ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第74話 風と一緒に

 「不味いッ……! 」

ふらつくスミレを支えるため、傍に駆け寄ろうとしていたエリカは、実際に受け止めたその人物を見て、呟いた。

「ヒマワリさん…… 」

 

 

「ヒマワリ……見ないで 」

スミレは、必死で目を逸らした。ヒマワリがスミレを心から慕っていることはスミレ自身知っている。だからこそ、ロケット団という犯罪組織と同類であることを否定できない自分を、見られたくはなかった。

「……スミレちゃん 」

ヒマワリは、ただ名前を呼んだ。その一言で、スミレは目を見開く。ヒマワリは、普段から『スミちゃん』というヒマワリが、『スミレちゃん』と呼んだ。

「……見ないで、見ないで 」

スミレは、顔を覆って蹲った。

「キクコさんから伝言を貰ってから、ずっと町に残って、この機会を待ってたの。ごめんね……。わたし、直ぐに居なくなるから。でも、ひとつだけ伝えたいことがあってきたの 」

「………… 」

 

「昔のスミレちゃんに、聞いたことがあるの。『誰かを残して死んじゃうってどういうことだろう?』って。知ってるでしょ?『勇者伝説』の中の話、" 黒姫討伐 " のお話 」

「……うん。でも、覚えてない 」

スミレは、頷いた。だが、質問された記憶はない。人格の再形成の段階で、失ってしまったのだろうとスミレは思い、気を重くする。

 『勇者伝説』とは、カントー地方に多くの逸話を持つ、勇者アーロンの物語だ。黒姫討伐とはその中にある話の一つで、マサラタウンの成り立ちと、マサラタウンに住む人々は何故超人ばかりなのか、という理由が知れる話である。マサラタウンがある場所に存在していた村に住む虐殺者、黒姫と勇者アーロンが戦う物語だ。悪役として登場した黒姫だが、実際は村の人間の中で唯一特別な力を持たずに孤独を感じており、それでも不思議な力を持ったが故に迫害された仲間を見捨てられず、共に村を形成する。そして迫害を行った人間を憎む想いから呪いに手を出し、狂い果て、ポケモンを使って大量殺人を起こした。最期には村人と同じ力を持つアーロンに敗れ、アーロンに村人達の未来を託し、呪いを道連れにして死ぬ。そういった勇者伝説でも特に後味の悪い物語で、スミレがよく読んでいた。ヒマワリはそんなスミレにねだって一緒に読ませて貰ったことがあるのだが、そんな質問をしたことがあった。

「……だろうなって思った。その時の言葉、しっかり覚えてる。あの時スミちゃんは言ったんだよ。『未来に想いを託すってことじゃないかな。あくまでも、想像だけどね。……黒姫が実際、何を思ってアーロンに託したのかは分からない。でも、確かに分かるのは、アーロンに未来を託したってこと。アーロンがどんな選択をしても、その結果どんなことが起きても、その決定権の全てをアーロンに託したんだよ 』って言ってた。過去のスミちゃんはさ、首を吊って居なくなった時点で、スミレちゃんにこの体を託したんだよ。きっとさ。……ねぇ、後は貴女次第だよ。もう、その体は貴女のもの。立つも、蹲るのも、幸せを目指すのも、狂ってしまうのも。全部貴女に託して逝ったんだと思う。……確かに、狂ってしまって後戻りできなくなれば、それはロケット団と同じになってしまうかも知れない。でも、スミレちゃんはまだ踏み止まってる。なら、そこから前に歩きだせれば、スミレちゃんはスミレちゃんのままで居られるはずだよ 」

「……それは 」

ヒマワリは、座り込んだスミレを背後から抱きしめて言った。スミレは、記憶にない自分の発言とヒマワリの言葉を聞いて俯く。ただ、ヒマワリの暖かさが身体を伝って染み込んでくる。

「この話、わたしとスミちゃんしか知らない話なの。……だからね、面会は出来るだけしないでって言われたの、破って来ちゃった。わたしにしか、言えないことだから。……スミレちゃん。スミちゃんは、もう居ない。もう死んでしまったから。その想いは、想像するしかできないけれど、わたしは貴女に未来を託したって解釈をするよ。だって、昔から貴女は、誰よりも優しい人だったんだから 」

ヒマワリの優しさが、スミレの胸を突き刺す。だが、それでもスミレは立ち上がれない。ヒマワリは、意を決したように口を開きかけ、しかしサナダがそれを手で制した。

 

「ヒマワリとやら、代わるがいい。貴様のような小娘に任せておいてはならぬ。……スミレよ、貴様に言わねばならぬことがある 」

サナダが、横から口を出した。それ以上、言わせては行けないと思ったからだ。泥を被ってでも指摘しなければならない状況で、子供にそれを押し付ける大人では有りたくなかったのだ。それは、死んでいった仲間達に顔向けのできないことであるから。

「……なんでしょうか? 」

「貴様がやっていることは、己の暴走を過去人格のせいにして正当化しようとしていただけだ。それは、死者に対する侮辱であるぞ 」

「何を 」

スミレは言い返そうとするも、咄嗟には言葉が出てこず、口を閉ざす。

「貴様が真に過去人格を想うならば、託されたその体でやりたい事、やるべき事を考えろ。たとえ人格が生きてなくとも、根本は同じ人間なのだ。ならば、その魂に魅せて恥のない生き方をすべきである 」

「……でも、私は 」

根本は同じ人間、それが正しいことくらい、スミレも分かっている。分かった上で、納得が出来ていないだけだ。

「破滅する理由に他人を使うなと言っている。貴様が1人狂っても、現実は変わるのか? 答えは否だ。理不尽な世界には、当然悲劇が溢れている。貴様に必要なのは、その悲劇の背負い方を知ることであろう 」

「……背負い方? 」

「そう、背負い方だ。悲劇とどう向き合い、どう心の整理を付け、前に進んでいくのか。その悲劇によって失った大切なものを、どう送り出すのか。……それこそが、貴様に必要なことだ。心と体に癒えぬ傷を受け、過去人格を失い、狂気に身を浸しかけ、それでも貴様は生きている。たとえそれを貴様自身が許せなくとも、貴様という命はここに存在し、存在を認められている。……どう足掻いても逃れられぬ悲劇ならば、より軽く背負ってしまうのが重要なのだ。そして背負い方を知るには、ひとまずその魂を一緒に連れて歩かねばならぬ。歩き続けて、たくさんの人と出会って、たくさんの成功と挫折を味わって、現実に悩み苦しんで、その先に貴様だけの過去との向き合い方を見つけられるだろう。……更に、その長い旅路の果てに、貴様は貴様自身と過去人格の人生の両方に、意味と価値を見出さなくてはならぬ。それは、たとえ仲間や貴様のポケモンであってもできない貴様だけができることである 」

スミレは、自身の体に視線を落とす。華奢なその体の何処かに、自身の魂として本当に残っているのか、それは分からない。だが、それは死んだスミレの気持ちと同じく自らの手で解釈をするしかない。自分で自分の気持ちを解釈し続けて、何度も間違えて、その上で生きていくしかない。

 

「……歩き続けて、どこまで行けばいいんですか?」

ふと、そう質問した。

 

「さあな。……ただ、風と一緒に歩いていけば、きっと何処かに辿り着くだろうよ。貴様の答えが待つ、その場所へ 」

サナダは、ただそう返した。

 

 サナダからの返答を聞いたスミレは丁寧に、スミレを抱きしめるヒマワリの手を外す。スミレの心のうちで、歯車が噛み合ったような気がした。

「ヒマワリ……ありがと 」

「どういたしまして! ……じゃ、わたしは邪魔になるから帰るよ 」

スミレは小さく笑った。ヒマワリは満面の笑顔で返すと、バトルコートから出る。これ以上の接触は、邪魔になるだけだ。

「……待って 」

「へ? 」

スミレは、去ろうとするヒマワリを呼び止めた。

「……私、これからとても自分勝手なことを言う 」

「なぁに? 」

「私のバトル、見ていってくれないかな。私が、ちゃんと道を見つけられたのかを 」

「……ッ! そっか、うん! ちゃんと、見届けるから!! 」

ヒマワリは、服の袖で滲んだ嬉し涙を拭うと、満面の笑みで言った。それを見て、スミレはホッとした表情を浮かべる。

 

スミレは、ゆっくりと立ち上がった。その足取りからは、今までとは一味違う雰囲気を感じる。顔を上げ、サナダを真っ直ぐに見据える。その目を見た、サナダは歓喜した。

 

「ははっ……! 結局、貴様は闇を打ち払わないか!! だがそれで良い! 闇を抱え、それでも尚光に手を伸ばす、それが貴様の選んだ道ならば、儂は全力で肯定しよう!! 今の貴様の目が抱えるその闇はただの闇ではない、星を映す美しき夜空の闇だ!!!! 」

 

目覚めた、それを理解したのは、エリカとサナダ、そしてヒマワリの3人。ジムトレーナー達は、今までとの雰囲気の違いに息を呑んだ。

(スイッチが、入りましたね。……おそらく、本当の意味で " 先 " が定まったが故でしょう。サナダさんという発破要員に、ヒマワリさんという不確定要素、賭けではありましたが、仕込んでおいておいて良かったです)

エリカの内心は、安堵に染まっていた。危うかった少女が、ここに来てひとつの答えを出した。それはある意味先送り、問題解決に関してはまわり道だが、それもまたひとつの道だ。道を逸れていた以前と比べれば、百万倍くらいはマシである。エリカは、初めから自分の手で救えるとは思っていなかった。飴と鞭をやるには、エリカはスミレに甘い自覚がある上に、ヒマワリのような過去のスミレを知っているような付き合いの長い人間でもない。だから、託した。師匠として弟子を救いたい気持ちに蓋をして、他人に任せた。それはとても悔しいことだけれど、スミレが救いの道を見つけられるならば、些細なことなのだから。

 

「私は、まだ怖い。心の奥底の苦しみも、痛みも、無くならない。多分これは、ずっと一生抱えて行かないといけないもの。絆や友情なんて信用したくないし、人は怖いし嫌いだし、私自身がなんで生きてるのかも全く分からない。……でも、私は生きている。あの子が遺した記憶を、体を背負って、今は生きてる。なら、探すしかないんだ。歩いて、歩いて、歩き続けて、時に立ち止まって、世界を見渡して。……そうやって、探し続けるしかないんた。私の人生とあの子の人生に意味が見つかる、その日まで。だからさ……一緒に、来てくれる? 」

その言葉に、肯定するように動くモンスターボール。そのうちひとつを、スミレは手に取る。

 

「私はひとつの道を見つけた、でもだからって簡単に勝てる相手じゃない。……私は、貴女を傷つけるやり方を選ぶ。それでも良い? 」

ボールは、動いた。

 

「さあ、儂の最後の一体だ! 覚醒したとて容赦はせんぞ!! さあ行け、ストライク!!!! 」

「ラァイック!! 」

サナダが出したのは、ストライク。素早い動きと両腕の鎌による攻撃が特徴的なポケモンだ。

「行こう、ラプラス 」

「ラァァ!! 」

対するスミレは、ラプラス。生半可な攻撃では落ちない、スミレパーティーの要塞にして戦艦が飛び出した。

 

 




「……歩き続けて、どこまで行けばいいんですか? 」

「さあな。……ただ、風と一緒に歩いていけば、きっと何処かに辿り着くだろうよ。貴様の答えが待つ、その場所へ 」


この2つのセリフ、絶対に入れたかったんですよね。サブタイトルもこの一部分から取りました。『風といっしょに』、私の好きな音楽です

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