてばっかりだったけど、がんばってかわるから。さいきょーのどらごんになって、きっとおかあさんをまもるから 』
ミニリュウが、今までとは違う瞳で告げた。
『お姉ちゃん。わたしがヒトを知れたのは、お姉ちゃんのおかげ。お姉ちゃんといっしょなら、きっとわたしは幸せを歌えるから。だから、いっしょに立ち向かわせてよ 』
ラプラスが笑った。
『オレ様は気分屋だからな。愛想を尽かせば勝手に出ていくような風来坊さ。でもな、スミレ。オレ様はお前のところが案外気に入ってんだ。お前がお前でいる限り、オレ様はお前を守るさ 』
ゲンガーは、得意げに親指を立てた。
『わたし、貴女のことが少し怖いです。だって、貴女はずっと心の中に闇を飼っているから。でも、貴女はそれをずっと抱えてきたのに、わたしだけ逃げるなんてできません。だから、せめて貴女が救いを見つけるその日まで、あなたの道を見せてくれませんか? 』
フーディンは、照れに顔を真っ赤に染め上げて言った。
『オレは貴女に借りがある。だから貴女の手持ちに加わった。だが、ただ借りがあるだけで群れの王が主を作りはしない。オレは確かに、貴女という人間に魅力を見たのだ 』
ニドキングが、厳かに告げる。
『私が貴女を見つけた時、貴女に私は見つけてもらった。あの瞬間は、確かに運命の出会いだったのだ。私と君は運命共同体、だからこそ貴女は貴女の望む貴女であれ。私は、貴女が望む限りその矛となり盾となる。君が進む道がどんな道であれ、私は2度と守り損ねるようなことはしない。貴女が望む道は、私が望む道であるからだ 』
フシギバナは、頼もしげに胸を張った。
『次はこれ……! 』
幼いスミレは、笑って指を振った。
『……ヒマはね、スミちゃんの力になりたかったんだ。余計なお世話どころか、迷惑だったけどさ。その気持ちは、嘘じゃないんだよ 』
ヒマワリの呟きが聞こえる。寂しげで、しかしその気持ちをぐっと堪えている。ヒマワリは間違えた、しかし彼女もまた『善意』という気持ちを残酷な現実によって抑圧させられた子供だった。
『アイツに勝ちたい……! 凄いヤツだから、アイツのライバルでいたい! アイツを助けられるくらい強くなれば、アイツは独りにならないだろ!! 』
そう言ってバトルに励むサトシの姿が映る。タケシとカスミはアドバイスや茶々を入れ、時に相手を務める。目指すのは、自分の向上。自分はスミレにはなれないけれど、スミレと同じだけ強くなれば同じ景色を見れると信じていた。そしてそれは、きっとポケモンマスターになる上で大事なものだと感じていた。
『スミレは強くて、でも脆い。あの孤独を癒そうとすればするほど、ドツボにハマる。……助けたいって気持ちで助けられるなら、ボクがとっくにやってるさ 』
シゲルは、吐き捨てるように言った。シゲルは、悲しいほどに現実を見ていた。それでもその瞳は、諦めの色をしていなかった。
『ワシに一体何ができる?……あの子の未来を、どうすれば守れる?』
オーキドの苦悩が見える。スミレを救わんとしたオーキドの焦りが、却ってスミレからの信頼を奪った。そして未来を脅かそうとする現実に、どう立ち向かえば良いのかを考えていた。そしてその先の答えを胸に、オーキドは独りリーグの門を潜った。
『分からない……でも勉強しなきゃ 』
『何とかしよう。まず、何を間違っていたのかを知らないと 』
必死で育児の本に向かい合うモモカとトウリの姿があった。娘はどうして不幸になったのか。それを知らない夫婦は、自身の頭を断頭台に乗せるような作業に、自ずから身を投じた。
『今の俺に出来ること、それは戦うことだけだ 』
ワタルは呟くと、目の前のロケット団員の集団に向き合う。周囲は、ロケット団と警察が入り乱れる戦場となっていた。
『さぁ……行くぞ!!!! 』
背中のマントが、激しくはためいた。
『スミレに手を出すと大変な報復を食らいます。四天王やジムリーダーの監視があるので、襲撃をかけても逮捕者を増やすだけで危険です。私たちが帰ってこれたのは、運が良かっただけです 』
ムサシ、コジロウ、ニャースはランスに偽の報告を上げる。それはスミレが手出しされないためだ。今回の一件で、彼らは外部からの介入に慎重になった。それはスミレだけでなく、メインのターゲットであるピカチュウを連れている、サトシに対してもだった。彼らは、彼らなりに彼女を守れる道を模索していた、
それに続いて溢れ出す、スミレが出会った人々の言葉。かつての友達、旅先の人、そして故郷の知り合い。誰も彼もが、スミレのことを頭の片隅で想っていた。
『あの人は私のヒーローだよ。だって、ヒーローって完璧じゃない。何度も倒れて、泥に塗れて、でも立ち上がって正しいことを成し遂げる。私にはそう見えた。だから、あの人は私にとってのヒーローなんだよ』
サヤは、そう言って笑った。ヒーローは完璧でないからヒーロー、というのはサヤにとっては幼い頃から学んできた知識だ。
救えない者もあれば、報われない想いもある。そんな悲劇を見ながらも、" 痛みを知るただひとりであれ " と言わんばかりに立ち上がり、その手を伸ばす。そしてその手が届く時、その存在はヒーローとなる。サヤから見たスミレは、そんなヒーローだった。ポケモンタワーから帰ってきたその悲しげな姿を、そしてそれでも歩き出す姿を、サヤはヒーローに重ね合わせた。
『これはね、ほんとうのことをうつしてるの。ねぇ、わたし。あなたはひとりじゃなかったんだよ。ただ、タイミングがわるくて、あなたがそれをしっていてうけいれられなかっただけ。だから、きっとあやまりあってはなしあってすむことだよ 』
幼いスミレを、スミレはキッと睨みつけた。
「……ごめんで済むなら、警察はいらないよ 」
『じゃあなんで、" ごめんなさい " ってことばはあるの? 』
スミレは、その問いかけに答えられなかった。
「……分からない 」
『うーんとね、わたしにもわかんない。でも、きもちをつたえるのはだいじだとおもう 』
「………… 」
スミレは、何も返せない。
『ねぇ、まだひきかえせるよ?すくおうとしてくれるひとがいる。なら、はやくめざめてあげなきゃ。ひとりぼっちのままじゃ、さみしいよ? 』
「でも 」
未だにウジウジしているスミレに苛立ったのか、幼いスミレはむくれた表情をつくると手を振った。
「……これは 」
『これでかえれるよ。……バイバイ、わたし 』
スミレの姿が、透け始めた。それを、幼いスミレは笑って見送る。
「…………わたし!!!! 」
スミレが叫び、幼いスミレは反応が遅れる。スミレは幼いスミレに近づきーー優しく、抱きしめた。
『…………ぁ 』
幼いスミレの声が、スミレの耳元に響く。
「わたしは私。だから、こうすれば寂しくないでしょう? 」
『……そうだね。うん。もう、寒くないや 』
幼いスミレの顔が、綻んだ。そしてそのまま視界が明るくなりーー
「…………ここは 」
スミレの視界に、病室の天井が映った。
どうしてこの展開になったのか? っていうのは、この世界の根幹に関わり、アルセウスの存在が不可欠になってくるのでまだ答えられません。ただひとつヒントを出すなら、スミレがいる世界は『子供向けアニメ』の世界がズレた世界、ということです。
ちょっとしたネタ仕込んだんですが、気付く人いますかね……。
サヤのヒーロー観。これは、作者にとってのヒーロー像です。大きくなってからの解釈も加わりますが、のちに他の作品を書こうと表現は変わっても内容は変わらないヒーロー像。その正体は、作者の人生に於いて幼少期に大きな影響を与えたヒーロー、ウルトラマン。彼の背中を目に焼き付けて、作者という人間は育ったのだから、このヒーロー観はサヤに代弁してもらいました。きっと、スミレの背中を見て育つ次世代なのだから。
因みに、スミレがなぜこんなにも想われたのか、ていうのは理由が一応あります。まぁ本編後に書くには無粋でしかない部分があるので、書きませんが。それに、これで解決、といかないのが本作ですからね。スミレはただご都合主義で救われるようなキャラではないので。
11月19日 9:33 本編、前書き加筆修正
高評価、お気に入り登録等もっとよろしくお願いします!!!!