ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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北陸の地震に遭われた方に、心よりお見舞い申し上げます。被害に遭われた方が、出来るだけ小さな被害で済むことを祈願致します

明けましておめでとうございますと明るく言い難い空気になってしまったことが大変悔やまれますが、今年もどうぞよろしくお願いします。
本作は基本的に暗い話ではありますが、この作品を読むことが誰かの日常の一幕であるのなら、私は力の限り書き続けて参りますので、よろしくお願いします。

【じしん】とか【なみのり】とかどうしよう……

1月2日22:32 1話分の枠を使っての今後の方針に関する内容を消去しました


第90話 フジの過去

 はらり、はらりと雪が降り始める。その中で、スミレを庇うように立つエリカとその横でユキノオーの影に隠れるユキナが、ラムダと対峙した。エリカとユキナの到着に、ラムダはその笑みを引き攣らせる。

「参ったな、こりゃあ 」

そうぼやきながら頭を掻くラムダを、エリカは油断なく睨みつける。

「……エリカさん 」

思わず漏れたスミレの呟きに、エリカは無言の微笑みで応える。状況が状況だが、それでもスミレが自身を頼ってくれたことは嬉しかったのである。

「スミレさん、フジさんとサヤさんはこちらで保護しています。貴女の機転があったお陰です 」

そう笑って、スミレの頭を軽く撫でる。

「見逃してもらうことって、できたりする? 」

「本気で出来ると思っているなら、そんな顔はしないでしょうに 」

ラムダが軽薄な笑みを浮かべて尋ね、エリカはそれをバッサリと切り捨てる。

「でしょうねっ! でも、このくらい想定して来てるんだよ……。カイリキー!! 」

ラムダがボールを投げると、カイリキーを呼び出した。

「カイリキー、ですか。……ユキナ 」

エリカは飛び出したカイリキーを見ると、ユキナに声をかける。

「わ、わたしですか!? 」

「貴女のユキノオーなら、十分倒せるでしょう 」

エリカの視線を受け、ユキナは不安げにユキノオーを見上げる。

「ノォォォ 」

ユキノオーは、ユキナの様子に呆れたような表情を向けている。

「どっちでも、俺は倒すだけだよ。カイリキー、【ばくれつパンチ】」

そのやり取りに痺れを切らしたラムダが指示を飛ばし、カイリキーは動き出した。

「リッキィィィィ!!!! 」

「あわわっ……! 【ウッドハンマー】です!! 」

カイリキーの繰り出した【ばくれつパンチ】を、ユキノオーの【ウッドハンマー】が迎え撃つ。両者の技が激突し、衝撃波が撒き散らされる。

「ノォォォォォォォォォ!!!! 」

 

「……えぇ? 」

スミレは、困惑の声を漏らした。両者が同時に技を放ち、ぶつかり合った結果は、ユキノオーの勝利であった。しかも、強力なかくとうポケモンであるカイリキーを、一方的に吹き飛ばし、大木に叩きつけたのである。しかも、拮抗は僅かな間。

「【ふぶき】をお願いします! 」

カイリキーが苦痛に表情を歪めながらも立ちあがろうとするが、その寸前に、ユキノオーは【ふぶき】を放つ。強烈な吹雪がカイリキーに叩きつけられ、カイリキーは体を凍り付かせる。状態異常、こおり。カイリキーを、たった2撃で無力化したのだ。

「オイオイ……確かにスミレの実力把握の為に連れて来たあんま強くないやつだけどさぁ。厄介な奴を連れてきてくれたもんだよ 」

ラムダは、困り顔で頰を掻く。

「……大人しく捕まりなさい。今回は、わたくしも全力の手持ちを連れて来ております。スミレさん基準で揃えた手持ちでは、勝ち目など存在しないものと思いなさい 」

毅然とした態度のエリカに、追い詰められたはずのラムダは怪しげな笑みを浮かべる。

「いやいや、ユキノオーの強さは想定外だったけど、ジムリーダーのいる町も近いのに、なんの対策もしない訳がないだろ 」

そう言って、ラムダはひとつの小さな機械を取り出す。

「……それは 」

エリカはその正体を知っていた。だからこそ、顔を顰めた。

「エリカさん? 」

スミレはその装置の正体が分からないのか、首を傾げる。

「えっと……あれは、小型の通信機なんです 」

ユキナが横から囁き、スミレは納得したように頷いた。

「タマムシシティで内通者狩りをやったお前なら知ってるだろうが、これは通信機だ。これで合図するか、これが故障するか、はたまた俺が捕まるか……。ま、とにかくこの場で俺を逃がさなければ、俺以外の幹部が下っ端の寄せ集めとはいえ、大部隊を率いてシオンタウンに傾れ込む手筈になってる。サダコがジムを解体し、ジムトレーナーもジム用ポケモンも多くが町を離れたシオンタウンにロケット団を迎え撃つ戦力はない。なぁ、エリカさんよ……あのサダコが、滅ぶしかない町を死ぬ気で守ろうとすると、本気で思ってるのか? 」

「……貴方の言葉が、信用できると? 」

エリカは険しい表情で尋ねる。サダコに関しては、不本意ながらもエリカは信用できなかった。サダコといえば一昔前は泣く子も黙る外道の魔女だ。丸くなったという最近をエリカは知らないし、知っているのは魔術の道の為ならば人間の命など塵ほどでしかない、エリカにとってはどうしても分かり合えない人間でしかない。そしてエリカの知るサダコは、定まった運命には身を任せて流される人間であり、シオンタウンが大規模な侵攻を受けると知った時に、必死に戦うとは思えなかったのである。エリカの抱く不信感を察してか、ラムダは余裕の笑みを浮かべる。

「思ってないが、お前も分かってるだろ?この言葉が嘘か真実かを試すには、やってみないと分からない。それでもしも真実なら、シオンタウンに大きな被害が出る。つまりは、お前はこの場で俺の言葉を信じて逃すしかない 」

ラムダは、そう言って笑った。エリカは、険しい表情でユキナとスミレに視線を向ける。スミレは迷いを見せており、ユキナの表情からは意思が固まっているように見える。ユキナの性格を考えれば、見逃す一択であろうし、相談せずともエリカの出せる答えは1つだった。

「……いいでしょう 」

「取引、成立だ 」

 

『退却だ 』

ラムダは通信機に向かって一言呟くと、カイリキーとマタドガスをボールに戻し、ケーシィを呼び出す。そして【テレポート】を発動させ、ラムダは何処かへと消えていった。こうして、ラムダは実力者3人を前にしながらも、悠々と去っていった。

 

◾️◾️◾️◾️

 場所は変わってタマムシジム、エリカとスミレとユキナは、フジを囲んでいた。

「さて。サヤさんはジムトレーナーに任せました。シオンタウンには、サナダさんを中心に5人の暇を持て余していたジムリーダーを向かわせています。リーグも連絡済み、すぐに捜査が本格的に始まるでしょう。……フジさん、そろそろ、全てを話して貰いましょうか 」

エリカは、鋭い視線をフジに向ける。刺すような視線にフジは俯く。ユキナは重苦しい空気に無言で慌て、スミレは黙ってジムトレーナーが用意したお茶を飲む。

「儂は…… 」

フジは、震えながら一言呟くと、再び黙り込む。

「フジさん。シオンタウン付近で、ロケット団員の集団が目撃されました。恐らくアピールでしょうが、ラムダの発言が真実であるという証明です。……貴方という存在には、団員を多数動員し、幹部を動かすだけの価値があるとわたくしは踏みました。少なくとも、有事の際に最前線で戦わねばならないわたくしと戦線に加えられるであろうユキナさん、そして当事者であり、今後も巻き込まれる可能性があるスミレさんは、最低限知る権利があるとわたくしは判断しました 」

「フジさん。……もしかして、ポケモンタワーでの件ですか? 」

フジの説得にかかるエリカに対し、スミレはフジへ助け舟を出す。しかしその視線は、『早く話せ』とばかりに冷たい。

「さ、流石に話して欲しいかなぁって 」

ユキナが遠慮がちに手を挙げ、フジへと声を掛ける。ユキナは緊張を隠せない様子だが、それでもやるべきこと、知るべきことは分かっていた。

「…………分かりました 」

フジは、項垂れたまま呟く。

「では 」

エリカが、続きを促した。

「話しましょう……全てを 」

 

◾️◾️◾️◾️

 

 「儂は、ロケット団で研究員をしておりました。……それも、博士と呼ばれるほどに重要なポジションで。ロケット団の野望は、現行の社会から弾かれた自分達が、生きやすいように社会を変えること。それこそが、ロケット団の掲げる最大の理想、世界征服です。その為には、力が必要でした。敵を屈服させるだけの、強い力が。ある時はポケモントレーナーを、またある時は野生の群れを襲い、ポケモンを兵器として集めました。それと同時に団員達は社会に溶け込み、それはもう多くの人を勧誘し、兵士としました。……戦時中に国家規模で行われた徴兵と似たようなことを、裏社会でやってのけたのです。そして儂もまた、交通事故で死んだ実の娘を蘇らせる、という我ながらおかしな研究を行うために、ロケット団の博士となったのです 」

フジがまず語ったのは、自信が入った経緯とロケット団の根本的思想だった。生き辛い社会を変える、それは切実な願いだろう。スミレも、その理想を掲げること自体を間違っているとは思えなかった。そして、ロケット団の博士となるきっかけも、娘を思う気持ちが故のもの。いっそ、絶対的な悪だったらやりやすいのに、とスミレは思う。

「あ、あの……。つまり、国がやることを出来るくらい、ロケット団は力があるってことですか? 」

ユキナが恐る恐る尋ねると、フジは首を縦に振った。

「ええ……。ここ数年で、70年前に起きた " トキワ草原の戦い " で失った全盛期の勢力に匹敵するほどの力を手に入れておるようで 」

フジの発したとある単語に、スミレは首を傾げる。

「トキワ草原の戦い? 」

スミレは、かなりの勉強家である。歴史も当然、教科書だけでなく様々な本を読んで知識を身につけているが、知らない言葉だったのである。エリカは、悲しげな表情を浮かべてその疑問への答えを発した。

「トキワシティ近くの草原で、当時のロケット団と、それに抵抗する若いトレーナーを中心としたレジスタンスと警察による連合軍が激突した事件です。その戦いの激しさは活動家の抗争に留まらず、もはや戦争の領域であったとか。その結果、ロケット団は半壊し王手を掛けていた世界征服から一時的とはいえ完全な撤退を余儀なくされました。しかし、レジスタンスも崩壊し解散、両者は多くの死傷者を出しながらも引き分けという形に終わりました。……サナダさんが仲間を喪ったのも、この戦争です 」

「そう、ですか……。すみません、話を遮って 」

スミレは、唇を噛んで俯いた。知らなかったとはいえ大切な話を邪魔してしまったスミレは、これ以上何の言葉も発せなかった。

「そう、その戦いで喪ったのは、多くのポケモンに団員、そして幹部もやられたのです。……しかし、奴らは多くのスカウトによって勢力を取り戻した。ラムダという男は面識はありませんが、恐らくスカウトされて来たのでしょう。……儂はそのスカウトされた人間の中の1人として、ポケモンの遺伝子を使った新型兵器の開発に携わっておりました」

「超人化のようなものですか? 」

エリカは推測を述べるが、フジは力無く首を横に振る。

「超人化、ですか……。そんな可愛い実験ならば、まだ良かったでしょうね。あれは医療行為としても認められる、生物兵器としてはまだまだ可愛い領域の外法です 」

「では、一体何を…… 」

「……ミュウツー 」

スミレが呟く。ポケモンタワーで聞いた名前だった。

「スミレさんは、儂をポケモンタワーから助けてくれた時に聞いたんじゃったな……。そう、それです。幻のポケモンにして、世界に1個体しか存在しないとも言われるポケモン、ミュウ。儂はボスの命令のままに偶然ゲットしたその睫毛の遺伝子を解析し、培養し、ゼロから新たなポケモンを創り出したのです。世界をも滅ぼす力を持った、紛れもなく最強のポケモンを 」

「創り出した……つまり、完成したってことですか!? 」

ユキナが悲鳴にも似た声をあげた。

「そのとおり……出来てしまったのです。そしてそれは当然、儂らの手には負えなかった。アイツーという愛娘のクローンが死んだことを契機に怒りから暴走し、多くの研究者を殺しました。儂は周りのことを気にする暇もなく命からがら逃げ出し、その先でサダコさんに匿われて今に至ります。…………儂を連れ戻すということは、もしかしたらミュウツーに関係する何かかもしれません。例えば、もう1体作れ、だとか 」

フジはそう言って口を閉じた。重い沈黙が、3人にのし掛かった。




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