ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第91話 エリカの対策

 エリカ、ユキナ、スミレの3人が聞いたフジの話は、相当に重苦しいものであった。そして、ミュウツーが既に完成しているという恐ろしい情報付きで、全くハッピーではないセットにスミレは思わず頭を抱えた。

「……兎に角、早く対策を立てましょう。取り敢えずリーグに追加の連絡をして、最低でもワタルさんは動かしましょう。フジさんとサヤさんはシオンタウンに戻します。サナダさんを始めとする複数のジムリーダーという実力者が派遣されている以上、現状では特に安全です。ユキナさんは、サナダさんらと合流してフジさんやサヤさんといった方々の護衛を手伝いなさい 」

「はい 」

エリカの指示に、ユキナは珍しくもはっきりと了承の意を示した。その目に恐怖はあるけれど、使命の為にとグッと堪えているのが、エリカの目には分かった。

「ユキノオー、それにユキナさんの他のポケモン達も。ユキナさんを、頼みます 」

エリカの言葉に、ユキナの腰に取り付けられたボールが回るように動いて応えた。

「私は何を…… 」

スミレが控えめに尋ねると、エリカは一瞬思案し、しかしひとつ頷くとスミレと向かい合う。

「わたくしがこれから、キョウさんに連絡を取ります。対ロケット団での協力を申し込みますが、それはそれとして貴女は当初の予定通り、8個目のバッジを取りなさい。その後は、貴女のやりたいようにやっても構いません。9個目以降を取るのも良いですし、バッジは狙わずにカントーを巡るのも良いでしょう。貴女はロケット団を警戒しつつも、自分がやりたいようにやりなさい。それが、今の貴女が為すべきことです」

エリカの指示に、スミレは眉を顰めた。まるで除け者のような扱いだったからだ。

「……でも 」

不満を露わにするスミレのその頭に、エリカは軽く手刀を入れる。痛みはなく、ただ小突く程度のそれに、スミレは困惑を露わにした。

「馬鹿にしないでくださいな。わたくし達は、一般人である貴女に頼らねば何も出来ない訳ではありませんし、シルフカンパニーの時のように突入を急ぐような状況でもありません 」

少し怒った様子のエリカの言葉に、スミレは己が何かを間違えたことに気が付いた。

「大丈夫、なんですか? 」

「さぁ?どうでしょう。……しかし、現状のわたくし達で駄目ならば貴女にはまだまだ早すぎる領域です。……厳しい言い方になりますが、戦力を集める時間があるというのに、ジムリーダーの手加減に手間取る程度の貴女が出来ることはまだ無く、居たところで雑魚処理要員の数合わせにしかなりません。頼るべき時、頼らなければならない状況が来れば躊躇わずに貴女を頼りますが、それは今ではないのです。ならば、今の貴女にはできることをさせて、少しでも自衛手段を強化することが先決です 」

「……う 」

スミレは、エリカの厳しい言葉に目線を下げる。ジムリーダーの本気と比べると圧倒的に弱いのは当たり前のことであるが、それでも突きつけられると嫌になる。

「いつか、貴女に頼る時は来るかも知れません。心配して下さるのは嬉しいですが、いつかの未来に備えて、今は堪えて下さいな 」

エリカが、今度は優しく頭を撫でる。ホッとするような温かさに、スミレはため息を吐く。

「す、スミレちゃん……。大丈夫、かは分からないですけど、わたしも頑張りますから! だから、ちょっとだけわたし達を信じてほしいなーって、思いますぅ…… 」

懸命に言うユキナに、スミレは重々しく頷いた。

「…………分かりました。お願いします 」

「ええ、お任せください 」

エリカは、スミレの苦渋の決断に笑顔で頷き、内心で気合いを入れる。

だが、この場の誰も知らない。この世界の法則が、スミレを逃しはしないということを。

 

◾️◾️◾️◾️

 ラムダは、軽薄な笑みを浮かべながらも目の前に座る男、サカキと対峙していた。今回請け負った、フジへの警告とスミレの実力把握任務の報告だった。

「……なるほど、フジは一押ししてやれば簡単に連れ戻せるな。では、スミレの実力について答えてもらおうか 」

サカキの値踏みするような視線に応えるべく、ラムダは口を開いた。

「まず、強さについてですが……。将来性はかなりありますが、現状はちょっと厄介なだけの雑魚です。下っ端では勝てませんが、幹部なら簡単に潰せます。ランスが負けた、というのは事実ですが、アレはランスの慢心と弱いポケモンを使ったことが原因で間違いありません 」

「では、私が会いに行く価値はないと? 」

「それは、私には判断しかねます。奴の将来性は本物ですが、今はまだひよっこです。余程の起爆剤があれば一気にその将来性が顔を出し、奴は化けるでしょうが、所詮は起爆前、たかが知れています。つまり、現状のみで判断するならば、サカキ様が出るまでもありません。しかし、将来性を鑑みて判断するならば、今のうちに会っておくのも良いかと思われます。ただ…… 」

ラムダは、何かを言いかけて、そのまま口を閉じる。

「何だ?……言ってみろ、判断の参考にしたい 」

サカキは、必要以上に威圧しないよう気を遣いながら続きを促した。現場で実際に遭遇した人間の意見は、貴重なものだとサカキは認識していた。

「奴は、ロケット団には向きません。勧誘するならば、止めておいたほうがよろしいかと思われます 」

「ほう? 」

思わぬ方向での報告に、サカキは目を見開いた。サカキはスミレの過去を知っており、その方向から揺さぶりをかけて味方に引き込むことを選択肢のひとつとして用意していた。

「奴はゲンガーを使い、1体1の状況からこちらに奇襲をかける形で勝利しました。……しかし、奴はその時マタドガスを狙い、すぐ側にいた私を狙いませんでした 」

「なるほど……興味深い情報だな。つまりお前が言いたいのは、スミレには人を傷つけるだけの覚悟がないと? 」

サカキは、そう言って笑った。

「はい。奴の性根は、境遇によって捻くれた、冷徹な部分がかなり目立ちますが、その本質は善性に似た臆病であると判断しました。そもそも、あのような境遇を持ちながらも我々の世界に飛び込んで来ないことからも疑えることではありますが、私の見る限りでの奴は罪を重ねる度胸もない小心者であり、ロケット団の活動においては成長性を発揮できず、そのままゴミとなるだけでしょう。それを抜きにしても、奴の事前調査から判明したことですが、奴はたびたびトラウマに遭遇しては、心を乱しているとか。トラウマに足を引っ張られて簡単に心を乱し、そして崩れるような脆く粗悪な精神を引き摺るような人間を迎えた所で、一体どこまで持つのやら……。そのため、奴をスカウトしたところで罪悪感から勝手に精神を病み、ひとりでに壊れていくことは予想に難くないことです。なので、差し出がましいことではありますが、奴はスカウトではなく、始末することを上進致します。……これで、私からの報告は以上になります 」

ラムダは、そう言って頭を下げる。サカキはその後頭部をジッと見ながら、その優れた頭脳を回転させる。

「……なるほど、参考になる意見だ。頭の隅には置いておこう。だが、私は奴を直にこの目で確かめる 」

「はっ 」

サカキの言葉に、ラムダは跪いた。サカキが、ラムダのことを信用していない訳ではない。ラムダは現幹部随一の策略家、変装による潜入を得意とする。警察や仲間からは変装の腕は一級品で潜入を得意としながらも演技が下手くそ、と認識されている。しかしそれは全部の90パーセントにおいてそのようにしているだけで、本命においてはそもそも脱出も含めて悟られない。その真相を知るのはサカキだけという、味方もろとも敵を欺く天才、それがラムダだ。ラムダは任務の特性上人間観察をすることが多いため、ラムダの人物評はサカキにとってスミレを判断する上での重要な判断材料となりうる。だから、ロケット団にはまるで向かない小心者だというラムダが下した評価は、あながち間違っていないのかもしれない。だがサカキは、ラムダを高く買っているとはいえ、自身の目で見ようと思ったものを臣下に託すような人間ではなかった。先程の評価は、あくまでラムダという一個人によるものであって、スミレの人間性というテストの模範解答ではないのだ。つまり、ラムダにはラムダの、ランスにはランスのスミレ評があり、サカキはまだ自身の目で見たスミレ評を持っていなかった。

(ラムダが認めるほどの将来性を持つ臆病者か……面白い)

サカキが手元の書類を見ると、そこには無表情で映ったスミレの顔写真が貼り付けられていた。

(凍てついたその仮面の裏の素顔、是非とも見たくなった)

ラムダすらも圧倒されるほどの悪意を全身に滾らせて、サカキは静かに笑みを浮かべた。

 

◾️◾️◾️◾️

 

 サヤとフジを乗せた自動車のエンジンが唸りを上げる。運転するのは、カントー地方でジムリーダーをしつつ自動車の販売店をしているという作業着に身を包みサングラスを掛けた中年の男、名前はランボー。脇を固めるのは、ウインディに跨ったそのジムトレーナー達。その警護の元で、彼らはシオンタウンまで帰るのだという。現在のシオンタウンでは、サナダをリーダーとするジムリーダー4人とサダコ、そして無数のジムトレーナーが警護に当たっている。

「態々来て頂いてありがとうございます、ランボーさん 」

エリカが丁寧に頭を下げるが、ランボーはそれを笑い飛ばす。

「気にするな。俺はどうせ車を弄るかバトルしてるかくらいしかしていないからな 」

「フジさんとサヤさんの護衛、宜しく頼みます 」

「任せておけ。俺はジムリーダー、手持ちも手加減無しの全力を持ち込んでる。そこらの雑魚には負けん

車窓から顔を出し、堂々と言い切る。

「では、頼みます 」

「おう 」

エリカとランボーは、目を合わせて頷き合う。ランボーのサングラスがキラリと輝いた。

「スミレさん! 」

サヤが叫んだ。スミレが内心少し驚きながらサヤに視線を向けると、笑顔で手を振るサヤの姿を視界に収める。

「何? 」

「助けてくれて、ありがとうございました!! 」

「……ううん、私は何も。結局、エリカさんとユキナさんに助けられたから 」

スミレは自身のお陰ではないと首を横に振る。

「スミレさんにとってはそうかも知れないけどっ!それでもわたしにとってはスミレさんも助けてくれた人の1人です!!だから、ありがとうございました!!!! 」

「う、うん…… 」

サヤの勢いに呑まれるように、スミレは頷いていた。

「スミレさん、お礼は素直に受け取っておくものですよ。……何にせよ、貴女の判断によってサヤさんとフジさんは安全圏に逃げることができ、わたくし達の救援が間に合ったのですから。貴女が躊躇いなく人を頼る選択が出来たことも含めて、貴女の成長が齎した貴女の功績です。誇るのは難しくとも、今はその事実を受け止めておくべきです 」

背後に立ったエリカが、そう言って笑い掛ける。スミレは、小さく頷いた。

「分かりました……。私、ちゃんと出来てたんですね 」

「勿論です 」

エリカの肯定に、スミレはほっと息を吐く。

「そっか……そっかぁ 」

「怖かったでしょう。孤立無援の状況で、ロケット団の幹部と真っ向から対峙したのですから……。本当に、よく頑張りました 」

「はい……ありがとうございます 」

スミレは、弱々しく呟いた。怖くない訳がなかった。巨大な犯罪組織の幹部という肩書きは、それだけでスミレに恐怖を与えていた。それでも、きっと勝てる、きっと救援は来ると自分に言い聞かせ、そう思い込んで戦った。

(……守れた)

自分という命があったからこそ守れた笑顔。それを見て、スミレの胸が少しだけ熱くなった。

 

 




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