ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
「……つまり、みずポケモンは水中や水辺を生息地とすることが殆どであり、ほのおタイプで突破するには、みずポケモンが嫌う乾燥を与えると効率的に倒せるのじゃ。やりすぎると干物じゃがの 」
「乾燥、となると持久戦ですか? 」
「そうじゃな。【ほのおのうず】なんかで長時間囲んでしまう、というのが有効じゃろう 」
「真正面から突破する方法も、一応あるにはあるがな。……ほのお技で真正面から突破するなら、水を蒸発させるだけの火力は必要だ。例えば、【オーバーヒート】や【だいもんじ】、特殊な技だが【ブラストバーン】なんかがやりやすい。シンオウ四天王のオーバがやっていることだが、アイツは熱を溜めて打つというやり方で火力の底上げをしている。オーバのブーバーが使う【かえんほうしゃ】は、まさに火炎の砲撃だ。しかしアレはポケモン側にかなりの技術が要求されるし、熱が篭りすぎるとほのおタイプでも耐えられないことがあるから余程熱に強いポケモンか、余程体を鍛えていないとできない。それは他のタイプでも然りなんだが、エネルギーの圧縮は加減をミスると暴発して事故を起こしかねないからな。くれぐれも、ジムリーダーなんかの監督無しに試さないことだ 」
「【だいばくはつ】や【じばく】を覚えるポケモンは比較的得意な傾向にある。後は【たくわえる】などもそうじゃな。……まぁ、得意な傾向でも危ないのは事実じゃからオススメはせんがな 」
「ひょっとして試しました? 」
ワタルの視線にはっはっは、と笑いながら目を逸らしたオーキドにスミレは呆れ顔を浮かべるも、すぐにノートに書き込んだ。スミレが受けているのは、オーキドとワタルによるポケモン講座出張版。事件について聞く、という名目でスミレの様子を見に来たワタルの提案でこの授業は始まった。スミレは最初こそ自分の人格について悩んでいたが、なんだかんだで世界的研究者の視点と現役チャンピオンの視点でポケモンとポケモンバトルを論じられると、シゲルと渡り合えるほどの勉強家なスミレとしては、知識欲が海のように湧いてきて一時的に気が紛れていた。ヒマワリ達の答えを伝えられ、少しだけ気が楽になったのも大きかったのだが、それにはスミレ自身気付いていない。
「エネルギーの圧縮、というのは難しいが、エネルギー運用の効率化や精密操作ならスミレも出来るぞ 」
オーキドが人差し指を立てて言うと、ワタルも深く頷く。
「そうだな。例えば、オレのカイリューは【はかいこうせん】を反動無しで撃つことができるが、そもそもなぜ反動があるか分かるか? 」
【はかいこうせん】、という技は強力な技だ。ノーマルタイプの高火力砲撃、それには反動として技を撃った後に起こる身体の硬直がある。
「……いえ、分かりません 」
スミレは、少し考える素振りを見せるも首を横に振る。スミレは、ポケモンの生態は学んでいるがエネルギー関係はサッパリだった。
「ウム、ここはワシの出番じゃな。……これを見てくれい 」
そういって差し出した本に書かれていたのは、大きなカイリューのイラストと体内外で引かれた矢印の図。
「……これって 」
スミレは、その図に書かれた内容に目を見開く。
「そう、これは、【はかいこうせん】を放った際に起きるエネルギーの循環じゃ。これを見て、どう思う? 」
オーキドに尋ねられて、じっくりと図を眺めるとおかしな点が1つある。それは、一度集められた矢印の一部が、光線が放出された際に体内に戻っているのだ。
「矢印が戻ってる……。余計なエネルギーができてるってことですか?」
その答えに、2人はニヤリと笑った。
「そう! その通りじゃ。エネルギーを【はかいこうせん】の為に変換し、収束、放出の際に使われなかった余計なエネルギーが生まれるのじゃ。そして、そのエネルギーが体内を駆け巡る。それを元の活動エネルギーに戻す際、下手にエネルギーを使用するとその余剰エネルギーが暴発して体に危害を加えるのじゃ 」
「つまり、反動は肉体側の防衛反応ってことですね? 」
スミレが尋ねると、オーキドは頷く。ここでワタルが口を開いた。
「その通り、肉体を保護しつつエネルギーを安全に処理するための時間こそが【はかいこうせん】の反動だ。まぁ、他の反動がある技も同じようなものだけどな。……そして、何故オレのカイリューは反動を受けないかと言えば、それはその余剰エネルギーを限りなく少なくしているからだ 」
「出来るんですか? 」
「訓練次第だがな。カイリューという種族は元々能力値が優秀な種族なんだ。それでも3年ほど掛かったが、エネルギーの流れを読んで操ることが出来さえすれば、無反動でかつより高威力の【はかいこうせん】を撃つことができるんだ 」
「凄い…… 」
スミレは思わず感嘆の声を漏らした。簡単に言うが、それはとても難しいことであると知っていた。スミレとて、技を上手く操作して応用できないかと試したことはあったが、悉く失敗に終わったのである。ワタルはスミレの反応に嬉しそうな顔をする。
「これでもチャンピオンだからな。……そういえば、スミレのミニリュウは運用をどうするんだ?近距離、中距離、オールラウンダーと3通りで出来るが……。性格に難があって随分と迷惑かけたと聞いているが、大丈夫そうか? 」
その問いに、スミレは苦い顔をする。育児に必死になっていて、それどころじゃ無かったのである。その為、運用は未だ未定のままだった。
「……それがですね 」
スミレはおどおどしながら事情を説明すると、ワタルは天を仰いだ。
「オレのカイリューから生まれた子だから、もっと大人しいのが出てくると思っていたんだ……。ああ、知ってるよ。キクコの婆さんから散々叱られたし電話越しにジョーイさんから怒鳴られて平謝りするしかなかったし……。うん、ほんとごめん………… 」
一気に死んだ目になり落ち込むワタルに、スミレは安堵した。どうやら、あの面倒臭いミニリュウは分かっていて渡した訳ではなかったらしい。とはいえ、ドラゴンをエキスパートタイプとする男基準で選んだので、スミレの感覚と合わないのは当然の事なのでそこを忘れていたワタルに非があるのは当然のことなのだ。
「……ミニリュウに関しては、あちらの態度次第です。私は、あのような我儘が続くようなら連れていけません。私が欲しいのは仲間であると同時に戦力であって、種族として優秀でも個体として無能なら私は要りません 」
スミレの言葉は辛辣だが、スミレのトレーナーとしての特性を考えれば当然の話であった。トレーナーには、絆型と能力型のふた通りがある。絆型は、ポケモンとの絆を最優先するトレーナー、能力型はポケモンの能力を重視するトレーナーだ。スミレの場合は間違いなく後者、合わないポケモンもなるべく面倒を見るが、度が過ぎると切り捨てるだけの優しさと合理性を持ち合わせている。トレーナーとポケモンの絆を説いてきたオーキドとしては複雑な気持ちだが、間違ったやり方とは言えないので困った顔をするしかない。
「……まぁ、オレのカイリューと話をさせてみる。場合によっては少し説教して貰うかもしれんな 。さ、次の内容に入ろうか 」
その言葉でスミレは気持ちを切り替え、また勉強へと戻っていった。
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「バナァァァ!!!! 」
花が舞い踊り、それはゴビットを目掛け、まるで意思を持ったかのような動きで迫る。
「ビィット!! 」
対するゴビットは、両腕に【シャドーパンチ】を準備すると、花に向かってラッシュを放つ。そうして散らされた花弁の合間を裂くように飛んだゴビットは、全力の【きあいだま】をフシギバナの額に叩き込みーーしかしそれを受け切ったフシギバナが操る花弁が、ゴビットを弾き飛ばした。
「フリィ……! 」
バタフリーとジュナイパーの戦いは続く。ジュナイパーの羽がバタフリーを狙い、それをバタフリーは撃ち落とす。何十もの閃光が飛び交う弾幕勝負だ。技が効かないことを見てバタフリーが【どくのこな】を撒き散らすも、それはジュナイパーが風を起こして吹き散らす。しかしそれは想定済みで、放たれた【サイケこうせん】がジュナイパーの翼を撃った。
「ラァァ!!!! 」
ラプラスの放った【みずでっぽう】をシャンデラが躱わすと、その先に更に別の【みずでっぽう】が飛んできて、シャンデラはその直撃を受ける。シャンデラ、ギルガルドを相手取るラプラスは、少しずつ2体の動きを学習し、先読みによる攻撃を放つようになっていた。とはいえシャンデラやギルガルドもそれに何の対策もしない訳ではなく、激しい読み合いによる持久戦になっていた。ラプラスの体はダメージでボロボロだが、未だ倒れない。なかなか崩れないラプラスに、2体は手をこまねいていた。
「………… 」
フーディンは、真剣な表情でスプーンではなくペンを握り、無地の紙に読んだ本の内容を記憶を元に写す。既にその体は多くの攻撃を受けて傷だらけ、しかしそれでも、フーディンの目に恐れはない。正確に言えば、恐れている余裕はなかった。一撃の威力は低くとも、攻撃は雨霰のように飛んでくる。それを避けながら本を暗記し、さらに的当て。そして今行っている暗記した内容の模写。その全てに、フーディンは必死で食らいついていた。
「ゲェン!! 」
スミレのゲンガーの【シャドーパンチ】とキクコのゲンガーの【シャドーパンチ】がぶつかり、衝撃波を放つ。すぐさまキクコのゲンガーは消えるが、スミレのゲンガーが拳を背後に振るうと、顔面を打たれたキクコのゲンガーがのけぞる。スミレのゲンガーが追撃に拳を放とうとすると再び消え、今度は上から落とされた、キクコのゲンガーによる【シャドーパンチ】がスミレのゲンガーの脳天を揺らす。足を一瞬ふらつかせながらも体勢を整えると、両者は同時に【シャドーボール】を発射。爆炎が連続であがり、それによって生まれた影に潜んで素早く移動を開始したキクコのゲンガーとスミレのゲンガーは、同時に飛び上がってクロスカウンターを決め、どちらも倒れ込んだ。
「キィィント!!!! 」
トサキントの生み出した渦潮とダダリンの生み出した渦潮がぶつかり、相殺される。それによる水圧をものともせずに、両者は水中で激しくぶつかり合った。トサキントは、スミレのことはよく知らない。美しい外見に惹かれただけであって、特別な交流もない。だが、それでも他のポケモン達が背筋が凍るような鬼畜な訓練に対し、傷だらけになりながら取り組むようなトレーナー。トサキントは、きちんと交流できる日を楽しみに、まず目の前の敵を倒すために突進した。
「リュウゥゥゥゥゥゥ!!!! 」
ミニリュウは雄叫びをあげて、その尻尾でドラメシヤを弾き飛ばす。傷だらけになりながら戦う両者は、次第に周りが見えないほどに熱中していた。周りの強者達と比べられていることなど隅に置いて、今はただ目の前の強敵に勝とうと奮起した。闘争を好むドラゴンポケモンの遺伝子が両者に立ち上がるだけの心と、それによって向上し続ける力を与えた。
「ドラァァァァァ!!!! 」
「リュウゥゥゥゥ!!!! 」
両者は再び向かい合い、頭と頭をぶつけ合った。
特訓話、次で終わると思います。本筋まではもう少しかかりますのでお待ちください