ポケットモンスター another story 作:黒雲涼夜
最近、ワールドトリガーという漫画にハマってるんですが、これがまた面白いのでオススメです。スミレには射手が似合いそう
サファリゾーンの敷地に入ると、多くの観光客の姿が見えた。サファリゾーン手前は動物園となっており、カントー地方のポケモンを中心に多くのポケモンが飼育されている。だが、スミレの用事はそこではない。多くの人が通る大通りを突っ切り、自然保護区へと向かう。周囲を見れば、家族連れや恋人達が幸せそうな表情で歩いている。1人で、しかも陰のある表情を浮かべながら歩くスミレとは住む世界が違うようだった。
(昔、お父さんやお母さんと来たな……。ポケモン好きだったから良かったけど、2人のイチャイチャを見ない振りするのが大変だった)
仲睦まじすぎる両親から距離を取り、" ポケモン好きな子供がポケモンに夢中になっている図 " を必死で作っていたことを思い出す。背後で甘い空気を垂れ流されながら、それに気付かない振りをしてひたすら寝そべり動かないカエンジシを眺めたものである。スミレはポケモン好きであったが、場を弁えない両親を背後に見る、休日のオジサンのようにだらけきったポケモンのなんと詰まらないことか。
(1人で来るのは初めてだけど、のんびり観光するのは後でも良いかな)
スミレは、真っ直ぐに自然保護区へと向かう。正直、動物園はこの機会を逃したところでいつでも来れる。だが、カントーリーグのエントリーには当然期限があるため、それまでにジムバッジを8個以上揃えなければならない。エリカの計らいのお陰で余程のんびりしていなければ確実に間に合うようにはなっているが、悠長にしていたら期限内に会場のセキエイ高原まで辿り着けないし、色々な町を見て回ることもできない。
「本当、ロケット団も余計なことを…… 」
スミレは、文句を呟く。あの3人組に関しては、かなり複雑だ。襲撃を計画したのは彼らであるため恨みもあるが、ランスの勝手な介入があったのは事実であり、結果的に命の恩人であるのは確かであった。それに、多少関わり合いがあるからこそ、根っからの悪人というわけでないことも分かっていた。だからこそ心境は複雑なのであるが、ロケット団の襲撃によって強いられた入院期間はそれなりに長く、サトシは既にスミレがこれから挑む予定のセキチクジムを突破してグレンタウンのジムに向かっていると聞くし、シゲルは8個を超えるジムバッジを取得しているのだとか。外的要因があったとはいえ、足止めを食らっている間に彼らは先に進んでいる。スミレは、それが気に食わなかった。
(サトシは爆発力が凄い、シゲルは頭が良い、ヒマワリは育成が上手い。……でもそれだけ。あんな凄い人に教わった私が、あんな特訓に耐えた私のポケモン達が、あの程度の奴らなんかに負ける筈がない。スズキさんも、ホウセンさんも先にいる。なら、あんな雑魚はすぐに引き離してやる)
凄いトレーナーを見てきた。そして何より、凄い師匠に出会った。その出会いとバトルの経験はスミレの心に鮮烈な衝撃を与えていた。その出会いはスミレに力を齎し、多少の成長はあれども元から差があった幼馴染間の実力が更に離れたとスミレは思っている。スミレは彼らの実力を見下し、けれど何故か意識を割かれていた。
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サファリゾーンの自然保護区に入るための書類は入り口で書いたため、職員から施設についてとルールの説明があり、ボールを受け取る。カイザーという名前の管理人が管理しているのだが、今は留守にしているらしい。
「ご無事を、お祈り致します 」
(どの口が)
職員の声を無視して、スミレはゾーンの入り口に立つ。ポケモンの持ち込みは原則禁止、だから手持ちポケモンを連れて入ることも出来ず身を守る術はない。代わりに、24時間体制で腕利きのトレーナーが見張りをしている。実際、スミレが空を見上げるとピジョットに乗ったトレーナーが辺りを飛び回っている。しかしスミレは、そんなものを一々信用できなかったため、サファリゾーンの安全管理には嫌悪感を持っていた。目の前に視線を移せば、そこは遥かに広がる大草原だ。至る所にポケモンが歩いており、風に乗って微かに獣の匂いが漂ってくる。
「……行こう 」
スミレは緊張を堪えて、一歩踏み出した。
サファリゾーンで支給される道具は、サファリボールという特殊なモンスターボールを30個、そしてポケモンを釣り出すための餌だけだった。スミレの場合はレンタル料を払い、釣り竿を借りている。サファリボールの性能はモンスターボールとあまり変わらないため、捕まえるにはコツがいる。
「……現役ジムリーダーや世界的なポケモン研究者にコツを聞いてきた。乱獲させてもらう 」
オーキドとエリカの情報を基に、作戦は立ててきた。オーキドからはサファリゾーン内でのポケモンの種別の生息場所やその生態を、エリカからは効率的な捕獲方法を学んできていた。収入もそれなりにある上に研究所所属のため育成費用はかなり浮く。この先を考えれば、30個全てにポケモンを収めても問題ないと判断した。
そして自信満々に近くにいたケンタロスに背後から近づきボールを投げ、ペシリとその尻尾で叩き落とされた。
(……前途、多難)
スミレの内心に、暗雲が漂い始めた。
「はぁ……はぁ……はぁ 」
捕獲開始から20分ほど、スミレは湖の側で息を整えていた。腰についたボールは3個、失ったボールは7個、30個のうち丁度10個が消費された。ゲットに成功したポケモンはそれぞれ、パラセクトにストライク、そしてケンタロスだ。進化済みのパラセクトや、素早いストライク、強力なケンタロスをゲットできたのは幸運であった。因みにパラセクトやストライクは距離を取って隠れつつボールを投げてゲットできたのだが、苦労したのはケンタロスだった。石をぶつけて挑発し、突っ込んできたのを大木に衝突させてその隙にボールを当てたのである。
(対策しても、足りなかった……)
スミレは、上手く行かない現状に眉を顰める。対策したこと自体は間違っていない、と自信を持って言える。生息地、特徴から考えた捕まえ方などは間違いなく有効だといえる。問題は、対策は正しくても実際に通用するか否かである。ポケモンは生物、当然生きている。だからこそ、想定通りの動きをするとは限らない。スミレの対策は結局理論上のもので、実際に通用するかは未確定だった。思い返せばエリカやオーキドに言われていたが、それは気分の高揚故か頭から抜けていたのだ。とはいえ、完全に無駄かと言えばそれは違う。素早い動きを持つストライクを捕まえられたのは、間違いなく対策のお陰だった。石をストライクにぶつけるのではなく目の前に向けて勢いよく投げ、目の前を動く素早い物体へ意識を向けた隙を付いたのである。
(……釣り、しよ)
スミレは、一旦釣りに移行する。湖に生息するというミニリュウは所持しているため必要ないが、水上戦要員を増やすのは必要不可欠であるからだ。走り回って削られた体力を回復する意味もある。
「大丈夫、ここから挽回する 」
スミレは、汗を拭って呟いた。
「駄目……? なんで…… 」
15個目を消費し、スミレは項垂れる。湖で使用したボールは僅か5個、捕獲成功は2個だ。捕獲したのは、ヤドンとコイキング。ヤドンは水辺で見つけた警戒もなく寝そべっていた個体を捕まえ、コイキングは釣りによって釣り上げた唯一のポケモンだった。
(……全然釣れなかった)
スミレは、あまりの釣果に顔を顰めた。コイキングは大量に生息しているため、釣れるのはあまりおかしなことではない。だが、コイキングばかり釣れるため、1体のみゲットしてその他はリリースを選んだ。他のポケモンは釣れないし、水辺でニョロモやクラブを狙えば逃げられる。その結果、あまりに詰まらない釣りの結果に気を悪くしたスミレは、あまり粘らずに釣りを放り出したのである。とはいえ、進化させれば耐久戦に強いヤドンと進化すれば強力なコイキングを捕まえられた事実は、スミレにとってはそれなりに良い落とし所ではあった。
(大丈夫、息は整ってる。……残りのポールは、草原で使う。狙いの本命は、ガルーラとサイホーン。他は、ゲットできれば幸運ってところ)
スミレは、釣り竿を片付けて立ち上がった。
「……ふっ 」
「ホォォォォォォン!!!!!! 」
スミレの投げた石が額に当たり、既にスミレを追って走り始めていたケンタロスは怒り心頭といった様子で突進する。だが、それはスミレの思惑通り。スミレは内心の恐怖を抑えつけながらも前を見据える。怒り狂い、視野の狭まったサイホーンにはスミレの背後にあるものが見えていない。
「今!! 」
スミレは気合いを入れて足に力を込めると、横っ飛びをする。その瞬間、側を高速で駆け抜けたサイホーンは、勢いそのままに岩山に突っ込んだ。本来なら、野生のガルーラ辺りを探してそこにぶつけ、両者を争わせた挙句に消耗したところを両者ゲットするつもりでいた。しかし、作戦を考えた段階でエリカに読まれ、二次被害などの観点から却下の上で説教された。確かに、【はかいこうせん】などの強力な技を放てば保護区内のポケモンを傷つけることになるし、もしも他の人間が近くにいれば大惨事は間違いなしだ。一方、施設内の自然環境そのものは基本的にポケモンが壊すことも想定して設置されている。また、ポケモンを連れていないトレーナーがポケモンをゲットしようとすれば、スミレと同じ手を使うだろう。だから、咎められないように過去の事例を調べた上でこの作戦は実行された。1度目はオスのケンタロスに使用し、ゲットを成功させた上に近くにいた職員からも何も言われなかったため、味を占めたのである。
「ホォォォォ……ン…… 」
サイホーンは硬い頭を振るい、目の前から消えたスミレを探すように視線を動かす。硬い岩のようなその頭は、岩山にぶつかった衝撃を受けてもビクともしなかった。しかし、スミレが策を使うだけの余裕は生まれる。スミレは息を殺しながら走り、サイホーンの死角に入った。
(……流石オーキド博士。気づいてない)
スミレは、内心でオーキドへと賛辞を送る。オーキドから教わったもののひとつに、ポケモンの視野があったのだ。ポケモンの目や感覚器官を使用した感知、その範囲や精度をオーキドは正確に知っていた。そしてそれにより、スミレはサイホーンの目では死角になる部分を知り、その部分にいるように走り回ることで見つからないようにしていた。サイホーンは、かなり頭の悪いポケモンでしかも大柄なポケモンだ。だからこそ、この作戦は決まりやすい。
「ふっ……! 」
スミレは、息を短く吐いてボールを投げる。投げつけられたボールはサイホーンを閉じ込め、回転を始める。1度、2度、3度。そしてカチリとボールが音を立てた。ゲット成功である。
「……次 」
スミレは、次の獲物を探して走り始めた。
スミレの投げたボールを腕で弾いたのは、ガルーラだ。スミレはその後もボールを使い続け、残るボールはあと3つ。ガルーラに弾かれた分を除く10個で捕まえられたポケモンは2体、ドードーにタマタマだ。どちらもそれなりに利用価値はあるとスミレは考え、だからこそ捕まえられたことはラッキーであった。因みに、ラッキーは捕獲していないし遭遇もしなかった。そこに関しては、アンラッキーであった。
「捕まれ……! 」
スミレは石を顔に向けて投げつけ、続いてボールを投げる。ガルーラは石を右腕でガードするが、それによって視界が塞がれることを予測したボールが飛ぶ。ガルーラはボールに捕えられるも、1度目の回転で飛び出した。残り2個。スミレはすぐに走り出した。その場に立っていれば、ガルーラが技を放った時に攻撃を受けてしまうからだ。
(……いや、これで)
スミレは一瞬良心が咎めるが、それを無視してもう一投石を投げる。狙う先は、それまで狙っていた、比較的怒らせやすい頭ではなく、腹の袋に入った子供だ。咄嗟に子供を庇うように腕を腹に回すガルーラだが、その額にサファリボールが当たる。1回、2回、と回る。そして3回目。
「ルゥゥゥラ!! 」
ガルーラは、勢いよく飛び出した。その瞬間、ガルーラはそれを視界に収めた。まるで飛び出すことを予測したように、ボールが既に投げられていたのだ。正真正銘、最後の一投。それはガルーラを収めると回転し、そして止まる。
この瞬間、スミレのサファリゾーンにおけるチャレンジは終わりを告げた。今回の成果はパラセクト、ストライク、ケンタロス、ヤドン、コイキング、サイホーン、ドードー、タマタマ、ガルーラ。ボール30個の内の9個。実はこのサファリゾーンでサトシがケンタロスを30体捕まえ、シゲルもかなりの成果を出しているのだが、スミレは知る由もなかったのである。
成果: パラセクト(♀)、ストライク(♂)、ケンタロス(♂)、ヤドン(♂)、コイキング(♀)、サイホーン(♂)、ドードー(♀)、タマタマ(♂)、ガルーラ(♀)
コンパンを捕まえさせようか悩んだんですよね。ビジュアル的にモルフォンは似合うと思うんですが、バタフリーとの深刻なキャラ被りが発生するので辞めました。スミレのバタフリーの今後の活躍予定を考えるとモルフォンいても立場ねぇな、と……
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