ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第84話 決着

 スミレは、額の汗を拭ってラフレシアを観察する。体力、気力、そしてエネルギー。バタフリーやミニリュウが削った甲斐もあり、全ての面で消耗しきっている。

(恐らく、すぐに決着は付く……。でも、削られたラフレシアを相手に速攻で削り切れて居ないのが現状だから、見立てが外れることも予想しないといけないよね。それに、天候も粉も使われていない以上は、相当に手加減されてる。……やっぱり、遠い)

スミレは改めて、エリカとの間にある絶望的なまでの差を痛感する。ジム戦という枷に、更に試験という枷も取り付けてこの状況、スミレは自分の弱さに気付けるだけの賢さがあった。だが、負けられないと戦意を

(そろそろ、ラフレシアも限界ですね……。4つ目の技を解放しましょうか)

両者が決戦への意識を高める中、ピコン、と気の抜けた音が響いた。出所は、スミレのポケモン図鑑。

「…………そっか、ありがとう。ニドキング 」

スミレは、図鑑をチラリと確認して言った。その音は、新技を会得した合図だった。【どくばり】と引き換えに覚えたその技は、ラフレシア相手にはあまり効果はない技だ。しかし、それは先を見据えると有用な技であったし、このバトルでの活用法も思い付く。

 

「……さて、再開しましょうか 」

「はい 」

両者は、短く息を吸う。

(もうラフレシアは後がない……! なら、来るのは速攻!!)

(さあ、最後の切り札です。破ってみなさい!!)

「ラフレシア 」

「ニドキング、迎撃準備 」

 

「【はなびらのまい】!! 」

「【ヘドロウェーブ】 」

花弁の乱舞が、フィールド上を荒れ狂った。【はなふぶき】が可愛く見えるほどの広範囲攻撃が、ニドキングを四方八方から襲う。波濤のような勢いで放たれた【ヘドロウェーブ】が花弁を溶かし、散らせるがそれでは足りない。

「畳み掛けなさい! 」

美しく、激しい花の舞いが、迎撃をものともせずにニドキングを打ちのめす。ニドキングは、両腕を眼前でクロスさせることで、顔を守る体勢に入る。

「顔の防御、一旦置いておいてッ……。迎撃する! 」

「……キィング 」

スミレの判断に、ニドキングは顔を苦痛で歪めながらも重々しく頷いた。防御を捨てれば、これ幸いと花弁が襲いかかる。ニドキングは、絶え間ない攻撃を堪えながら、その腕にエネルギーを装填する。

「【だいちのちから】」

スミレは険しい表情で指示を飛ばすと、ニドキングは拳で地面を殴りつける。地面の亀裂から立ち昇った【だいちのちから】のエネルギーが、花弁の嵐を弾き飛ばす。

「もう一回ッ……!【ヘドロウェーブ】!! 」

スミレは息も絶え絶えになりながら声を響かせ、ニドキングの【ヘドロウェーブ】が残った花弁を打ち払った。後続は無し、これによって【はなびらのまい】はひと段落である。しかし、恐ろしいのはその火力だ。3撃、それが【はなびらのまい】1発を防ぐためにニドキングが使った技の数であった。

 

「……流石です。ですが、じめんタイプにくさタイプは効果抜群、【はなびらのまい】は混乱状態に陥らせますが、少なくともあと一撃分は放てます。もしかしたら、次は耐えられないかもしれませんね? 」

エリカの言う通り、ニドキングは大きなダメージを受けていた。くさタイプとの相性差によって増大された負担と、【はなびらのまい】本来の大火力が併さった結果の消耗であった。

「次の一撃、どうにか凌がないと…… 」

スミレは、必死に逃げの手を探る。【はなびらのまい】の火力を防ぐために3度も技を連発しなければならないのなら、エネルギーをかなり消耗してしまう。防いだ所で、その一撃では混乱にならない可能性はあるため押し負ける以上、ただ防ぐだけではいけなかった。

 

「お行きなさい、【はなびらのまい】 」

【はなびらのまい】が放たれる。この技は、同じ技を何度か連続で撃たなければならず、撃てば最終的に混乱状態になるというデメリットを持つが、それを霞ませるほどの火力を誇る諸刃の剣だ。千、いや万にも届く数の花弁が踊り狂う。

(避けなきゃ……。逃げないとやられる…………。でも、どこに!?)

スミレは内心動揺しつつ、辺りを見回す。窮地を脱するヒントを探しながら目を見回し、ニドキングと視線が交わされる。

「キィング 」

ニドキングは、笑っていた。『任せろ』と言わんばかりの堂々とした態度で、しかし『任せた』と言わんばかりにジッと佇んでいた。

(……大丈夫)

「……ニドキング。あの嵐、突っ切れる? 」

スミレは、自分でも馬鹿げていると思えるような思考と共に言葉を発していた。それに対する返答は、ただ無言の笑みだった。

(ニドキングなら……)

「ニドキング、【メガホーン】 」

ニドキングのツノが、眩い光を帯びた。

「レェェ、シャァァァァァァァァァァ!!!!!! 」

ラフレシアが、気合を込めて叫んだ。空を埋め尽くすほどに展開された【はなびらのまい】はその勢いを更に高めて、ニドキングに迫る。

「突っ込んでッ……! 」

(耐えられる!!!!)

「キィィィィィィィングゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!! 」

ニドキングが全力で大地を蹴り、勢いよく飛び出した。ツノに残ったエネルギーを纏わせ、ただ真っ直ぐに突き抜ける。襲い来る花弁が肌を打ち、急所を叩く。ニドキングは苦痛に顔を歪めるが、その両足を止めることはない。

「グゥゥゥゥゥゥアァァァァァァァァ!!!!!! 」

全身を傷だらけにしながらも【はなびらのまい】を突破したニドキングは、倒れ込むようにラフレシアに突っ込んだ。ラフレシアは、まるで自動車に撥ねられたように吹き飛ばされ、壁に激突するとそのまま力なく崩れ落ちる。

「ラフレシア!? 」

エリカは焦った声を出すが、勝負は決まった。

 

「ラフレシア、戦闘不能! ニドキングの勝ち!! よって勝者、チャレンジャースミレ!!!! 」

審判の声に気が抜けたのか、スミレは思わず座り込む。対するエリカは、自らが敗北したにも拘わらず、とても嬉しそうな笑みを浮かべていた。

◾️◾️◾️◾️

 

 「……おお、終わったか 」

ジム戦も終わり、直接向かったポケモンセンターでポケモンを預けた頃、ちょうどサナダがポケモンセンターに戻ってきた。疲れ切っているのか、眠っているヒマワリを背負って。

「ヒマワリは、どうでしたか? 」

スミレは、つい気になって尋ねる。ヒマワリの全身は砂埃で汚れ、頬には泥が付いている。

「合格だ、儂に勝てなかったから、お情けのバッジだがな 」

そう言うサナダの表情は、負けた相手に負けるには優しい笑みだった。

「あら。貴方がお情けバッジとは、珍しいですね 」

エリカが揶揄うように言うと、サナダはそっぽを向いて鼻を鳴らす。

「良いだろう、別に。この小娘、トレーナーとしての才能はまぁまぁ止まり、今後伸びても大体スーパーランク下位がせいぜいといった所だが、ポケモンはよく育てられている。育て屋の才能はかなりあるな、特にギャラドスにああ懐かれてるトレーナーは貴重だから、育成の方面をより学ぶと、バトルにも良い影響があるだろう。おまけに、力押しに頼りがちな部分こそあれど、4度敗れようともその度に立ち上がって挑んでくる根性と、3体目のストライクをあと少しまで追い詰める程度の戦闘力はある。儂のバッジを渡しても問題はない、そう判断した 」

サナダは、眠るヒマワリをエリカのジムトレーナーに引き渡す。流石に、無防備な少女の体を、老人とはいえ男が預かっているのはサナダ的に気が引けたのである。ヒマワリをセンターの奥へと運ぶジムトレーナーを他所に、サナダとエリカはスミレに向き合った。

「さて、サナダさんもいらっしゃったことですし、やり残したことを済ませてしまいましょうか 」

エリカは、懐から1枚のわざマシンを取り出した。

「……なるほど、それか 」

サナダは、納得したように呟いた。

「【メガドレイン】、わたくしがジム戦を終えたチャレンジャー皆に渡すわざマシンです。たとえ愛弟子とて、渡すわざマシンに贔屓は致しません。上位技である【ギガドレイン】は、己の手で掴みなさい 」

「はい。ありがとうございます 」

そう言って差し出されたわざマシンを、スミレは礼と共に受け取り、バッグに丁寧に仕舞い込んだ。

「続いて……。こんな場所では締まりませんが、こちらがわたくしのジムを突破した証、レインボーバッジになります 」

そう言って渡されたのは、花の形をした虹色のバッジだ。さまざまな色の光沢を放つそのバッジをケースに仕舞い込めば、7つ目のバッジが埋まった。リーグ出場まで、残り1つバッジが必要だ。

「賞金は、明日にでもこちらで振り込んでおきますので、通帳を確認しておいてください 」

「はい 」

そこまで言い終えると、エリカはスミレの頭を唐突に撫で始めた。

「厳しいことも沢山言いました、試験とはいえ、貴女の傷を抉るような真似もしました。しかしそれでも、貴女は最後の最後までやり遂げました。……バッジを差し上げたとはいえ、まだ言っておりませんでしたね。スミレさん、今回の試験は合格です。おめでとう御座います 」

「…………ありがと、ございます 」

大層機嫌が良い様子のエリカに頭を撫でられたスミレは、恥ずかしげにそっぽを向いた。微笑ましげに見ているギャラリーの視線が、痛かった。

「今後はどうする? タケシに馬鹿娘三姉妹、マチス、カジキ、サダコ、儂、そしてエリカと来ている。……次に選ぶなら、セキチクシティのキョウだろうな。ジョウトでは四天王もしているあの男なら、経験を積むにはよかろう 」

見かねたサナダが、助け舟を出した。エリカの手が止まり、スミレは未だ赤い頬を誤魔化すように表情を引き締めた。

「キョウさんは挑戦するつもりです。ジムリーダー視点から見て、挑戦した方が良い人は居ますか? 」

スミレは、2人にそう尋ねた。リーグに挑戦するならば、より経験を積んでからの方が良いと思ったのである。

「正直、お勧めはしません。ジムリーダーの数は世界最多ですが、昨今のロケット団関係で閉まっている所は多いですし……。ジムリーダーになるのは簡単な分、サナダさんのように風来坊やってるジムを持たないジムリーダーも多いですし。開いてる所でも、お勧めできない所はありますからね……カツラさんとか。経験を積むだけなら、キョウさんのピンクバッジを取った後でタマムシジムまで帰って来て下されば、わたくしとジムトレーナーがまた鍛えますし 」

「その時は儂も参加しよう。ユキナのこおりタイプ使用を解禁すれば、ジムリーダーは実質3人になる。いや、グレンタウンからハヤテも呼ぼう。あの小娘はひこうタイプのエキスパート、すぐに来られるだろうし、あのクイズ爺の相手をするより100倍は有益だ。ジム戦と違って、カントー地方以外のポケモンも使えるから、経験には十分だろうな 」

エリカは当然のように、サナダは楽しみを堪えるように答え、スミレは目を見開いた。

「…………いいん、ですか? 」

スミレは、つぶやいた。当たり前のように、自身をまた受け入れてくれると言ったのである。

「勿論。わたくしはこの町で待っていますから、いつでも、帰っておいでなさい 」

エリカは、変わらぬ笑顔でそう言った。




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