ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
ラプラスとストライク、両者が向かい合う。2体の戦術は、真逆と言っていいほどに違いがあった。ラプラスは耐久力を活かした持久戦、ストライクは素早さを活かした短期決戦。タイプ相性では、ラプラスが圧倒的に有利だ。だがしかし、ストライクはジムリーダーの、しかもこれまでにたった2体でスミレのポケモン4体を倒した強者を差し置いて、最後を任されたポケモン、油断すれば負けるのはスミレであろうし、油断しなくとも負ける可能性は十分にある。
(……ラプラスでの決着は想定しない。固定砲台のラプラスでは、ストライクの素早さに的確な対処はできないから。……だから、ラプラスで場を整えつつストライクを限界まで削って、フシギバナで叩き伏せる)
「…………ラプラス、お願いね 」
「ラァ!! 」
ラプラスは、頼もしげに鳴き声をあげる。それに少しだけ心が痛むが、戦略上は必要なことであると思い、腹を括る。
「行くぞ、スミレ! 【かげぶんしん】で突っ込め!! 」
ストライクは、目にも止まらぬ速度で分身を生み出し、空中や地上から、位置を変えつつ突進する。
「【みずでっぽう】 」
スミレの指示で、【みずでっぽう】を放つも、当たったのは分身だ。
「【れんぞくぎり】!! 」
その指示で、360度の方向からストライクは迫る。
「【こごえるかぜ】、全方位で迎撃 」
対するスミレは、全方位に対しての【こごえるかぜ】で対抗する。多くのストライクに命中するも、それは全て分身だ。
「今だ!! 」
サナダの声と共に、3体の【こごえるかぜ】を潜り抜けたストライクが突進した。
「……ッ!【みずでっぽう】。薙ぎ払って撃墜お願い 」
スミレは動揺で少し瞳を揺らすも、すぐに対処を指示。【みずでっぽう】を円を描くように放つと、唸る水流が3体ものストライクに命中する。
「ラァァイ!! 」
しかし、4体目が潜んでいた。先程倒した3体が、煙となって消えた。分身と【こごえるかぜ】による視界不良に紛れて、囮を用意しつつ潜んでいたのだ。ストライクは勢いをそのままに【れんぞくぎり】を放つ。目にも止まらぬ斬撃が幾条にも走り、ラプラスは苦痛に顔を歪める。スミレの指示を待たず、反撃に【みずでっぽう】を放つも、【みずでっぽう】は誰も居ない場所を穿つ。
「【シザークロス】 」
側面に回り込んでいたストライクは、【シザークロス】を命中させると、そのまま駆け抜けた。ふと頭を下げると、頭上を【みずでっぽう】が通る。そして距離を取ると、再び構え直す。
「……なるほど、指示を出さない。自動迎撃か 」
サナダは、ニヤリと笑みを浮かべた。スミレは、涼しい表情で頷く。自動迎撃とは、機動力に欠けていて尚且つ耐久力が優れたポケモンによる持久戦の際に使われる戦術だ。【みずでっぽう】のような威力こそ低いが発動までの溜めが短い小技を覚えさせ、相手ポケモンから攻撃を受けた際にトレーナーの指示を待たずにその小技で反撃させる、という戦術だ。ポケモンが良く懐いていることや、教育するトレーナーの根気と技構成などの工夫、ポケモンの能力などの様々な要素が揃っていなければ、ポケモンの暴走で終わってしまう戦術だ。
(……絆は否定しているが、随分といい関係ではないか)
スミレの企みは、サナダにはよく分かる。ラプラスを捨て駒にストライクを消耗させ、最後のポケモンでトドメを刺すということだろう。それは、" スミレ " の模造品であり、狂気に身を染めていた時と変わらない戦術だ。勝利の為なら非情であっても合理的な策を遂行するのも同じだ。しかし、絶対的に違う。かつてのスミレは、『勝たなければならない』と常に背水の陣を敷きながら後ろを見ては恐怖し続けている状態だった。だが、今は違う。『勝ちたい』という貪欲さで常に前を、越えるべき壁の方を向いている。
「ラプラス。もっと耐えれる? 」
「ラァ!! 」
「大丈夫そうだね。なら、もっとお願い 」
スミレの声は相変わらず素っ気ないが、その奥底にはラプラスへの信頼がある。なんせ、ラプラスがスミレの質問に元気良く答えたことに、瞳の動きすらも驚いて居なかったのだから。
「行くぞストライク、【かげぶんしん】 」
ストライクが、再び分身した。大量の分身が、ラプラスに向かう。
「【みずのはどう】、乱射して 」
「【こうそくいどう】で避けろ 」
対するラプラスは【みずのはどう】、水流のエネルギーを込めた球体が小型に分割され、散弾銃の如く放たれた。対するストライクは、【こうそくいどう】で躱わす。【こうそくいどう】は、自身のスピードを上げる技だ。ただでさえ素早いストライクが更にスピードを上げたことで、スミレは面倒だと言わんばかりに眉を顰めた。
「【あやしいひかり】 」
「ッ! 距離を取れストライク! 」
ラプラスの眼前に迫っていたストライクは、一瞬でサナダの側まで飛び退いた。【あやしいひかり】は相手を混乱状態に陥らせる技、ストライクがいくら速くても、混乱による自傷行為は避けられない。
(流石に素早い。混乱状態に持っていければ最良なんだけど、簡単に避けられてしまうし、分身は消しても増えるし放置したら多分更に増えるから消さないといけないけど、エネルギーは消耗させられる。どうしよっか……)
(なるほど、迂闊に近づくと逆にやられるか……。だが、想定内だ。スミレのような合理主義者が、動かないことを前提とした戦術を使わせるポケモンにそのような技を覚えさせない訳がない)
「【こごえるかぜ】」
スミレの指示で、ラプラスは【こごえるかぜ】を放つ。素早さを下げる冷気を持った風が吹き荒れた。
「【れんぞくぎり】で突っ込んで【シザークロス】! 分身の消失は気にするな、ダメージと速度低下を最小限に突っ切れ!! 」
対するストライクに出された指示は、突撃。無数のストライクが風の中へと突っ込んで行く。視界のおぼつかない暴風の中をストライクは駆け抜けた。1体、また1体と分身が倒れ、本体も極小ながらもダメージを受けている。だが、効果抜群な筈の【こごえるかぜ】がダメージをあまり与えられていなかった。ストライクは【れんぞくぎり】を高速で放ち続け、風を振り払いながら進んでいたのだ。そのままラプラスに接近して【シザークロス】を放ち、【みずでっぽう】を躱わす。
「そこから【シザークロス】! 」
そしてすれ違い様にもう一度の【シザークロス】、ラプラスはその攻撃に耐えながらも【みずでっぽう】を放ち反撃するが、それもまた空を切る。ラプラスの表情には、焦りが浮かぶ。
「……大丈夫、策はある 」
スミレは、ラプラスに向かってボソリと呟いた。
「行くぞ!【シザークロス】!! 」
「ラァァイ!! 」
ストライクが、凄まじい速度で迫る。
「【みずでっぽう】 」
「遅い!! 」
スミレの指示で【みずでっぽう】を当てるも、それは当たらない。再びストライクの【シザークロス】をまともに受ける。しかし、スミレの表情は未だに涼しげだ。
「ほう、余裕だな。これでは捨て駒にもならんのではないか? 」
「大丈夫です。やりようはありますから 」
サナダの煽りに、スミレはその余裕を崩さない。
「ならば見せてみよ! 【つばさでうつ】!! 」
それまで使っていなかった4つ目の技、【つばさでうつ】のエネルギーを自身の翅に装填して突撃する。【こごえるかぜ】で落とされても尚捉えきれないスピードは、ラプラスでは追いつけない。
「フィールドに【こごえるかぜ】 」
「ラァァァァ!!!! 」
スミレの落ち着いた指示に、ラプラスはストライクを無視してフィールドに向けて【こごえるかぜ】を放った。
「……なるほど。ではストライク、そのまま行け! 」
サナダはその策に気付きながらも乗るように指示を出す。ストライクは素早さを落とさずに駆け出し、踏み込んだ右足がズルリと滑った。パキリ、と踏みしめた地面から音が鳴る。訳が分からない、といった表情で体勢を崩したストライクを、ようやく当たった【みずでっぽう】が吹き飛ばした。
フィールドが、凍りついて居たのだ。ラプラスが外した【みずでっぽう】やストライクの分身を掻き消した際に飛び散った水で湿った地面が、【こごえるかぜ】による冷気で凍りついた。しかし、その凍結は視覚で見て分かるほどに凍結している訳でもなく、実際に歩かなければ分からない程度の薄らとしたものだ。だからこそ、ストライクは地上戦でのスピードを殺された。【みずでっぽう】の水や攻撃の余波による飛沫を凍らせているという特性上、フィールド全体を氷が覆っている訳ではない。だが、薄らとした氷では、どこが凍結していて滑りやすいのか、逆にどこならば安全なのかの判別が困難だ。本来のスピードならばラプラスの攻撃を掻い潜れても滑る恐れがあり、滑らないことを優先すればスピードがあからさまに低下し、ラプラスの砲台に捕捉されてしまう。更に、何度も【こごえるかぜ】を放っている所為で、フィールド全体の気温が下がっているのだ。それによってフィールドの氷が溶けにくくなってしまったのは勿論のこと、急速な温度変化に弱いストライクには効果抜群だった。しかし、対処法がないわけでもない。ストライクの場合は高速の空中戦が可能なのだ。しかし、空中戦に絞った場合はどうしても行動範囲が狭まり、攻撃を受けるリスクは増える。
「フィールドの凍結か、面白い。半端なフィールド凍結が、逆にストライクの速度を殺す上で重要になっている。よく考えたな 」
「……ストライクは足や翅を使った高速移動が強く、更にむしポケモンは温度変化に弱い。なら、低体温による体調変動を引き起こしつつ速度を殺せばいい。簡単なことです 」
サナダの賛辞にスミレはそっけなく返し、サナダはその答えに頷いた。
「確かに、むしポケモンの生態を考えれば当然の判断だ。だがそれを一瞬の隙で状況が変わる、ポケモンバトルの場で応用できる思考力は貴様の美点だ、最低限でも自信は持つといい 」
「……どうも 」
スミレはふい、と視線を逸らした。サナダは、どう見ても照れ隠しをしているスミレに目尻を下げつつも、すぐに真剣な表情に戻り、ストライクに指示を飛ばす。
「ストライク、飛べ!! 」
その指示を受けたストライクは、翅を広げて飛び立った。その意図は、空中戦に移行するというものであろう。現状では、それ以外に妥当と言える策は無かったのだ。
「予想通り……。ラプラス、【みずでっぽう】」
「【こうそくいどう】と【かげぶんしん】をしながら接近、【れんぞくぎり】で攻撃だ!」
【みずでっぽう】が時間差を起こしながら連続して放たれた。分身を消しながらも本体を探すラプラスだが、移動範囲を絞ったところでストライクは【こうそくいどう】で更にスピードを上げている。ストライクは緑色の閃光となって飛翔し、ラプラスの体を何度も切り付ける。虚しく何もない空中を穿つ【みずでっぽう】を置き去りに、ストライクは【れんぞくぎり】をラプラスの急所に叩き込んだ。
「ラァァ…………ラァァァァ!!!! 」
ラプラスは急所への攻撃に顔を歪めながら、【こごえるかぜ】を放つ。分身を一撃で掻き消したその攻撃が、ストライクを捉えた。
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