ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
改善点が見つかれば改善しますが、とにかく今は頑張って書きます
カビゴンが目覚めた。額に青筋を立て、全身に怒りを滾らせてトレーナー達を睨みつけていた。
「うわぁ!!!! 」
「助けてー!! 」
トレーナー達が、あまりの威圧に負けたのか散り散りになって逃げ始める。元凶のサラリーマンは、その場に尻餅を付いて震えていた。
「…………馬鹿な真似を 」
スミレはそう吐き捨てつつも、ボールを構える。自業自得とはいえ、サラリーマンの言動から察するに、追い詰められたことによる暴走だ。同じ経験をしたスミレは、あまり責められる立場ではなかった。
「畜生!! 余計な真似しやがって!!!! 」
「……ホウセン君、今は彼を責めている時ではありません、私達で収めなければ、周囲への被害が大変なことになりますぞ!! 」
ホウセンはサラリーマンに対する怒りで顔を赤くし、スズキはカビゴンを見据えながらもそれを諌める。
「チッ……!しゃあねぇ、やってやろうぜ!! スズキさん、スミレの嬢ちゃん!! 」
「ええ 」
「………… 」
スズキはネクタイを締め直し、スミレは小さくため息を吐いて頷いた。
「頼んだぜ、イワーク!! 」
「お願いします、ニョロボン! 」
「……お願い、ミニリュウ 」
ホウセンはイワーク、スズキはニョロボン、そしてスミレはミニリュウを繰り出す。カビゴンは自身を睨みつける3体のポケモンを見つけると、威嚇するような唸り声を上げる。対する3体も負けじと睨みつけ、空気が鉛のような重さを持ち始めた。
「イワーク、【しめつける】!! 」
初めに動き始めたのはイワークだ。イワークは巨体を唸らせて、カビゴンに巻き付こうと迫る。
「ゴォン!! 」
対するカビゴンは、拳に青白い光を纏わせてイワークを殴りつける。【れいとうパンチ】だ。巨体から放たれた一撃はイワークを軽々と跳ね飛ばす。
「……【ドラゴンテール】」
イワークの巨体に隠れて近づいていたミニリュウがその影から飛び出すと、尻尾を振るい、カビゴンの腹に叩きつける。しかし腹の弾力に押し戻され、技のダメージも振るわない。
「ニョロボン、【ばくれつパンチ】」
その隙をついたニョロボンが背後から迫り、背中に【ばくれつパンチ】を撃ち込む。さすがに効果抜群なかくとう技を受け、カビゴンは思わず表情を歪めた。
「イワーク、【ロックブラスト】!!」
「ミニリュウ、【りゅうのいかり】」
イワークが放った【ロックブラスト】と、ミニリュウの放った【りゅうのいかり】がカビゴンの胸に当たり、カビゴンを一歩後退させた
「ニョロボン、【れいとうパンチ】」
追撃の【れいとうパンチ】をカビゴンは自身の腹で受け止める。
「ゴォン!! 」
カビゴンは拳が沈み込んだ腹に力を込め、ニョロボンを弾き飛ばすと、口にエネルギーを溜め込んだ。
「……不味い、ニョロボン避けなさい! 」
スズキは冷や汗をかくが、一手遅い。
「ゴォォォン!!!! 」
カビゴンの【はかいこうせん】が、ニョロボンを庇うように飛び出したイワークを跳ね飛ばした。イワークは【はかいこうせん】を受けて吹き飛び、木々を薙ぎ倒しながらも倒れ込む。
「イワーク……ナイスガッツだ! 」
まともに高火力砲撃を受けてなお薄目でカビゴンを睨みつけるイワークに、ホウセンは賞賛を浴びせる。
「イワーク、ホウセン君……ありがとうございます 」
「いいってことよ! 」
スズキとホウセンは短く会話すると、カビゴンに向き直った。
「……【ドラゴンテール】」
【はかいこうせん】の反動で動けないカビゴンに肉薄したミニリュウは、その尻尾を足に叩きつける。両足に連続で叩きつけつつ駆け抜けると、ミニリュウに意識が向いたカビゴンの眼前まで跳び上がったニョロボンの【きあいパンチ】が、カビゴンの顔面に叩きつけられた。
(……やりやすい)
スミレは、素直にそう思った。スミレには他者との連携はあまり考えられず、イワークとニョロボンを利用する形でミニリュウを動かしている。だが、ホウセンとスズキは何も言わずに合わせてくれているのだ。即席ながらもうまく噛み合って見えるチームワークは、イワークが壁となり、ニョロボンが矛となり、そしてカビゴンのペースを崩すのがミニリュウの役目となっている。そう自動で役割が決まっているかのように彼らは動いているのだが、それはスズキとホウセンが場を上手く動かしているからだ。トレーナーとしてのレベルの差を感じて恥ずかしさと悔しさが滲むが、それ以上に尊敬の念が湧いてくるのだ。
(……私も変わった)
根本的なところは変わらないけれど、こうした表面は変わっているとスミレはふと思う。トレーナーとして遥か上位の人間を見て、自分もそうあらねばと焦らずにただ尊敬の念とそうありたいという憧憬が湧いてくるのである。甘くなった、と思うこともあるけれど、それが悪い変化だとは言えないのは事実であった。
「危ねぇ!! 」
体に衝撃が走った。
(しまった……!)
スミレは、己の失態を悟った。感慨に耽って警戒を怠り、自身に向けられた攻撃に気付かなかったのだ。ホウセンの腕の中に抱えられ、地面を転がる。すぐ傍に、カビゴンが投げつけた大木が突き刺さった。ホウセンが助けなかったらと思うと、肝が冷える心地がした。
「ぁ……ごめんなさいッ 」
「気にすんなとは言わねぇよ嬢ちゃん! ボーッとしてたら死ぬんだ、悩みも感傷も終わってからにしな!! 行くぞ!!!! 」
「……ッはい! 」
ホウセンに喝を入れられ、スミレは意識を戻す。
「カビゴンは高耐久の鈍足。壁役はイワークが、攻撃はニョロボンが担える。トレーナーとしては私が1番弱いから、陽動に徹するのが上策。ゲンガーはゴースト技だけで有効打は無し……なら 」
ホウセンとスズキにも聞こえるように独り言を呟くと、ボールを構えた。
「ミニリュウ、戻って。お願い、バタフリー 」
ここで出すのは、バタフリーだ。ノーマル技を無効化できるゲンガーはゴースト技しか所持しておらず戦力として機能しない。フシギバナは強いが担える役割を考えると現状の連携を崩す可能性が高い。残るはバタフリーかフーディンだが、どちらでも問題がないのならば怖がりなフーディンよりもバタフリーの方がよいと判断したのだ。
「イワーク、【ずつき】だ! 」
イワークの【ずつき】をカビゴンは両腕で受け止め、力比べになる。イワークは巨体の割にパワーが弱いためカビゴンの怪力を前に劣勢だが、優勢になる必要はない。
「スミレさん! ホウセン君! ニョロボンに【ビルドアップ】を使わせます!! 時間稼ぎ、お願いします!! 」
スズキの言葉で、スミレの脳内で検討されていた戦術候補が一気に絞られた。煩雑だった脳内がクリアになる感覚に、スミレは深呼吸をひとつ。
「やりましょう 」
「最後まで付き合うぜ!! 」
スミレとホウセンの返答にスズキは獰猛な笑みを浮かべた。それは、まさに敵を狙う猛獣の如き眼光であり、リーグで戦えるほどの猛者の目だった。
「イワーク、【がんせきふうじ】!! 」
イワークが【がんせきふうじ】を放ち、カビゴンは自慢の耐久力でそれを耐える。
「バタフリー、いつもの 」
スミレの指示で【しびれごな】と【かぜおこし】を放てば、カビゴンは麻痺の状態異常となった上に鼻に粉が入ったのか、くしゃみを繰り返す。
「ニョロボン、【ビルドアップ】です 」
スズキは、その隙を見逃さずに指示を出した。【ビルドアップ】で自身の攻撃力を上げに掛かる。その分ダメージは稼げず、味方の援護にも入れない。だがしかし、スズキは選んだ。若きトレーナー達を信じる道を。
「バタフリー、【はかいこうせん】」
バタフリーから放たれた橙色の閃光が空間を裂いて放たれた。その一撃はカビゴンの顔面に命中すると、大爆発を起こす。
「なるほど、【はかいこうせん】とは……。しかし反動は…………ほう 」
そう言いかけ、スズキは視界にその光景を収めた。バタフリーは、カビゴンから遥かに離れた位置の空中に留まっていたのだ。
(技の発動直後は余程の使い手でない限りは反動を受けるはず……だというのにあれは? いや待て、空中での姿勢制御ができるならば、体がまともに動かずとも攻撃と離脱の組み合わせを【はかいこうせん】という高火力技で作り出せる、ということですか!)
スズキは面白いものを見たとばかりに感嘆を漏らし、ホウセンはニヤリと笑った。
「鈍重なカビゴンなら、まだ付け焼き刃なこの戦術に慣れるにはいい機会……適応するよ、バタフリー」
「フリィ! 」
バタフリーは元気よく応えると飛び出した。
「押し込め、イワーク! 」
「イワァァァァク!! 」
イワークが全身に力を込める。カビゴンの【れいとうパンチ】を鼻先に受けてのけぞるが、すぐに体勢を整えて【ずつき】を放つ。
「ゴォォォン!! 」
対するカビゴンも力を込める。やはり、力比べでイワークではカビゴン相手に優勢になれない。
「もう一度、【ビルドアップ】」
ニョロボンは勝負を決めるため、力を溜める。
「バタフリー、【はかいこうせん】」
ニョロボンを狙おうと【はかいこうせん】のエネルギーを溜めるカビゴンだが、そのエネルギー塊をバタフリーの【はかいこうせん】で狙撃され暴発、ダメージを受けてよろめいた。反動で飛んだバタフリーは、カビゴンの側面に付ける。
「イワーク、【しめつける】!! 」
イワークが、カビゴンに巻き付いた。
「バタフリー、【はかいこうせん】」
バタフリーの【はかいこうせん】が、カビゴンの体を的確に撃ち抜いた。
「最後です、【ビルドアップ】」
そして、スズキの指示でニョロボンは【ビルドアップ】を行い、最後の積みが完成した。
「ここからが勝負だ……! イワークは動けねぇから、頼むぜ嬢ちゃん! 」
「はい!バタフリー、両足を崩しつつ上昇! 」
バタフリーが弾丸のように突っ込むと、両足の太腿に【サイケこうせん】を撃ち、体勢を崩す。そのまま飛びあがると【はかいこうせん】を首筋に撃ち込み、離脱する。
「気合い入れろ、イワーク! 」
「イワァァク!! 」
イワークは気合いの叫びを上げて全身に力を込めて、カビゴンが抜け出せないように締め上げる。そしてイワークの体の隙間から見えるカビゴンの腹目掛け、ニョロボンは飛び込んだ。
「さあ、決着です! 【ばくれつパンチ】!! 」
ニョロボンの輝く拳が、カビゴンの腹を激しく揺らした。
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「貴方の会社には私の方から連絡しておきました。貴方の危険行為による処分は免れませんが、幸いにも子会社だったので、貴方の上司にも監査が入ります 」
スズキから放たれた宣告に、サラリーマンは膝から崩れ落ちる。己の生活のためにした行為が、逆に己の首を絞めてしまったのだ。それも、致命的なまでに。そのショックは計り知れないが、自業自得だろうとスミレは思う。
「……ホウセンさん、先程はすみませんでした 」
スミレが頭を下げると、ホウセンは荒っぽくスミレの頭を撫でた。
「次はすんなよ、いつだって誰かが助けてやれる訳じゃねぇからな 」
カラリと笑うホウセンは、厳つい見た目と荒い口調に反して優しい男であった。
「ありがとうございました 」
「いいんだよ、無事で良かった。……今度は、バトルしような 」
「はい 」
飢えた猛獣のように笑ったホウセンにスミレは体が震える感覚を覚えたが、それは恐怖ではない。きっと武者震いというやつなのだろうか。湧き上がる高揚感が、スミレの心の芯を燃やしている。
「私も是非バトルしたいですね。スミレさんも、ホウセン君も 」
スズキも合流し、2人に対して好戦的に笑い掛ける。スミレとホウセンも視線を返し、3人の視線がかち合った。
「嬢ちゃん。最後のジム、頑張れよ 」
「ええ……。8個目を取れねば、私達と同じ舞台でバトルできませんから 」
先輩2人の激励に、スミレは相変わらずな薄い表情で、しかし瞳の奥に刃のような鋭い戦意を宿して頷いた。
「必ず、追いつきます 」
まだ見ぬジム戦に、スミレの心は燃え上がっていた。