ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第76話 道端に咲いた花

 【こごえるかぜ】がストライクに命中する。それは、バトルにおいて重要な意味を持っていた。タイプ相性というのは、バトルを一瞬にしてひっくり返すことができる要素だ。しかも、【こごえるかぜ】はその冷気によって相手のスピードを低下させる副次効果を持つ。つまり、ストライクにとっては最も受けたくない技なのである。

「当たったか。だが、効果抜群を一撃まともに受けた程度で終わるならば、儂はジムリーダーなどではない 」

しかし、サナダの表情に焦りはない。ジムリーダーとして、タイプ統一パーティーでやっていれば、弱点を突かれることなど日常茶飯事だ。ストライクは、当然のように立ち上がった。

「……ですよね 」

スミレは、立ち上がったストライクに全く動揺しない。サナダのストライクならば、【こごえるかぜ】を一撃まともに受けた程度で負けるはずがない、と考えていたからだ。

「行くぞ! 【シザークロス】、【つばさでうつ】も並行してやれ! 」

サナダの指示により、ストライクは再び空へと飛び立った。ジムの天井近くまで上昇して急降下、両手の鎌と背中の翅に、それぞれ違うエネルギーを纏わせる。

「ラプラス、【みずのはどう】」

対するラプラスは、【みずのはどう】を生成。急降下してくるストライクに向けて放つ。

「怯むな! 」

回避を思考に入れた様子のストライクだが、サナダの一言でスピードを上げると、【みずのはどう】を【シザークロス】で切り裂いた。水飛沫が上がり、日光を反射してキラキラと輝く。

「ラァ……! 」

それが、ストライクを見上げていたラプラスの視界を僅かに数秒封じた。目が眩み、思わず目を閉じたラプラスをストライクはすれ違い様に【つばさでうつ】を決め、地上に着地するや否や振り返っての【れんぞくぎり】。しかしこれは直前で踏み締めた地面が凍っていたために滑り、掠るような軌道で命中した為にダメージは少ない。

「ラプラス、【こごえるかぜ】。360度で 」

スミレの指示で、ラプラスは全方位に【こごえるかぜ】を放ち、牽制をする。水飛沫が凍りつき、そして少しずつ暖かさを取り戻しつつあった空間を再び冷やした。肝心のストライクも、その風で吹き飛ばされてダメージを負う。

「ストライク、大丈夫か? 」

「ラァァイ!!!! 」

「ラプラス、まだ行ける? 」

「ラァァ!! 」

サナダとスミレは、それぞれ自らのポケモンに調子を確認する。ストライクもラプラスも、少なくないダメージを負いながらも未だに力強い瞳で相手を睨みつけていた。

(ふむ……。このままでは泥沼か。少し、加減を緩めるとしよう)

サナダはそう考えると、スミレに視線を向ける。サナダの目に映るスミレは、凪いだ表情でサナダの出方を窺っていた。

「ギアを上げて行くぞ、ストライク! 【こうそくいどう】3連だ!!」

サナダの指示で、ストライクは左右に動き回る。その度にストライクの速度に強化が掛かる。3連ともなれば、その効果は絶大だ。スミレも、強化の結果を想像したのか、眉を顰めている。

「ラプラス、【みずのはどう】」

痺れを切らしたスミレがラプラスに指示を飛ばす。【みずのはどう】が放たれ、それは真っ直ぐにストライクの方へと向かう。地面から少し浮いた状態のストライクはその【みずのはどう】を、軽々と躱す。

「反撃だ、【れんぞくぎり】!! 」

サナダの指示が響くと同時にストライクの体がブレた。

「ラァァ……! 」

直ぐに、何が起こったのかが判明する。ラプラスの目の前にストライクが現れたのだ。ほとんど見えないレベルの速度によって接近し、放たれるのは自慢の鎌による連続攻撃だ。流石のラプラスでも、怒涛の連撃に顔を歪ませる。しかも、その攻撃はラプラスの反応が間に合わないのをいいことに、被弾場所が急所に絞られている。これでは、自慢であるラプラスの耐久でもかなりキツイ状況だった。

 

「【こうそくいどう】で純粋に速度を上げて、ラプラスが反応できない速度で悠々と急所を狙っての攻撃、全くもって厄介…… 」

スミレは呟くが、何度も急所に当てられた以上、そろそろラプラスの体力が持たない。

「反撃できなければ、フシギバナを出したとしても貴様の負けだ!! ストライク、【シザークロス】!! 」

ストライクの鎌に、エネルギーが宿る。そして、ラプラスの喉元を狙い、勢いよく飛び出した。

「ラプラス……【みずでっぽう】を真上に 」

スミレは、迎撃を指示しなかった。素直に従ったラプラスが【みずでっぽう】を放ったのは、ラプラス自身の真上だ。空中で勢いを失った水が、まるで雨のように降り注ぐ。そしてその雨は、素早さ故に到達していたストライクにも掛かる。

「気にするな、行け! 」

サナダの後押しも受けて、ストライクは迷いなく鎌を振るった。致命的、ともいえるような強打がラプラスを襲う。

「……これで、終わり。【こごえるかぜ】 」

「ラ……ラァァァァァァァァ!!!! 」

ラプラスは、最後の力を振り絞って【こごえるかぜ】をストライクにぶつけると、遂にその身を横たえる。

 

「ラプラス、戦闘不能! ストライクの勝ち!! 」

 

審判の宣言が響く。

「ラプラス、貴女のお陰で、ストライクは実質的に詰んだ。ありがと」

スミレはラプラスにそう労いの言葉をかけた。ラプラスは、弱々しい笑みを浮かべると、モンスターボールに吸い込まれて消えてゆく。その表情は、負けた側にしては妙に落ち着いていて、逆にサナダは、苦々しい表情をしていた。

「やられた……! 」

サナダは、悔しげに呻く。先程の決着は、完全に相手が上手だった。サナダの内心は、自らを嵌めたスミレへの賛辞と、裏を掻かれた悔しさが混ざり合っていた。

 ストライクの背中にある翅の一部が、凍りついていた。それは、治る範囲の軽症であって、命に関わったり後の運動機能に影響が出るようなものでもない。もしもこの戦術を受けたストライクが、サナダのストライクのような歴戦のストライクでなければ、飛ぶことすらもままならなかったであろうから、この程度で済んだ、ということは十分賞賛に値する。だが、このバトルに於いて、飛べるということが、良いこととは言えない。現状では、地上のフィールドが所々の凍結により、非常に滑りやすくなっているトラップ地帯なため、地上戦を行わないように意識してバトルをしていた。そして、このタイミングで翅が凍ってしまうと、地上戦を実質的に失ったことで最後の手段となっていた空中戦に大きな影響が出てしまう。翅の凍結、それによって齎されるのは、飛行速度の大幅な低下だ。氷の重量による、微妙なバランスの変化や体温への悪影響により、ストライクは本領である高速戦闘のうちの速度の大部分を、殺されてしまった。

 

 (霜が降りていなければ安全、という訳でもない……。現にストライクは何も見えない所で滑っている。だからといって空中戦も、飛べるが速度が落ちる。スミレの思考から考えて、ラプラスを捨て駒としたのならば、残る1体は奴の中では間違いなく最強。エリカの弟子、ということはくさタイプ辺りが妥当だが、範囲攻撃を持たれるとかなり厳しい戦いになるな )

(次で詰ませる。私がくさタイプのポケモンで行くことは予想されてると見てもいいけど、機動力が落ちたストライクなら、例え【こうそくいどう】を積まれても、私が対処可能な範囲までしか加速できないはず……。全距離での対処が可能なフシギバナなら、十分に勝てる)

両者は、視線を交わして思考を回す。状況は、圧倒的にスミレ有利であった。スミレは、最後のボールに手を伸ばす。

「……勝つよ、フシギバナ 」

「バナァァァ!!!! 」

飛び出したのは、当然フシギバナ。その相貌には、ボールの中から見ていた仲間の戦いに奮起し、ギラギラとした鋭い輝きを灯している。

「ストライク 」

サナダは、ストライクに向かって声を掛ける。

「ラァァイ? 」

「正直いって、状況は最悪に近い。だが、諦める気もさらさらない。……ストライクよ、付き合ってくれるか? 」

「ラァァイ!! 」

サナダの懇願にストライクは元気よく応え、眼前のフシギバナを睨みつける。その体は既にボロボロで、翅の一部は凍りついている。しかし、その戦意に衰えはない。

「フシギバナ、【はなふぶき】」

先手を取ったのは、フシギバナ。花の嵐が、ストライクを取り囲むように迫る。

「【れんぞくぎり】だ!! 」

ストライクは凍っていない地面を飛び立ち、追尾する花弁を切り捨てる。連続して放たれた斬撃が、花弁を散らした。

「フシギバナ、【タネばくだん】」

そこにフシギバナの【タネばくだん】が放たれ、ストライクは【れんぞくぎり】による斬撃でそれを破壊、しかし切ったことで起爆し、ストライクを巻き込んでの爆発が起こる。ストライクは吹き飛ばされるも、空中で静止して持ち直す。

「ストライク、【かげぶんしん】! 」

ストライクは、分身を生成する。ラプラスに削られて弱っていたとしても、機動力を削られていたとしても、ストライクの分身能力は衰えてはいない。

「【はなふぶき】で潰して 」

スミレの指示で放たれた【はなふぶき】が、分身を1体ずつ消してゆく。しかし、分身は消せても本体には当たらない。【シザークロス】や【れんぞくぎり】、【つばさでうつ】を使い分けながら、対処していく。

(あそこまで追い込んでも攻めきれない……。でも、押し切る! )

(想像通り、相当な猛者だな。このままでは負けるのは時間の問題……。だが、最後まで足掻かせてもらうぞ!)

「行くぞ、【かげぶんしん】をしながら突撃、【シザークロス】だ!」

「……受けて 」

スミレの指示を受けたフシギバナは、一切の抵抗もせずに、【シザークロス】を受け入れた。両腕の鎌がフシギバナの脂肪に減り込み、フシギバナは顔を歪める。

「チッ……! やはり誘導か!! 」

サナダは、スミレの策に気がついた。だが、ラプラスによって大幅に削られたとはいえ、ストライクの素早さは並ではない。その素早さが、ストライク自身をスミレの掌の上に陥れたのだ。

「フシギバナ、【メガドレイン】 」

フシギバナの全身に緑色オーラが纏わりつくと、それはストライクにも纏わりつく。すると、ストライクだけが苦しげな声を漏らした。【メガドレイン】、それは相手の体力を吸収して自身の体力を回復させる、という技だ。フシギバナがストライクの攻撃を敢えて受けたのは、体力を回復してしまえばダメージを受けても問題ない、という理屈であった。

「退け、ストライク! 」

サナダの指示でストライクは、弱った体に鞭打ち、大きく飛び退いた。エネルギーの吸収は途切れたが、ストライクは思わず膝をつく。

 

「……ラァァイ? 」

ストライクの視界に、1枚の花弁が入った。まるで血液のような紅い花弁が、風に揺られたのかふわりふわりと舞っている。散りゆく花弁の嵐に、ストライクは思わず見惚れる。

「なるほど……これは………… 」

サナダは、悟った表情で呟いた。その視線の先には、花弁を周囲に侍らせ立つ、スミレの姿があった。

(道端に咲く花であった菫の花を、ここまで愛でたことはなかったが…………)

 

「フシギバナ、【はなふぶき】 」

 

(存外に……美しいものだ)

 

荒れ狂う花弁の嵐が、ストライクを飲み込んだ。ストライクを蹂躙し尽くした花弁は、儚くも消えてゆく。だがしかし、花が散った後に残るのは、未来へ繋がる青い果実であった。

 

「ストライク、戦闘不能! フシギバナの勝ち!! よって勝者、チャレンジャー、スミレ!!!! 」

 




サナダvsスミレ、決着です!
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別にどうでもいい裏設定、気が向いたら書こうかなって思ってたので……



【裏設定】
スミレの由来
・花言葉【全体】: 謙虚、誠実、小さな幸せ → 旅を通じて世界を知ったスミレが、自身を真っ向から見つめ直す
・【紫】: 貞節、愛→ 貞節(大切なものを手放さない)、愛(前人格への想い)
・毒性を持つ花→心に闇を抱えている。
・春に咲く花→ 苦しい時(冬)を乗り越えて花を咲かせる、という解釈
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