ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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需要と趣味の両立を考えて書いてる身としては、低評価がこうも多いのはなんとかしたいんですよね……


第92話 サファリゾーン

 セキチクシティ。ピンク色に彩られた屋根の家を持つ、若者にも人気なオシャレさを持つ町だ。しかし一方でジョウト地方では四天王をしているキョウがジムリーダーとして君臨し、野生ポケモンとその身ひとつで対峙するサファリゾーンがこの町に所在するなど、華やかな見た目に似合わぬ厳しさを持つ町であった。

「…………えぇと 」

スミレは、17番道路側にあるセキチクシティの入り口で、町のマップを確認していた。タウンマップは持っているが、態々取り出すよりも早いと判断したのである。

(まず行くのはサファリゾーン。その後でゲットしたポケモンを少し鍛えて、それからセキチクジムに行こう)

スミレは、そう思案する。サファリゾーンとは、渡されたボール30個だけで野生ポケモンを最大30匹捕まえられるという、半超人のスミレには難易度の高すぎるルールが敷かれた場所だが、その本質は野生ポケモンの保護区。つまり目的は種の保存と繁殖であってトレーナーの戦力増強ではなく、サファリゾーンの運営とて元より、大量に捕まえさせる気はあまり無いのである。

「あった 」

サファリゾーンは、町の外れにあった。かなり広く場所を取るため当然のことながら、長距離の移動が必要となる。スミレは、サファリゾーンには手数の増強を目的として向かっていた。

『複数のタイプをマルチに使い分けるタイプのトレーナーというのは、相手にどのポケモンを出すかを読み辛くする、つまり多くのポケモンを捕まえて戦力として保持しておくことも大事になります。例えば今のスミレさんだと、最初は大体バタフリーで無難に結果を出そうとしているため、対策は立てやすいですが、先発候補が複数いるだけで相手を迷わせられますし、スミレさん側も組み合わせによって使える手札を増やすことができます』

とはエリカの言葉であるが、スミレはその指導に納得した。バタフリーは大抵何かしらの結果を残してくれるが、先鋒でバタフリーばかりを出していては、バタフリー対策を的確に行われて仕舞えば崩されかねないからだ。スミレは現状のパーティー編成では今後不利になると判断し、こうしてサファリゾーンのポケモンを捕まえに向かっているのである。

「……にしても、随分と洒落た町よね 」

スミレは、げんなりと呟く。スミレは、ピンク系統の色は苦手であった。スミレの趣味で言えばジョウト風の伝統的な木造建築が好みであった。古臭い木造建築なら、尚好みである。そのため若者が好む派手で華やかなピンク色をしたセキチクシティの建物の屋根は、色の趣味が渋いスミレにとっては目に五月蝿いものであった。

「あっ……!すみません!! 」

スミレは、目の前で乗客を降ろし終わったばかりのタクシーに声を掛ける。

「はいはい、お嬢さんどちらへ?サファリゾーンか、セキチクジムか、お嬢さんのような格好をした人はみんなどちらかを選ぶんだが 」

運転手は、スミレの腰にあるボールへ一度視線を送ると言った。運転手の視線に合わせて、スミレも自身のボールを横目で見る。いつも通り、ポケモン達が入っていて丁寧に手入れがなされたモンスターボールがベルトに取り付けられている。

(……ま、あからさまにポケモントレーナーって格好だもんね)

「サファリゾーンでお願いします。戦力を増やしたいので 」

「あいよ、乗ってください 」

運転手に促され、スミレは後ろの席へと座る。旅で初めて使うタクシーの座席は、大層柔らかかった。

 タクシーが走り出すと、運転手は口を開いた。

「トレーナーさん、バッジは幾つお持ちで? 」

「7個です 」

「そら凄い。初めて何年目になりますか? 」

「……1年目です。まだ10歳なので 」

スミレの回答に、運転手は目を丸くする。

「1年目!? そりゃあ凄い……! 」

運転手が驚くのも無理はない。ジムリーダーは強力で、たとえチャレンジャーの力量を試す役割であっても、簡単には勝たせてはくれない。だからこそ、ジム戦に挑むトレーナーの多くは年単位で時間を掛けてポケモンを鍛えつつ、ジムを巡る。ジムバッジ8個以上というポケモンリーグの規則は、1年で4つずつ取り、早ければ2年目には参加できるように設定されている。にも拘わらず1年で7個を集め、あとひとつまで迫るのは、相当な強者なのである。因みに運転手は知らない。マサラタウンを出発した4人のトレーナーは、全員が1年目にしてリーグ挑戦可能、もしくはあと一歩まで迫っているレベルであることを。

「それじゃ、キョウさんが最後ってことですかい? 」

「はい。ですがその前に、手札を増やせるだけ増やしておこうかと 」

素っ気ない態度ながらも律儀に答えるスミレに、運転手は内心胸を撫で下ろす。コミュニケーションを好まないタイプであることは承知の上ではあった。それでも明らかに影のある表情で、しかも1人で乗車する子供相手に声を掛けないという選択肢を選べなかったのだ。乗客に声を掛けるのは日常的なこととはいえ、草臥れたサラリーマンを相手にするよりもやり辛さはあった。とはいえスミレは尋ねるだけで空気を悪くするような人間性ではなかった為、あからさまに悪い影響にはならなかった。運転手はホッと息を吐きそうになるが寸前で止める。

「…………これが平常なので、気にしないでください 」

運転手の内心に勘づいたのか、スミレは呟く。それに対して、運転手は苦笑いを浮かべた。

「そうも行きませんよ。ウチは14くらいの娘がいまして……お客さんと違って、トレーナーとしてはどうも才能が無かったようで、バッジだって3個目で挫折しちゃって、今は普通にポケモンスクールの中等部に通ってるんです。トレーナーとしてはダメでも、何にでも一生懸命な自慢の娘ですよ、ホント。……だから、娘と近い歳の暗い顔した子供は、どうにも気がかりなモンですよ。職業柄、色んな人と話してますしね」

照れたように笑う運転手に、スミレは目を細めた。

「そうですか……。子供思いの、良いお父さんですね 」

スミレの静かな呟きに、運転手は軽く目を見開く。

(家族仲には、触れない方が良さげかな……?)

そう考えを巡らせつつ、運転手は軽く肩をすくめた。

「ま、最近は娘に冷たく当たられてますがね。なんでも、洗濯だって一緒は嫌なんだと。成長を喜ぶべきか、冷たく当たられてるのを嘆けば良いのか…… 」

「ああ、反抗期……。確かにそれは複雑ですね 」

スミレは、自身がもうそうなってるのか、更に酷い状況になるのか、と考えつつ応えた。

「私は仕事柄あんまり休みが取れなかったので、昔からあんまり一緒に居てやれなかったんですよ。……そのツケが、回ってきたのかなぁって」

悩ましげにぼやく運転手に、スミレは横目で視線を送る。

「……ちょっと離れたところから見守ってやれば良いと思います。あんまり、しつこく干渉されたくないと思いますから」

スミレは自身の家庭環境を思い浮かべながら応える。

(……意外と、親は味方でいてくれないから)

その言葉は、数秒目を閉じることで飲み込んだ。

 

◾️◾️◾️◾️

 

 涼しい風が、スミレの肌を撫でる。ふわりと髪が浮かび、隙間から火傷の痕が見えるが、スミレの関心は向かなかった。目の前に立つのは、サファリゾーンへと続く門だ。

 サファリゾーンは、セキチクシティの北に広がる草原を利用した自然保護区で、沢山のポケモンが暮らしている。この場所ではポケモンの捕獲こそ可能だが、サファリボールという特殊なモンスターボールを使い、自身のポケモンを使わずに捕まえねばならない。身ひとつでポケモンと対峙するというのは、相当に危険な行為だ。ポケモンはその気になれば、超人だって殺せてしまう。サファリゾーンはジムバッジを8個集められるような手練れを大量にスタッフとして集めて、交代で四六時中監視のために巡回させている。しかしそれでも危険なため、度胸のない者は観光ツアー以外で中に立ち入ろうとはしない。そんな場所に、スミレは迷わず足を向ける。

(……死んでも別に良い。たとえ私の目的は達成できなくても、死ねればそれまでの不幸は何にも関係ない。ただ、目的のためにはここで戦力が必要。迷っている暇があったら、頑張って捕獲しないと)

スミレは、そう考えた。行く意義があり、死んでもそれはそれ。つまり、行かない理由がどこにも無かったのである。受付に赴くと、受付の女性に声を掛ける。

「すみません、入場手続きをお願いします 」

「はい。……動物園のみ、サファリゾーンバスツアー、トレーナー入場の3種類がございますが 」

「トレーナー入場で 」

スミレは、躊躇いなく答えた。サファリゾーンの手前には動物園があり、沢山のポケモンが見られるため観光客に人気のスポットである。動物園のみ、はサファリゾーンまで行かずに動物園のみを周るルート、サファリゾーンバスツアーは安全なバスに乗り、ガイドと護衛を付けた上でサファリゾーンを観光するルート、そして最後のトレーナー入場はポケモンを預け、手持ちのボールも預け、専用のボールを受け取った上でその身ひとつでサファリゾーンのポケモンに挑む、通称自殺コースである。

「えっ……!? わ、分かりました 」

受付の女性が、あからさまに動揺して顔を青くする。

(……送り出したトレーナーが帰ってこなかった、とかそんな感じかな?この仕事なら、そんなことザラだろうけど)

スミレは、内心でそう考える。

 

「こちらの誓約書に、ご記入してください 」

受付の女性が出してきたのは、書類だ。内容を要約すれば、『もし死んでもパークの責任ではありません』というものだ。

(そういえば、前に死亡事故で裁判沙汰になってた)

サファリゾーンは、怪我も死亡事故も多い。だからこそ、そうなった時に自分達は責任を取らないということであり、この書類にサインが出来なければスミレは入場することができない。脅しと捉えられる文章を見ても、スミレの表情は凪いでいた。即決で備え付けのボールペンを手に取ると、躊躇いなく住所と連絡先、そして名前を記入する。もしも死んだ時に、個体の識別が出来るように。

「私が勝手に行くだけです。たとえそれで死んでも、貴女は関係ありません。……死にに行く訳ではありませんが 」

スミレが、未だ顔が青い受付の女性に向けて言った。別に、スミレも自殺しに行く訳ではない。戦力の確保は、トレーナーとしてやっていく上で必要なものだ。それに、トレーナーの死亡事故が多発するといっても、それは全体の10パーセント前後、入場者が多いからこそ死者も多いが、確率的には十分低い。更にスミレは、タマムシジムのジムトレーナーやエリカに話を聞き、対策は十分に立ててきている。

(……私には、やることがある。だから、なるべく死なない)

スミレは、トレーナー入場を示すチケットを受け取ると、財布にしまい込む。

 

「サファリゾーンのゲートは動物園の奥にあります。詳しい手続きは、そこで行ってください。……ご無事を、お祈り致します 」

 

「はい。頑張ります 」

深刻な表情で声を掛けてきた女性に背を向けて、スミレは一切の躊躇も見せずに、一歩を踏み出した。




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