ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第82話 託す戦い

 【げきりん】の解除、それはスミレにとっては致命的だった。混乱の状態異常は場合によっては作用しないこともあるし、早い段階で解除されることもある。だが、それを予測することはできない。だからこそ、不安が思考力を鈍らせる。

(サナダさん、やはりよく見ていらっしゃる)

エリカは、サナダの計らいに笑みを浮かべる。不信感による連携の崩壊は、絆や友情を嫌うスミレならば避けては通れない道だ。サナダが態々【げきりん】を渡したのには、スミレがそれを経験した上で乗り越えなければならないと判断したからであろう。

「さあ、どうしますか? ミニリュウはまだ戦闘続行が可能です。先程の連携崩壊は不信感によるものです。きちんと和解せずに来たツケが回ってきたのですよ。貴女は今後、さまざまな問題に直面することになります。それに対し、いちいちその問題を先送りになさるつもりですか? 悩み、苦しみは溜め込むと精神へ特に強い負担をもたらしますから、その都度対処せねば、思わぬタイミングで足を引っ張ることになりますよ」

「……それは 」

スミレから言い返せることは、何もなかった。ミニリュウは自身の過ちを認めながらも謝罪をせず、スミレはミニリュウに対して何の歩み寄りも見せようとはしなかった。その状態で、連携など満足に取れるわけがないのだ。

「サナダさんが【げきりん】を渡した意味、きちんと考えましたか? 態々、代償付きの強化技を渡した意味を。貴女の戦術の目標とすべきは、わたくし以外だとシンオウのシロナさんに代表される、力技と搦手の緩急を活用した戦術です。貴女もそれが分かっているから、【げきりん】を受け取ったのでしょうが、思考がそこで止まってしまっています。相手のペースを乱して勝つ、というのが基本戦術であるにも関わらず【げきりん】という自らのペースを乱すような技を何故渡したのか、貴女は疑問に思いませんでしたか? 」

言われてみれば確かにそうだ、とスミレは思い至る。スミレが得意とするのはポケモンの特徴や能力を活かした、搦手中心の戦術だ。ならば、【げきりん】を渡したのは何故なのだろうか。

「……分からない 」

どうしても、分からない。

「そうですか。とりあえず、これはジム戦という名の試験ですし、ミニリュウにはこれを与えてください 」

そう言ってエリカは、あるものを投げ渡す。スミレは咄嗟に手を出してそれを受け取り、手の上のそれを見た。

「キーのみ 」

「ええ。それは、混乱の状態異常を解消する効果があります。本来のジム戦では使わせないのですが、まぁ優先順位を考えるといいでしょう。さあ、それをミニリュウに 」

エリカに促されるまま、スミレはミニリュウにキーのみを食べさせる。すると、混乱していたミニリュウの焦点の合わなくなっていた目がパチクリと動き、元の状態に戻ったことを告げた。当然、体力の回復はできない。

「………… 」

スミレは何かを話そうとして、できなかった。蓋が出来ずに漏れ出る不信感は、ミニリュウにも察せるほどに強かった。

「ミニリュウ、これは貴方が招いた結果です。スミレさんにも至らぬ点は沢山あります。自身が受けた抑圧と同じ、過度な期待による抑圧を彼女自身も無自覚にやってしまっていた。毒親の娘が毒親になる、というパターンはよくありますが、スミレさんの場合もご両親の教育の悪い面が移ってしまっていました。それに関しては、わたくしが既に説教致しましたし、改善策も、何日もかけて共に考えました。貴方のトレーナーは、自身の過ちを自覚できる人間でしたよ。……ですが、それはそれとして貴方がやったことは間違っている。根気よく面倒を見ようとしていたスミレさんに、一体貴方はどのような態度を取りましたか? スミレさんの苦しみを、慮ろうとしましたか? 答えは否、しかもそれは今の今までずっと続いている。そしてその上でくだらないプライドを引き摺って、未だ和解に至ってはいない。……このままでは今後、どんなに力が強くなろうと貴方はスミレさんの足を引っ張るだけです。可能性だけの弱者など、強者の世界に席を用意してもらえると思わないことです」

ミニリュウは、エリカの棘がある言葉に思わず俯いた。

「……ごめん、ミニリュウ。私はみんなを基準に考えてた。みんなそうだからって、同じようなものを求めてた。過剰な期待は毒になるって、私が1番知っていた筈なのに。でも、みんなにはそうなる過程があって、貴方には無かった。私がその過程を担わなければならなかった。その癖、私は弱かった。根を上げて、体壊して、その癖不信感抱いて。結局エリカさんに叱られなきゃ、私の歪みもわからなかった。…………だから、ごめんなさい 」

スミレは、心から謝っていた。自分の育て方が悪かった、そう言っていた。倒れるほどにストレスを与えられていたスミレが、自分が悪かったと頭を下げていた。その言葉が、ミニリュウのプライドを粉々に打ち砕く。それは、ミニリュウにとっては叱られるよりも言われたくなかった言葉であったから。期待して欲しかった、期待を超える姿を見て欲しかった。褒め称えて欲しかった。強い自分を思い浮かべ、チヤホヤされる自分を思い浮かべたことも何度だってあった。だが、それはもう叶わない。期待しすぎたという言葉は、スミレが倒れるまで迷惑をかけるほどにプライドの高かったミニリュウにとっては、トドメに等しい言葉だった。

『ごめんなさい…… 』

ミニリュウが涙を流して謝れば、スミレはその頭を優しく撫でた。スミレにミニリュウの言葉は通じない。だが、不思議とその気持ちが伝わったのだ。だが、スミレの中で位置付けられたミニリュウの存在は、ミニリュウが望んだものには決してなれない。スミレの瞳の内にある夜空の星のひとつ。他のポケモンと横並びで輝く星でいられても、フシギバナのような特別にはなれやしない。それは、決して覆らぬ事実であった。

「……ミニリュウ、まだ戦える? 」

スミレは、尋ねた。その瞳には、澱んだ闇ではなく暗くとも澄んだ闇が広がっている。

「リュウ…… 」

「そっか。……後に控えてる1体が、私が出せる最後のポケモン。そこで勝負を付ける。だから、ミニリュウには全部を出し切ってもらうつもり。ここまでは良い? 」

「リュ 」

ミニリュウは、小さく頷いた。もう体力は残り少ない。ラフレシアの体力は、見るからに多い。【メガドレイン】による回復をされ過ぎたのだ。

「全力全開の【げきりん】で、特攻を行う。急所に当てても、体力を削り切るのは難しいけれど、次には確実に繋がる。貴方だけじゃない、バタフリーも、そして最後の1体も、3体であのラフレシアを落とすのが今回のバトル。仲間に託すバトルを、する覚悟はある? 」

「…………リュウ! 」

ミニリュウはほんの少しの葛藤の後に、力強く頷いた。特別にはなれないけれど、それでもまだ期待をしてくれるのならば立つ、折れることは、ミニリュウの矜持が許さない。

「それで良いのです……! 力任せの真っ向勝負、愚直なまでの前進、それは貴女の目には時に愚かに見えるでしょう。貴女が好む搦手は合理的であり悪いことではありません。しかし、時には前進するという道を知らねばなりません。絶望も、後悔も、なにもかもを抱えて、それでも覚悟を胸に道を切り拓くこと。……それを人は、無謀ではなく、勇気と呼ぶのです!! !!」

「ミニリュウ、継続戦闘なんて考えないで。……イメージするのは、一撃必殺。最大最強の【げきりん】で、押し通る 」

「リュウゥゥゥ!!!! 」

ミニリュウから紅い蒸気がたちのぼり、それはオーラとなってミニリュウを覆う。猛り狂う龍を模ったそのオーラの中心で、ミニリュウは吠えた。

「……完全な解決は時間が必要であるが故に、これは部分的な解決に過ぎないでしょう。しかし、確かに貴女方は前に進んだ。なればこそわたくしは、貴女の師匠として、貴女が超えるに値する壁でなくてはなりません。ラフレシア、【千刃花】に【メガドレイン】を重ねてください。これは後々フシギバナに教えようと思っていた、技の複数同時展開の手本です。貴女もまた、彼女達の師匠であるのだから、彼女らの前進に共に応えると致しましょうか 」

「レシャァァァァ!!!! 」

花の嵐が竜巻のように唸りを上げて、その花弁一枚一枚に【メガドレイン】のエネルギーが薄らと纏わせられる。

「突っ込んで……! 【げきりん】!! 」

「迎え撃ちなさい、【千刃花】!! 」

両者の一撃がぶつかり合い、大爆発。吹き荒れる爆風が、ジム内を暴れ回った。

 

 

 

「ミ、ミニリュウ、戦闘不能! ラフレシアの勝ち!!……エリカ様、気持ちは分かりますがやり過ぎなので後でお説教です!! 」

「すみません…… 」

 

◾️◾️◾️◾️

 ジム戦前のポケモンセンターでジョーイに声をかけられ、センターを出ようとしていたスミレは振り向いた。

「貴女がスミレ様、ですよね? 育て屋のアカマツ様よりご依頼がありまして、お荷物を預かっておりました 」

そして渡されたのは、小さな小包とその中に入った1つのアイテム。それは、エリカ戦の切り札となりうるものだ。

「……どうして 」

スミレは、どうして丁度いいタイミングで届けられたのか、と疑問に思う。

「アカマツ様より伝言を承っております。『アイツから僕のところに来た。何を感じたのかは分からないけど、使ってやって欲しい。終わったらこっちに戻してくれ』とのことです 」

スミレは、その言葉を聞いて頷くとそのアイテム、他のボールに比べて少しだけ汚れの付いたモンスターボールを、腰のベルトに取り付けた。

「……ありがとうございます 」

「エリカ様とのジム戦、頑張ってくださいね 」

ジョーイからの激励に、スミレは頷いて応えた。

「頑張って、勝ちます 」

 

◾️◾️◾️◾️

 

 スミレは、最後のポケモンが入ったボールを取り出す。見据えるのは、大きなダメージを受けながらも未だ健在のラフレシア。そして、その奥のエリカ。【メガドレイン】を纏わせた【千刃花】の前に、ミニリュウは届かなかった。大きなダメージを与えることにこそ成功したが、ある程度の回復もされたせいで最後の1体に余計な負担がのし掛かる。

「……でも、託された。ならやるしかないでしょ 」

スミレの呟きに、そのモンスターボールは小さく揺れた。最後の予想外、それは普段はスミレと離れているもう1体の仲間のことだ。スミレ自身が成したことで生まれた絆。絆や友情を否定するスミレの最後のポケモンが、絆によってゲットされたポケモンであったのは何かの皮肉であるのかもしれない。だが、最後に残ったのは、このポケモン。フシギバナが最後でないことに不安がない訳がない。だが、それでも勝ちたいと思う。フシギバナに頼るだけでは、きっと前に進めないから。

「さあ、おいでなさい 」

エリカは挑発するように笑い、スミレは真剣な表情でボールを構える。

「これで最後。……勝つよ、ニドキング 」

群れの王たるニドキングが主たるトレーナーの元へ、遂に馳せ参じた。

 




感想、高評価、お気に入り登録等よろしくお願いします。モチベーション下がってるのは一応ホントですので違う作品を投稿するかもしれませんが、本作を打ち切りにはしませんのでご心配なきようよろしくお願いします
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