ポケットモンスター another story   作:黒雲涼夜

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スミレはただ敵に復讐して破滅させて満足するキャラにはしたくないです。そんなキャラを主人公にして、どの面下げて『逆襲』編を書けるでしょうか?僕は書けません
本編以上にシビアな世界観だからこそ、残酷になる理由よりも優しくなれる理由をスミレには探させたいです。ご理解ください。


試験前なのに筆が乗って乗って仕方がないのはなぜ……?


第99話 謎の " パパ "

 事件も終わり、現場には警察が入り乱れていた。頬を強く殴られたアイやアイに連れてこられたトレーナー達が搬送されてゆく中、ホウセンは1人の男に声をかけた。

「オイ、キョウの親父 」

振り向いたのは、事件の話を聞いてとある事を済ませた後、現場に到着したセキチクシティジムリーダー、キョウだ。キョウは忍者のような格好をした男で、いかにもコスプレ臭のする姿ではあるがそのトレーナーとしての実力は本物、因みに忍者としての実力も高い。

「む……。ホウセンか、流石に10歳の子供相手にやりすぎだ。もう少し自重せい 」

キョウは、渋い表情で注意をする。キョウが見たアイは、頬を腫らして気絶していた。一方のホウセンは、それを鼻で笑い飛ばす。

「少しはしたぜ? 全力でやれば、クズとはいえガキの面の骨なんて折れる。下手に傷を深くしたら、酌量の余地なんて与えちまったら余計に駄目だからな。これは下手な横槍も入らずに裁きを受けさせられて、しかもクソ女をぶん殴ることもできる、丁度いい力加減って奴さ。……ま、それはそれとして暫くは腫れて痛みが抜けねぇだろう、ダチの復讐でもあったから、ガキとはいえちゃんと殴ったからな。……んで、居なかったんだろ? あのクソ女の親父は 」

ホウセンの質問にキョウは頷き、ホウセンとその側で話を聞いていたスズキは表情を険しくする。

「うむ。念の為奴の屋敷を探したが、ロケット団の下っ端が数名捕らえただけだ。それも相当な雑魚、恐らくはただの捨て駒だろう。刑務所の男は、血の繋がらない架空の父親と思われる。戸籍もなく、記憶も洗脳によって操作されているから、証言の信憑性がなかなかないがな 」

架空の父親、それがアイが初めに言った父親の正体だ。現状では推定であり確定ではないものの、洗脳によってアイの父親であると自身を認識している身元不明の男、となるとあからさまに偽物の可能性があるのだ。つまりアイは、その父親を本物の父親と誤認していた可能性があった。そしてその上で、もう1人の父親についても仄めかしていた。

 

「電話越しに聞いたが、アイの奴は捕まったあの小物を父親と認識していた。だが、その後の発言を考えれば、父親を名乗る誰かがもう1人いるかもしれねぇ。アイは、その捕まった父親と自身を助けてくれる父親の、2人の父親が当然のように認識されていた。……それに、チンピラとはいえ金に飢えたトレーナーを大量に雇えたってことは、相当に金と立場持ってる奴が背後にいたっておかしくねぇ。あの女、チンピラを堂々と使っているあたり、10歳とはいえ人を見る目も金の使い方も碌に知らねぇ素人だ。……この事件、相当キナ臭えぞ 」

「……2人の父親の存在を認識、ですか。あからさまに怪しいですな。それはもしや、捜査撹乱を狙っているので? 」

「で、あろうな。洗脳というのは下手に扱うと厄介だ。下手に解除するとそれまで持っていた情報が全て消滅、なんてこともあれば洗脳を掛けていたポケモンが近くに潜んでいて洗脳被害者を殺害した場合もある。だから読心と聴取で慎重に証言を取りつつ真偽を確かめ、相手側にバレないように洗脳解除を行ってゆく必要がある。娘の父親の場合は、エスパーポケモンを動員して試してはみたものの、防壁が貼られていて心を読めなかった。娘の証言に信憑性が持てなくなれば、裏取りに当然時間がかかる。本命の父親に関する認識が弄られている、というだけでもかなり捜査に支障が出る。おまけに今回、大量のチンピラを捕らえたからその始末もある。時間稼ぎの意図は、明らかと言っていい 」

キョウは、分かっていながらも時間を稼がれてしまっていることに不満を露わにする。

 

「……洗脳は、解けそうか? 」

「分からん。……だか、幼少期から長い時間をかけて刷り込まれた可能性がある 」

「歪んだ価値観と一緒に、ですな。もしかしたら、本来の父親を絶対的に信仰するという部分は、洗脳の力も使っていたのかもしれませんな」

スズキは、悲しげに目を細めた。アイは洗脳ではない、本物の悪意を持って他人を壊し続けた。だがその認識そのものは自前のものでも、それを刷り込むタイミングで洗脳の力を使っている可能性は否定できない。

「……だが、真の父親の目星なら付いているぞ 」

キョウの言葉に、スズキとホウセンは視線を向ける。

「つまり、大物である可能性が? 」

スズキが尋ねると、キョウは難しい表情で頷いた。

「ああ。そもそも、アイが従っていたアクラの父、カラシは政治家なのだ。そのルートで繋がりを推測していけば、推測くらいならできる 」

「あの強欲親父か 」

ホウセンは、カラシの姿を思い浮かべて顔を顰める。

「……政治家と繋がりが必要な立場、ですか。金持ちの間で、ハンターが狩ってきたポケモンを売り捌くオークションがありましたな。一回だけ誘われたので、参加するついでに参加者を全員捕縛して会場を吹き飛ばした記憶があります 」

スズキの告げた物騒過ぎる思い出にキョウは冷や汗を垂らしつつ、頷いた。

「そうだ。……ロケット団幹部でも、権力者とハンターを繋げる仲介業者の任を任されている者など、1人しかおるまい 」

 

 

そして、キョウはその名前を告げた。

「ロケット団最高幹部、ビシャス。恐らくアイを裏で操り、使い捨てた " パパ " の正体は、この男だ 」

 

 

 

「……ホウセン、アイを更生させる時はは任せるぞ 」

「あいあい、その時が来れば俺らがキッチリ扱くし、口封じもさせねぇよ 」

ホウセンは、そう言うと立ち上がった。ホウセンは、諦めない。たとえ心の底から腐った人間であっても、手を伸ばすことは諦めない。その過程で何度殴り飛ばすことがあろうとも。それがきっと、尊敬する両親に近づけ、更に己が目指す理想のエビル団団長の姿に、繋がってゆくのだから。

 

◾️◾️◾️◾️

 

 「すみません……靴、汚しちゃって 」

スミレは、ユッカに頭を下げていた。事態が終息した今、スミレがすべきなのは靴を汚してしまったユッカへの償いだ。思い切りスミレの吐き出したものを踏んだ靴を履かせるなど、スミレからすればたまったものじゃない。

「あー、いいのいいのって言いたいとこなんだけど…… 」

苦笑いを浮かべつつ、スミレを見る。

(許すって言っても、あんま納得しないだろうなぁ)

「どうしたもんかなぁ…… 」

「お靴でしたら、私が新品をお送りしますよ? 」

悩むユッカに声を掛けたのは、スズキだ。

「スズキさん……でしたっけ? どうして 」

「その靴、ウチの子会社が作っておりますからね。つまりは大切なお客様、経営者たる私にとっては愛用してくださる方がいらっしゃることはとても嬉しいことなのですよ 」

上機嫌に言うスズキに、ユッカは固まる。ユッカは、スズキをバトルが馬鹿みたいに強いお爺さんくらいにしか知らなかった。ロケット団と市場で真っ向から争えるグループの創設者などという自身とは別次元の怪物が、気安く話しかけてきている事実と、自分のグループの団長がそんな相手にタメ口使っているとんでもない無礼に気がついてしまったのだ。

「アッ……トンデモゴザイマセヌ。イツモアリガタク…… 」

「はっはっは。気にしなくても結構です。なんなら、敬語も必要ありませんよ 」

愉快そうに笑ったスズキは、不満げなスミレに向かい合う。

「……納得、いかないでしょうか? 」

「ユッカさんに迷惑を掛けたのは、私です。責任は取らなくちゃ 」

「それは事実です。しかしその場合、責任を取るのは貴女のご両親でしょう。ポケモントレーナーは10歳でなれますが、20まではまだまだ子供、大人の庇護下にありますからね 」

スミレは、あからさまに嫌な顔をした。自分で責任を取るなら兎も角、両親を頼るのは気が引けたのだ。

「……だったら、私にどうしろと? 」

「いいえ? 何も。……明け透けに言わねば納得しないでしょうから申しましょうか。企業というものは、顧客の信頼が1番です。このような場に必要なものを取り扱う企業のトップが居合わせたのならば、無償で靴をプレゼントして気前の良さをアピールし、信頼を得る。そうやって築き上げた信頼は、いつしか大きな利益を生むのです 」

「……それは、偽善ですらない 」

「ええ、勿論 」

スミレの質問に、スズキはケロリとした表情で返した。

 

「無償の善意、というものを1番信頼していないのは貴女でしょう。ならば、私は利益をもって貴女を説き伏せねばならない 」

続くスズキの言葉にスミレは僅かに目を見開いた。

「…………確かに、そうですね。すみません 」

 

 

「はっはっは。そういう訳です。今後の展開次第で、私は貴女のスポンサーに立候補するかもしれませんが。その前に、きちんとしたバトルの場で対峙できることを楽しみにしております。……それではユッカさん、後に担当者からご連絡が行きますので、よろしくお願いします 」

「あっ、はい……ありがとうございます 」

すっかり大人しくなっていたユッカに挨拶すると、スズキは去っていった。

 

 

「ふぃ〜……。緊張したぁ。アンタ、よく話せるね 」

「私は……まあ、なんとか 」

スミレは、自分でも気安く話しかけられる理由が分からずに首を傾げた。

「ははっ! なんだそりゃ!!……さぁて、アンタに聞きたいんだが 」

「……はい? 」

ユッカは、笑みを収めて尋ねた。

「アンタ……アンタを傷つけた人間全てに、復讐したいと思うか? 」

それに対するスミレの表情は、優れないものだった。

「分かりません。……今回の一件で、自分で思っているよりも憎しみがあることが分かりました。正直、トラウマによる恐怖が全てだと思っていたので 」

「そっか……。じゃあ質問を変えるよ 」

「何ですか? 」

「次憎い相手に出会った時に、アンタは平静を保てるかい? 」

「…………分かりません 」

スミレは、少しの間を置いて呟いた。スミレの表情は苦々しく、先が見通せない状況であることを悟った。ユッカは、そこで質問を止める。

 

「答えてくれてありがとな。……さて、アタシも帰るよ 」

そして、ユッカもまた帰途につく。聞きたいことは聞けた。他の団員たちは多くが事情聴取を受けている。

「……助けて下さって、ありがとうございました 」

「はははっ! アタシらはアタシららしく暴れただけさ。でもま、大人しく受け取っておくよ! ……んじゃ、頑張ってな 」

「はい 」

そう言って去ってゆくユッカを、スミレは黙って見送った。

 

 

◾️◾️◾️◾️

 

 目を覚ます、顔を洗う、歯を磨く。着替える、食事を摂る、もう一度歯を磨く。そして、ポケモンのコンディションをチェックする。

昨日は散々だった。だが、今はもう大丈夫だとそう信じよう。

「……行こう 」

腰にセットしたボールはきっちり6個、コンディションは完璧だ。緊張に震える掌を握り締め、スミレは立ち上がる。

 

ピンク色の屋根を持つ建物の多いセキチクシティの中で、明らかに浮いた忍者屋敷のような建物こそが、スミレがこれから挑む8個目のジム、即ちセキチクジムだ。挑む相手は、ジョウト地方の四天王を兼任する今を生きる忍びこと、キョウ。スミレも比較的得意とする、どくタイプの使い手だ。

 

「勝つよ、皆 」

スミレの呟きに、ポケモン達はボールを揺らして応えた。

 




ビシャス: セレビィで登場したロケット団最高幹部。本作では、元ポケモンハンターでありハンターの仲介役、と設定しました。本人もハンターならセレビィ狙ってもおかしくないと思いますし。仮面の下は小物

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