ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
ミニリュウとカイロスは睨み合う。ダメージはミニリュウの方がより受けており、耐久力を考えれば長期戦にもつれ込むには体力が足りていない。ジム戦はまだ始まったばかりだというのに、かなりの激戦となっていた。
「さあ、行くぞカイロス! 【むしのさざめき】!! 」
「迎え撃って……。【りゅうのいかり】 」
かき鳴らされる激しい音波を、ミニリュウの放った龍のエネルギーは呑み込み、砕き、蹴散らす。結果は相殺、打ち破ることはできずとも防ぐことはできた。ならば、次にすべき事は決まっている。
「カイロス、【シザークロス】! 」
「ミニリュウ、【アクアテール】、鋏を踏み台に跳んで 」
カイロスが鋏を構えて突進するが、ミニリュウはその鋏に【アクアテール】をぶつけて飛び上がる。その衝撃で前のめりになるカイロスを眼下に見据え、ミニリュウは得意げに笑う。
「カイロス、体勢を立て直せ 」
「ミニリュウ、【ドラゴンテール】 」
ミニリュウは空中で回転しながら落下すると、足を踏ん張らせて立ち直ろうとするその頭に、【ドラゴンテール】を放つ。
「しまった! 」
サナダは、思わずそう声をあげた。カイロスが光になり、ボールに戻された。【ドラゴンテール】による強制交代の追加効果が、ここで出たのだ。呼び出されたのは、スピアーだ。
「スピッ!? 」
突然呼び出され、困惑で動きを止めたスピアーに、スミレは容赦なく追撃の指示を飛ばす。
「ミニリュウ、【たつまき】 」
「リュゥゥゥ!!!! 」
ミニリュウの放った【たつまき】が、注意が疎かになっていたスピアーを打ちのめす。
「反撃だ、スピアー! 【ミサイルばり】!! 」
「スピッ!! 」
対するスピアーは【ミサイルばり】、放たれた無数の針が、消耗していたミニリュウを吹き飛ばす。
(駄目か……?)
スミレは、そう思った。土煙で、ミニリュウの姿は見えない。思わず、腰にある空のボールに手を触れる。
(……ッ! ダメ、信じなきゃいけないのに……)
スミレは慌てて手を離し、服の裾で手汗を拭う。
「……え? 」
その光景にスミレは、思わず驚きの声を漏らした。それと同時に、サナダもまた目を丸くし、続いて笑った。
ミニリュウは、立っていた。全身をボロボロにされながらも、しっかりと立ち上がり、スピアーを睨みつけていた。
「やりおるな…… 」
サナダは、嬉しそうに漏らした。
「ミニリュウ、【りゅうのいかり】 」
「リュ、リュウゥゥゥ!! 」
ミニリュウは辛そうな表情を浮かべながらも、【りゅうのいかり】を放つ。
「躱わせ! 」
「スピッ! 」
スピアーは、その攻撃をなんとか躱わす。【りゅうのいかり】はコートにぶつかり、小規模の爆発を起こす。それを一瞥もせずにスピアーはミニリュウを視界に捉えーーーー迫ってきた【たつまき】に吹き飛ばされた。これは単純な理屈で、【りゅうのいかり】が外れて爆発したその爆音に紛れて、スミレは指示を出していた。そして、スミレの手はあとひとつ。
「リュウゥゥゥゥゥゥ!!!!!! 」
ミニリュウが、【ドラゴンテール】のエネルギーを尻尾に溜めて肉薄する。【たつまき】を放ったそのすぐ後に突貫した為か、消耗していたスピアーでは回避が不可能だ。
「やれ、【どくばり】!! 」
回避を諦めたサナダは、迎撃を指示。毒々しいエネルギーを纏ったスピアーの針が、ミニリュウに届いた。ミニリュウの尻尾は空を切り、地面に衝撃波をぶつけるのみだ。天を舞うように吹き飛ばされたミニリュウは、力無く地に落ちる。
「ミニリュウ、戦闘不能! スピアーの勝ち!! 」
その判定に、スミレは思わずため息を吐く。負けるのは想定内だったとはいえ、負けというものはスミレの心を澱ませる。当初の想定以上に粘ったミニリュウも、ここで脱落だ。当のミニリュウは、傷ついた体で細目を開けて、スミレの顔色を窺っている。
「貴方は私の想定を超えて頑張った。……ありがとう、後は任せて 」
スミレは、ミニリュウの頭を撫でながらそう声を掛けた。2連敗に苦しむ内心を他所に、スミレの声は自身も驚くほどに柔らかくて、それを聞いたミニリュウは、嬉しそうに笑うとそのまま意識を落とした。スミレはボールにミニリュウを戻し、腰に付ける。息をひとつ大きく吸い込むと、3体目が入ったボールを構えた。
「行って、フーディン 」
スミレが出した3体目、それはフーディンだ。フーディンは僅かな怯えと、それを超える戦意を持った目でスピアーに向かい合う。
「スピアーよ、行けるか? 」
サナダの気遣いにスピアーは頷いて、すぐにフーディンを睨みつける。そして一瞬の間の後、2人は勢いよく指示を飛ばし始めた。
「フーディン、【サイケこうせん】 」
「スピアー、躱して【ミサイルばり】 」
「【テレポート】で回避、撃ち返して 」
「躱せ 」
フーディンはまず先制で【サイケこうせん】を放つ。一方のスピアーが取った方法は回避、【サイケこうせん】が壁にぶつかり消滅する的なフーディンは細かく【テレポート】をしてそれらを躱すと、避けたスピアーに対して【サイケこうせん】で撃ち返す。
「【シャドーボール】 」
「【ミサイルばり】 」
フーディンの【シャドーボール】が【ミサイルばり】と激突する。
「連続で【シャドーポール】 」
相殺し切れなかった分目掛けて、フーディンは小型の【シャドーボール】を連続で放った。それらは【ミサイルばり】を叩き落とし、スピアーに殺到する。
「よし、【どくばり】だ! 」
スピアーは【どくばり】を準備し、【シャドーボール】に備えて構えを取る。
「【ねんりき】 」
しかし、それをスミレは許さない。【ねんりき】が決まり、スピアーは体勢を崩される。
「チッ……避けろスピアー! 」
サナダは回避を指示する。その場合問われるのは、それぞれの機動力だ。万全かつ機動力を鍛えていたフーディンに対し、スピアーはバタフリーとミニリュウの2体を相手に消耗していた。それこそが、絶対に抗えない隙となる。フーディンが【ミサイルばり】の雨霰のような連撃を【テレポート】の連続使用で躱したのに対し、1発の【シャドーボール】がスピアーの翅を捉えた。消耗した体力によって、避けそこねたのだ。意識はありつつも爆煙の中から落ちてくるスピアーを、スミレは逃さない。
「【サイコカッター】 」
スピアーに迫るのは【サイコカッター】。三日月状に展開されたサイコパワーの塊が、スピアーに迫る。
「【どくばり】で急所を守れ! 」
対するスピアーも、【どくばり】による防御を試みる。目につくのは、3枚ものサイコカッター。一撃目、右の針で薙ぎ払った。二撃目、左の針を突き刺すようにして破壊した。三撃目、両の針をクロスさせて防御した。
「今 」
スミレが短く呟いた瞬間、スピアーの背後にフーディンが現れた。
「……なるほど、【テレポート】か 」
サナダは、ニヤリと笑った。サナダの見立て通り、フーディンはスピアーが【サイコカッター】の防御に意識を削がれている隙を狙ったのだ。
「【サイコカッター】 」
スミレがそう指示するのと、フーディンが技を放つのは同時だった。回避が間に合わなかったスピアーの背中に【サイコカッター】が炸裂した。
「スピアーッ! 立て直せ!! 」
「スピッ!! 」
サナダの指示で、スピアーは再び体勢を立て直す。
「……あれ耐える? 」
スミレはぼそりと呟いた。
「スピアー、【ベノムショック】 」
ここに来て新たな技を使った。【ベノムショック】、どくタイプの遠距離攻撃だ。毒の塊が放出され、それに呑み込まれたフーディンは苦痛に顔を歪める。
「フーディン、【テレポート】で戻ってきて 」
動揺する内心を隠して、スミレはフーディンを自身の近くに転移させる。
「フーディン、大丈夫? 」
「ディン! 」
スミレが気遣わしげな表情を向けた。フーディンは特に打たれ弱く、毒技の苦痛に耐えられるかが心配であったのだ。しかし、フーディンはスミレに笑いかける。毒技など、キクコとの特訓で散々浴びせられたのだ。たった一撃で怯む訳にはいかないと、怖がる気持ちに蓋をする。
「……そっか。頼りにしてるよ 」
そう呟いたスミレの言葉は、ミニリュウの時とは違う意味合いがあった。スミレにとって、フーディンの成長は目を見張るものがあった。最初はバトルを嫌がるような臆病者で、スミレは内心捨てることを本気で考えていた。だが、フーディンは自前の打たれ弱さを技の工夫でカバーし、自身の怯えと真正面から向き合った。その臆病が治ることはきっと一生ないだろう。それでも、自分の弱みと向き合い、直そうと努力を重ねたフーディンに対して、スミレは嫉妬と共に信頼の気持ちを抱くようになっていた。だから、スミレの言った『頼りにしている』とは、スミレの心の奥底から漏れ出た気持ちで、ミニリュウに言ったような、指示を通すために作った信頼とは温度が違った。そしてフーディンの優れた頭脳は、その複雑な信頼を読み取った。
「ディン!! 」
フーディンは奮起した。必ずや自らのトレーナーに勝利を捧げようと胸に誓った。フーディンは臆病である。本来なら、今すぐにでも尻尾を巻いてバトルの場から逃げ出したいと思うほどに臆病なのである。しかし、自身の仲間であり主人の感情には、ポケ1倍敏感であった。捻くれ者で寂しがり屋な自らのトレーナーが、嫉妬混じりであっても心の底からの信頼をくれたというときに、奮起せぬほど薄情でもなかった。
「……フーディン、せめてスピアーはここで落とす。頼める? 」
「ディィン!! 」
気合いを入れて、スピアーとその先のサナダを睨む。
(ああそうだ……。やはり貴様は素質がある。だからこそ惜しいのだ、その感情が貴様の全てであったなら、儂は今すぐにでもバッジを渡していた。貴様の心の闇が、そこから生まれた煩悶が、貴様自身の成長を阻害している。……答えを見つけねば、貴様が勝つことはない)
サナダは、そう思うとスピアーに声を掛けた。
「やれるか、スピアー 」
「スピ……スピッ!! 」
スピアーは、既に満身創痍だ。だが、ジムリーダーの1番手としての矜持が、彼にスピアーらしからぬ驚異の耐久力を与えていた。軽率に限界を越えられる、それが真に信頼し合ったトレーナーとポケモンの姿だ、とサナダは考えている。現に、リーグの上位にもなると、トレーナーの戦術もポケモンの能力も、当たり前のようにバトル中に成長してくる上に、ポケモンの本来想定されたスペックを、遥かに越えてくるものだ。だが、現状のスミレはそれが出来ない。出来ていたならば、バタフリーもミニリュウも、もう少しは戦えていた。サナダは、エリカが自身に前座を頼んだ理由を、完全に理解した。エリカは、現状のスミレの状況を、完璧に把握していたのだ。その上でより人生経験のあるサナダとのバトルで悩みの解決への糸口を見出し、本来の全力が出せる状態まで持って行った後で、その1番オイシイ所を持って行こうという魂胆だったのだ。強者とのバトルを好むポケモントレーナーの端くれとしては、単なる嫌がらせよりもタチが悪い。
(彼奴め……、【わるだくみ】しおって)
(何か失礼なことを考えられた気がしますね……。もしかして、気付かれたのでしょうか? )
エリカを横目で見て苦笑しつつ悪態を吐くサナダを見てエリカはそう思うが、大正解であった。
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