ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第78話 エリカの試練

 目を開ければ、そこは見慣れない天井だ。すぐにスミレは、そこがタマムシシティのポケモンセンター、その一室だと思い至る。

「……勝てるかな 」

スミレは、思わず不安を吐露するが、その内心は何処か清々しい。サナダとのバトルで、スミレはスミレの模造品ではなく、新たなるスミレというひとつの命として成立した。苦しみの鎖を解き放ち、だがそれらを手放さずに背負い込んで歩いてゆく。その道はきっと苦しいけれど、鎖に繋がれていた前よりはいいとスミレは思う。窓を開けて外を見ると、朝からはしゃぐ子供達の姿があった。羨ましいと思う心はあるけれど、それはもう戻れない過去の話だ。そう思える自分に、成長と変化を感じてしまい、思わず笑みが漏れる。

 

「勝とう 」

スミレは、その決意を胸に秘める。エリカと、ジムトレーナー2人に勝てば、バッジは手に入る。不安はあるけれど、進み続けるしかない。スミレは、胸の前でぎゅっとその手を握りしめた。

 

 そして、ポケモンセンター受付で告げられた言葉に、スミレは驚愕を隠せなかった。

◾️◾️◾️◾️

 

 「おはようございます、スミレさん 」

エリカは、穏やかに微笑んだ。一切の無駄を排した、美しい所作による挨拶は、それだけでスミレに重圧を掛けてくる。場所は、昨日と同じタマムシジムのバトルコート。サナダは、ヒマワリの挑戦を受けるためにタマムシシティ近くの草原へと向かった。終わってからタマムシジムに帰ってくるそうである。

「おはようございます。本日は、よろしくお願いします 」

向けられるプレッシャーに耐えながら、スミレは挨拶を返す。その姿に、エリカは意味深な笑みを浮かべると、掌を打ち鳴らした。

 

「さあ、本日のジム戦は3回勝負、となります。1人目、そして2人目は1対1ずつ、そしてその後のわたくしはわたくしが1体、スミレさんが3体というシステムで参ります、が……昨日には説明致しましたので、当然ご準備はできておりますよね? 」

「はい 」

エリカの微笑みに、スミレは肯定の意思を示す。

「……よろしい、では最初です。改めてご説明致しますが、1度目のバトルは、貴女が出すポケモンをこちらで指定してのバトルをお願い致します 」

エリカは、スミレに背を向けて歩きながら説明する。そして、そのゆっくりとした歩みに合わせてバトルコートの地面が開き、プールと浮島によるステージが形成される。第1戦は、スミレのパーティーでも特にレベル差のある、トサキントが参戦できるように調整されたバトルだ。レベルが低く、連携の経験も少ないトサキントでどのように勝利するのか、といった部分を見られるバトルである。このように、ただのジム戦ではなく、エリカの弟子としての試験を受ける意味合いも含まれていた。

「……トサキント、やるよ 」

スミレは、掌に乗せられたモンスターボールの、その中にいるトサキントに声を掛ける。それに対してトサキントは、ボールを揺らすことで応えた。眼前に立つジムトレーナーは、気弱そうな女性だ。名前は、ユキナというらしく、緊張からかオドオドとしている。あからさまに、ジムトレーナー経験の少ないジムトレーナーだ。しかし、エリカの様子を横目で見るに、ただ経験が少ないジムトレーナーの訓練のダシにスミレを使った、という訳ではないようであった。つまりは、警戒するに値する相手だ。

「よ、よろしくお願いします! 」

「よろしくお願いします 」

スミレの顔色を窺うような様子を見せるユキナと、涼しげな表情で佇むスミレ。両者は、まるで示し合わせたかのように、ボールを構える。

「よろしくお願いします! ナゾノクサ!! 」

ユキナが呼び出したポケモンは、ナゾノクサ。ナゾノクサは、器用に浮島に飛び乗る。

「……お願いね、トサキント 」

スミレが繰り出すのは、トサキント。プールに勢いよく飛び込むと、調子を確かめるように泳ぎ回るが、スミレのすぐそばで停止する。

 

「ただいまより、ジムトレーナー、ユキナとチャレンジャー、スミレのバトルを始めます! 使用ポケモンは1体、時間無制限! それでは、始め!! 」

審判の声が響くと、ユキナの表情は引き締められた。怯えの混じった表情であるが、スミレは、背筋が冷えるような感覚を覚える。サナダの時ほどではないし、手持ちの選出の時点で手加減もされているが、かなりの使い手だ。

(気がついたようですね……。ユキナさんは、ジムトレーナーとしての研修を積んでいるだけであって、新人ジムトレーナーという訳ではありません。経験を積むためにわたくしの元へいるだけで、その実、彼女はジムリーダー候補です。臆病なのは玉に瑕ですが、いざ覚悟を決めると、彼女は強い。対ロケット団の最前線であり、ポケモンバトルの聖地たるこの地方で、ジムリーダーの候補として研修に参加できるほどの実力者。手加減は訓練中とはいえ、かなりの難敵です。……さあ、スミレさん。ユキナさんを、どう突破致しますか? )

エリカは、内心でスミレのバトルに期待を寄せる。ユキナは、ジムトレーナーとしての経験を積み、ジムリーダーとしての勉強さえすれば、すぐにジムリーダーになれるほどの実力者だ。いくら両者が使うポケモンのレベルが近くても、いくらユキナの使うポケモンのタイプが専門からズレていても、その強さは申し分ない。それをスミレがどう攻略するのかと考えると、エリカの胸は高鳴った。

 

「トサキント、【アクアリング】展開。その後はプールを泳ぎ回って」

先手はスミレ。トサキントは、【アクアリング】を発動することで常時回復ができるように準備すると、プール内を自在に泳ぎ回る。みずのフィールドでは、水中戦ができる側が動きやすく、有利になる。地の利は、トサキントにあった。

「えっと……ナゾノクサ、【にほんばれ】」

「……なるほど 」

スミレは、ユキナの指示で、彼女がどのようなタイプのトレーナーかを察した。

(天候ってことは、私と同じ戦略型、しかも本職の…… )

「トサキント、【みずのはどう】」

スミレは、早めの決着を目指す。バトルの最初が【にほんばれ】で始まるくさタイプ使いは、大抵が大火力砲撃をぶっ放してくる、というのはワタルの言である。ジム戦用に調整されたナゾノクサなら、わざマシンを使っていてもおかしくはないし、少なくとも【にほんばれ】は確実にわざマシンによるものだ。水中から顔を出したトサキントが、【みずのはどう】を放つ。【にほんばれ】発動の隙を狙われ、ナゾノクサは被弾。しかし、効果が薄い上に天候も晴天に変わる。

「ナゾノクサ、【ねむりごな】を散布してください 」

続いて、ユキナの指示を受けたナゾノクサは【ねむりごな】を周囲に撒き散らした。スミレは、トサキントを水面で大きく跳ねさせて【つのでつく】を決めるという策を考えていたが、それは【ねむりごな】によって潰される。だが、それも想定の内だ。

「【みずのはどう】、連続で 」

対するトサキントは、【みずのはどう】を連続で放つ。1発1発の火力こそ低いが、ゲンガーのグミ撃ち【シャドーボール】を参考に作った技である。嵐のように、ナゾノクサに迫った。【ねむりごな】が水分で湿り気を与えられて重量を獲得し、水に落ちる。【みずのはどう】の弾幕は、ナゾノクサを撃ち、水面に叩き落とす。

「あっ……ナゾノクサ! 」

「トサキント、【つのでつく】 」

そこへ、トサキントが突進。自慢のツノを輝かせ、水から上がろうともがくナゾノクサを打ち上げた。

「天井に弱めの【ソーラービーム】、降りてください! 」

対するユキナは、天井に細い【ソーラービーム】を放つことで、浮島に叩きつけられる事態を回避しつつ、無事に着地する。【ソーラービーム】は本来、エネルギー充填のために時間が必要なのだが、【にほんばれ】の効果がある限りは、溜めを一切行わずに放つことができる。

「トサキント、泳ぎ回って。【ソーラービーム】は食らうと危ない。隙を見て【みずのはどう】、タイミングは私が新しい指示を出すまでは自己判断でいいよ 」

「キィント! 」

スミレの指示にトサキントは頼もしい返事を返すと、プールの奥深くへと潜っていく。

(【ソーラービーム】は高火力、相性の悪いトサキントなら、一撃で落とされかねない。……なら、動き回って撹乱しつつ機会を窺う。それから、浮島は言葉通りの浮島だから、やりようによっては水中に叩き落とせる)

「ナゾノクサ、【せいちょう】をお願いします 」

(あー……なるほど、【ソーラービーム】が最大の手加減要素ってことかな?)

ユキナの指示で、スミレはユキナが本来やる筈だった戦術に、当たりを付けた。同類だからこそ、気がついたことだった。トサキントに【みずのはどう】を放ちつつ、連発される砲撃から逃れ続けるトサキントを見つつ、スミレは思案する。

「トサキント! 潜水お願い! その後で【つのをつく】をしつつ浮上してひっくり返して!!プラン、B! 」

水中のトサキントに分かるように叫ぶと、トサキントは一気に深いプールの底まで降下を始める。

「えぇっと……。【ソーラービーム】、お願いします 」

対するナゾノクサは、水中に向けて【ソーラービーム】を放った。その一撃は、トサキントの体を掠めてプールの底に激突して消える。完全な命中、とはいかなかったものの、【にほんばれ】によって効果が上げられた【せいちょう】によって火力が上昇したチャージ無し【ソーラービーム】が体を掠ったことで、かなり大きなダメージを受ける。まともに当たれば、戦闘不能は確実だ。しかし、それでも止まらない。トサキントは猛然と水中を急降下して床スレスレまで泳ぐと、【つのでつく】のエネルギーをツノに纏わせて上昇を始める。

「……ええっと、移動お願いします 」

ユキナが戸惑いつつも指示を飛ばし、ナゾノクサは近くにあった別の浮島に飛び移る。そして、その瞬間にトサキントが、浮島を無視して、その側の水面から飛び上がった。

「あ…… 」

ユキナは、スミレの指示の本当の意味を悟った。スミレは最初から、浮島をひっくり返そうとはしていなかったのだ。狙いは、浮島に攻撃を加えると宣言することにより、退避を誘導することだった。

「キィィント!! 」

トサキントは水面から飛び立ち、空中を美しく舞いながらも【つのでつく】をナゾノクサの胴体にぶつけて、プールに叩き落とした。そうなれば、勝負はついたも同然だ。トサキントはプールに飛び込むと、足掻くナゾノクサ、その下に向かう。

「これで……終わり。【みずのはどう】 」

放たれた【みずのはどう】がナゾノクサを天空へと吹き飛ばし、ナゾノクサはそのまま浮島に激突する。

 

「ナゾノクサ、戦闘不能! トサキントの勝ち!! よって勝者、チャレンジャースミレ!! 」

幸先の良い勝利に、スミレは小さくため息を吐いた。

 

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