ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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赤になったー!と思ってたらオレンジに逆戻りしましたね。頑張ります

12月29日18:00 低評価が増えても原因が分からん。改善しようにもできん


第86話 眠れるカビゴン

 16番道路。タマムシシティからセキチクシティに向かう上で通る必要がある道である。その道の途中で、スミレは他の野良トレーナーと共に、立ち往生を食らっていた。

「……大きい 」

そう呟いてしまうほどに、大きく丸い身体。道の真ん中という、トレーナーや野生ポケモンに襲われやすい場所で堂々と寝ていられる図太さ。そして、愛玩ポケモンとしても人気のある、愛嬌のある顔。その正体は、カビゴンだ。いねむりポケモンの呼び名の通り、凄まじい量の睡眠を必要とするポケモン。巨体相応に食事を取り、不摂生にも見えるほど何もせずに寝て、偶に動いてバトルする。巨体から繰り出される高火力と高耐久が強みのポケモンであるが、いかんせんコストが掛かりすぎ、軽い気持ちで捕まえた結果、一家が借金地獄にまで落ちぶれた例もある。

「……やめとこ 」

スミレは、取り出しかけたモンスターボールを鞄に閉まった。

「おや、スミレさんではありませんか? 」

どうしたものか、と思案していると、ふと声を掛けられた。視線を遣ると、そこには草むらには似つかわしくない高級なスーツに身を包んだ老人がいた。

「スズキさん……。サントアンヌ号以来ですね、お久しぶりです 」

スミレは丁寧に頭を下げると、スズキは苦笑いをした。

「お久しぶりです、スミレさん。楽にしてください……。ここはビジネスの場ではございませんので 」

「恐れ入ります 」

スミレはあくまでも、丁寧に応じる。相手は、ロケット団の妨害を跳ね除けながら、その身ひとつで大企業を創り上げた男だ。母は名家の娘、父は有名な元ポケモントレーナーという非凡な家庭出身のトレーナーであるスミレとは、遥かに地位が違う。

「……前よりも少し、いい目をするようになりましたね。何か、見つけましたか? 」

「今からです 」

「ふふっ…… 」

スズキの質問にスミレは小さく目を見開きつつも応え、スズキは嬉しそうに笑った。

(……気付かれてた? あの時は大分落ち着いてた時な筈なんだけど)

スミレは、自身の状態はそんなにあからさまだったのかと疑問に思う。疑問符を浮かべるスミレに、スズキは笑みを浮かべる。

「スミレさんは、セキチクシティへ行かれる予定ですかな? ジムバッジは、幾つですか? 」

スズキは、あからさまに話題を変えた。

「はい。次が8個目になります」

スミレがバッジケースを見せながら返すと、スズキは目を見開いた。

「ほう! 8個目ですか、それは素晴らしい…… 」

そう言ってケースのバッジを眺めると、サダコから渡されたバッジ、パープルバッジを見て顔を引き攣らせ、サナダのコセンバッジに視線を止める。

「……? 」

スミレは、動きを止めたスズキ

「コセンバッジ……。あのサナダからバッジを貰えるとは、貴女も中々の強者となったようですね。私も所持していますが、散々苦戦した記憶があります。あの【ハサミギロチン】には苦労したものです 」

苦々しい表情で語るサナダに、スミレは頷く。スミレは、サナダのことをそれなりに尊敬している。だが、ジム戦で【ハサミギロチン】を使ってくるのは、未だにどうかと思っていた。

「……そういえば、スズキさんはお仕事ですか? 」

【ハサミギロチン】にやられた記憶を振り払うように、スミレは尋ねた。スズキは、スミレの内心を察してそれに乗っかる。

「私は仕事ですよ、セキチクシティの方で商談があるのですが、カビゴンが道を塞いでおりまして。先方には連絡をして時間を伸ばして頂けたのですが、下手に攻撃して暴れられても困りますし、あまりゆっくりしているのも宜しくない 」

スズキは、悩ましげに言った。カビゴンというポケモンは気性が穏やかなポケモンであるが、食事と睡眠を妨害すると、その限りではないのだ。

「これ、どうしましょう? 」

スミレがカビゴンを指差すと、スズキは横に首を振った。

「つい先程、運転手をタマムシデパートに向かわせました。『ポケモンのふえ』を買ってくるよう、頼んであります 」

「ポケモンのふえ? 」

スミレは、自身の知識にはないアイテムの登場に、首を傾げる。

「ええ、眠った状態のポケモンを、安全に起こす笛です。まぁ、人間で言うところの目覚まし時計のようなものですね 」

「起きるんですか?それ…… 」

スミレは、昔から目覚ましを準備しながらも寝坊してくる幼馴染を思い出し、効果に疑問を呈する。

「起きますよ、ポケモンは人間と比べて警戒心が強いですから。『あと5分……』なんてやってたら、天敵に殺されてしまいますからね 」

「確かに…… 」

スズキの解説に、スミレは素直に感嘆する。『ポケモンのふえ』はポケモンの習性を利用したアイテムなのだ。たかが笛でも侮れない。

「あの、スズキさん…… 」

「何でしょう? 」

スミレは、いい機会だと質問をひとつした。

「私、今ミニリュウを育てていまして…… 」

「ああ。アドバイス、ですかな?私はカイリューを育てておりますから、その関係でしょうね。……ふむ、ドラゴンは基本的に気性が荒い、随分と手を焼いているでしょう。そうですね……取り敢えず増長をさせない環境づくりをなさってください。手持ち内でのポケモンバトルを度々行いミニリュウを倒してダーテングと化しそうな鼻っ柱を叩き折る、だとか。意外と、甘い躾よりも多少は厳しめにした方がよろしい。ただ、抑圧のしすぎは毒となりますので、ご注意を。……そのミニリュウが自身のプライドをズタズタに引き裂かれて己の実力を悲観するのではなく、自身の強さを客観的に見て己の弱さを自覚し、その上でプライドと向上心を維持できるようになることが、ドラゴン育成の最終目標です 」

「……正直、難しいです 」

「でしょうな。人気の割に、ドラゴン使いが少ないのはその難しさ故のことですから。……私のプライベートでの連絡先、渡しておきましょう。人を頼る、というのは難しいかもしれませんが、先輩トレーナーの顔を立てると思えば、少しは頼りやすいかと思います。いつでも、とは言いませんが仕事の合間を縫ってでも、可能な限り応えますのでどうぞご連絡ください 」

「いいんですか? 」

スミレは、あまりに気軽な連絡先交換に内心ギョッとする。目の前の男はポケモンリーグ上位常連、仕事で鍛錬の時間が削がれていなければ、とっくの昔に優勝してチャンピオンリーグに参戦できていた実力者。だが、それ以上に彼はロケット団の財力をもってしても叩き潰せない大企業の創業者にして現トップ、簡単に連絡先を渡していい立場ではない。

「勿論、貴方のことは部下に命じて調べさせて頂きました。その上で、私がいいと言っているのです 」

サラリと恐ろしいことを言っていたが、それはそれとしてスミレは、その素性を把握された上で許可されたのだ。このようなコネは、どれだけあってもいいものである。

「……ありがとうございます 」

恐る恐る、スズキの連絡先をポケモン図鑑に入力する。ポケモン図鑑は特殊なアイテム、ポケモンの技を食らっても破損しない上に、図鑑機能以外もそれなりにある。連絡先の管理やメール機能は、そのひとつ。因みに、音声通話の機能はまだ付いておらず、現在開発中とのことである。

「さて、カビゴンのことですが、スミレさんは捕まえるご予定は? 」

「ありません。食費が凄いことになるので 」

スミレは火の車となる自身の家計を思い浮かべて眉を顰め、スズキは苦笑いを浮かべる。スズキには、カビゴンなら群れ単位で養えるだけの財力を持っているため、スミレの返答は反応に困ったのである。

「では、私が捕まえても宜しいでしょうか? 」

スズキに尋ねられて、スミレは頷く。

「どうぞ……。私はいらないです 」

スミレの言葉に、スズキは笑みを浮かべる。

「ありがとうございます。では、遠慮なく……。笛が届き次第、捕獲を開始しましょうか 」

スミレとスズキは頷きあった。ポケモンのふえが到着すれば、カビゴンを安全に叩き起こすことができる。下手にボールを投げてカビゴンを刺激し、暴れられるよりも確実だ。

 

「おーい、何やってんだ! 」

その言葉が聞こえ、スミレとスズキは振り返る。見ると、野良のトレーナー達が集まっていた。カビゴンは道を塞いでいるので、こうなるのは自明の理であった。事情を説明しようと一歩踏み出したスミレを、スズキは手で制した。

「私に任せてください。こういう面倒ごとを率先して担うのは、大人の役目ですよ 」

軽く頭を撫でられ、スミレは大人しく引き下がる。

「……お願いします 」

「任されました。……さて、みなさん申し訳ありませんが、もう少しお待ちください。現在、カビゴンが眠っており、道を塞いでおります 」

「あの! 私はこれから仕事なのですが!! 」

不安そうなサラリーマンの声が響く。

「俺はポケモン鍛えに来たんだ、カビゴン倒したっていいだろ? 」

トレーナーの言葉に、賛同したトレーナー達が頷く。

(……馬鹿な人たち。カビゴンの特徴も学んでないの?)

スミレは冷たい視線を向けるが、スズキは人の良い笑みを浮かべたままであった。

「お仕事なのは私もです、ご苦労様です。……いえ、それは辞めた方が宜しいかと 」

「えぇっと、なんでですか? 」

スズキの言葉に、新人らしき若い少女が手を挙げて質問する。

「ふむ……。意外と、知らない方もいらっしゃるのですか。カビゴンは、睡眠と食事を邪魔されると大変怒るのですよ。人に慣れていない野生の個体となると、それこそ人を殺しかねないほどに暴れます。なので、安全に起こした後で対処する必要があります 」

「俺ァ、ホウセンって者だ。この辺で番張ってる。それでスズキさんよ、俺ァポケモンリーグで実力を知ってるアンタの指示に逆らう気はねぇ。その上で確認なんだが、アンタはアレを起こせるんだな? 」

そう尋ねたのは、大きなリーゼントを持つ巨漢だ。

「ええ、先程部下をタマムシデパートに向かわせました。ポケモンのふえ、というアイテムで起こし、その後にバトルを行い捕獲します 」

リーゼントの男は、首を傾げる。

「いや待て。多少の気性が違っても、バトルするならあんま変わらねぇんじゃねぇか? 」

ホウセンの疑問に、スズキは『いい質問です』と笑って頷く。

「ただバトルするだけなら兎も角、周囲への二次被害も考えると、できるだけ穏便に済ませたいのですよ 」

「なるほどな。だが、このカビゴンは相当強いぞ。俺もバッジは8個持ってるから、手を貸すぜ? 」

「お願いします。……では、こちらにいらっしゃるスミレさんと3人で前線を張りましょうか 」

「いや待て、このちっこい嬢ちゃんも前に出すってなら、強いのか?」

「ええ、私が保証します。バッジも7個を確認しました 」

「上等だ 」

スズキとのやり取りを終えたホウセンは、スミレの前でかがみ込む。ホウセンの強面が目の前に来て、スミレは内心少し驚く。

「……スミレと言います、よろしくお願いします 」

「おう、俺ァホウセンだ。……こんなナリだから怖がらせちまったな、悪ぃ 」

「いえ 」

表情の薄いスミレにホウセンは眉を顰めるが、その時ホウセンの背後を、1発の攻撃が飛んだ。

「何を!? 」

スズキは動揺を露わにし、攻撃を放ったブースターのトレーナー、サラリーマンの男性に視線を向ける。

「私には、もう時間がないのです……。もしも時間に遅れれば、私はクビになる……カビゴンが寝ていました、なんて言い訳、上司は聞いてくれないのですよ………… 」

怒れるカビゴンの恐怖を知っているのか、震えながらもそう言ったサラリーマンに、3人は絶句する。しかし、そのような暇はない。

 

「ゴォォォォォン 」

背後から感じる威圧感に、スミレは咄嗟に腰のボールに手を掛けた。横目で見れば、スズキとホウセンもボールを手にしている。

「……最悪 」

スミレは、そう呟く。カビゴンが、額に青筋を立てて立っていた。

 

 




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