ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
「いけぇ!カゲちゃん、【ひのこ】‼︎」
「カゲェ‼︎」
「ああ、キャタピー!」
「キャタピー、戦闘不能。ヒトカゲの勝ち。よって勝者、マサラタウンのヒマワリ。」
「やったぁ‼︎」
「あーあ、残念・・・。」
スミレとヒマワリは、トキワの森にいた。ニビシティに向かい、ジム戦を行うためである。その道中に出会った虫取り少年達とバトルをし、連勝を重ねた。ヒマワリにも少し自信がついたようで、バトルを積極的に行っている。スミレにとっても、人の試合の審判をする経験は無かったので、ヒマワリを連れて行かなかったら経験できなかったと思うと、少しだけこの面倒な関係も許せる気がした。
「じゃーなーーっ!」
「バイバーイ‼︎」
笑顔で手を振り、少年と別れるヒマワリをチラリと見て、スミレは自分の作業に移行する。キャタピー探しだ。キャタピーは木の上などに生息していることが多いが、時によってはスピアーの巣があるので無闇に突いてはいけない。目視で探し、見つけたら【つるのムチ】で拘束してモンスターボールを投げる。フシギダネは既にボールから出て、捜索に加わっている。
それから1時間、森を歩きながら捜索を続けた。途中、ヒマワリが野生のポッポを捕獲し、大はしゃぎした挙句足元への注意が疎かになり、盛大にこけるハプニングがあったのだが、スミレにとっては特別語る必要のない事である。ビードルやポッポといったポケモンを倒しつつ暫く探していると、フシギダネが一声鳴き、スミレに合図を送ると蔓を伸ばして木の上のキャタピーを拘束、引きずり下ろした。
「ピィィィ⁉︎」
キャタピーは鳴き声をあげ、動揺するがすぐに戦闘態勢に入る。キャタピーは基本的にのんびりした種族だが、敵を目の前にすると流石に戦闘態勢を取る。
「やるよ、フシギダネ。」
「ダネェ!」
「がんばれー!スミちゃーーん‼︎」
ヒマワリが天真爛漫な笑顔で応援する。
先手はキャタピー、【いとをはく】で拘束にかかる。
しかしそれを読んだスミレの指示でフシギダネは回避した。
「フシギダネ、【たいあたり】。」
「ダネダネダネダネッ、ダネェ!」
フシギダネのたいあたりが炸裂する。
キャタピーがふらついた隙を狙い、スミレは空のモンスターボールを取り出した。
「行け・・・モンスターボール。」
投げられたモンスターボールは綺麗な軌道を描きながら飛び、キャタピーにぶつかるとキャタピーを吸い込んだ。ボールは地面に落ち、
1回 2回 3回 と揺れ、カチリ、と音がする。ゲットの印だ。
スミレにとっての、初ゲット。少しだけ、気分が高揚する。
「キャタピー、ゲット。」
喜びを言葉に乗せて、そう宣言する。
「おめでとーーーーーーーー‼︎」
思いっきり抱きついてきたヒマワリに、頭が冷えた。
ため息をつき、ヒマワリの頭に軽く手刀を入れて引き剥がすと、痛がるヒマワリを他所にボールからキャタピーを出す。
「ピィィィ!」
キャタピーはスミレを見定めようと警戒してくる。
「私はスミレ、あなたのトレーナー。これからあなたは、私と一緒に来てもらう。強くなって、色んなポケモンと戦うことになる。これはお近づきの印の、オボンの実。私に着いてこないなら、この実は食べないで。すぐに逃すから。私は戦う意思のないものを手持ちに置いておく趣味はない。保持にはお金がかかるから。」
オボンの実を差し出すと、キャタピーは少し悩み、実に齧り付いた。交渉成立だ。
スミレはホッと息を吐く。初めてのゲット、成功してよかったと。
⬛️⬛️⬛️⬛️
キャタピーを捕まえてから、キャタピーを重点的に鍛え始めたのだが、このキャタピーは中々器用らしい。フシギダネのような火力はないが、フシギダネの【たいあたり】を受けて吹き飛ばされても空中で体勢を立て直したり、【いとをはく】を木に放って手繰り寄せることで高速で移動したり、木々の間に【いとをはく】をして罠を作り、ポッポを誘き寄せて絡め取った後で【たいあたり】でタコ殴りにするなど、キャタピーの特徴に合わせてシュミレーションしていた戦法をうまく再現していた。今後バタフリーに進化したら、状態異常を押し付けたり身軽さを活かしたヒット&アウェイ戦法をやらせてフルパーティーの先鋒として相手のペースを乱す役割を担って貰おうと思っていたのだが、これなら立派に果たせそうである。ちなみにフシギダネには、相手をより多く落とすエースではなく、相手パーティーの最強を落とす、大将の役割を担ってもらうつもりだ。そのフシギダネとの関係は良好で、不仲にならないか心配したのだが、凝り性で職人気質なキャタピーを、おおらかで時に頼もしい、父親を体現したような性格のフシギダネが暖かく見守る構図ができており、うまくやっている。お互いに刺激を受けあっているようで、フシギダネはキャタピーに近接戦での立ち回りを教え、キャタピーはフシギダネの【つるのムチ】の制御にアドバイスを送っているらしく、蔓を器用に使って小さな岩を投げ、空中のポッポを撃ち落としたりしていた。それを見ていたヒマワリのポッポは震えていた。
しかし少しの間鍛えていると、キャタピーに変化が訪れた。バトルを終えたキャタピーが青白い光に包まれ、その光が晴れると、姿が変わっていたのだ。サナギのようなポケモンで名前はトランセル。それと同時にキャタピー時代の器用な動きは出来なくなったが、【いとをはく】を使えること、【かたくなる】という技を覚えたことで、糸を括りつけて空を高速で動き回る。空中機動は可能、かつ【かたくなる】をした状態で空中機動をして空中の相手に【たいあたり】をかます、対空ミサイルが完成した。とはいえ、器用さが売りのキャタピーから器用さが失われたので弱体化は免れない。幸いにも、キャタピー系列は進化が早いので、ニビシティに着く前に、バタフリーへの進化を済ませてしまおうとスミレは考えた。フシギダネは1番道路とその周辺で何時間も狩りをしまくり、さらに先日のロケット団との戦いで、ジム戦でも切り札として機能するだろう程度には鍛えられている。スミレは、石橋を叩いて、その上でもし崩れても対処できるような備えをしてから渡るような性格だ。全力で駆け抜けるサトシ、ピクニック気分で能天気に歩いて渡るヒマワリ、隣に新しい橋を掛けた後で石橋を渡る相手を煽り散らかしながらゆっくりと新しい橋を渡るシゲルとは違う。この日はバタフリーに進化するまで終わらない、そう目標を設定した。我ながらあまりにハードだ、と思ったが、音をあげたのはヒマワリとその手持ちだけでフシギダネが【つるのムチ】で【かたくなる】を使ったトランセルを跳ね飛ばし、空のピジョンやバタフリー、単独でいるスピアーを撃墜し、トランセルが攻撃を受け、フシギダネが拘束し、トランセルが倒すというループを続け、遂にはバタフリーへの進化を遂げた。進化のあまりの早さに感動すら追いつかなかったものである。それと同時に【かぜおこし】を覚え、バタフリーの技は【いとをはく】、【たいあたり】、【かたくなる】、【かぜおこし】の4つになった。ちなみにフシギダネは【たいあたり】、【なきごえ】、【やどりぎのたね】、【つるのムチ】である。
戦力としては、一度挑んでみてもいいくらいになっただろう。なので、ヒマワリのポッポがある程度戦力として機能するまで特訓に付き合い、旅を始めて初めてとなる野宿が始まった。
⬛️⬛️⬛️⬛️
「ふわぁぁぁぁぁっ!」
スミレが煮込んでいた鍋の中身に、ヒマワリは目を星のようにキラキラさせる。今夜のメニューはホワイトシチュー、母モモカ直伝の味だ。
じゃがいも、にんじん、玉ねぎなどの野菜に、入れる肉はトキワシティのスーパーマーケットで仕入れたパルデア地方産の豚肉。ミルタンクというポケモンから採れたモーモーミルクをふんだんに使用しており、濃厚な味わいだ。
ポケモン以外の動物が絶滅した現在、食肉は当然ポケモンだ。そのためポケモンと向き合う仕事をしている者はポケモンと支え合って生きている意識が強いし、強くなければならない。この世界の多くの人々はポケモンの存在を支配すべき所有物としてではなく、同じ命であると考えている。食べる、食べられる。奪う、奪われる。争う、助け合う。そんな理の輪の中に、人間とポケモンは共に生きていることを知っているのだ。
尤も、ポケモン大好きクラブというポケモン愛好会の中には、ポケモンを食べることを嫌悪する過激派もいるが、基本的にポケモンを食べていると聞いてショックを受けるのは小さなお子様くらいのものである。ポケモンを愛してやまないサトシやヒマワリすら現在はその辺は受け入れている(尤も、幼い頃はどちらも大きなショックを受けていたとスミレは聞いた)。実際、人間もよく野生のポケモンに食われたりするのでお互い様だというのがスミレの考え方だ。
そのような難しい話は置いておくとして、スミレは料理好きだった。モモカの作る料理が大好きで、持ち前の探究心と学習意欲を発揮してモモカに教えを乞うた。長年の修練の果てに、スミレは料理上手に育ったのである。尤も、腕を振るう相手が両親くらいしかいなかったのであるが。
鍋の蓋を開けると、とろりとした白いルウが姿を見せる。中には色とりどりの野菜が白い海を彩り、よく煮込まれた豚肉がホロリと簡単に崩れそうなほどに柔らかくなっている。スミレはこのシチューに、チーズを入れていた。モーモーミルクから作られたチーズはまろやかなシチューにさらなるコクと旨味、そしてとろみを与え、あらかじめ買っておいたバゲットを付けると絶品である。
「うまぁぁぁぁぁ、ひあわへぇぇぇぇ。」
ヒマワリが口の中いっぱいにシチューとバゲットを詰め込んでいっぱいに咀嚼し、飲み込むと花が咲いたような笑顔を浮かべてそう言った。その顔に、スミレは僅かながらに衝撃を受ける。普段からヒマワリは世の中全てが幸せだみたいな顔をして、気楽そうな顔をして生きているように思っていたが、今この瞬間ヒマワリが見せたその顔は、スミレが知っているヒマワリの中で、最も幸せそうな顔をしていた。
「そう・・・それは、よかった。」
スミレは、自分の料理を人がとても美味しそうに食べる光景に何だかむず痒い気分になって、気持ちを隠すようにシチューをかき込む。
熱々、トロトロのクリームシチューからは、とろけるような美味しさを感じた。
バタフリーには雑に進化しました。正直バタフリーはバタフリーになってからが本番なので・・・。
シチューの描写には少々気合いを入れました。まだまだ下手くそですが、ゆくゆくは飯テロ目指したいです。