ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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第94話 腕試し

 自然保護区を出て、動物園のエリアに戻る。手にしたボール9個はリュックの中に入れ、後にポケモンセンターで預ける予定だ。スミレは、ポケモン図鑑を取り出して時間を確認すると、時間はまだまだ余裕がある。後から草むらに行き実践経験を積むにしても、ゆっくり観光してゆくのもありかもしれない、と思った所で、スミレは辺りの様子が様変わりしていることに気付いた。自然保護区近くのゾーンには観光客も多いが、その割には服装や髪型が不良のそれであった。

(……何?この集団)

スミレは、怪しげなその人物達に眉を顰める。観光地ともあろう場所が不良の溜まり場になったかと思うと、パークの治安維持の不備を疑ってしまう。

「オウ、嬢ちゃんじゃねぇか 」

不意に声を掛けられ、スミレは視線を声の主に向けると、現状に納得した。

「ホウセンさん。こんにちは 」

「おう、元気そうで何よりだ。カビゴンの時は世話ンなったな 」

「いえ、こちらこそ…… 」

スミレは恐縮した様子で返す。カビゴンの一件はあの後、スズキがカビゴンをゲットしたことで終結し、後始末にスミレは関わっていなかった。

「悪ィな、俺たちの見た目のせいで変に警戒させちまったな。この辺の連中はみんな俺の舎弟なんだ、嬢ちゃんについては話を通してあるし、そもそも善良な人間に手を出すようにはしつけちゃいねぇからな 」

「……なら良かったです 」

スミレは、そう呟くと警戒心を納める。ホウセンとの関わりは少ないが、ある程度の信用はできる人間であるとスミレは考えていた。

「それより、嬢ちゃんは保護区帰りか? 」

「はい、そうですが…… 」

スミレの返答を聞くと、ホウセンは丁度良かったと笑みを浮かべた。

「ちぃっとばっかり顔貸してくれや。俺も舎弟どももさっき出てきたばっかでな。ゲットしたばっかのポケモン、実戦で鍛えたくねぇか? 」

「へぇ…… 」

スミレとしては、異論はなかった。

 

◾️◾️◾️◾️

 

 動物園のバトルコートで、スミレとホウセンは向かい合う。周囲では、観光客やホウセンの舎弟達が見守っている。

「使用ポケモンは3体、うち2体は保護区でゲットしたばかりのポケモンで戦う、それで良いな!? 」

「はい 」

闘志を剥き出しにして笑うホウセンと、涼しげな表情で思考を巡らせるスミレ。両者の態度は正反対なれど、その内心はどちらも相手に勝つことを考えていた。

「さぁ行くぞ、俺の1体目! ドードー!! 」

「ドォォォ!! 」

ホウセンが出したのは、ドードー。スミレもゲットしている、ノーマルとひこうの複合タイプを持つポケモンだ。

「……私のポケモン。行って、ガルーラ 」

「ルゥラ!! 」

対するスミレは、ガルーラを選択。ガルーラは力強く吠え、ドードーを睨み付ける。

「ドードー、【つつく】!!」

「ガルーラ、【ふみつけ】」

ドードーの突進しながらの嘴による攻撃をガルーラは跳び上がることで躱し、そのまま上からのし掛かる。

「ドードー、【つつく】だ! 」

しかし、ドードーの上にのし掛かっている状況を利用し、ドードーの長い首がしなると【つつく】を当て、脱出する。

「ガルーラ、【はたく】」

ガルーラは腕にエネルギーを纏わせてドードーへと迫る。だが、その動きはドードーと比べると遥かに鈍足だ。

「ドードー、【でんこうせっか】を連続でやれ!! 」

ドードーの【でんこうせっか】が連続で炸裂した。ガルーラは高速で動きながら攻撃を当ててくるドードーに対し、反撃をする術を持たない。

「ガルーラ、【きあいだめ】」

反撃が出来ないと判断したスミレは、迎撃から作戦を切り替える。【きあいだめ】は、ポケモンの技を急所に当てやすくするものである。つまりスミレの作戦は、【でんこうせっか】の連撃に耐えつつ、反撃の一撃で大ダメージを狙う、というものであった。

「そりゃあそう来るよなぁ! ドードー、【ダブルアタック】!! 」

ドードーは、その双頭を利用した2連撃を放つ。

「ガルーラ、【はたく】」

対するガルーラは【はたく】で反撃、急所に当てられたドードーは激しく吹き飛んだ。

「負けんな、ドードー! 【みだれづき】」

ドードーの乱撃が放たれ、ガルーラの肉体に連続でダメージが入る。

「ガルーラ、反撃の【はたく】」

その一撃で、ドードーは地面に叩きつけられた。ドードー、戦闘不能。先制したのはスミレ、だがスミレは、浮かない表情だった。

(……思ったよりも削られた。次も勝つのは難しいかも)

スミレは、分かっていた。自分がホウセンよりもトレーナーとして弱いことを。

(……私は、サトシみたいにピンチに強い訳じゃない)

ピンチをチャンスに変えることが上手いのは、サトシだった。スミレは勝つべくして勝ち、負けるべくして負けることしか出来ていない。

(駄目。私は、こんな人達に勝ちたいの。このままじゃあ、リーグでも勝てない。今は下の奴に目を向けてる暇なんて、ない筈……!)

「頼んだぜ、ケンタロス!」

続いてホウセンが繰り出したのは、ケンタロス。パワーとスピードを併せ持つ、強力なポケモンだ。

「ガルーラ、【ずつき】」

「躱して【たいあたり】だ! 」

ガルーラの【ずつき】を身軽に躱わすと、側面から【たいあたり】をぶつける。【たいあたり】は基本的な技のため技そのものの威力は大したものではない。だが、それを使うのは平地での突進攻撃を得意とするケンタロス、その威力はかなりのものだ。助走が殆ど無かったため威力が更に上乗せされることは無かったものの、ただでさえドードーによって削られたガルーラには、そのダメージは甚大である。

「【はたく】」

ガルーラは、腕を振るって攻撃を仕掛けた。

「退いて【しっぽをふる】!」

ケンタロスは後退すると、【しっぽをふる】を使用した。この技の効果は、防御力の低下。スミレのガルーラを、ここで仕留める気なのだ。

「くっ……【はたく】」

「ルゥゥゥゥラ!! 」

ガルーラは吠え、突進する。対するケンタロスは、地面を蹴ってやる気を示した。

「いい根性だぜケンタロス。迎え撃て、【たいあたり】!! 」

「ブモォォォォォォ!! 」

ケンタロスは、ガルーラを真正面から迎え撃った。ガルーラの腕とケンタロスの全身を使った突進攻撃。その勝者は、当然ケンタロスだ。ガルーラ、戦闘不能。

「やっぱり強い…… 」

スミレは呟きながらボールへとガルーラを戻し、次のサファリボールを手に取った。

(……こいつの戦術は見本を見てる。だから、勝てる)

「行って、ストライク 」

「………… 」

ストライクが、静かに降り立った。そのまま、冷静にケンタロスを観察する。

「ケンタロス、【しっぽをふる】」

「ストライク、【かげぶんしん】」

ケンタロスは初手でストライクの防御を下げ、ストライクは【かげぶんしん】によって分身を生成した。

「【たいあたり】だ! 」

「【でんこうせっか】」

先制したのは、ストライク。素早い攻撃をケンタロスに見舞うと、一撃で離脱。ケンタロスの攻撃は、一体の分身を捉えたのみであった。

「ケンタロス、【しっぽをふる】」

ホウセンは、【しっぽをふる】を指示する。

(いかにもな不良の見た目なのに、かなり慎重……!)

スミレは、抜け目のないホウセンの判断に、眉を顰めた。

「意外か?俺がこんな回りくどい手を使うってのは 」

「……そうですね。イメージはできないです 」

「だろうな。俺もこういうのは好みじゃねぇ。……だが、舎弟っつー死んでも守らにゃならん奴らを抱える男は、好きじゃなくてもやらなきゃなんねぇ時がある。可愛い舎弟どもが見てる前で、実力があるとはいえ格下に負けるような男に舎弟の命を預かる資格はねぇ。お前が何を目指し、何を抱えてんのかは知らねぇが、俺にもまた抱えるべきものがある。これはアイツらを言い訳にした意地っ張りなんかじゃねぇ、これは俺が命かけて掲げた矜持だ。砕きたけりゃあ、それ以上を持って来い 」

ホウセンの目には、一切の侮りは無かった。スミレは、トレーナーとしての経験ではホウセンよりも圧倒的に劣っていた。だからこそ、付け入る隙は油断を誘うか、ポケモンの練度、もしくは作戦勝ちを狙うかである。その内、もっとも勝率の高い油断が、ホウセンには無い。ポケモンの練度は、3体目次第だがサファリゾーンで捕まえられたポケモン達は同格、作戦は一進一退。このままでは、突破口が見つからなかった。

「ストライク、【れんぞくぎり】」

スミレの指示で、ストライクは分身でケンタロスを包囲すると、一斉に飛び掛かる。

「気合いで耐えろ、ケンタロス! 索敵は忘れんなァ!! 」

ホウセンが叫び、ケンタロスは強気に笑う。その体を、ストライクが斬りつけた。【れんぞくぎり】は、両腕の鎌を利用した連続攻撃だ。その為、攻撃の時間は自ずと伸び、そのタイミングは離れられない。そして攻撃を放てるのは、本体のみ。

「見つけたんだろケンタロス!? 」

ホウセンの叫びで、スミレは自身の失策を悟った。

「……不味い 」

「遅せぇよ!! 【つのでつく】!! 」

ストライクの本体を的確に捉えたケンタロスのツノが、ストライクを跳ね飛ばす。

「追撃だ! 【たいあたり】 !!!! 」

【しっぽをふる】によって防御を下げられ、元の防御が高い訳でもないストライクは、立ち上がるも大きなダメージで膝を突いた。そしてそこに、暴牛が突っ込んだ。鎌をバツ字に構え、足を踏ん張り、ストライクは衝撃を受け止める。

(ストライクは衝撃から逃げられない。避ける指示を出すのは間に合わなかった……。【かげぶんしん】をしても意味はない。迎撃しようにもあの体勢なら意味がない。いや、でもあれなら……)

「ストライク……! 」

スミレは、指示を飛ばそうと声を飛ばし、しかしそれは無意味に終わった。

「押し込めぇぇぇぇ!!!! 」

「ブモォォォォォォ!!!! 」

ホウセンの叫びと共に、ケンタロスは吠えた。捕まえたばかりとは思えない程の共鳴は、ケンタロスに更に強く地面を蹴るだけの力を生ませた。顔を歪めながらも耐えていたストライクが、跳ね飛ばされて木に叩きつけられる。

「今だ! 【たいあたり】!! 」

「……【でんこうせっか】 」

先に動いたのはストライク、高速で動くとケンタロスにダメージを与える。だが、増大されたダメージで動きは鈍っていた。

「【つのでつく】! 」

ケンタロスのツノに跳ね飛ばされて、ストライクは地面を転がった。ストライク、戦闘不能。

「……やられた 」

ストライクの敗因は、スピードを活かしきれなかったことだ。理想の戦術は一撃離脱の長期戦か、急所狙いの高速戦闘だったにも関わらず、指示のミスによって強みを殺し、弱みにつけ込まれる形で敗北した。ストライクは強い、ただスミレがその強さを扱えなかっただけであった。

「……3体目、やっと出せる 」

だが、3体目は自身の育てた仲間から出せる。ホウセンの3体目相手に勝てるのか、それは分からない。だが、3体目に選出したのは、負けたならば仕方がなかったと言える、自慢の相棒。

「お願い、フシギバナ 」

正真正銘、スミレの切り札の登場に、ホウセンは笑みを浮かべた。

 

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