ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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ガス抜きが必要と聞いて。そういうの書く路線はいくつかあったので、そのうちひとつをこのタイミングで持ってきました。メインディッシュじゃないですがね。まぁ、『ミュウツーの逆襲』は原作も原作なんであんま明るくないし、明るめの話は混ぜつつやってこうかなーと。


第96話 殴り込み

 スミレはその日、朝から町の外へ出ていた。腰には、6つのモンスターボール。サファリゾーンでポケモンを捕まえ、高い壁を知ったのはもう2日前にもなる。昨日もこの場所に来て、スミレはサファリゾーンでゲットした9体やトサキント、ミニリュウを頻繁に交代しつつ育てていた。しかし今日やることはそれではない。明日、朝一番で最後のジムであるセキチクジムに挑むことになっていた。サファリゾーンで捕まえたポケモン達は研究所に送られ、研究に協力する代わりに研究所専属のブリーダーに無料で育てて貰える。

「出てきて 」

出すメンバーは、フシギバナ、バタフリー、ラプラス、フーディン、ゲンガー、ミニリュウ。ニドキングは群れにいるため不在、その他は8つ目のジム戦を戦えるレベルには足りていない。

「私たちがするのは、これまでの動きの強化。突然の新戦術を使って連携を崩すよりは、今までのやり方を踏襲しつつそれをより突破できない必殺の戦術まで昇華する。例えば、バタフリーの【はかいこうせん】戦術なんかが特にそう。……2日前、私はホウセンさんに惨敗した。アドバイスも貰った。でも、それは私に理解できなかった。理解できなかったけど多分それは、私が進んだ先であるものなんだと思う。それが幸であれ不幸であれ、私は私の全てを背負って進んでいくって決めたから。空っぽには空っぽなりに、やれることはある筈だと思ってる。だから、心配しないで 」

スミレは、そういった。スミレ自身、あれから悩みに悩んだ。そしてその果てに、スミレはエリカを頼った。エリカに電話を掛けて、状況を話して、教えを受けて。そうやってスミレは、とりあえずその問題を先送りにすることに成功したのである。エリカ曰く

『負けられない理由、というものは自然と身に付いてくるものです。それは、前向きであれ後ろ向きであれ。ホウセンが言ったのは、前向きな理由のことでしょうが、現状の貴女が見出すには精神的な負債を消化しきれていませんから、一度放っておきなさい。あと、同格や格下に負けるか、という点ですが、それはあり得ます。少なくとも、貴女の幼馴染3人は貴女に勝ってもおかしくはない人間です。理解できなくとも、頭の片隅には入れておくとよいでしょう。……それから、格上からの言葉とはいえ、人の言うことをいちいち鵜呑みにして悩むと疲れますよ。わたくしに相談したのは、良い判断だと思いますが 』

とのことだ。それからエリカはスミレに、気にしすぎずとも頭の片隅に『そんなこと言ってたな』程度には覚えておくように、と言っていた。

つまり、今悩んでも仕方がないことなのだ。だから今は、前に進む。その先がなんであれ、一歩一歩。

「……さ、始めるよ 」

スミレは力強く両の掌で拍手を鳴らすと、スミレのポケモン達は訓練のためにそれぞれ距離を取る。

 

その様子を見た人影は、ホッと息を吐いた。

 

 

◾️◾️◾️◾️

 「ふぅ…… 」

スミレは大きく息を吐くと、草原に座り込む。鍛錬開始から暫く経ち、もうそろそろお昼時だ。

(……そろそろ休憩しよっかな。それから)

「さっきから見てる人。出てきて 」

スミレは、大木の影から自身を交代しながら観察していた人間のひとりに声を掛ける。その人影はどこかに何かを伝えると、堂々とその場に歩いて出てくる。

「貴女は? 」

セーラー服を改造したような服に身を包んだ金髪の少女が、そこには立っていた。背後には、複数人の似たような姿をした少女を連れている。

「あー……悪いね、スミレさん。アタシはエビル団の副長、ユッカってモンだ。諸事情あって、アンタを見張ってた 」

「……? 」

困った様子で言うユッカに、スミレは眉を顰める。エビル団、という名前に聞き覚えはない。

「ああ、エビル団か。エビル団ってのはセキチクを根城にする不良集団、団長はホウセンさ。2日前、アンタに言ったことで思い詰めてないか、とか余計なこと言ったんじゃないかって五月蝿いくらい心配してたからよォ。アタシが下っ端連れて見にきたのさ。……ま、それなりに大丈夫そうで良かったよ 」

ユッカが呆れたようにため息を吐き、背後に佇む少女達も苦笑いを浮かべる。

「ご心配ありがとうございます。大丈夫です。タマムシジムのエリカさんにも相談して、どうにかなりました。それはそうと、監視についてなんですが……ひょっとして、昨日から? 」

そう言ったスミレに、ユッカは眉を顰める。スミレは、ホウセンとバトルした翌日から視線を感じていたからだ。

「昨日……? 昨日は、バカ団長がウジウジしてたのはウザかったけど、アタシらはなんにもしてないよ? 」

「……え? 」

ユッカの答えに、両者は表情を険しくさせる。

「……にしてもアンタ、ちょっと聞きたいんだけどさ 」

「…………はい 」

嫌な予感に、スミレは

「人違いなら良いんだが、 " マサラタウンのスミレ " じゃねぇだろうな? もしもそうだったらアンタ、なんか面倒な奴に狙われてるよ 」

「私が、そのスミレですけど 」

スミレの加速する胸の鼓動が、耳元で騒ぎ立てる。

「アンタ、セキチクシティのアイって知ってるでしょ? 」

ユッカが、苦々しい表情で告げた名前は、スミレにとって最悪の思い出に関わる人間であった。

 セキチクシティのアイ。スミレがスクール時代に味わった虐め事件において、主犯だったアクラの取り巻きとして、スミレを追い詰めた1人だった。スミレが顔を焼かれたあの日、スミレの顔に水をかけて消化したのは、彼女のヒトデマンであった。性格は強者には媚びへつらい、弱者には高圧的。

「…………忌々しいほど、知ってます 」

吐き気が胸の奥に込み上げ、視界が揺れる。消えないトラウマが、このタイミングで目を覚ました。

「聞きたくないだろうけど、アタシらが知ってる情報を話しとく。……アイの父親は、ロケットコンツェルンの役員の1人だ。親の金で、これまで沢山の悪事を見逃して貰ったらしい。でも…… 」

 

「お前のせいで、ウチの将来真っ暗よ 」

ユッカの声を遮るように、声が聞こえた。スミレが声のする方向を見れば、見覚えのある悪意に満ちた笑みを浮かべる少女が、大柄な男達を連れて立っていた。

「……テメェ、よくノコノコ出てこれたなァオイ 」

ユッカはポケットに手を突っ込むと、アイを睨みつける。

「黙れよ貧乏人。言っておくが、お前らだって恨んでるだからね? ……お前のせいで、ウチはパパが揉み消してくれたこと全部知られて、警察に連れてかれたんだから。お陰でスクールに入ろうにも落とされるし、お前のせいで人生めちゃくちゃなのよ 」

アイは、不快げに表情を歪めた。それに対し、ユッカは嘲笑を浮かべる。

「ハッ! そういやテメェのパパ、ウチの組にスミレを襲うように命令しに来て、あんまりに筋が通らねぇ逆恨みなもんだからって護衛ごと袋叩きにされてたなぁ!! バカ団長がテメェの顔面殴りたがってたぜ!!!! 」

「うっさいなぁ貧乏人……! もういい! 復讐のために、コイツ捕まえて来たんだから!! 焼き殺せブーバー!!!! 」

「バァァァ!! 」

 

声が、聞こえる。辛くて、怖くて、何よりも痛い、そんな思い出が蘇る。アイという当事者が使っていることが、今まで以上に発作を起こしたのだろうか。スミレは、慌てて口元を押さえた。スミレにとって、あれ以上の地獄はいまだにない。いっそのこと、死んでしまいたかった。

「ごぷ……ぅえ……げぇ…… 」

喉から競り上がるものを、止める術はなかった。鼻をつく悪臭が、自身のやったことを自覚させる。溢れる涙に視界が揺れ、痛む頭を地獄のような思い出が駆け巡り、顔に残る火傷痕が、ジリジリと痛むような感覚を覚えた。膝はとうの前に付いた。反抗心は、とうの前に砕けた。今はただもう、死んでしまいたかった。

「……げぇ……ぅう……げほっ…… 」

『助けて』と言う言葉はどうしても出てこなくて、スミレはただ苦しみに悶えていた。

 

「どいてよ、貧乏人 」

「誰が退くかよ、クズ 」

アイは、怨敵の惨めな姿を晒していても、不快げな表情を収めなかった。何故ならば、ユッカと他の団員達がスミレを隠すように、立ちはだかっていたからだ。アイに見えるのは、平然とした様子で立つユッカの靴を汚す、憎き女の汚物だけ。困惑するブーバーを、アイは苛立った様子で蹴り付ける。

「さっさと退いてよ。汚れちゃってるよ? 貧乏人の唯一の靴がさ。金がないから、買えないでしょ? 」

「それしか言えねぇのか、お里が知れるなゲロ未満。ウチは確かに貧乏だ、蒸発したオヤジがポケモンバトルで作った借金なんて、馬鹿げた額が残ってる。兄弟も多いから、贅沢なんてしてらんねぇ。……でもな、死んでもアタシは退かねぇぞ。テメェみたいな屑からイイ女守れる靴を履けるなら、アタシは幸せモンだよ 」

青筋を立てながらも、アイを嘲笑う。ユッカは分かっている。このような言い合いを続けられるほど、アイという女は気が長くはない。

「……チッ。もういい、オイお前ら! この貧乏人共を引き剥がせ!!その後は何やってもいい、兎に角ウチの復讐の邪魔をさせんな!! 」

その言葉をきっかけに、男達は動き出す。小汚い様相をしており、落ちぶれたトレーナーの末路なのだろう。だが、何もしないユッカではなかった。

 

 

「ちょおっと待ったァ!!!! 」

その声と共に現れたのは、バイクに乗って疾走する男女の群れ。先頭を走るホウセンの隣を、アンバランスにも外国産の高級車が走っている。

「ありゃ……エビル団だ 」

アイに連れてこられたトレーナーの1人が、戸惑ったように呟く。そう、ユッカはポケットに手を入れた段階で、ホウセンに連絡を入れていたのだ。

「あの高級車……リーグ繋がりとはいえ、なかなか大物連れてきたなあのバカは 」

少し離れたところに車を停めると、エビル団はアイに向かって歩き出す。

「……ヒィ!? 」

アイは、ホウセンから向けられる眼光に怯え、一歩後退る。

「オイオイ、敗残兵連れてお山の大将たァ随分だな!? 」

「……未来ある若者がここまで外道に落ちるとは、大人としては責任を感じますな 」

一際目立つのは、中心を歩く2人の男。ユッカに事情を聞いて駆けつけたエビル団団長、ホウセンと仕事終わりに事情を聞きやってきた大企業のトップ兼トレーナー、スズキ。ホウセンの表情は怒りに燃え、スズキの表情はいつもの微笑みを捨てて凪いでいる。

「ありゃあ自業自得だ、せめて叩きのめしてやんな。……スズキの旦那、手持ちの調子は? 」

「……なるほど、是非もなし。手持ちは絶好調です。此度の一件、我が友たちも怒りに震えておりますれば 」

「同感だぜ全くヨォ……! お門違いの逆恨みで復讐計画を立て、人のトラウマ抉って、しかもそのために何もしらねぇブーバー利用して。腐った女だぜ。だがまぁ、今回はバッジ5個以上の舎弟だけ連れてきた。俺自身の手持ちも、リーグ決勝でも使える精鋭中の精鋭だ 」

「警察は呼んでおりますし、ジムリーダーも暫し待てば来ることでしょう。やりすぎにはご注意を 」

「分かってるぜ! 」

 

「……ほんっとウザい! さっさと潰して!! 」

「殴り込みだ、テメェら!!!! 」

 




・スミレの成長ポイント: 困った時に師匠を頼る。
・何も知らないブーバーさん: ただただ不憫。ごめん、ジッチャンの名前にかけてでも必ず名誉挽回するからもうちょっとその役割頑張って……
・スミレのポケモン:まだ動かないのが逆に怖い
・実は結構大変な師匠: ロケット団員とはいえ身内からスパイを炙り出して捕らえている。まだまだ若くそういう経験は浅いため、メンタルに余計来る。それでも弟子の相談には全力で乗る聖人。沢山いるジムトレーナーに対しても同じようにしてるため、めっちゃ大変
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