ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
呉服屋を出て、次に向かったのはタマムシデパート。の側にある小さな店だ。店名は、『starter』と書かれていて、どこか寂れた様子に見える。
「こちらは、地元民では知らない者のいない店ではありますが、外の町の方からの知名度は低く、デパートと違い穴場ともいえるスポットなのです。幾らでも目に付くデパートを紹介しても地元民としては詰まらないですし、今回はこちらのお店をご紹介致しましょう 」
そう言ったエリカの案内で小さな店内に入ると、そこにはエレベーターが堂々と設置されている。
「……地下、ですか? 」
「ええ。車椅子でも大丈夫ですわ 」
エリカに押されるがままエレベーターに乗り込む。ボタンの数字は、エレベーターのある地上1階を除けば地下1階と2階の2階層となっている。エリカが押したのは、地下1階だった。
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「……ここは、ペットショップ? 」
ペットショップ。ブリーダーと契約することでポケモンを買い取り、それを販売する業者だ。トレーナーとして鍛えるも良し、観賞用に飼育するも良し、といった具合で、研究所所属でないトレーナーのうち、自身での捕獲を選ばなかった場合はペットショップで購入するという選択肢が存在する。ペットショップを利用するメリットとしては、育て方をある程度マニュアル化して貰えること。そして、ペットショップで扱われる個体は、それぞれがどれ程優秀な個体であるかが示されており、優れた個体を安価で手に入れられるのだ。
「ええ。タマムシから旅立つトレーナーの多くが利用するポケモンペットショップですわ 」
エリカの肯定に、スミレは物珍しげな表情で辺りを見回す。スミレはペットショップの存在は知っていても、入ったことは無かったのである。壁に埋め込むような見た目のガラスケース内には、ガーディやイーブイ、ヤドンといった比較的飼いやすい陸上のポケモンが入り、生活している。
大きな鳥籠には、ポッポやホーホーといった小型のとりポケモン達が入れられ、のんびりとしている者やバタバタと忙しなく飛び回る者まで様々。頻繁にあがる鳴き声が、店内に響く。
「ふむ……。ユートさんはどちらに。あら、いましたわね。ユートさん、お邪魔しております 」
エリカは周囲を見渡すと、大きなとりポケモンを肩に乗せた猫背の男性に声をかけた。
「んん……? ああ、エリカさま。そちらは新規のお客様っすね。ボクはユート、ここの店主ですね 」
スミレは小さく会釈をしつつ、肩のとりポケモンに視線が釘付けになる。
「あの……そのポケモンってドデカバシ、で合ってますか? 」
「ああ、そうっすよ。博識ですね。……ご存知の通り、アローラ地方のとりポケモン、ドデカバシ。コイツはボクの手持ちなんで、売りモンじゃないっす。ツツケラなら取り扱ってますけど、ドデカバシの販売はしてませんね 」
華やかで太い嘴を持つとりポケモン、ドデカバシ。夏のバカンスで人気なアローラ地方では、よく見られるとりポケモンである。
「ユートさんは、アローラの方なんですか? 」
スミレがそう尋ねると、ユートは髪をガシガシと乱暴に掻いた。
「あー、いや。ボクはガラル人っすよ。アローラで捕まえたのは事実っすけどね。ま、それ以上は企業秘密ってコトで 」
ユートは、口元に人差し指を当ててイタズラっぽく笑った。
「あ……すみません 」
スミレは、慌てて頭を下げる。ユートもまた、彼なりに苦労があったのだろうと分かった。
「いや、気にせんでください。……んで、お客さんは何かお探しですかい? 」
ユートはにやりと笑った。エリカは、スミレに視線を向ける。
「追加で戦力が欲しい、などはありますか? 」
エリカの質問に、スミレは10秒ほど考えてとあることを思い出す。
「ええと……水中戦を戦えるポケモンが欲しくて。空を飛べるバタフリーやゲンガー、フーディン、海中でも生活できるミニリュウも戦えますが、ラプラス以外にみずのフィールドを主戦場にできる戦力が足りなくて…… 」
カントーやジョウトで行われるポケモンリーグでは、リーグ総本山故に参加者やスポンサー、観客も多いため経済効果も凄まじく、その結果幾つかのフィールドを使い分けてバトルが可能だ。その中でもみずフィールドは、大きなプールに浮島を浮かべたフィールドで、水中をどう制するかがバトルの大きな鍵になる。スミレが持つ現状の戦力では、水中戦に対応できるのはラプラスと、強いて挙げてもミニリュウだけだった。リーグは最低でも3対3、このままでは戦力不足だ。
「ミニリュウ……ラプラス……。希少種のオンパレードじゃないっすか。……ま、とりあえずこっちっすね 」
ユートは踵を返し、店の奥へ向かう。奥には、水槽らしき施設が青く輝いて見えている。
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スミレの目の前に広がるのは、沢山の水槽群とその中を泳ぐ多様なみずポケモン達。毒を持つせいでブリーダーによる取り引きが少ないとされるメノクラゲ。しかしそれ以上に目を引くのは、更にその奥にある生簀だ。大きなプールの中を悠々と泳ぐのは、みずポケモンでも比較的安価に、そして大量に取り引きされるトサキントだ。
「まぁイチオシはトサキントっすね。育てるのに手間があんまり掛からないですし 。見た目もいいんで女性人気は結構高めですよ 」
「……なるほど 」
「一応、オススメしない奴も教えておきますね。まず、メノクラゲ。特に強い毒あるんで扱いには注意が必要っす。それと、タッツー。コイツは進化するとドラゴンタイプがつきます。ドラゴンは基本的に強い代わりに厄介なので、ミニリュウを育ててるなら並行して育てるべきじゃないっす。コイキングは論外。進化しないと弱いし進化すると凶暴で厄介なんで、観賞用なら兎も角、バトル用にホイホイ売るものじゃないっすよ。他の地方から来てるポケモンは、その分資料に限りがあるんでよほど詳しくないと大惨事を招きかねません。別の店で、ポケモン愛好家にプルリルを売った結果その愛好家が殺されてプルリルも殺処分、なんで事件がありましたんでね。ま、そんな感じで扱い易さとか安全性とか考えれば、最初はトサキント一択です 」
「な、なるほど…… 」
ユートの澱みない説明に、スミレは唸る。
「スミレさん、今回の事件での対応が遅れたお詫びです。資金はわたくしが持ちますから、どうぞご遠慮なく 」
「そう言われるとより遠慮するんですが…… 」
スミレは、困ったような表情で呟いた。
「ま、まぁまぁ。わたくしの自己満足ではありますが、せめてそのくらいはさせてくださいな 」
エリカがスミレからの予想外の返答に少し慌てつつも、そう返す。自己満足、と言われたらスミレとしても受け入れるしかない。
「分かりました。すみません、トサキント1匹頂けますか? 」
スミレは、エリカに頭を下げると、ユートに向かって言った。
「はいよー。どうせなんで、個体はご自分で選んでしまってください」
ユートはそう言った。それに対してスミレは返事を返すと、水面を見つめる。1匹、2匹、3匹、とスミレを気にせずに泳ぎ去ってゆく。時折、チラリとスミレの方を見る個体は居るが、すぐに泳ぎ去ってゆく。
「…………むむむ 」
スミレには、個体差を識別するほどの観察眼は無かった。スミレの記憶なら、オーキドが100もの群れ全ての個体を識別していたが、あのような知識の巨人と同じ芸当はできやしないのだ。エリカとユートが黙って見守るなか、その時は訪れた。
「……あっ 」
1匹のトサキントが、スミレをジッと見つめていた。通りすがりにスミレをチラリと見ていた個体のうちの1匹が、その場に止まるように泳いで、スミレを観察していたのである。その個体は、ジイッとスミレの顔を見ながらスミレのすぐ近くの生簀の端まで泳いできた。そして数秒見つめ合いーーーートサキントはユートに軽く水を放った。
「うぷっ……! 」
突然の放水に流石のユートも驚く。
「あらあら 」
エリカは、その様子を見て愉快そうに笑った。
「ユートさん。あの子でお願いします 」
スミレは、その様子を見てその個体を選んだ。きっとこれは、なんらかの縁なのだろう、と思うことにした。なんせ、初めて出会ったフシギダネすらも、そのような感覚で決まった経緯がある。あのフシギダネが最終的に強力なフシギバナとなっているのが分かっている現在、そういう運命的なものを馬鹿にすることはできなかった。
「はいよ。……意外とロマンチストなんすね。まぁどうでもいっか」
ユートは、モンスターボールを釣竿に取り付け、投げ込んだ。水中で目的の個体に命中したモンスターボールは、1度揺れ、2度揺れ、3度揺れ、そしてカチリと音を立ててボールに収まった。
「入った…… 」
スミレの呟きが、響いた。
「入りましたね。さ、コイツがあなたの新しい仲間、トサキントです。性別はメスになります 」
ユートは水に浸かったボールの水分をタオルで拭き取ると、ボールをスミレに渡す。
「おめでとうございます。新しい仲間ですね 」
エリカに祝われ、スミレはモンスターボールを大事に持つ。
「さ、エリカさま。お会計ですけど、ちょっとお客さんはここで待ってて下さいねーっと。エリカさまにはちょいとお耳に入れたいことが 」
最後の言葉に、エリカは一気に深刻な表情に変わる。
「分かりました、では行きましょう。……スミレさん、少々お待ちくださいね 」
少し離れた場所で、取り引きが始まる。まずはエリカがカードを出して機械に刺した。恐らく、これはトサキントの料金だ。そして、何やら小さな冊子を渡される。これは、飼育マニュアルだろう。そして最後に何かを耳元で囁かれ、エリカは顔色を真っ青に変えた。そしてすぐに戻ると、スミレに告げる。
「申し訳ありませんが、本来ならあと2軒ほど回る予定だったのを変えて、病院へ戻ってもよろしいでしょうか?……少し、よろしくない情報が入りましたので、リーグに判断を仰いだ上で行動致します 」
エリカの、緊張した表情に、スミレは思わず頷く。あと少し何処かへ行きたい気分だったのだが、何かあったのでは仕方ないと、ほんの少しの不満に蓋をする。
「分かりました。……注意すべき点はありますか? 」
スミレの質問にエリカは少し考える素振りを見せると、答えた。
「そうですね……。まず、病室から出ないこと。ジムトレーナーに命じて、一時的に特訓中のあなたのポケモン達を返却しますので、万が一に備えてください。ふたつ目、これが最も重要です。……ロケットゲームコーナー、この場所へは決して近づかないように。いいですわね? 」
「ロケット……。嫌な単語 」
エリカの様子、ロケットという嫌な思い出のある単語、と来ればロケット団が絡んでいそうな話である。
(まさかね……。流石に、そんなあからさまな話はないか)
スミレは、己の安直な思考を自嘲すると、車椅子を押されて病院への道を急ぐのであった。
なお、そんなあからさまな話があったりするのだが、それは別の話である
日常回、そして新メンバー加入です。トサキントは、加入させたかったですね。なんせ、スミレは着物が似合うタイプなので似合うと思ったんですよ。
そして最後の不穏。ロケットゲームコーナー、赤緑の内容になります。次回あたりはスミレの出番がほぼないかも?怪我してますからね
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