ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

83 / 220
モチベーションが死んでるせいか、めちゃくちゃ難産でした……


第83話 私を愛する

 土煙を上げて着地するニドキングに、エリカは目を見開いた。ニドキングがスミレのポケモンに含まれていることは知っていたが、共に訓練をしているところを見たことがないため、連携能力が未知数であるからだ。

「……ニドキング。必ず勝つよ 」

「キィング 」

スミレの言葉にニドキングは重々しく頷き、戦意を滾らせてラフレシアを睨みつける。

(……ニドキング、なるほど。見れば察せますが、かなり強いですね)

「ラフレシア、【エナジーボール】」

「ニドキング、【メガホーン】 」

放たれた【エナジーボール】を、ニドキングのオーラを纏った角が貫いた。破壊された【エナジーボール】は眼前で炸裂するも、応えた様子はない。

「突っ込んで【メガホーン】」

巨体に似合わぬ俊敏さでラフレシアに近づくと、【メガホーン】を再度装填、ラフレシアの体を打ち上げた。

「【はなふぶき】で迎え撃ちなさい 」

空中で体勢を整えたラフレシアが放つ【はなふぶき】が、一斉にニドキング目掛けて降り注ぐ。ニドキングは両腕で顔を覆い防御、その巨体の防御力に任せて耐える体勢に入った。そこに【はなふぶき】がぶつかり、ニドキングは顔を歪めながらも攻撃を堪える。

「【だいちのちから】、振り払って 」

花の嵐に全身を打たれながらも、ニドキングは地面に拳を振り下ろす。すると、大地に大きなヒビが入り、裂けた大地から立ち上るエネルギーの光が花の嵐を迎え撃った。爆砕され、吹き散らされる花弁に目もくれず、ニドキングは走り出す。

「【エナジーボール】」

「【どくばり】 」

下から突き上げるように放たれた額のツノによる一撃が【エナジーボール】を食い破る。

「【メガドレイン】です 」

「跳んで 」

放たれた【メガドレイン】に対し、ニドキングは大地を両足と尻尾で強く蹴り付けて飛び上がる。重いニドキングが飛び上がったことによる振動が、【だいちのちから】によって崩れた地面を揺らし、ラフレシアは体勢を崩す。

「……今、【にどげり】! 」

【にどげり】は、その足で2度蹴り付ける、という単純明快なかくとうタイプの技だ。

「キィィィィィング!!!! 」

気合いの咆哮と共に、ニドキングの飛び蹴りがラフレシアを吹き飛ばす。そして地面に降り立つと今度は地面を蹴って前方へ加速、一気にラフレシアに近づき回し蹴りを行い、二撃目を加えた。

 

(……違和感)

スミレは、ニドキングとラフレシアとのバトルに、何か釈然としないものを感じた。ラフレシアは強力であり、バタフリーとミニリュウを倒したことからも明らかだ。しかし、今のラフレシアは先程までと比べて攻撃を食らいすぎているように見えた。

「何か、お悩みですか? 」

エリカが、涼しげな表情で尋ねた。

「いえ…… 」

スミレは、目つきを鋭くした。

「(なるほど……まずは自己解決を試みる、と。時間が掛かりすぎては低評価ですが、とりあえずは高評価です )ラフレシア、【エナジーボール】 」

「【メガホーン】で防いで 」

ニドキングは【メガホーン】で【エナジーボール】を破壊し、直撃を避ける。爆発の余波をものともしないニドキングを、追撃の【はなふぶき】が襲う。

「【どくばり】を先端に突破、そして【だいちのちから】 」

「跳びなさい 」

【どくばり】のエネルギーをツノに纏わせ、強引に突破するニドキング。そしてその右拳を地面に叩きつけ、【だいちのちから】を発動。ジャンプすることで躱そうとするラフレシアだが、回避が間に合わずに直撃、吹き飛ばされて倒れる。

「……やっぱり 」

スミレは、その光景を見て理解した。

「へぇ、分かりましたか? 」

「はい。……【メガドレイン】は、ただ傷を治して体力を回復させるだけのもの。技に使うエネルギーや、バトルで削られる気力まで回復させる訳じゃない。つまり、今のラフレシアは、バタフリーとミニリュウとの戦いで消耗しきっている。そういうことですね?」

スミレは尋ね、エリカは頷いた。

「そうです。そしてそれは、人間も同じです。バトルはとても集中力を使うため、体力や気力を多く消耗します。そして体調が悪かったり気持ちが乗らなければ思考が鈍り、思わぬミスを誘発することもあります。スミレさんは今の結論を出すのに、あまりに時間が掛かりすぎています。それはまさに、貴女の思考が知らぬ内に鈍っている証です。だからこそ、優れたトレーナー達はしっかりとコンディションを万全に整えてから重要なバトルに臨みます。リーグ然り、ジム戦然り。貴女はどうですか? 退院直後のジム戦、興奮しているお陰か誤魔化せているようですが、随分と消耗していますよ。旅をするトレーナーとしては、常人であってもあり得ないほどに 」

それを自覚した瞬間、身体中が一気に重くなった。不意打ちとも言えるタイミングで疲労を自覚した結果、スミレは立っていられず、膝をつく。

「……これは 」

「半超人になった弊害ですね。無駄にスタミナがあるから限界の見極めと調整も出来ていないし、本人もしようともしていない。リハビリが終わってすぐにジム戦、なんて馬鹿な真似は本来しないのですよ。何故なら、体力が戻りきっていないからです。トレーナーの不調はポケモンに伝わり、ポケモンの不調はトレーナーに伝わり、勝てる試合も勝てなくなる以上、強いトレーナーほど無茶はしないものですよ。トレーナーが身体を大事にしなければ、ポケモン達は安心して指示に従えませんし、ポケモンが万全でなければ、トレーナーの指示とポケモンの行動が伴わずに連携が崩れます。……万全であることを考えずに挑んだ結果として、貴女はサナダさんのポケモンで貴女も精神的に問題があったとはいえ、レベル上は同格な3体如きに手持ち6体を壊滅寸前まで追い込まれ、今はわたくしのラフレシア1体相手に3体目が引き摺り出されるこのザマです。自身のコンディションも戦術の内、きちんと管理した上でなければ、貴女の好む搦手も満足に使えずに終わります。ひとつ重要なことを申しますと、貴女はわたくしに対策を立てさせるほどに強いですが、手加減された状態でもここまで苦戦するほどに弱いのです。コンディションも整えずに勝てるという無意識な慢心の元で挑んできた無礼者、こんな特殊な形式でも無い限り、本来ならわたくしやサナダさんに勝てる筈がありません 」

「………… 」

スミレは、拳を握りしめて俯く。傲慢、という言葉が胸に突き刺さる。当然スミレは、エリカを見下し、勝てると確信していた訳では無い。だが、勝てると思わなかった訳でも無い。

「覚醒すれば、いつかは世界で戦えるほどのレベルに到達できるでしょう。けれど、現状のままでは『いつか』はずっと『いつか』のままです。その『いつか』を今にする為には、ポケモンだけを大事にしても、自分だけを大事にしても到底足りないのです。貴女、自分の体を蔑ろにしすぎていませんか? 」

「……私は 」

スミレは、何かを言おうと口を開く。その手は、己の首筋を掻くように動いていた。

「気になりますか? かつては自らの手で紐を括ったその首が 」

「……ッ! 」

スミレは、咄嗟に手を離す。

「苦しみの中で首を吊ったこと、……そもそも自殺というものは大変覚悟が必要なものでありますから、それを覚悟する程に追い詰められていたことはお察しします。それに関して、今から余計に蒸し返して責めたりは致しません。ただ、これからの貴女には、ご自身の体はできるだけ大切にして頂きたいのです 」

「そんなの……! 」

無理だ、とスミレは叫ぼうとした。自分の過去に何があったのかを断片的にも知っていれば、無理なことくらい分かって欲しいと、叫ぼうとした。

「今は無理、とでも言いたそうですね。それは確かに事実です 」

エリカは、アッサリとそれを先読みし、スミレの言わんとしたことを肯定した。

「え……? 」

スミレは、思わず困惑の声をあげる。無理だ、と言ったところで、聞く耳を持ってくれると思って居なかったのである。

「常識的に考えて無理でしょう。家庭環境は貴女ご自身の口から聞いておりますが、貴女は己を酷使すること、他人に酷使されることに慣れすぎているのです。さらに、その顔にある火傷痕だって、他人によって貴女の体が蔑ろにされた結果です。体に傷を残す程に残酷な他者評価を叩きつけられた貴女に、現状を直ぐに抜け出せとはいえません。それに、貴女は自分という人間に価値を求めていて、この先の旅路はそんな貴女が自分の人生に意味を見出す旅なのでしょう。そんなことをする人間は、追い詰められると簡単に無茶をするのは知っていますよ。しかしそれを、貴女は数年単位で掛かったとしても、治さなくてはなりません」

当然のように言うエリカに、スミレは呆気に取られた。しかし、エリカの言葉はまだ続く。

「……なぜならば、この社会は貴女1人を特別扱いなどしてくれませんから。いつまでも、貴女を悲劇のヒロインとして、守られるべきお姫様ではいさせてはくれません。ぬるま湯に浸かって甘ったれるだけの人間など、どこかしらで大失敗して社会に見捨てられ、孤独に死んでいくだけです。だから、わたくしはサナダさんというジムリーダーの力を借りて、名ばかりのジム戦を敢行しました。サナダさんとのバトルを通じて貴女は模造品から貴女という1人の人間に産まれ直し、そして貴女自身の足で歩けるようになりました。そしてそれを踏まえたわたくしの役目は、貴女自身がかつて取りこぼしてしまった『大切なモノ』を再び拾わせるキッカケを作ることです。 即ち、貴女がただ己を空っぽのまま探すのではなく、己を労り、同じくらい周りを労わることができる心を…………少しでも自分自身を暖められるような心を、取り戻させる手掛かりを見つけさせること。これが、わたくしの最後に出す課題です」

エリカの言葉で、スミレは幼いスミレとの邂逅を思い出した。彼女によって見せられた幻も、最後にスミレが 幼いスミレを抱きしめたことも、結局は同一人物でも崩壊前と崩壊後の人格、という全く別の人格である以上、『わたしからあなたへ』向けた優しさの心であった。しかし、エリカが言うのは『わたしからわたしへ』という、自己愛護の心である。

「……そんなの、分かりません 」

スミレには、分からない。いつだって苦しい時は、膝を抱えて座り込んで泣いていた。自分の傷を舐めるように、苦しみを隠して痛みを堪えてきた。だが、エリカが求めているのはそういうことではないはずだ、とスミレは確信している。

「だから、貴女はいつも追い詰められるのです。……戦術型としては致命的ですよ、その視野の狭さは 」

厳しい言葉の割に、エリカの表情は穏やかだった。そして、言葉と共に指差した先を見て、気がついた。

「……あぁ、私は 」

 

ニドキングが、堂々と立っていた。攻撃を何度も受け、しかしそれでも肩で息をすることもせず、全く堪えていない様子で立っていた。『信じてる』と言わんばかりにこちらを頑なに振り向かず、だがそれでも心配なのか時折スミレの方をチラチラと見ている。カタカタ、と腰のボールが激しく揺れた。ニドキングが、親指を立ててニヤリと笑う。その背中が醸し出す風格は過去に見た先代王の巨大な姿を想起させた。

「貴女が貴女を大切にすべき理由の2つ目、それは貴女が背負っているのは、貴女自身の人生だけではありません。まず、貴女が何者であるかを再確認なさい 」

エリカの言葉を、スミレは噛み締める。己が今、何であるかを心の中で再確認する。

 

『わたしも、ずっといっしょだよ 』

ふと、幻聴が聞こえた。ずっと己の喉から発していたものと同じ声。

『もうこころはあなたのものだけど、それでもわたしとあなたはいっしょだから。ずっとずっと、いっしょにいるから。いったでしょ?わたしは、ひとりじゃなかったって 』

(そうだ……私は…………)

 

スミレは、ゆっくりと立ち上がると、大きく深呼吸をする。疲労からふらつく足を、しっかりと踏ん張って立つ。その表情は辛そうで、滝のように汗は流れて、だがしっかりと立ち向かうべき相手を見据えていた。

「……私は、スミレ。2人で1人の私で、私と一緒にあの子の魂も背負ってます。そして、何より。…………私は、ポケモントレーナーです 」

 

余計な理屈など、必要なかった。スミレは2つの魂と1つの心を宿した人間であり、だがそれ以上に、彼女は特別でもない、ただ1人のポケモントレーナーであった。




感想、高評価、お気に入り登録等よろしくお願いします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。