ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
「スピアー、【ミサイルばり】!! 」
「フーディン、【ねんりき】。拡散して 」
スピアーの【ミサイルばり】が空中を駆け抜け、フーディンに迫る。対抗したフーディンは、【ねんりき】のエネルギーを体内で生成すると、まるで爆発させるように放出した。本来、【ねんりき】は敵単体にエネルギーを集中して攻撃するものだ。しかし、フーディンには自身も持て余すほどの戦闘の才能があった。だからこそ可能だったのが、広範囲拡散型の【ねんりき】。【ねんりき】のエネルギーを円を描くように放出し、相手の攻撃と【ねんりき】のエネルギーがぶつかると爆発するし、相手ポケモンに当たれば低火力ながら攻撃にもなる。サイコパワーと才能を持て余したフーディンであっても多用が出来ないほどの広範囲カウンター攻撃。それを、このタイミングで使った。異様なエネルギーが空間を波のように動くのが、ほんの一瞬サナダの目に映った。そしてサナダがスピアーに忠告をしようと口を開き掛けたとき、【ミサイルばり】が何もない空中で起爆し、爆炎が舞う。
「スピィィィ!? 」
スピアーもまた、その攻撃の一端を受けて跳ね飛ばされた。ダメージは軽いが、それでも消耗したスピアーには抑えたかったダメージだ。
「フーディン、【サイコカッター】 」
フーディンの放った【サイコカッター】が、スピアーを狙う。
「スピアー、避けろ! 」
サナダの指示で、その【サイコカッター】を避けるスピアー。スミレは、眉を顰めた。
(ほんと良く耐えるし避ける……。スピアーは種族柄、耐久力はあまり高くないはずなのに)
スミレは、種族離れしたその能力に内心動揺していた。スピアーは素早さや攻撃に秀でている反面、耐久力はそこまで高くないとスミレは記憶していた。だからこそ、スピアーの耐久力が信じられない。
「おかしいか?我がスピアーの耐久が 」
サナダの問いに、スミレは頷いた。
「ふん、青いな。そして捻くれておる。……単純な話、これはただの信頼だ。スピアーと儂の絆、それがこの驚異の耐久力に繋がっておる 」
スミレは、その答えに納得がいかないのか、渋い表情になる。
「……そんなの非合理的です。精神論で能力を語られて、納得出来るわけがありません。仲良しこよしでは、ただ現実に押しつぶされるだけですから 」
スミレの声は平坦なようでいて、その奥底には嫌悪が見える。サナダが理由を語った時、『絆』のワードで明確にスミレの顔色が変わった。恐らくは、それがスミレの地雷のひとつだ。
(先程フーディンが奮起した理由も分かっておらんのか。どれだけ捻くれておるんだ此奴は……。そして特に反応したワードは『絆』。ほほう、友情だとかそのような言葉が嫌悪の対象と見たぞ)
「貴様、絆や友情は嫌いか? 」
「……ッ! 」
スミレの表情が、目に見えて冷たくなった。
(嫌悪……、いや、憎悪か…………)
「貴様、徒党を組んだ輩に虐められた経験は? 」
「…… 」
それに対するスミレの意見は、無言。それが答えだ。
(正解……だな。なるほど、つまりはアレか。纏まった集団によって虐げられた経験が、奴に孤独を求めさせたのか。友情や絆が、そこまで腐ったものと思っているのか)
「マサラタウンは小さな町、住民同士の距離が特に近い町だと聞く。故郷は好きか? 」
「…… 」
(今度は複雑。……嫌悪感もありつつ、憎めなさもありつつ、といった所か? 故郷の人間の善意が毒になり、本人も分かっていながら割り切れないタイプか、本当に毒であったにもかかわらず精神的に依存しているタイプか。はたまたその他か。今は情報が少ないか)
「まぁ良い。どの道、スピアーが耐えているのは事実である。儂はスピアーを信頼し、スピアーは儂を信頼している。互いが互いに勝利を献じようとするからこそ、儂らは共に限界を越えられる。それを否定するならば、相応の力を見せてみよ。……さぁ、バトルの続きをしようか 」
その言葉に、スミレは素早く指示を出した。
「フーディン、【サイケこうせん】 」
フーディンの【サイケこうせん】が、一直線にスピアーへと伸びる。
「迎え撃て 」
サナダの言葉に従い、スピアーは自身の右手の針にエネルギーを纏わせて振るう。激突により生まれた衝撃波が、両者を吹き飛ばす。
「フーディン、【シャドーボール】 」
フーディンの放つ攻撃が、スピアーを狙う。
「【どくばり】で払いつつ突っ込め! 」
対するサナダの判断は、突撃だ。限界を越えて戦うスピアーも、体力はもう殆どない。だからこそ、できるだけ削って次に繋げる。それが、サナダの判断であり、スピアーを犠牲にする策である。スピアーは非情ともいえる策を聞くや否や、一瞬たりとも躊躇わずに突っ込んだ。【どくばり】のエネルギーを纏った針で、【シャドーボール】を打ち払う。
「近づけちゃダメ、【テレポート】 」
スミレは、その執念の突撃に動揺した。恐怖すら覚えた。故に選択するのは逃げの一手、正面から物量で押し潰して撃墜するという策を取れたにも関わらず、それを選択できなかった。
「臆したな小娘! スピアー、【ミサイルばり】、続けて【ベノムショック】、最後に【どくばり】で突撃だ! 」
無数の針がフーディンに迫り、それを毒の塊が追い掛ける。それらを放ち終わると、スピアーは再びフーディン目掛けて突っ込んだ。
「……ごめん、フーディン! 頑張って!! 」
スミレの決断に、フーディンは笑って頷いた。スミレによる絆の否定はフーディンのみならず、スミレのポケモン達にとっては悲しいことだった。だが、それがスミレであることを知っているのもまたスミレのポケモン達だからこそだ。だから、スミレの為に今は力を振り絞る。いつか、遠い未来の話であっても、スミレがポケモン達との間に絆を見出してくれることを祈って。
「全力全開……【ねんりき】!! 」
「ディィィィィン!!!!!! 」
瞬間、膨大なサイコパワーが放たれた。1度目に比べても、遥かに巨大なエネルギーの波。フーディン自身でさえも驚くほどの超火力が【ミサイルばり】を、【ベノムショック】を撃ち落とす。そしてそのまま、エネルギーの波はスピアーを呑み込んで爆発した。
「……ッハ、愛されているな小娘ッ!! 見事!! 」
サナダは叫んだ。スピアーのことが心配でない訳がない。だがしかし、フーディンの力には驚嘆せざるを得なかった。
(だからこそ馬鹿なのだ貴様は……! こんな近くに本気で想ってくれる者がおるというのに)
「スピアー、戦闘不能! フーディンの勝ち!! 」
その言葉を聞くと、スミレは思わず大きなため息を吐いた。集中力が、一時的に途切れたのか、一気に疲労感が押し寄せる。
「フーディン……。ごめん、思ったより削られた。私のせいだ 」
スミレは、弱々しく言った。フーディンのダメージは少ないが、しかし体力や気力はかなり削がれてしまったのだ。対するスミレも、汗をかき肩で息をしている。
「ディン! 」
そんなスミレの額を、フーディンはサイコパワーでスミレのポケットからハンカチを取り出すと、手に持って拭いてやる。気にしないで、とでも言うような笑顔も添えて。
「分かった……。次頑張るから 」
「スピアー、済まんな。こんなことに突き合わせた挙句このザマだ 」
サナダが眉を下げて言うと、スピアーは首を横に振る。ジム戦用の手持ちであっても、サナダとポケモンは深く繋がっていることに変わりはない。だから、スピアーはサナダを信じて従った。たとえその先に、自身の敗北があったとしても。
サナダは、スピアーをボールに戻すと、違うボールを手に取った。
「さあ、行くぞカイロス! 」
続いて出したのは、カイロス。ミニリュウによって少しは削られているが、それでも今だに健在だ。
「フーディン、【サイケこうせん】 」
「【シザークロス】で払いつつ飛べ! 」
フーディンの【サイケこうせん】は、バタフリーに比べるとかなり火力が高い。だが、その一撃をカイロスは自慢の鋏で受け止め、空を駆ける。
「フーディン、【シャドーボール】 」
「【むしのさざめき】 」
フーディンは【シャドーボール】を放つも、【むしのさざめき】に呑まれ、掻き消される。【シャドーボール】によってエネルギーの削られた【むしのさざめき】がフーディンに当たり、フーディンは思わず【テレポート】を使い後退した。
(フーディンが手早く引いたからダメージは極小、でもあの不快感は戦意を削ぐ……!)
「フーディン、【サイコカッター】 」
「カイロス、【シザークロス】で防げ! そして弾いたらそのまま近づけ!! 」
フーディンが【サイコカッター】を放つも、【シザークロス】に阻まれる。カイロスはそのまま突進、フーディンに素早く迫る。
「フーディン、【テレポート】連打で撹乱 」
すかさず出した指示は、連続移動による撹乱だ。空中を転移し続けるフーディンを、カイロスは捉えきれない。
「……ならば、カイロス! 【むしのさざめき】 」
「避けて【ねんりき】 」
対抗するカイロスは【むしのさざめき】での全方位攻撃を選択、それを避けたフーディンは【ねんりき】を遠距離からぶつけてカイロスを吹き飛ばした。
「……ふむ、カイロスでは分が悪いな。だが、やりようが無いわけではない 」
サナダはひとりごとを呟くと、頷いた。
「何を考えているのか知らないけど……このまま距離をとって撃ち込み続ければ私は勝てる。フーディン、【サイケこうせん】 」
「ディィィィィン!! 」
フーディンが、【サイケこうせん】を放つ。フーディンのサイコパワーによって高められたその光線が、カイロスに迫る。
「カイロス、【シザークロス】のエネルギーを纏って突っ込め 」
カイロスは、避けることも弾くこともしなかった。【シザークロス】に使用するエネルギーを纏って、一直線に突き進んでくるのだ。
「【ねんりき】、【サイコカッター】、【シャドーボール】」
フーディンは連続で技を放つ。カイロスはダメージを負いながらも、攻撃を受けるたびにエネルギーを纏い直して突撃してくる。
「【むしのさざめき】 」
至近距離で、【むしのさざめき】が放たれた。音波の全方位攻撃にフーディンとスミレは思わず耳を抑える。
「フーディン……【テレポート】で退避して。……不味い、カイロスはアレを使える…………! 」
音波に顔を顰めながら、スミレは必死に呼び掛ける。しかし、音波により聴覚を邪魔され、更に攻撃も受けているフーディンには届かない。
「……フーディン、貴様は厄介なのでな。この技で手早く仕留めることにしよう 」
音が止んだその時、サナダの声が聞こえた。
「(不味い、あの技を持ってる……!)【テレポート】! 」
スミレが悲鳴に近い声で指示を出す。フーディンは【テレポート】の為のエネルギーを装填しーー
「カイロス、【ハサミギロチン】 」
退避は間に合わず、【ハサミギロチン】の餌食となった。【ハサミギロチン】とは、ポケモンの技の中でも一撃必殺に位置する技である。当たりさえすれば相手のポケモンを強制的に戦闘不能にできるだけの火力を持つが、その反面で命中させるのが難しい技でもある。サナダは、スミレの反応を【むしのさざめき】で鈍らせ、【テレポート】の僅かなエネルギー装填の隙を狙って、【ハサミギロチン】を叩き込んだのだ。
「フーディン、戦闘不能! カイロスの勝ち!! 」
スミレは、その結果を受け入れるしかなかった。
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