ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
「これより、ジムリーダーエリカと、チャレンジャースミレのバトルを始めます! 使用ポケモンはジムリーダーが1体、チャレンジャーが3体、時間は無制限! それでは、最初のポケモンを!! 」
審判の声を背後に、スミレとエリカは向かい合う。スミレの胸は緊張で高鳴り、手汗が滲む。目の前に立つエリカから感じる気配は、何処か凄みを感じる。
「さぁ、参りましょう。ラフレシア 」
エリカは、余裕のある笑みを浮かべて、最初にして最後のポケモン、ラフレシアを呼び出した。くさ、どくの複合タイプを持つ、ナゾノクサの最終進化形。エリカの相棒とは別個体だが、相当鍛えられているのか、ただものではない風格を持っている。
「行くよ、バタフリー 」
対するスミレの1番手は、バタフリー。流石に、実験が出来るような相手ではない。
「バトル、開始!! 」
「バタフリー、【サイケこうせん】 」
「ラフレシア、【エナジーボール】」
両者の技が空中で激突し、爆炎を上げる。
「バタフリー、飛んで 」
「【はなふぶき】で追撃です 」
バタフリーは機動力の低いラフレシアを撹乱するため、周囲を猛スピードで飛び回る。一方、エリカの指示を受けたラフレシアは【はなふぶき】で対抗、逃げ回るバタフリーを追撃する。地面スレスレを飛ぶバタフリーは、変幻自在の【はなふぶき】を避け、地面に激突させ、体に掠らせながらも無事に逃げ切る。
「バタフリー、いつもの! 」
その指示で、【しびれごな】を【かぜおこし】で散布。くさタイプには効かないため体が痺れることはないが、その視界を塞ぎつつ、【かぜおこし】がダメージを与える。【かぜおこし】はラフレシアにとって効果抜群、技そのものの威力やバタフリーの能力による火力は低いが、普段と比べればダメージは大きい。
「ラフレシア、【メガドレイン】」
ラフレシアの放った【メガドレイン】のエネルギーを、バタフリーは器用に避ける。
(やはり回避力は凄まじいものがありますね。火力こそ通常個体より劣っていますが、それが却って長期戦を招き、相手のペースを崩すことに役立っています。……ですが)
「ラフレシア、【はなふぶき】。80%解放でお願いします 」
放たれた【はなふぶき】の一部がバタフリーの翅を掠めた。先程バタフリーが避けた【はなふぶき】を、遥かに超えた攻撃だった。体勢を崩したバタフリーに、残る【はなふぶき】が殺到する。
「迎撃……ッ、【かぜおこし】をぶつけて! 」
スミレは、範囲攻撃である【かぜおこし】を指示。放たれた烈風が花の嵐を巻き込んで炸裂、空中で諸共に消し飛んだ。
「やりますね……。さて、スミレさん。最後の課題は簡単でしょう?」
エリカは、余裕の笑みのまま尋ねる。スミレは、冷や汗をかきながらその質問に頷く。
「……私の手の内を理解している格上への対処法、ですか? 」
その回答に、エリカは嬉しそうに頷いた。
「正解、です。強くなって名前が売れれば、その分戦術も解析されます。そのような場合はどのように戦うのか、それを審査致します。バタフリーを初手に出してくることも、そしてその戦術も、完全に読み通りですよ。……さぁ、ここからどう致しますか? 」
その言葉に、スミレは見えない位置で拳を握った。
(やり辛い……)
それが、スミレの真っ先に浮かんだ感想であった。トレーナーとしての強さは、サナダの方が上だ。醸し出す雰囲気から、少なくともそれは分かっている。だが、不利な状況なのは先日のサナダ戦以上である。というのも、エリカはスミレの師匠であり、スミレのポケモンの強みや弱みを理解している。スミレが得意とする戦術も、ポケモン選出の傾向も。そして何より、エリカはスミレというトレーナーの実力を心の底から認めている。だからこそ、わざと手加減を緩めた。愛弟子が自分の足で前に進もうとしている今だからこそ、乗り越えるべき壁となるため。
「……分かってる。だから、勝ちに行く 」
「フリィィィ!!!! 」
スミレとバタフリーは気合いを入れ直し、エリカとラフレシアを睨む。
「バタフリー、いつもの。やったら【サイケこうせん】で狙撃開始!それからアレお願い 」
「今の所は予想通り、ですわね 」
エリカの呟きを他所に、バタフリーは目眩しの霧を起こし、その中から飛んだ【サイケこうせん】がラフレシアを狙い撃つ。
「…………なっ!? 」
霧が霧散すると、その光景がよく見えた。スミレは、思わず驚愕の声を漏らす。ラフレシアの周囲には、【はなふぶき】が展開されていた。まるで生き物のように蠢く【はなふぶき】が、【サイケこうせん】狙撃を的確に迎撃し、防御していたのだ。
「言ったでしょう? 手の内を理解している、と。貴女のバタフリーが急所狙撃を得意としていることは存じ上げておりました。ならば、【はなふぶき】を急所がある位置に留めて展開しておけば、狙撃は勝手に自滅してくれる……。初見殺しなど、初見でなければ対処は容易い 」
「今! 」
「……フリィィィ!!!! 」
バタフリーが突っ込んだ。エネルギーを溜め、急速にラフレシアの懐に飛び込んだ。
「……【むしくい】ですか。 それは何度も見ましたよ? 」
(恐らくは新技……。スミレさんともあろう方が、見え見えの戦術では潰されるだけだと分からない筈がない。ですがこれはジム戦、敢えて乗りましょう)
(多分、私の手も読まれてる……。でも、乗ってくれるならやり切るまで……!)
「バタフリー、【はかいこうせん】!!!! 」
橙色の閃光が、迸った。
◾️◾️◾️◾️
「【はかいこうせん】はいいぞ 」
タマムシ病院の病室で、ワタルは唐突に言った。リハビリを終え、ベッドの上でのんびりと寝転がって黄昏ていたスミレだったが、ワタルはそんな時に病室を訪れた。この日はオーキドが用事で居ないらしく、いつもの講座も今日はワタル1人であった。
「【はかいこうせん】は隙が多いので扱い辛い気がします 」
スミレは、【はかいこうせん】を使おうとは思っていなかった。技の火力は高いが反動があり、スミレの戦術上ではかなり不利であったからだ。
「そうだ。スミレの戦術とは、そのまま使えば相性は悪い 」
「そのまま……? 」
ワタルの言い方に、スミレは首を傾げた。
「使い方次第で、【はかいこうせん】はスミレの戦術に組み込めるぞ。……例えば、俺のカイリューのように、無反動で撃てるようにするとか。まぁ、それはかなり難しいが。後は、バタフリー辺りに装備させて、【はかいこうせん】を撃ちながら後退して距離を取り、相手の攻撃が届かない位置で反動を受ける、とかな 」
「……なるほど、反動があっても、その間に相手が攻撃が出来ないような状況にすればバタフリーの低火力を補える主砲になる 」
スミレの分析に、ワタルは嬉しそうに頷いた。
「流石に鋭いな……、その通りだ。技というものは、扱い方次第でかなり化けることがある。バタフリーの火力不足という大きな課題を補うには、丁度いいんじゃないか? 」
そう言われて、渡された【はかいこうせん】のわざマシン。結局のところは使っていなかったが、サナダ戦を終えた後に使用し、習得させていたのだ。
◾️◾️◾️◾️
バタフリーから橙色の閃光が放たれ、ラフレシアは大きく吹き飛ばされる。しかし、ラフレシアのダメージはスミレの予想ほど大きくはない。ラフレシアは【はかいこうせん】が放つ光で技を判別すると、咄嗟に【はなふぶき】を展開してダメージを軽減していたのだ。しかし、【はかいこうせん】の反動で動けない筈のバタフリーは、ラフレシアから大きく距離を取って空中に留まっている。
「なるほど、【はかいこうせん】を放ち、その反動で後ろに飛びましたか。素晴らしい奥の手です 」
「素晴らしい、と言っておきながら初見殺しを初見で対応されても困ります…… 」
「バタフリーの火力不足は、当然こちらも把握しておりました。わたくしは、貴女がその問題を放っておかないだろう、と思い、予め対策を立てていただけです 」
スミレは、あっさりと対応したエリカに対してため息を吐いた。レンゲ戦で指摘された、『戦術そのものの手札を増やす』重要性が、ここまで求められる状況が来るとは、流石のスミレも予想外であった。
(なるほど。これは1戦目で言われた、『読み』の重要性かな? 多分、こうなることを予測してその上を行かなきゃいけないんだとおもうけど……。ワタルさんに貰った予想外は予想内で終わった。後は、サナダさんに貰った予想外と、私自身の予想外の2手……! どう攻略しようかな)
「バタフリー、【サイケこうせん】を連続で 」
スミレはひとまず指示を飛ばし、牽制も兼ねた【サイケこうせん】狙撃を撃たせる。
「ラフレシア、【エナジーボール】で防ぎなさい 」
エリカは【エナジーボール】で迎撃し、両者の技は空中で相殺される。
「もう一度、【はかいこうせん】!! 」
「【はなふぶき】」
バタフリーは【はかいこうせん】を再び放ち、反動で後ろへ飛ぶ。ラフレシアは【はなふぶき】を放つと、大爆発が起きる。そして爆発による煙が晴れれば、スミレの目には、ラフレシアが【はかいこうせん】が放たれたところから別の場所に立っているのが見えた。放った場所には、花が舞っていた。
(やられた……。 【はなふぶき】の花弁と【はかいこうせん】の火力による土煙で、視界に穴が……!)
「その撃ち方、ワタルさん辺りに教わりましたか? 運用法は正しいです。しかし、ただ倣っているだけの付け焼き刃では、今のように応用が効かずに撃つだけになります。そうなれば、一度見ただけで対処が楽になりますよ。……どうやらわたくし対策の為に、敢えて温存していたのでしょうが、ひとつ勘違いを正さねばなりません。習熟していない初見殺し技は、初見殺しではなく付け焼き刃、と呼ぶのです。やっていることは似ていても、初見殺しと付け焼き刃では天と地ほどの差がありますよ 」
エリカは、呆れた様子で言うが、かなり耳の痛い話であった。確かに、不意を突くことに囚われすぎていた。ワタルから教わった戦術の有用さと技の威力に驕っていたのかもしれない。自身をよく知る相手に勝つ為、といえば聞こえは良いが、結局は切り札となる技があるにも拘わらず、それを使い熟すことをしなかった。紛れもない、スミレの失策であった。
(……不味い、来る)
スミレの、弟子としての勘が全力で警鐘を鳴らす。
「さて、相棒には少し劣りますが、このラフレシアによる100%の、【千刃花】を、お見せ致しましょう。習熟した技は、時に初見殺しを遥かに超える必殺となるのだということを、今ここでお教えしましょうか」
「退避ッ! 【かぜおこし】で距離を取りつつ防御!」
バタフリーの行動は速かった。適切に距離を置き、止まらずに飛び回りながら【かぜおこし】を準備し、迎撃の準備を整えた。しかしそれでも、圧倒的な差があった。選出を読まれ、戦術を読まれ、肝心の切り札は読まれただけでなく、搦手を意識するあまりの鍛錬不足。
「押し潰しなさい。【千刃花】」
放たれた花の嵐が、バタフリーを飲み込んだ。【かぜおこし】の迎撃が間に合ったにも拘わらず、その攻撃を防ぎ、迎撃をすり抜けた花弁がバタフリーを打ち据え、巻き上げ、叩き落とした。
「バタフリー、戦闘不能! ラフレシアの勝ち! 」
無情にも、バタフリーは墜落して戦闘不能となる。スミレは、溢れ出る悔しさに顔を顰めた。
軽い解説: エリカはスミレに対し、『スミレならこのくらいできるだろう』と実力を認め、課すべき課題を正しく見積もっていたからこそ有利を取れた。つまり、スミレは間違った選択肢を選んで居なかったからこそ有利を取れずに負けた。一方のスミレは『エリカならこのくらいできる』と実力を把握していたからこそ現状では勝てないと初見殺しの火力砲撃に手を出し、それすらも読まれてつけ入る隙を与えてしまった。スミレの師匠をやっていたエリカでなければ見事にハマってやられていたため付け焼き刃であっても対策としては間違っていないが、エリカとの距離が近すぎて特訓が少量しかできず(エリカは確信犯。いつでも万全に戦略を仕込める訳ではない為)、しかもエリカは『相手の情報を熟知している敵』という戦術型にとっての天敵として立ちはだかっているため、対応された挙句『初見殺しが読まれた挙句、その習熟度が低すぎて初見殺しとして機能しない』という実例として、バタフリーを滅多打ちにされた。
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