ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
「さて、エリカの訓練でそれなりに強くなったようだがね。……これからは、あたしがアンタ達を鍛え上げてやるよ 」
キクコは、自信満々に言った。場所はタマムシジム。周辺にはジムトレーナー達が控えている。エリカを始めとする一部の者は、警察と共に事後処理に追われていてここにはいない。とはいえ、トサキントやラプラスの為に、プールが用意されているためその辺りは好待遇であった。スミレは、幼馴染3人の答えを聞いて号泣し、その後で泣き疲れて眠ってしまった。まだ朝だというのに、随分な生活習慣であるが今回ばかりはキクコも何も言わない。という訳で伝達を済ませたキクコは、手持ち無沙汰になったので、オーキドにスミレが読むべき本を指定して持ってくるように命令を出し、1人スミレのポケモン達を引き連れて特訓に来たのである。
「安心しな、あたしは育成中のやつしか出さないからレベル差はギリギリまで抑えてあるよ。あまり鍛えすぎても良くないからね 」
そう言って出したゴーストポケモン達を相手に、フシギバナ達のやり過ぎない程度の特訓は始まった。
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「アンタは耐久力と火力がもっと欲しいね。スミレが目指すべき路線は、シンオウのシロナだ。だから、スミレの切り札であるアンタはシロナにとってのガブリアスと同等の理不尽を目指さないといけない。力押しを手段のひとつにまで落とし込むあの戦術は、絶対に折れない柱があってこそさ。つまり、アンタは耐久力と火力を鍛えつつ、【千刃花】を始めとした技のコントロールをする必要があるんだ、全部同時にやれなきゃスミレは守れないよ! 」
フシギバナは、キクコにそう言われた。レベル差は無いはずなのに圧倒的に動きが機敏なゴビットの【コメットパンチ】に打たれる。フシギバナはたたらを踏みながらも、技の緻密な制御を行いそれに対抗する。花が舞い、エネルギーが蠢く。じめんタイプに効果バツグンなはずのくさ技も、ゴビットは力づくで突破してくるし当たらないこともある。フシギバナは、エリカの訓練がまだ優しかったことを悟りながらも、ゴビットからの攻撃で震える足を踏ん張って、戦いを続けた。
「フシギバナがパーティーの要なら、アンタは戦術の要だ! そんな奴が何もできずに負けちゃならない、攻撃を避け続けて反撃しな。当たっても耐えろ、簡単に落とされちゃダメだ。思考力を鍛え、命中力を高め、判断力を鍛えな。火力に乏しく器用なら、確実に急所を狙撃するんだ! 」
森のフィールドを、バタフリーは必死で逃げ回る。キクコの声が聞こえるが、その姿は見えない。代わりに見えるのは、迎撃してすべて撃ち落とした上でそれ以上の攻撃を放ち、更に凄まじいスピードで迫ってくるジュナイパー。火力で負け、スピードで負け、命中力で負け、戦術でも負け。【どくのこな】で罠を張っても風で吹き散らされて無惨な有様。レベル差がないと分かるだけに、屈辱は特に大きかった。バタフリーはプライドも体もボロボロになりながら飛びまわる。
(畜生! 嬢ちゃんやエリカ殿の訓練がどれだけ優しかったかよく分かる!! あのババア、容赦ねぇ……!)
バタフリーは、キクコへの悪態を吐きながらも訓練を投げ出すことは決してしない。エリカの場合はわざと突破口を用意しておき、そこを見つけて突けるかという内容だったし、スミレの場合は野生ポケモン相手の実践や無機物相手の的当てだった。一方のキクコは、突破口も用意されず、自分と同じくらいのレベルでも全く動きのレベルが違う相手が容赦なく襲いかかってくるのだ。難易度が遥かに違う。
「パァァァ! 」
ジャーンジャーンジャーン
(げぇっ、ジュナイパー!)
一瞬の思考の間を突いて接近したのか、視界いっぱいにジュナイパーが映り、それを認識して回避に移るまでの数秒の合間に、バタフリーは技でもない蹴りを受けて墜落した。
「ラァ……ラァァ 」
ラプラスは、傷だらけの体を無理矢理起こして敵を睨む。目の前には、ギルガルドとシャンデラの2体が浮かんでいる。
「ラプラス、アンタには特に厳しくいくよ。……アンタの役目は、戦線が崩れるのを防ぐために相手の技を耐えつつ敵を削る、要塞だ。だがそれはフルバトルでの話、みずのフィールドでは、アンタはフシギバナが担っていた役割を担わないといけない。だが、それには全体的に不足が過ぎる。だから、火力が高い2体の攻撃に耐えつつ、2体を撃破できるだけの攻撃を返すんだよ 」
キクコはそう言うが、話はそう簡単ではない。ギルガルドもシャンデラも高火力の技を、空中で動き回りながら放ってくるのだ。水面に浮かぶラプラスは必死に技を放つも、全体攻撃な【こごえるかぜ】はシャンデラに溶かされて届かず、みずタイプの技を使ってもギルガルドに防がれるか避けられる。つまり、一方的に攻撃を受け続けているのだ。
「ラァァァァァ!!!! 」
それでも、ラプラスは折れない。スミレを失いかけた日の無力感を糧にして、気合と共にエネルギーを振り絞る。しかし、そんなの関係ねぇと言わんばかりの同時攻撃が、ラプラスを飲み込んだ。
「フーディン、アンタは兎に角攻撃を食らったらダメだし、食らっても耐えなきゃダメだ。火力を高めることも大事だが回避の特訓は急務であるし、フーディン自慢の頭脳も使わなきゃいけないよ 」
キクコにそう言われたフーディンは、【テレポート】で必死に飛び回っていた。地上からは、遥かにレベルが下のゴーストポケモン達が絶え間なく攻撃を放っており、フーディンの手にはバトルにおける戦術が書かれた専門書が握られている。つまりフーディンの特訓は、勉強しながら攻撃を避けるというものだ。しかも、偶にターゲットが現れるので的当てまでやらされる。IQが高いフーディンといえども、その使い方を学ばなければ宝の持ち腐れというやつだ。そのため、思考力の使い方を学びつつ、削られてゆく集中力でどう立ち回るか、というところも鍛えている。因みに、一通り終わると本の内容を模写させられる。識字能力や記憶力まで鍛えさせられる、ある意味最も鬼畜な訓練であった。フーディンはそれを、額に汗を滝のように流しながらもこなし続けた。
「ゲンガーはあれだね、攻守のバランスは良いが全体的に不足していて、何より立ち回りがまだ未熟だ。あのババア、適当な訓練施しやがって……! ゲンガーとしての立ち回り、ゲンガー使いのあたしがキッチリ教えてやろうじゃないか 」
キクコは、そう言って意地悪に笑った。ゲンガーの扱いにおいてはカントーでも最強、世界的にも1、2位を争うトレーナーだ。それ故に、育成中といえどもゲンガーの動きは全く違う。
「ゲェェェン!!……ゲェッ!? ゲェェェン!!!! 」
スミレのゲンガーが放った【シャドーパンチ】が空を切り、スミレのゲンガーは空中で体勢を崩す。キクコのゲンガーはスミレのゲンガーの作った影に一瞬沈むことで回避したらしく、即座に浮き上がってその腹に【シャドーパンチ】、さらに瞬間移動にも似た動きで背後に回ると、再び【シャドーパンチ】。後頭部を殴られたスミレのゲンガーは、顔から地面に叩きつけられる。
「ゲェン、ゲンゲン、ゲェェェン!!!! 」
鼻息荒く挑発するキクコのゲンガー。スミレのゲンガーは響く頭の痛みに顔を顰めながら距離を取ろうと【シャドーボール】を準備しーーそれに【シャドーボール】が叩きつけられて爆発した。スミレのゲンガーは再び地を転がる。しかしそこで終わりではない。キクコのゲンガーはスミレのゲンガーの影に侵入してその体を持ち上げると、力一杯投げ飛ばす。空中で姿勢を整えるスミレのゲンガーだが、その時には【シャドーボール】が目の前まで迫っている。爆炎が上がり、スミレのゲンガーは力無く地面に墜落した。
「トサキントは、まず全体的に遅れてる。まぁ新参だから仕方はないが、それでもまだ話にならない。……ま、そこは上手く扱かれな。あたしがアドバイスできる段階にも到達してないからね 」
そうキクコに言われて、トサキントは憤慨した。美意識が強く、ナルシスト気味なトサキントだが、スミレの主力達が受けるえげつないトレーニングを見て顔を真っ青にしたし、それに食い下がる彼らに敬意を抱く。だがそれは束の間の休息だ。トサキントの相手をするのは、ダダリンというポケモン。くさ、ゴーストという相性の悪いタイプでありながら、主戦場は海中だ。渦潮を起こされてアッサリと飲み込まれ、加減されたか渦潮を収めての真向勝負では全くと言っていいほどに歯が立たない。トサキントは、プライドが傷つけられた。しかし、このトサキントはその悔しさを糧にできるタイプである。
「キィン……!! 」
全身を傷だらけにしながら、それでもダダリンに向かってゆく。周りが努力しているときに怠惰を貪るということは、トサキントにとって美しくないことなのだから。
「ミニリュウ、今の所最もダメなのがアンタだよ。……なんでかって? まず、戦力外。生まれて時間が経っていないにしても、弱過ぎる。アンタ、ひょっとして下らないプライドで訓練から逃げたタチだろう?そして更に、方向性が定まってない。遠距離型か近距離型か、はたまたオールラウンダー型か、性格や技の構成で決めるものだが、それが決まらなきゃ育成方針は固められないのさ。だからアンタに課すのは、トサキントと同じような扱きだ。強み、弱み関係なく全能力を最低限使えるまで鍛え上げる。弱音は許さないよ 」
キクコの厳しい言葉に、ミニリュウは落ち込んだ。他のポケモンと比べて、幾分か表情も厳しかった。そんなことで始まった訓練は、周りと比べて甘かった。ドラメシヤというゴースト、ドラゴンのポケモンを相手に模擬戦をするというもの。実力は、かなり拮抗しているがそれはドラメシヤがキクコのポケモンでも特に弱いと言うだけだと、他のポケモン達の鍛錬を横目に思う。明らかに見下されている、という状況はミニリュウにもドラメシヤにも火を付けた。ドラゴンタイプはプライドが高いため、このような状況は許しがたかった。その気持ちで、2体のドラゴンは気合を入れる。それがキクコの狙いとも気付かないまま、2体のバトルは次第に激しさを増してゆくのであった。
そしてそのようなバトルが展開される間、スミレはオーキドと、偶々見舞いと事情の把握のために来たという、ワタルの解説を受けながらも必死に本のページを捲っていた。
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