ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第79話 2戦目、スミレvsレンゲ

 「1人目、ユキナさん突破おめでとうございます」

エリカが、拍手をしながら降りてくる。その様子を見たユキナは、小さく悲鳴をあげてその身を縮こまらせる。

「……あの、エリカさん 」

スミレは目線で質問するが、エリカはただ苦笑いを返す。

「ユキナさん、怒りはしませんが、反省会をやりますよ 」

「は、はいぃ……! 」

エリカが威圧感のある笑みを向けると、ユキナは勢いよく背筋を伸ばした。

「全く、この方は……。スミレさん、バトルをしてみてどう感じましたか? 」

エリカは、ユキナの態度に呆れつつも、スミレに尋ねた。

「……えっと、まずジムトレーナー経験が浅いのか、丁度いい匙加減でのバトルに慣れていないのか、指示にも手探り感を感じました。後は、私なりの推測なのですが、【ソーラービーム】はわざと隙として作った部分かなぁ、と…… 」

スミレの分析に、エリカはユキナに視線を向ける。

「だ、そうですよ。前者に関しては、わたくしも同意見です。貴女は専門が違うとはいえ、ジムリーダー候補なのですからもっと堂々としてくださらないと……。後者に関しては、ユキナさん、解説のほど宜しくお願いしますね 」

ジムリーダー候補、という言葉にスミレは内心驚いた。気弱な態度の割に強く、だが経験の浅さが見えることは分かったが、そこまでとは分からなかった。

「はい……。えぇっと、スミレさん、でしたね。私と多分、似た戦術を使うと思うのですが、スミレさんなら、どの技を入れると思いますか?」

ユキナからの質問に、スミレはナゾノクサが覚えられる技を思い返し、答えを出した。

「……【ギガドレイン】、ですね。まずは【にほんばれ】によって天候を支配して、【せいちょう】の効果をアシストして攻撃力と特殊攻撃を急上昇させる。その上で、相手の体力を削りつつ自身の回復ができる【ギガドレイン】を特殊攻撃に大幅な火力加算がされている状況で撃てば、火力と回復の両立による高火力高耐久のポケモンが出来上がります」

その答えに、ユキナは弱々しくも、嬉しそうに笑った。

「はいっ、正解です! 相手にできるだけ攻撃されないように、私は【ねむりごな】を入れました。他の粉でもいいですけど、上から一方的に叩きのめすなら、断然【ねむりごな】ですよ。【ようかいえき】で特殊防御を下げてしまう、という方法もありますねっ。それらの中から私が選んだのは、【ねむりごな】でした。組み合わせると、上から一方的に攻撃できて、攻撃されても回復が出来て安心な、持久戦特化型のナゾノクサの完成ですっ!」

嬉しそうに言っているが、なかなかに人の心が不足した作戦である。スミレやエリカは合理的だと頷くが、周囲のジムトレーナーは、顔を引き攣らせる。どうやら、地獄の戦術はもう体験済みであるらしい。

「ふふっ……耐性のない方にとっては、目も当てられない戦術ですね。とはいえ、きちんと説明と指導ができる、それはジムリーダーとして大事なことですよ。さて、スミレさん。今回の試験では、トサキントの実力を見る以外に、もうひとつ密かに見ていた部分があります。それは……観察眼です 」

エリカの言葉に、スミレとユキナはハッと気がついた。

「まさか……。ユキナさんが一番手だったのは 」

スミレは、呟いた。

「一歩、読みが足りませんでしたね。とはいえ、合格点は差し上げられますが。……貴女のような、搦手を軸とするトレーナーは " 読み " が重要になります。スミレさんが浮島をひっくり返させる作戦を取る、とユキナさんに誤認させて退避を誘発したように、ユキナさんが【つのでつく】による空中からの奇襲を【ねむりごな】で潰したように。相手の行動を読み、その行動に対し適切なカウンターを決めて相手を一方的に潰すことが搦手を多く使うトレーナーの基本戦術です。その為に、貴女は相手のポケモンやトレーナーを見る、ということが必要でした。今回、何故ユキナさんを1番手に選出したのかと申しますと、彼女がジムトレーナーで最も態度と実力が乖離しており、またジムトレーナーとしての経験も浅いため、相手の油断を誘いやすいからです。しかし、貴女はその態度に騙されず、油断をせずに倒し切れた。その時点で合格ではありました。理想を言えば、試験の意図に気付いて欲しかったので少しばかり減点ではありますが、現状では十分でしょう 」

「なるほど…… 」

スミレは、納得したように頷いた。確かに、目の前のバトルばかりに目をやっていれば、周辺の状況に気づきにくくなる。実際、トサキントに浮島をひっくり返させる、という戦術も、初手で使って良い手であった。

「ユキナさんは、少し縮こまりすぎですよ。やればできるのですから、いちいちそう怖がっていたら成長が遅れます 」

「は、はぃ…… 」

エリカは、呆れた表情でユキナに軽く注意をすると、ユキナは見るからに小さくなった。改善には、まだまだ掛かりそうだ。

 

「続いてはレンゲ、お願いしますね 」

エリカの言葉で、レンゲがコートに立つ。プールは既に仕舞われ、通常のコートに戻っている。エリカは、ユキナを伴ってコート外に出た。

 

「スミレちゃん、退院おめでとう 」

「……ありがとうございます 」

明るく話し掛けてくるレンゲに、スミレは小さく会釈する。

「今回のジム戦は1対1、特別な縛りはナシ。私はユキナちゃんやエリカ様みたいに強くないから、手加減なしでいくよ。 さ、お互いに頑張ろっか!! 」

「勝ちます…… 」

レンゲはボールを構え、スミレもまたボールを構える。

「行くよ、ナッシー!! 」

「ナァッシィィ!! 」

ボールを投げ、飛び出したのはナッシー。カントー地方に生息するくさポケモンだ。

(首が短い……。博士に聞いた、アローラ地方のナッシーじゃない)

アローラ地方に住むナッシーは首が長く、しかもドラゴンタイプを持っていると、オーキドから聞いたことがある。だが、目の前のナッシーは首が短い。通常の、くさ・エスパー複合タイプを持ったナッシーである。

「……行くよ、ゲンガー 」

対するスミレは、ゲンガーを呼び出す。当初はフシギバナで押し潰そうと考えていたのだが、ゲンガーが妙にアピールするので、その意を汲んだ形になる。

 

「これより、ジムトレーナーレンゲとチャレンジャースミレの勝負を始めます! 使用ポケモンは両者1体のみ、時間は無制限! それでは、始め!! 」

 

審判の声と共に、スミレとレンゲは、どちらも目つきを尖らせる。

「ゲンガー、【シャドーボール】 」

「ナッシー、【タネマシンガン】 」

ゲンガーの【シャドーボール】が放たれるが、ナッシーは【タネマシンガン】で迎え撃つ。1発1発が弱い【タネマシンガン】だが、その手数による総合火力は【シャドーボール】を相殺するには十分だ。空中で両者の技が激突し、爆炎を上げる。

「【シャドーパンチ】 」

「【ねんりき】! 」

ゲンガーは【シャドーパンチ】を構えて突進するが、ナッシーは【サイコキネシス】を発動、サイコパワーがゲンガーを包み込むと、ジムの壁に向けて投げ飛ばす。

「……ゲンガー! 【シャドーボール】、潜って! 」

壁に叩きつけられたゲンガーだが、すぐに立ち上がると空中を蹴って突進し、ナッシーに【シャドーボール】を放つと、空中で急停止した。

「ナッシー、【タネマシンガン】」

ナッシーは【タネマシンガン】で攻撃を防ぐ。2つの技が相殺されて爆炎が上がり、それが晴れた後にはゲンガーの姿は見えない。

「ゲンガー、【シャドーパンチ】! 」

スミレの声に合わせて、影から飛び出したゲンガーの【シャドーパンチ】が顎に決まり、ナッシーは吹き飛ばされて地面を転がる。

(ここまでは順調……。相性は良いし、ゲンガーの動きで上を取れる。後は、何でレンゲさんが? ジムトレーナーの中では確かに1番交流してるけど…………ん?)

そこまで考えて、エリカのある発言を思い出した。それによって、スミレは覚悟を決める。

「ゲンガー、【たたりめ】 」

ゲンガーの怨念が籠った眼力がナッシーに当たり、ナッシーは後退する。

「反撃よナッシー、【ねんりき】」

ナッシーの【ねんりき】がゲンガーをコートに叩きつけた。

「ゲンガー。【シャドーボール】、準備 」

スミレの指示で、ゲンガーはその手に【シャドーボール】のエネルギーを集める。

「ナッシー、【メガドレイン】」

「躱して 」

ナッシーは回復のため、【メガドレイン】を放つも、ゲンガーは空中に逃れる。

「ゲンガー、【シャドーボール】。機関銃 」

「ゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ!!!! 」

気合いの声と共に放たれたのは、小型になった【シャドーボール】の弾幕だ。負けフラグとも言われるグミ撃ちも、ほぼ同格な格上、しかも相性の良い相手には致命的なダメージを与えられる強力な技だ。雨霰のように降った【シャドーボール】が、ナッシーを反撃も許さずに打ち据えた。

 

「ナッシー、戦闘不能! ゲンガーの勝ち!! よって勝者、チャレンジャースミレ!! 」

 

◾️◾️◾️◾️

 

 「さて、スミレさん。わたくしがこのバトルで貴女に課した課題は何だと思います? 」

エリカは、スミレに尋ねた。分かっていて欲しい、という願望も込めて。

「ええっと……。あくまで推測ですが、まずエリカさんは、ユキナさんとの講評の時に、私とユキナさんが言った戦術の話に、『耐性のない方にとっては、目も当てられない戦術ですね 』って言っていました。そして、2戦目の相手は、私が最も交流しているレンゲさん。……ということは、搦手を利用する、『目も当てられない』バトルを、仲のいい人に対して出来るか……といった感じ、でしょうか? 」

スミレの推測は、自身の戦術をどんな相手にも押し付けられるか、という試験だ。その答えに、エリカは困ったように笑う。

「なるほど……惜しいですね。100点満点とするなら、99点といったところです。今回の課題は、貴女が狂気を脱したからこそ生まれた課題と言えるでしょう。……ただ、わたくしとしては身内に対して甘い戦術を使う、というのはそんなに悪いことではないと考えております。バトルのエンタメ化が進んでいるガラル地方の方に多いですが、搦手を嫌う方はそれなりに居ますからね。わたくしが願っているのは、あくまで弟子の幸福です。確かに、己の戦術を貫くのもひとつの道ですが、それが貴女にとって不幸となるなら、違うやり方を使っても構わないと思っています。搦手を使ったバトルであれ、真っ向勝負のバトルであれ、わたくしは貴女のスタイルを強制は致しません。結果として、貴女はいつも通りの戦術を使えましたが、たとえ情が湧いた相手にその戦術を使えずに負けたとして、それを責めることは致しませんわ。……それに、状況に応じて戦術を切り替える、ということはそれだけ対応できる状況が増える訳ですから、それはご一考くださいね。纏めると、今回の課題は『親密な相手とのバトルで、普段から搦手を多用する貴女がどう立ち回るか』を、" バトルスタイル不問 " で見ておりました。そこが惜しい、と申した理由です 」

盲点だった、とスミレは思う。搦手を活用したバトルが嫌われやすいことは知っていたが、相手によって戦術を切り替える、という道もあるとは思っていなかった。

「戦術の手札を増やす…… 」

スミレの呟きに、エリカは嬉しそうに頷いた。

「そうです。戦術の中で手札をを増やす、というのも大事ですが、戦術そのものの手札を増やす、という道もあることを忘れないでくださいね」

「はいっ……! 」

 

「レンゲはいくらタイプ相性が悪くて戦術で有利を取られてもあっさり負けすぎです。スミレさんとのバトルが終わった後で、きっちりと反省会と参りましょう。長くなるので、お覚悟を 」

「げっ……。はぁい 」

エリカに釘を刺され、レンゲはげんなりとした表情になる。

「さて、最後はわたくしです。……ご準備は、よろしくて? 」

エリカのプレッシャーに、スミレは思わず身構えた。

 




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とはいえ、狂気からの救いを書いてる人間が他者評価に悩み、狂っていくというのは皮肉な話です
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