ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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今年1年間ありがとうございました。来年もよろしくお願いします


睦月江介様が、本作を動画で紹介してくださいました。本当にありがとうございます

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第89話 ラムダ襲来

 その日、18番道路にてスミレはのんびりとポケモン達の訓練を眺めていた。アズマオウやミニリュウはそれぞれ野生のポケモンに喧嘩を売っては野良バトルに勤しみ、他のポケモン達はそれぞれスミレに与えられた課題に取り組んでいる。フシギバナとフーディンは火力の上昇、ゲンガーはゴースト技しか持たない現状の打開に向けた新技の習得訓練、バタフリーは【はかいこうせん】を利用した新戦術の訓練だ。スミレは全体の状況に意識を裂き、それぞれの課題とその解決法を見抜く思考の訓練を行なっている。フィールドでの特訓である以上他人に迷惑はかけられないため、其方へ気を配る必要もあるため、視野を広げる訓練として採用していた。

「フリィ! 」

訓練の最中、バタフリーが何かを叫ぶ。そのすぐ後に、スミレもその気配に気づいた。

「……誰? 」

スミレが草むらに問いかけると、見覚えのある顔が2つ、顔を出した。

「あはは……邪魔するつもりは無かったんですけど」

「すまんのぉ……邪魔するよ 」

草むらを掻き分けて出てきたのは、サヤとフジだった。サヤの足元には、前に見た時よりも元気の良さげなカラカラの姿がある。

「ああ、フジさんにサヤも。お久しぶりです。……トレーナーでもないのに、一体何を 」

スミレの問いにフジは顔を俯かせる。何か、良くないことが起こっているらしい。

「……実は、セキチクシティに向かっている所なんです。どうやらこの頃、ロケット団に本格的に目を付けられたようで。サダコさんの助言を受けて、セキチクジムのキョウさんを頼ろうと 」

サヤは、そう応えた。フジは、顔を俯かせて何も語らない。

「ごめん、訓練中止! ミニリュウとアズマオウはキリのいい所で切り上げて! それで、ロケット団って、どうして今更? 」

スミレは万が一に備え、少しでも消耗を防ぐためにポケモン達に訓練の中止を呼びかける。そして、心当たりを尋ねると、フジは体を震わせる。

「……心当たりは、アレしか 」

「勿体ぶらずに答えてください。私も狙われかねないので 」

スミレの刺すような視線に耐えかねて、フジは口を開く。

「ここでは、話せないのです……。この話が広く知られてしまえば、世界が大変なことになってしまう」

 

「そうだねぇ……ソイツとはいえ、こんな場所で話して貰っちゃ、困るんだがね 」

その声が降ってきて、スミレは目を見開いた。ポケモン達すらも、声を掛けられるその瞬間までその気配に気付けなかった。つまり、やろうと思えばいつでもスミレ達をどうにでも出来た程の実力者だ。

「……バタフリー! 」

その声に反応したバタフリーが【サイケこうせん】を放つが、射線上に割り込んだマタドガスの【ヘドロばくだん】で相殺される。

「おお、怖い怖い。流石の俺もポケモンの技なんて食らっちゃ危ないぜ 」

飄々とした態度を崩さない男を、スミレは睨み付ける。

「何者……? 」

「俺か? 俺の名前はラムダ、お前が散々コケにしたランスと同じ、ロケット団の幹部やってる者さ。……因みに、電波はポケモンの力で遮断してる。愛しのお師匠様に泣きつくこともできないぞ 」

ロケット団の幹部、とラムダは言った。底知れない雰囲気を持つこの男の言葉は胡散臭くて信憑性に欠けるが、それでも幹部という言葉が嘘だとは思えなかった。

「……おひとり様? 」

「ああ、スミレ。お前はボスが直々に会いたいと言ってるし、バトルはしても殺したりポケモン奪ったりはダメなんだと。……それと、フジ博士には釘を刺しておこう、と思ってな 」

「ひぃっ……! 」

ヘラヘラとした態度から一転して向けられた鋭い視線に、フジは頭を抱えて蹲る。サヤもまた、濃密な犯罪者の殺気に当てられて震えている。

「……戦闘準備、ゲンガーはキズぐすり用意お願い 」

スミレは、周囲に立つ己のポケモン達を横目で見つつ呟いた。ゲンガーはスミレのリュックを漁りキズぐすりを取り出し、警戒をするポケモン達に散布する。

「良い度胸だ。ま、野良トレーナーとのバトルと思って楽にすりゃあいいさ 」

ニヤリと笑うラムダは、軽い調子で指を弾いた。すると、傍に浮いていたマタドガスが、スミレの前に立ち塞がる。

(……ロケット団の幹部だけあって、あのマタドガスは相当強い。それに、何を考えてるのか分からないのが怖い)

だが、やるしかなかった。背後には怯えるフジとサヤがいる。そして、サカキに目を付けられたらしい自分は兎も角、フジとサヤの安全は保障されていない。悪党の言葉を信じるなどあってはならないことだが、ボスの名前を態々出す、という部分が引っかかる。事実である可能性は、十分でありえる。ありえてほしくはないことだが。

「フーディンは【テレポート】で2人をエリカさんの元へ送って。マタドガスの相手はフシギバナ…… 」

「リュウ! 」

スミレがフシギバナを指名しようとすると、ミニリュウが口を挟んだ。

「ミニリュウ、お願い 」

ミニリュウのやる気がある瞳を受けて、スミレは決断する。それはやる気を買った訳でもなく、もし負けても後にフシギバナやバタフリーがいるためである。

「リュウ!! 」

だがそれでも、フシギバナを差し置いてミニリュウが選ばれたのは間違いない。ミニリュウは、やる気に満ちた声をあげる。

「ミニリュウ……欲しいな 」

「フジさん、サヤ! フーディンに掴まって!! 」

ラムダの呟きを無視して、スミレは叫んだ。

「はっ、はい! 」

サヤは蹲るフジの腕を掴んで立たせると、フーディンの腕を掴む。

「……フジ博士! 俺たちはお前を見ているぞ!! 忘れるな、お前の罪を、果たすべき責任を!!!! 」

ラムダはフジに向かって叫び、その直後にフーディンは2人を連れて転移した。目指す先は、タマムシシティだ。

 

「……逃して良かったの? 」

スミレは、ミニリュウ以外をボールに戻しながら尋ねる。ラムダの表情は飄々としていて、感情が読めない。

「ああ、今回は奴に危害を加えにきた訳じゃない。奴には、圧力さえ掛けられれば問題はないからな。つまり、任務完了だ。……それに、お前から逃げるのは面倒だしな 」

スミレとラムダの視線が交錯し、戦意が高まる。

「ミニリュウ 」

「マタドガス 」

両者が口を開き、ミニリュウとマタドガスは同時に構える。

「【りゅうのいかり】」

「【ヘドロばくだん】」

両者の遠距離攻撃が空中でぶつかり、爆発を起こす。その爆煙に向かって、両者は指示を待たずに突っ込んだ。

「【ドラゴンテール】」

「【ダブルアタック】」

唸り振るわれる【ドラゴンテール】を、マタドガスは【ダブルアタック】の2連撃により相殺、弾かれた両者は空中を舞って距離を取る。

「【りゅうのいかり】」

「【ヘドロばくだん】」

続いての攻撃も相殺され、爆発する。

(……技の威力はほぼ互角、どちらかといえばこっちが少し押され気味だけど、相殺はできる。ただ、決定打には欠ける)

スミレは腰のモンスターボールを触りながら思考を巡らせる。ひとつボールが地面に落ちるも、スミレは気付いた様子を見せない。

(考えてるね。……さて、サカキ様にはちゃんとコイツの現状での実力を報告しなきゃならない。どうする?)

「ミニリュウ、【たつまき】」

「マタドガス、避けて【たいあたり】」

ミニリュウの放った【たつまき】を空中で躱し、体勢を整えるとミニリュウに突っ込んだ。放たれた【たいあたり】にミニリュウは撥ね飛ばされ、地面を転がる。

「追撃だ! 」

ラムダの指示でマタドガスは突っ込み、【ダブルアタック】を放つ。追撃を受けたミニリュウは木に激突する。

「ミニリュウ、立って 」

「させねぇよ。マタドガス、【ヘドロばくだん】」

「……ッ! 」

マタドガスの放った追撃が、立ち上がったミニリュウを直撃した。ミニリュウは、そのまま倒れる。戦闘不能だ。

「……バタフリー 」

スミレがボールにミニリュウを戻すと、バタフリーのボールを投げる。

「フリッ! 」

バタフリーはスミレを一瞥し、ひとつ頷く。スミレの思考を察しているらしい。バタフリーの強みは、器用さとそれを扱えるだけの戦術眼だ。だからこそ、一般個体よりも火力が劣っている現状であっても、フシギバナに次ぐ戦力としてスミレも採用しているのだ。

「流石バタフリー、話が早いね 」

スミレはバタフリーの察しの良さに僅かな笑みを浮かべる。流石にバタフリーは期待を裏切らないと、スミレは嬉しさを感じる。その様子を見たラムダは、警戒心を一気に高める。

「マタドガス、【ヘドロばくだん】」

不意打ちの一撃を、マタドガスは先制攻撃として放つ。しかしスミレは、その攻撃を呼んでいたのか落ち着き払っていた。

「【はかいこうせん】」

スミレは冷静に指示を飛ばす。バタフリーから放たれた閃光が【ヘドロばくだん】を貫き、マタドガスに命中した。元からバタフリーの能力的に火力が低く、しかも【ヘドロばくだん】によって減衰された【はかいこうせん】はあまり大きなダメージを与えられていない。しかし、マタドガスを大きく吹き飛ばして自身も反動で離脱したバタフリーの攻撃は、反動の行動不能から抜け出す時間を与えた。

「いやぁ……参ったな。こいつぁ強い 」

ラムダは、困ったように呟いた。将来有望とはいえ新人だからと、舐めすぎていたとラムダは反省する。だが、その表情には未だ余裕が見え、それがスミレの警戒心を煽る。

(突破口はある。真っ向勝負でも、目の前のバトルは勝ち目がちゃんとある。なのに、何処か怖い。バトルに勝てても、勝負に負けてしまいそうな気がする。……どうしよう)

冷や汗を拭って、ラムダを見遣る。ポケモンのレベルは近くとも、トレーナーのレベルは向こうが上だとスミレは分析する。

「それでも……勝つよ 」

相手は巨大組織、ロケット団の幹部だ。その1人を捕まえたとあれば、ロケット団の捜査も一気に進むだろう。スミレにとって、それは望むところであった。

 スミレは知っている。リーグの身内に内通者を多数抱え、疲弊しているワタルの姿を。交流のある町の人を疑わねばならず、悲しげな想いを必死で堪える師匠の姿を。

「マタドガス、【ダブルアタック】」

「バタフリー、【かぜおこし】」

マタドガスの突進を、バタフリーが起こした暴風が阻む。

「ドガァァァ 」

「フリィィィ 」

空中で踏ん張り、風を受けるマタドガス。必死の形相で風に抗い、ジリジリとバタフリーへの距離を詰める。

「……バタフリー、【シャドーボール】」

「なっ!? 」

スミレの指示にラムダは驚愕の声をあげるが、その瞬間にはマタドガスの影が揺らめいた。

「ゲェェェン!! 」

飛び出したゲンガーが、【シャドーボール】を放つ。予想外の不意打ちをまともに受け、マタドガスはよろめく。そして既に受けていた【かぜおこし】に耐えられず、墜落した。

 

「そこまでです! 」

このタイミングで、エリカが登場した。傍には、ユキナとスミレのフーディンも控えている。

「えぇっと……大人しくして欲しいかなって。わたしのユキノオーさん、とっても強いので…… 」

ロケット団幹部という大物相手に腰が引けたのか、怯えた様子で声を掛ける。しかし、その背後に立つユキノオーが、凄まじい威圧感をラムダに向けている。

 

「……なるほど、絶賛ピンチってことか 」

ラムダの笑みが、ここに来て引き攣った。




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