ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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入院話の尺をあんま取ってもつまらないですから、一気に飛ばします


第68話 流浪のジムリーダー、サナダ

 「退院、おめでとうございます 」

無事に退院を終えたスミレの前に、エリカは立っていた。その瞳に、怪しげな光を灯して。

「……いいんですか? 」

スミレは、確認する。これは、スミレが頼んだことであるからだ。入院中に頼んでいたこと、それはジム戦だ。特訓やらでより強くなり、リハビリの過程でそれを扱えるようになったスミレは、それを試す場が欲しかった。

「ええ、いいですとも。悠長にしていたら、ポケモンリーグへ出れなくなってしまいますもの。お急ぎになるなら、当然ですわ。……条件付き、ではありますが 」

エリカは言った。その目は、すぐにでも戦いたいと思っているだろう、戦意に満ち満ちているにも拘わらず、だ。にも拘わらず条件を付けたのならば、何らかの理由があるに違いない、とスミレは思う。タマムシジムに向かう2人の間に、言葉はない。短い時間での師弟関係、それでも今は越えるべき壁であり、迎え撃つべき挑戦者であるから。

 

◾️◾️◾️◾️

 「それで、儂に此奴の相手をせよと? 」

赤い着物に身を包んだ、高齢の男性が言った。胸には、6枚の古銭で作られたトレードマークといえる首飾りが煌めく。

「ええ、サナダさんは今回のロケット団絡みの一件、共に対処すべき立場にございました。にも拘わらず、修行のために連絡が取れぬような場所へ籠もっていたとはいえ、ジムリーダーとして為すべきことの一切を為さぬまま、事態収束まで出て来ませんでしたね。……ならば、せめてジムリーダーとしてチャレンジャーを試すのは道理でしょう。わたくしはそれを見守り、日を改めてスミレさんと戦います。……さて、スミレさん。貴女の遅れを取り戻すため、今日と明日の2日で、一気に2つのバッジを手に入れて頂きます。今日はサナダさん、そして明日はわたくしとわたくしが選抜したジムトレーナー2名、となります。実戦経験をより積みつつ、効率的にジムバッジを取得する。そういう計画です。……わたくしは、短期間とはいえ貴女のフシギバナにとっての師となりました。それは即ち、貴女の師であるということは貴女もお分かりかと思われます。これは、わたくしが師としてできる唯一の餞別です。さぁ、わたくしの愛弟子よ、この試練、乗り越えて見せなさい!! 」

エリカが高らかに謳い、スミレの視線は一気に鋭くなる。サナダは、いかにも面倒臭そうに頭を掻いた。

「……ったく、勝手に進めおって。儂がおらんかったのは悪いとは思うが、連絡が付かねばどうしようも有るまい 」

サナダとて、事態を知っていれば動いていた。だがしかし、その時には電波の届かぬ山奥で修行中、連絡の取りようがない。

「ええ、分かっております。ですが、わたくしとスミレさんが良い状態でバトルをする為に、合間に挟まっておいてくださいませ 」

「貴様、さてはキレているな? 」

「いいえ? 別に 」

ニコニコ、と笑うエリカだが、サナダとスミレはその背後に修羅を見た。スミレの怪我を考えると、シャレにならないレベルの事態だったというのに、修行で遅参、更には終わってから呑気に帰宅というのはエリカ的にはとても腹が立つのだ。

「…………まぁ良い、今回ばかりは貴様とそこの小娘の踏み台となるのも良かろうて。さて、小娘……名は? 」

サナダの鋭い視線がスミレを射抜き、スミレは緊張感に手を握り締める。

「スミレ……。マサラタウンの、スミレです 」

「良い名だ。アイサツは大事、故に儂も名乗るとしよう。…………我が名、タマムシのサナダ! むしポケモンを操る、流浪のジムリーダー也!! チャレンジャースミレよ、我がむしポケモン達に、貴様の魂をぶつけて来るが良い!!!! 」

ぞわり、とした覇気がスミレの全身を駆け巡り、咄嗟にボールへ手をかける。手をかけたボールは、フシギバナのもの。初手からフシギバナを出すべきレベルだ、とスミレは本能で察知した。

(この人……強い! 恐らく、四天王に匹敵するレベルの強さ!!)

スミレは、その覇気からキクコと同レベルの強者と読み取った。その様子に、エリカは笑みを浮かべる。

(そう……本来ならば、わたくしは彼よりも弱い。だからこそ、彼をわたくしの前座としました。大事な時に修行にうつつを抜かしていたサナダさんへのささやかな嫌がらせではありますが。……悩みの鎖に囚われていては、わたくしは愚か、サナダさんには勝てませんわよ)

 

◾️◾️◾️◾️

 「これより、ジムリーダーサナダと、チャレンジャースミレの試合を開始します! ジムリーダーの使用ポケモンは3体、チャレンジャーは6体、時間は無制限! 」

タマムシジムのコートで、サナダとスミレは向かい合う。サナダは余裕の表情を浮かべ、スミレは冷や汗をかいている。

「悩みに囚われたまま勝てると思うか? 」

「思ってませんよ……ただ、抜けられないだけです 」

 

「では、最初の1体を!! 」

 

「ならば貴様のその全力、この儂が引き摺り出すまでだ!! 行け、スピアー!! 」

「出撃、お願いね。バタフリー 」

フィールドに飛び出したのは、スミレがバタフリーでサナダはスピアー、どちらも実力に大した差はなく、ジム戦用に調整されたポケモンであり、サナダは手加減している状態だと分かる。全力のサナダには、まだ挑む権利すらないということだ。

「バトル、開始!! 」

 

「飛んで、バタフリー! 」

初手はスミレ。【しびれごな】を【かぜおこし】で撒き散らすいつもの戦術と共に、バタフリーは飛び立つ。

「構うな、突っ込め 」

サナダの指示を受けたスピアーは、嫌な思い出しかない羽音を響かせて【しびれごな】の霧に突っ込んだ。今まで出会ったスピアーよりも、ずっと早い。

「ッ……! バタフリー、【サイケこうせん】 」

スミレが指示を出すと、バタフリーはスミレの意を汲んでスピアーから距離を取るように後退しつつ、【サイケこうせん】を急所に向けて放つ。狙撃した部位は、額。

「スピッ……!? 」

的確な狙撃を受けたスピアーは、空中で体勢を崩した。

「ほう…… 」

それにサナダは目を細める。

「撃墜して、【サイケこうせん】 」

「スピアー、己の急所は理解しておろう。……【どくばり】だ 」

スミレの指示を受けて放たれた【サイケこうせん】。それに対し、サナダは静かに指示を出す。

「…………嘘 」

スミレは、思わずそう呟いた。スピアーは、放たれた光線の軌道から自身の急所のうち何処を撃たれるかを予測し、軌道の先へ【どくばり】を撃つことで【サイケこうせん】相殺したのだ。

「狙撃は見事、だがタネが割れれば対処はできる。……さて、まだ行くぞ、【どくばり】 」

そう指示するサナダの眼光は、まるで獲物を狙う猛禽のごとし。その眼光に気圧されて、スミレは思わず一歩下がる。

 

「貴様、今恐れたな? 」

「ぁ…… 」

それが、明確な隙だった。バタフリーはスミレからの指示が滞ったことで動きが鈍り、【どくばり】を受けた。戦闘不能にこそならなかったものの、小さくないダメージと毒という状態異常を負ってしまう。

 

「バタフリー!! 」

スミレは、焦ったような声をあげる。対するサナダの表情は、不機嫌であった。

「……ふん、キクコめの鍛錬を受けたと聞いたのだがな……。ポケモンに関してはバッジの数などを考慮すれば十分に強い。だが、トレーナーがここまで弱いとは拍子抜けだ 」

サナダの目には、侮蔑が宿る。サナダは、今回のバトルをそれなりに楽しみにしていた。キクコの施す鍛錬に耐えたポケモン達と、ワタルが目を掛けるトレーナー。それなりに実力には期待していた。しかし戦ってみれば、女々しく過去の悩みに囚われ、ポケモン達の足を引っ張っている。スミレという少女がどんな過去を歩み、どんな苦しみを抱いているのかは知らない。ただ単純に、チャレンジャーとして立っていながらも別のことへ囚われている姿が、気に食わない。

「……フリィ!!!! 」

バタフリーの叱咤で、スミレは正気に戻る。

「ッ……!! まだ、終わってない! 【かぜおこし】」

バタフリーは風を器用に起こし、空を飛んでいるスピアーを跳ね飛ばす。

「【ミサイルばり】!! 」

サナダの短く、だが鋭い指示が飛び、スピアーの両腕にある針から、光が何条にも放たれた。それは複雑な軌道を描きながらも、バタフリーに迫る。

「避けて 」

スミレの指示に、バタフリーは頷くと全力で飛ぶ。バタフリーは軽やかな身のこなしで1発ずつ避けてゆくが、5発目の段階で毒によって体勢を崩して攻撃を食らい、僅かとはいえ、残りの針が全て突き刺さった。

「他愛無い……。止めだ、【どくばり】」

その指示と共に突っ込むスピアー。

「地面に【かぜおこし】、飛んで! 」

スミレの指示が飛び、バタフリーは地面に【かぜおこし】を叩きつける。風によって、力がなくとも舞い上がる肉体。そして追撃の【しびれごな】により、スピアーの距離感を狂わせつつ麻痺を与えるための霧を放つ。突然の回避と【しびれごな】の煙幕に、スピアーは反応が遅れて地面に激突した。

 

「……ほう? 」

サナダの目に、期待が浮かぶ。

「【サイケこうせん】を小刻みに撃ちながら突撃、接近して【むしくい】で仕留めて! 」

「フリィィィ!!!! 」

スミレは、勝負を決めに掛かった。【サイケこうせん】を連続で放ちながら、スピアーに迫る。しかし、スピアーもすぐに体勢を立て直す。

「迎え撃て!【ミサイルばり】!! 」

対するサナダは、【ミサイルばり】。光の針が放たれ、空中で【サイケこうせん】と相殺される。空中で爆炎が上がり、衝撃波が撒き散らされる。こうなれば、意地と意地の勝負だ。両者から放たれた技が相殺され、スピアーに、そしてバタフリーに命中する。スピアーもバタフリーも、その苦痛を堪えながらも飛び回る。

「【むしくい】 」

「【どくばり】 」

両者が、空中ですれ違う。その刹那の合間に、両者は既に技を出し終えていた。

 

そして訪れる一瞬の間。それが晴れた時、勝者は明らかになる。

 

「バタフリー、戦闘不能! スピアーの勝ち! 」

スミレは、震える手をもう片方で支えながら、バタフリーをボールに戻す。

(負けた……! )

悔しさと共に溢れ出すのは、ロケット団との戦いの記憶。削られてゆく仲間達の姿と、自殺未遂による体の痛みは、スミレの心の中に残っていたのだ。他のことで悩んでいたため気付かなかったほんの小さなトラウマが、スミレの心を侵食し始める。

「ふむ、中々に削られたなスピアーよ。さて、チャレンジャーよ、少しばかり貴様の評価を改める。……貴様が退院と同時に、その不安定な精神のまま挑んだことは、ただ焦ったばかりではない。勝つならば兎も角として、挑むだけの力量はある。その精神さえ何とかすれば、儂も突破できるだろうさ。……さて、次を出すがいい。我がスピアーは消耗している、倒すには絶好のチャンスであろうが 」

サナダの言葉に、スミレはぎゅっと唇を噛み締め、2体目を繰り出した。

 

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遂に、ミニリュウ出陣です

12月2日18:43 壮年→高齢に変えました。壮年という言葉を誤用しておりました、大変申し訳ございません
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