ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
10歳になると、この世界ではポケモントレーナーになれます。しかし、博士の元で図鑑とポケモンを貰い旅する、研究所所属トレーナーはみんながみんななれる訳ではありません(全員がなれたら、ゲーム内に登場するモブトレーナーたちも御三家使ってくるはずですから)。前話でクラスの中から4人が選ばれたのは、オーキド博士というポケモン研究における権威が運営する研究所に所属するトレーナーを選抜しており、理由としてはオーキド博士の実績による希望者が多いためです。
オーキド研究所所属になるとどんなメリットがあるか、と言いますと、あのオーキド博士に収集したデータを渡す立場になるため、トレーナーとしてかなりの箔が付きます。また、博士の名声があるため他研究所からの信任を得やすく、アニメでサトシがやっていたような、地方間の移動と旅立ちの手続きがかなり楽に進みます。また、研究所にポケモンを預けると、データ収集に協力する必要はありますが、育成のプロの下で育成して貰え、更にデータ収集の謝礼として資金が貰えます。
(そっか……起きちゃったか)
スミレは、脳内で落胆する。先程までのやり取りは、きちんと覚えている。だけど、それで前向きになるなら苦労はしない。
「スミレ!? 」
モモカの声が響き、スミレは顔を顰める。
(うるさいな……)
そんなスミレの思考を他所に、バタバタと動き出したモモカはナースコールを押し、病室の外に顔を出すと誰かを呼び付ける。途端に大騒ぎになる廊下に、スミレはただ顔を逸らした。
◾️◾️◾️◾️
「今回の治療ではフシギバナより採血した血を投与しました。身体能力にほんの少し影響は出ますが、悪い効果はありません。少し体の弱い超人、程度はありますが、今後もスーツの着用をお勧め致します。傷痕についてですが、古傷までは治せませんでした。今回の一件で負った負傷のみ治療が完了しております。最後に、入院期間ですが1ヶ月は最低頂きます。検査と、リハビリのためです 」
医者から告げられる話を、スミレは聞いていた。モモカだけでなく、わざわざイッシュ地方から飛んできたトウリ、更にはスミレのトレーナーとしての保護責任者であるオーキドが話を聞いている。今回治療で使用されたのは、人間の血だけでなく、ポケモンの血による輸血だった。スミレもオーキドの研究所でそれに関する本を読んだ記憶があるが、戦時中の人体改造の一部を医療技術として転用した治療法で、緊急時にのみ使用されるものだった。それが、保護者の同意を待たずに行われたというのだから自分は余程重症だったのだろうとスミレはぼんやりと思った。
「…………これで私も 」
スミレは、呟きながら手を握ったり開いたりする。本来なら筋力が衰え、それすらも億劫であっただろうが、ポケモンの血による強化は元気な頃と同じような動作を行う。
「ふふっ…… 」
スミレは、少し気分が高揚するのを感じた。目覚めてしまったのはなんだかんだで残念だが、少しでも超人化できたのは嬉しかったのだ。
「スミレ 」
オーキドの言葉が、スミレの高揚した気持ちを急速に冷やす。
「……なんですか? 」
「何から何まで、済まなかった 」
スミレは、その光景に一瞬言葉に詰まる。オーキドは、泣いていた。モモカとトウリの表情も、憔悴しきっていた。
「……ッ! 泣きたいのはこっちですよ!! なんで私がこんな目に遭わないといけないんですか!? なんで私ばっかり貧乏くじを引かされるんですか!! なんでですか!? 私が何をしたっていうんですか? 頑張ったのに……。良い子でいろってお母さんもお父さんも言うから、必死で演じたのに!! ワガママを言いたくても、ずっとずっと我慢してきたのに!! なんで報われないんですか!? なんで誰も救ってくれないんですか!? 私のこと思ってくれているなら、どうして私はこんなに苦しいんですか!? 」
スミレは吠えた。子供らしく、癇癪を起こした。溢れる涙に構わずに、久しく使っていなかった声が枯れるのも構わずに、スミレは泣きながら手当たり次第にものを投げる。オーキドも、モモカも、トウリも。それを黙って受け入れる。
「なんで……反撃しろよ!!!! 怒れよ!! 私は良い子じゃないんだぞ!!!!お前らが望んだ人形じゃなくなったんだぞ!!!!!!」
「…………怒る資格など、あるはずがなかろう 」
オーキドの小さな呟きに、スミレは動きを止める。息はあがり、髪は乱れ、その合間から見える眼光にありったけの敵意を携えて、3人を睨む。
「……だったら何? 間違いを自覚して、それで私はどうなるの? 私にしてきたことの全てが、帳消しになるとでも? 」
「思っておらん、だからワシはケジメを付けに行ってきた 」
オーキドは、その紙をスミレに渡した。それは、今回の一件に関するオーキドへの処分を記したもの。
「3ヶ月の、新規教育権剥奪。それに2週間のトレーナー資格停止? 」
2週間のトレーナー資格停止、となれば、2週間もの間ポケモントレーナーとしての活動が行えない。ポケモンを対象とした研究を行っているオーキドの場合は、2週間に渡りポケモンの生体を使った研究が一切進められない状況になってしまう。3ヶ月の新規教育権剥奪、これは致命的だ。1年に渡り、新人トレーナーを研究所所属トレーナーとして送り出せない。所属トレーナーの齎すデータは、かなり貴重なものだ。そのため、希望者が元から多かったオーキド研究所は、3ヶ月の間に旅立つトレーナー達を所属として受け入れられず、その分の膨大な実地データを失うことになる。賢いスミレには、それがどれほど大きな損失かが分かってしまった。スミレは、顔を青ざめさせる。
「ああ、そしてキミに本来課される筈だった処分の撤回にも成功した。今は、マサラタウンの新たな候補者の受け入れ先を探しているところじゃ。幸い、ワシの実績もあってスムーズに見つかっておるから心配はいらない 」
オーキドは、一部を省いて話した。その一部とは、本来無かったトレーナー資格停止を入れる代わりに、スミレの処分を取り消させたということ。言う必要がない、そうオーキドは判断した。
「スミレ、本当にごめんなさい……。私達は児童相談所に呼ばれたわ。逮捕、とまではいかないけれど児童相談所と警察の指導下で、育児について勉強し直すことにしたわ 」
「僕の方も、それで暫く停職だ。終わっても窓際かもね。でも、スミレに役目を強いてしまった僕には、お似合いさ。本当にごめんね 」
「…………それは、私のせい? 」
スミレの呟きに、3人は一斉に首を横に振った。
「そうだな。これが因果応報ってやつさ。僕らは僕らなりに、子供を不幸にした責任を負わなきゃいけない。例え法律で定められて居なくても、そうしなければ前には進めない 」
「そうね。私達はいっぱい間違えた。それが許されることじゃないのは分かっているわ。でも、だからこそ間違えないように勉強しなきゃいけないの。……逮捕されなかっただけ、ありがたいわ 」
「キミはただ傷を治し、その先へ備えなさい。次こそキミを守ろうと、キミのポケモン達は頑張っている。サトシも、シゲルも、ヒマワリも。3人ともキミを心から心配して居た。会いたくはないだろうから、連絡するだけにしておくが、それだけキミは人に愛されていることを知って居てくれ 」
オーキドに、そう言って頭を撫でられた。スミレは、それを叩き落とすことはしなかった。
「じゃあ、僕らはさっさと退出しましょうか。このままじゃ、スミレのストレスになるだけだ 」
トウリの言葉に頷いて、3人は手早くスミレが投げつけた物達を元の場所に直すと、出て行った。
「あっ……。この子、置いていくわね 」
モモカが置いて行った、フシギダネのぬいぐるみを残して。
◾️◾️◾️◾️
「" ごめんなさい " ってなんだろ…… 」
スミレは、ぬいぐるみを抱きしめて呟いた。オーキドや両親は、謝っても意味がないと分かっていたからこそ自身の処分を明かした。だったら、謝罪とはなんなのか。それがスミレには分からない。スミレは伸びた髪を掻き分けて、火傷の痕に触れる。幼いスミレからの問いかけ。謝罪とは、何を意味するのか。スミレには、聞いた限りでは自己満足の代物にしか聞こえなかった。
そんな思考を中断するように、ドアがノックされた。
「……はい 」
スミレが応えると、ドアを開いてやって来たのはエトウ。タイミング的には完璧だと思った。
「や、また大変な目に遭ったね 」
「……どうも 」
エトウは、スミレの顔をまじまじと見た。
「ふむ、少し前に爆発したね。それから、ちょっとした疑問がありそうだ 」
その言葉に、スミレの肩が少し動いた。すぐさま見透かしてくる辺り、エトウという男の優秀さが窺える。
「……寝てる間、ずっと夢を見てたんです。私の人生を、大まかに振り返る夢を」
「うわぁ……そりゃキツかったね 」
エトウは顔を引き攣らせるが、スミレも同意だ。夢の中でなければ最低でも二、三度は吐いていたし、いまだにその嫌な余韻を引き摺っており気持ちが沈む。
「はい……。でも、最後に幼い頃の私が出て来て、色んな人や私のポケモンを映して、私が1人じゃないって言われました 」
「なるほど……。でも、そのことじゃないんだよね? 」
「はい……。謝り合って、よく話し合え、みたいなことを言われて『ごめんで済むなら警察はいらない』って返したんですけど、それに対して『なぜごめんなさいって言葉はあるのか』って質問されて……。分からなくて。さっき、両親と博士に謝られて、でも自己満足にしか聞こえなくて…… 」
「そっかぁ。ごめんなさいの意味か 」
エトウは、困ったように笑うと、頭を掻く。
「……分からないですか? 」
「まぁ、正解はね。……僕の持論だけど、自己満足で間違ってないと思う。ただ、キミの言う自己満足とは少し違うけどね。……謝って、それで許されると思っている謝罪は、謝罪とは言えないと僕は思っている。本当の意味でのごめんなさい、ていうのは、相手に謝罪の感情を伝えると同時に、心の中で誓うんだと思う。『自分は2度と同じ間違いをしないぞ 』ってさ。だから、自己満足。自分への戒めとして相手に伝える言葉、それが『ごめんなさい』だと僕は思うんだ 」
エトウの言葉が、スミレにはどこか納得できた。
「……そっか、あくまで自分を叱ってるんだ 」
「そうだと思うよ。ま、解釈は人それぞれだけどね 」
エトウは、そう言って笑った。
「……私に言えると思いますか?その『ごめんなさい』は 」
スミレの問いかけに、エトウは笑顔を消した。
「今は無理だし、辞めた方がいい。それは、体の治療と並行して、一緒に考えていこう。キミが、これからどう生きるのか。それもちゃんと、話し合わないといけないからね 」
「そうですか…… 」
「人間ってのはね、誰もが間違える。大人だって、子供だって間違える。そしてその間違いの本質に、気づかない人だって多くいる。気付いても、その気付きが勘違いなこともある。……だからね、キミは僕と一緒に、ゆっくり探していこう。どんなことが悲しかったとか、辛かったとか、こんなところは自分も悪かったとか、ゆっくりゆっくり言語化していこう。ただ焦っていては、今までの焼き直しだからね。……とはいえ、キミの旅に同行するのはキミが望まないだろうしスケジュール的にも宜しくない。だから、リハビリの間は直接会って、また旅に出るならその時は電話越しに話そう。今は、とりあえず彼らとちょうどいい距離を置いて、お互いに冷静になって考えるようにしよう。僕が間に入るから、その辺は任せて欲しい。そうやってしっかり考えて、悩んで、その先にキミたちがこの先同じ間違いをしないための『ごめんなさい』はきっとあるはずだ。……大丈夫、今のキミの周りに居るのは、間違えただけの善人だ。救いようのない悪人は周りに居ないから、きっと悩んで悩んだその先に、キミだけの『ごめんなさい』もきっと見つかるよ」
スミレは前話で周りからの好意をきちんと認識しました。ただ認識しただけです。知った=これまでの恨みが帳消し なんてことにはなりません。ただ、この一件が和解へのスタートラインになるため、無駄ではありません。
今回は悪いことをしてしまったら謝る、という子供が教わるメッセージを、より大人向けに書きました。謝っても過去は変わらない、ならばなぜ謝るのか。その部分にスポットを当てて、個人的解釈を元に書いてみました。受け入れられるといいなぁ……。
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