ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
「エリカ様! ロケット団員を2名捕らえたとの情報が!! 」
タマムシジムにその報告が響いたのは、スミレを病院へ送り届けたすぐ後のことであった。ジムに戻り、すぐさまリーグへ連絡しようとしていた矢先の事態である。突然動いた事態に、エリカは慌てて指示を飛ばし始めた。
「ジムトレーナーの皆様は戦闘準備、カンザシはリーグへ、リンゴはどこぞをふらついているであろうサナダさんにご連絡なさい!それから、今ロケット団を捕らえているのは!? 」
「警察です!ただ、団員を捕らえたトレーナーは既にジムへ 」
「分かりました。その方の元へ案内なさい! そちらから情報を頂きます!! ああ、ツボミは警察へ連絡して情報提供を求めなさい! 」
エリカは平時では穏やかであり、昼寝を好むような人物である。しかし、このような事態ではそうもしていられない。エリカの鬼気迫る姿にジムトレーナー達も迷わず従い、ドタバタと忙しなくジム内が動き出した。
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ヒマワリは困っていた。スミレが目覚めたと聞いて飛んでやって来たら精神状態を鑑みての面会謝絶、やることも無くなり若干不貞腐れつつもゲームセンターへ向かった、のだが。ロケットゲームコーナー、という少し引っかかる店名の店の中には、ロケット団らしき団員が居たのである。結果としては、盗み聞きでロケット団員であるという情報を確信に至らせてから困ったフリをして店外へ誘い出し、予め店内に入る前に出しておいたカイリキーのリキイチに絞め落とさせたのである。ヒマワリは実際かなりの美少女、裏社会のチンピラでは誘惑に耐えられなかったのである。
「なるほど……。それでここまで 」
エリカは呟く。ジム内のテーブルで、慌てて出した冷たい麦茶を飲みながら話を聞いていた。
「はい。……スミちゃんなら、きっと黙って放っておくようなことはしないから 」
ヒマワリの言葉に、ほんの少しの違和感を感じるが、それを追求する余裕はない。エリカは、報告を聞き終えるとすぐに立ち上がる。
「わたくしたちはロケットゲームコーナーに最速で奇襲をかけます。……貴女にも協力をお願いしたいのですが、宜しいでしょうか? 」
エリカは、複雑な表情で呟いた。一般人の子供に頼るなど情けない話ではあるが、1人でも多くの戦力が欲しいのである。
「はい! 」
ヒマワリは、真剣な表情で頷いた。
「なるほど……。その事件、あたしも一枚噛ませておくれよ 」
エリカにとっては聞き馴染みのある、女性の声が聞こえた。ハッとした表情で振り返ると、エリカの影がひとりでに動き出し、中からはゲンガーを伴った妙齢の女性が浮いてくる。
「えっ?えっ!? 」
目を白黒させるヒマワリとは逆に、エリカは椅子に座り直すと困り顔でため息を吐く。
「……何してるんですか? キクコさん 」
カントー地方四天王がひとり、キクコ。ゴーストタイプやどくタイプを自在に操り、相手を徹底的に手玉に取って倒すバトルスタイルを得意とする。その人の心を疑われる戦術と強さは、彼女に" 魔女 " という異名を与えるほどだ。
「スミレ、って子に会いに来たのさ。オーキドのジジイから頼まれてね。あの馬鹿、ずいぶんとしおらしいもんだし、サダコのババアも迷惑かけたもんだから、つい断れずに来ちまったよ 」
キクコは不機嫌に鼻を鳴らすが、エリカはなんだかんだで自己判断で来たのだろうと予測して、小さく噴き出す。毎度のことだが、キクコはオーキドに対しては素直ではない部分があるのだ。
「ふふっ……相変わらずで安心しました。では、キクコさんには奇襲の際に敵が逃げられないようにして欲しいんです。不意打ちや闇討ちはお得意でしょう? 」
エリカに言われ、キクコは意地悪に笑った。
「そりゃあね。あたしはね、今は兎も角、昔は人死にが出ても眉ひとつ動かさなかったような人でなしの元でポケモンの扱いを学んだんだ。……それに、人でなしが移らないように、心理についてはひととおり学んでる。全体を俯瞰しつつサポート、そのくらいできて当然さ 」
その言葉を聞き終えるや否や、エリカは席を立つ。
「では、今から始めましょう 」
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ロケットゲームコーナー。トキワシティのジムリーダー、サカキが運営するロケットコンツェルンの運営の元で展開されているゲームセンター。その地下は、ロケット団のアジトになっていた。常駐するのは、20人ほど。中にはそれなりの実力者もいるものの、大多数は寄せ集めの烏合の衆だ。
「……今夜でしたっけ。あの、スミレとかいう女バラすの 」
下っ端の1人が、退屈そうに椅子にもたれかかって尋ねた。その視線の先に立つのは、リーダーである男だ。下っ端内でも屈指の実力者で、幹部候補の1人と噂されている。
「ああ。報告では四天王やジムリーダーが張り付いてるとのことだが、深夜なら手薄になるに違いない。そこを襲って首を持ち替えれば俺は幹部に昇進、お前たちにも相応の待遇が待っている 」
男の言葉に、下っ端たちは己の薔薇色な人生を思い浮かべて笑いを浮かべる。
その時である。地上に繋がる入り口からオレンジ色の閃光が迸り、扉が吹き飛んだ。リーダーの男は、それが【はかいこうせん】によるものだと察して怒鳴り声をあげた。
「侵入者だ!! 戦闘準備!!!! 」
その言葉に、だらけきっていた団員たちは慌てて立ち上がり、それぞれのボールを投げる。出てくるのは、ドガースやラッタ、といったロケット団員の多くが所持しているようなポケモンばかりだ。そんな所へ、ドアをぶち破った下手人が姿を現す。
「嘘……ギャラドス? 」
女の団員の呆然とした呟きが、妙に響いた。凶暴さで知られるギャラドスが、その鋭い眼光をこちらへ向けていたのだ。団員達もそのポケモン達も、その威嚇に対して動きが鈍った。
「ありがと、ドッスン。……ハナちゃん、リキイチ、行こっか 」
ギャラドスをボールに戻し、ラフレシアとカイリキーを出した少女ーーヒマワリが、普段の明るさはどこへ行ったのか、というくらいに冷たい目でロケット団を睨みつける。
「灯台下暗し、とはよく言ったものですが、よもや本当に足下にいたとは。スミレさんの一件では不覚を取りましたが、今度は潰させて頂きますわよ 」
そう言って歩いてくるのは、団員にとってはこの町で最大の不安要素。ジムリーダーのエリカ。大勢のジムトレーナーを引き連れて立っていた。
「クッ……やれ!!!! 」
男の命令に従い、ポケモンに指示を出す団員達。ポケモンを呼び出し、それを迎え撃つジムトレーナーにエリカとヒマワリ。逃げ場のない狭い空間で、大規模な乱戦が幕を開けた。
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「やっちゃったぁ…… 」
ムサシ、コジロウ、ニャースは同時に頭を抱えた。現在居るのはスミレの病室を見られるようなビルの屋上、そして目の前には気絶した団員と彼が持つ狙撃銃。逃げ出した後も気にはしていたため様子を見に来たのだが、スミレを狙っている狙撃手に気付いてつい襲撃、見事に気絶させてしまったのだ。暗殺阻止とは聞こえはいいが、やってることは同士討ち。バレたらクビは確実である。
「手間が省けて助かるよ、バカ共 」
「「「うわぁぁぁ!!!! 」」」
背後から声を掛けられ、慌てて逃げるように後退りする3人。声の主は、いつの間にかそこにいた老婆。キクコだ。
「後先考えないのはバカのやることだが、咄嗟にやるのが善行なあたり、アンタら悪党向いてないんじゃないかね? 」
キクコは、呆れたように言った。
「黙りなさいよ! アタシらがアタシらの好きなようにして何が悪いってのよ!! 」
ムサシは額に青筋を浮かべると憤慨する。
「別に好きなようにすりゃいいさ。あたしに文句を言う筋合いはないからね。でも、アンタら組織裏切って大丈夫なのかね? 」
3人は、一斉に目を逸らした。冷や汗がダラダラと滝のように流れる。
「い、いやぁ……。まぁコイツ捕まればまだ 」
コジロウはそう言い訳をした。結局は他力本願なのである。
「バカだね。……でもまぁ、どんなバカでも、ロケット団は捕まえるってことでね。行きなっ、ゲンガー! 」
キクコの号令で影が激しく波打ち、ゲンガーが勢いよく飛び出す。
「逃げるぞ、ドガース! 【えんまく】!! 」
コジロウは咄嗟にドガースを出すと、煙幕を放ってビルの外へ飛び出す。キクコが四天王であることは知っている。ならば、まともに戦えば勝ち目はない。そのため、一瞬の判断で決死の逃走を選択したのだ。外には、いつもの気球が浮かんでいる。揃いも揃って気球に飛び乗ると、火を燃やして最大スピードで逃げの体制に入った。彼らが善人であっても悪党である以上、警察に捕まるのは勘弁したいところである。しかし、狙い澄ましたような【シャドーポール】が、煙幕を切り裂いて放たれた。それは、勢いよく気球に穴を空ける。
「ひょっとして、出番これだけ!? 」
「オレ達、そろそろ活躍したいなー 」
「碌なセリフなかったのニャ!! 」
驚愕するムサシ、ぼやくコジロウ、憤慨するニャース。彼らは、抜ける空気と共に遥か先の空へと消えてゆく。
「「「やーなかーんじー!!!!!! 」」」」
キラリ、と光が輝いた。
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「ぐあっ!! 」
苦悶の叫びをあげ、また1人団員が倒れる。ロケット団は、ジリジリと追い詰められていた。人数的な不利もあるが、それ以上に個々の力が強かった。まず、ジムリーダーのエリカ。今回はジム用ではなくリーグやPWCSで使用する本気のメンバーで来ている。世界で戦える構成のくさポケモン達に、太刀打ちできるはずもない。続いてジムトレーナー。当然ながら、彼女らはエリートだ。ジムリーダーに鍛えられ、チャレンジャーの試練となる資格を持つトレーナー達は、かなりの難敵だった。そして、外部から参戦したヒマワリ。戦い方こそ力任せな部分が目立ち、お世辞にも才能があるとは言い難いものの、恐ろしいのはそのポケモン達だ。技のチョイスや戦略がものをいうポケモンバトルにおいて、力任せのゴリ押しが通じてしまうだけの育成能力。そしてその暴力を兵器ではなく、バトルというスポーツの領域まで押し留められる制御能力。それこそがヒマワリという少女の強さ。仮にもサトシやシゲル、スミレと肩を並べる少女である。普段の甘さを切り捨てて戦うヒマワリと、ヒマワリが使役する圧倒的な暴力に対して、寄せ集めの犯罪者程度では敵わない。あっという間に、リーダーと下っ端4人ほどになる。
「わたくしもまだ慈悲を捨ててはおりません。今投降すれば、自首として処理致しますよ? 」
エリカは、脅しも込めてにっこりと笑う。それに対して団員達は怯み、向けられていないはずのジムトレーナー達は背筋を伸ばす。
「動けば容赦はしないよ。……潔く自首するか、それとも派手に散るか。選べるなんてラッキーじゃないかな? 」
ヒマワリは、平坦な声を掛ける。未だ健在なカイリキーとラフレシアが隣で威嚇する。
「黙れっ! 俺たちは負けてない!! やれマタドガス!【じば】…… 」
男は下っ端たちの迷いを無視して叫び、マタドガスに捨て身の一撃を指示しようとし、カイリキーの拳を腹に喰らって沈んだ。かなり手加減されたとはいえ、かくとうタイプの拳は痛い。衝撃が全身を駆け抜け、たまらず膝をついた。彼は常人だったが、カイリキーの手加減とスーツを着ていたため骨の一本も折れていないのは、幸運であった。それと全く同じタイミングで、エリカのラフレシアが放った【はなびらのまい】がマタドガスを戦闘不能に落とす。残された団員達は、最後の最後で心を折られた。エリカによる最速の奇襲攻撃は、味方への一切の損害を出さずに勝利、という結末に終わったのだった。
キリのいい話数なのに出てこない主人公……。そろそろ、ヒマワリの深掘りをしたいなーと思いまして
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